戸惑いの日々と真実
本日2回目の更新。
それからも時々、同じような事が起こった。
街へ出て、ふと、美形に目を止める。
すると胸の心拍数が上がり、顔が熱くなる事がある。
ただ、美形なら誰にでも、というわけじゃない。
けれど、特定の人に、というわけでもない。
時には赤い髪の男性、時には桃色の髪の女性。
他にも緑、金髪、水色、黒の髪の人、というふうに、その時々で別の人にときめく。
いや、男性なら、まだいい。
ただ単に美形にときめいてしまったのだと思える。
けれど、女性にまでときめくとはどういう事なのか。
私にそんな趣味はないはずなのに……!!
そもそも、私はリュシンさんが好きなはずだ。
だからリュシンさんにときめくは納得できる。
なのに、見ず知らずの男性や、あまつさえ女性に、だなんて…………。
……どうしたんだろう、私……。
訳がわからない自分の状態に、私はすっかり頭を抱えてしまった。
「……アイラさん、そろそろ、話してはくれないかな?」
「え?」
ふいに聞こえた声に顔を上げると、部屋の中にいつのまにかリュシンさんとフェイさんがいた。
「おはようアイラさん。何度ノックをして声をかけても返事がないから、勝手に入らせて貰ったよ」
「えっ、あ、ご、ごめんなさい! 考え事してて、気づきませんでした! あっ、おはようございます!」
「うん、おはよう。……それで、考え事って何かな? ここ最近アイラさんの様子がおかしい事と関係があるんだよね? 話してくれないかな」
「一人で抱え込んでいても解決しないなら、人に話して一緒に考えるのもひとつの手だよ、アイラさん。……どうしても話したくないなら、別だけど」
「えっ、いえ、あの……。……どうしても、ってわけじゃあ、ないんですけど……。……。……へ、変な事ですけど、それでもいいですか?」
「「 もちろん 」」
「……あ……ありがとう、ございます……じ、実は、あの」
相談にのると言ってくれている二人に、私はそれでも言い淀み、視線を左右にさまよわせた後、恐る恐る尋ねた。
途端、即答して頷いてくれた二人に、私は話す決意を固めた。
一度言葉を切り、目を瞑って、拳を握る。
「あのっ! 私、おかしいんです! 街で見かける見ず知らずの人にときめくんです! それも特定の人にじゃなく数人に、しかも男性だけじゃなく女性にまで! ときめくんですっ!!」
「………………え?」
再び口を開いた私は、一息に言い放った。
すると二人は目を丸くする。
「あ、あのっ、最初は、女性だったんです! 鮮やかな緑の髪の! 目が合って、微笑まれて! で、それから時々、他の人にもときめくようになって! でもいつも別の人なんです! 髪色も、赤だったり金だったり桃だったりして、男性だったり女性だったりするんです!!」
「……最初は、緑の髪の女性? 赤、金、桃……?」
「男だったり、女だったり……?」
「そうなんです! ……ただ、その……全員がそうだったかは、未確認なんですが、何人かは、共通している点があって! その共通項が、瞳の色なんです! リュシンさんと同じ、紺碧の瞳なんです! ……わ、私、瞳フェチの、変態だったんでしょうかっ……!?」
二人の反応に慌てた私は更に言葉を重ね、一通り思っていた事を言い終わると、両手で顔を覆い、テーブルの上に突っ伏した。
「……瞳が、俺と同じ色?」
「……それって……。……あ、あのさアイラさん? その、ときめく人を見かけた日って、もしかしてリュシンが仕事で側にいない日に限ってたりする?」
「……え……? ……そ、そう言われてみれば、そうですね……。確かに、リュシンさんがお仕事の日です」
「!!」
「……ぶっ! あははははははははは!!」
「え……!?」
フェイさんに聞かれた事に顔を上げながら答えると、何故かリュシンさんは顔を真っ赤に染め、フェイさんはお腹を抱えて笑いだした。
訳がわからず、私は一人首を傾げる。
「あ、あの……?」
「ご、ごめん……っくく、けど、ははっ、それなら、問題ないよ。アイラさんは、ぷ、どこもおかしくないから……っ!!」
「え? で、でも……っ」
「アイラさん。……知っての通り、俺は隠密部隊だから。仕事の遂行の為に、変装する事が、よくあるんだ」
「えっ?」
「……そういう事だから。アイラさんが悩む必要は、どこにもないから」
「……え……?」
"そういう事"……って?
ええと?
私がおかしな状態になるのは、リュシンさんがいない日で。
おかしな状態にさせる人は、髪色は違ってもリュシンさんと同じ色の瞳で。
リュシンさんはお仕事の時、変装する事が、よくあって……?
……………………。
「……あの、リュシンさん。……変装って、女性の格好をする事も……?」
「うん、普通にある」
「普通に……」
……それって。
つまり。
「……そういう事……!?」
「……うん」
「あはははははははははははは!!」
考えがようやく真実に行き当たり、真っ赤になる私と、変わらず真っ赤な顔のリュシンさんに、笑い転げるフェイさん。
私はあまりの恥ずかしさにその後しばらくリュシンさんを直視できなかった。
そんな私にリュシンさんは、最後に小さく、『変装中はバレると困るから、見かけても声をかけないようにね』と、そう言った。