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希望、来る

あれから、1日が過ぎた。

けど状況は何も変わらない。

昨日は泣くだけ泣いて、なんとか気持ちが落ち着いた、その後、ずっとベッドに籠城しつつ、逃げ出す手段を考えてた。

でも考えれば考えるほど、絶望が胸に広がっていった。

まず、ここがどこかわからない。

私がどうやってここへ運ばれたのか、それすらもわからない。

運ばれている最中、全く目が覚めなかったって事は、たぶん、睡眠薬を飲まされていたんだと思う。

いつからか夜は、あのメイドさんが淹れてくれた紅茶を飲むのが習慣になってた。

運ばれた日の夜も、飲んだ。

その後いつ眠ったのか、記憶がない。

そんな薬を飲まされたのなら、また何か飲まされる可能性もあるから、怖くて食事になんて手をつけられない。

お腹はグーグーと空腹を訴えるけど、私は頑なに食事も、この家の人も、夜に戻ったあのメイドさんも拒絶し、ただただ籠城を続けた。

……だけど、いつまでもただ籠城していても事態は良くならない。

今日は取りあえず、ここがどこかを調べないと。

そう思った私は、食事を運んできた家の人が諦めて去っていく足音が聞こえなくなるまで待って、ベッドから出た。

この部屋には、窓が二つある。

その窓の外に広がる景色から、見知った物が見えたなら。

逃げ出す時、そこを目印にすれば帰る事ができる。

建物、市場、公園、森、オブジェ。

何でもいい、どれか一つでも、知っている物が見えますように。

そんな願いを胸に、私は神経を研ぎ澄ませながら窓の外に目を凝らし、誰かの足音が聞こえてきたら即座にベッドに戻るという行為を繰り返した。

けれど、どれだけ探しても、どれほど目を凝らしても。

知っているものは、何一つなくて。

私は、ここがどこかを知るのを、諦めざるを得なかった。


★  ☆  ★  ☆  ★


「失礼致します、お食事をお持ち致しました」


ベッドに戻り、もう何とかここを脱出して、闇雲にでも街を駆け回るしかないという結論を打ち出した頃、また足音が聞こえて、この家のメイドさんであろう女性の声がした。

私は何も答えず、ベッドで籠城を続ける。

カチャ、という、食器が置かれる小さな音がして、微かに美味しそうな匂いが布団の中まで侵入してきた。

その匂いに私のお腹が反応して音を立てるけど、我慢だ。

何が入っているかわからない食事なんて、絶対に食べない。


「アイラ様、どうか出てきて下さいませ。貴女様のお体は、そんなに食物を欲していらっしゃるではありませんか。もしや、ずっと食べていらっしゃらないのですか?」

「……」


何を、白々しい。

私が食事をしていない事は、知っているはずだ。

今朝食事を運んできたメイドさんは、"この家の全員が心配しています"と言っていたのだから。

知らないふりをして質問して、私に会話をさせようなんて手には乗らないんだから。


「……アイラ様……。……お気持ちはわかりますが、なんて無茶をなさるんです? さぁ、早く出てきて、お食べになって下さい。これは私が作りましたから、安全ですから」

「……」


……何を、言っているんだろう、この人は。

安全だと言われて、はいそうですかと食べるわけがない。

この家の誰が作ろうと、私にとっては危険なものでしかないんだから。


「アイラ様。……はぁ、仕方ありませんね……」


あ、諦めた?

今回の人は早かったなぁ……。

よし、この人が立ち去ったら、窓から逃げ出す為の支度に取りかかろう!

部屋の中を物色して、なんとかロープがわりになるような物を作らなきゃ!

私はそう決意して、このメイドさんが立ち去るのを待つ事にする。

するとその時、真っ暗な布団の中が、一瞬にして明るくなった。


「えっ……?」


白い何かが視界を横切って、駆けていく。

伏せていた顔を上げそちらを見ると、そこには兎に似た動物がいて、いつのまにか出現した小さな草原で、草を食んでいた。


「……これ……って。っ!」


その光景に見覚えがあった私は、小さく呟いたあと、慌てて布団を少しずらして、頭と目を出した。

メイドさんがいるだろう方向を見る。


「ああ、良かった。やっとこちらを見て下さいましたね、アイラ様」


目に入ったそのメイドさんは、ふわふわとしたウェーブのかかった金髪の美人で、やはり初めて見る、知らない人だった。

けれど、ただひとつ。

綺麗な紺碧の瞳を、していなければ。

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