一人、部屋で
ソファに沈めていた体を起こし、とうに空になったカップを手に取り意味なく揺らして弄んではテーブルの上に戻す。
次いで何気なく部屋をぐるっと見回して、再びソファに体を沈める。
「…………暇」
天井を見上げ、ぽつりとそう呟いた。
二人が出て行ってから、結構時間が経ったけれど、まだ戻ってこない。
私は一人、部屋の中で暇をもて余していた。
ここへ来てから今までは、護衛を決める為に騎士さん達の訓練を見学したり、隠密部隊の隊舎へ行ったりと、何かしらやることがあった。
けど、護衛は決まった。
となれば、何か、他にやる事を見つけなければならないかな。
王様に頼んで、仕事をさせて貰うのもいいかも。
メイドとか、やってみたいなぁ。
あ、でも、護衛として、リュシンさん達がずっと一緒にいるんだよね?
……騎士の護衛を連れて仕事するメイド……。
……うん、ないね、ないない。
だとすると、他には……?
……………………駄目だ。
私にできそうなもので、護衛引き連れてても違和感なく作業できる仕事なんてないや。
いっそ街に出て冒険者にでもなってみる?
ここは騎士がいて魔法があるファンタジー世界。
きっとギルドがあるはず!
冒険者ならリュシンさん達がいても気にせず仕事できるし!
まあその場合、私は役に立たず、仕事こなすのはリュシンさん達だろうけどね!
ついて行くだけで、仕事が終わるのを後ろでボーッと見てる私が想像できるよ!
「わぁ~、意味ないなぁ、あははっ!」
……なんて、明るく笑ってる場合じゃない!!
やばい、私、これから何して過ごしたらいいんだろう!?
「アイラさん? どうかした?」
「ふぇっ!?」
突然後ろから声がかけられ、私はびくりと体を震わせ、その勢いのままソファから体を起こし、後ろを振り返った。
「あ……すまない。戻る時は、ひとまず部屋の外へ転移してから入るべきだったな」
「え、あっ、リュシンさん! ……何だ、良かったぁ。びっくりした……!」
「驚かせてすまない。……それで、どうかした? アイラさん?」
「あっ、はい、えっと……あの、私にできる仕事って、何かあるでしょうか……?」
「仕事?」
「はい。護衛は決まったから、もう、特にやる事、ないですし……。だから何か仕事をと、思って」
「ああ……そうか、まだ聞いていないのか。アイラさん、君の仕事は既に決まっているんだ。異世界から来た人は、いつの時代もそれをやって貰ってる」
「え? な、何ですか? "それ"って?」
「"この国をよく知り、好きになること"、だよ」
「へっ?」
……この国をよく知り、好きになること?
それが仕事って……どういう事?
「詳しくは、陛下が説明して下さるよ。……これから、忙しくなる。けど、きっと楽しい。期待してるといいよ」
「は、はい……? ……えっと、じゃあ、王様に会いに……って、そういえば、フェイさんは? まだ帰って来ませんけど」
「ああ、フェイは、もう少しかかるかな。リリーにお説教されてるから」
「お、お説教? ……リリーさんっていうのは、誰なんです?」
「フェイの恋人。溺愛してて、時々暴走するんだ。その暴走したうちの一件、リリーに秘密にしてた一件がバレて、現在お説教中なんだ」
そう言うと、リュシンさんはその瞳を悪戯っぽく輝かせた。
……"秘密にしてた一件がバレて"って……さっきの会話から察するに、バラしたの、リュシンさんですよね……?
けど……溺愛してる彼女からお説教って……何したんだろう、フェイさん。
それから、しばらく経って。
酷く落ち込んだ様子で帰ってきたフェイさんを連れて、私達は王様に会いに行った。