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新しいメイド、その名は

ゆさゆさと、体が軽く揺れている感覚に、意識が浮上していく。

肩に、何か温かいものが触れている。

どうやらそれが、私を揺らしているみたいだ。


「アイラさん、アイラさん。起きて。朝だよ」


近くで、そんな声が聞こえた。

ああ……この声は、リュシンさんだ。

そっか、もう朝なんだね。

じゃあ起きなくちゃ……。

ぼんやりとそんな事を思って、私はゆっくりと目を開けた。


「おふぁよう、リュシンさん……」


そう言って、体を起こす。

あくびをひとつ噛み殺しながらベッドを降り、着替える為にクローゼットの前へ移動する。

クローゼットを開け、次いでそこにある服へ手を伸ばした。


「今日から一週間リュシンさんがいないから、宿屋のピンチヒッターのお仕事するんだよね……だから今日は可愛さよりも動きやすさ重視で……」


そうぶつぶつ呟きながら、未だ覚醒しきれていない頭を働かせ、クローゼットを物色してコーディネートを考える。


「これとこれ……あ、こっちと組み合わせてもいいかも……? ……ねぇ、どう思う、リュシンさん? ……んっ?」


私はクローゼットから何着かを取り出し、見比べながらそう尋ね、言い終わったところで違和感を覚えた。

……あれ、今日からリュシンさんいないはずなのに、何で私リュシンさんに聞いてるの?

ていうか……リュシンさんいないなら、さっきの声、誰?

私は服を手にしたまま、恐る恐る後ろを振り返った。

そこには、ゆるくウェーブのかかった栗色の髪をした、メイド姿の女性が立っていた。

目が合うと、彼女は柔らかく微笑んだ。

その微笑みを見た途端、私の胸が早鐘を打つように騒ぎ出し、顔に熱が集まる。

え、こ、この症状は……!!

既に何度か体験したその事態に、私は女性の瞳の色を確認する。

色は、紺碧。

つまり、この女性は。


「リュシ」

「初めまして、異世界の乙女様。やっと私の存在に気づいて下さいましたね」

「……えっ?」


は、初めまして、って??

名を呼ぼうとした私の声を遮るように告げられた言葉に首を傾げる。

そんな私に向かって、リュシンさんは一歩近づいた。


「私、陛下の命により、本日から異世界の乙女様のメイドとして追加で配属となった、ユシィと申します。誠心誠意、異世界の乙女様のお世話をさせて頂きます、よろしくお願い致します」


次いでそう言って、リュシンさんは深々と頭を下げた。


「え……? ……えっと……」


メ、メイドとして、追加配属?

ユシィ?

な、何を言ってるんだろう……。

リュシンさん……だよね?

私はすっかり頭を混乱させ、リュシンさんを凝視した。

けれどリュシンさんはそんな私を無視して、横を通り抜け、クローゼットから別の服を出した。


「宿屋のお仕事をなさるのなら、こちらの組み合わせがよろしいかと思われます。それでは、私は隣のお部屋でモーニングティーの準備を致しますので、お召しかえがお済みになりましたらお越し下さいませ」

「えっ……あ、あのっ!」

「はい? ……あ、申し訳ございません。お召しかえも、お手伝いをしたほうがよろしかったでしょうか?」

「えっ!? い、いえ、大丈夫です!!」

「左様でございますか。では、私は隣におりますので」


戸惑う私を余所に、隣の部屋へ向かおうとするリュシンさんを呼び止めれば、とんでもない事を言われ、私は慌てて拒否した。

するとリュシンさんはさらりと流して、隣の部屋に行ってしまう。

……………………ええっ、と?

よ、よくわからないけど……リュシンさん、メイドさんに、なりきってるみたい……?


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