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護衛決定 4

部屋に帰ると、私は早速リュシンさんに魔法で部屋の様子を変えて欲しいとねだった。

リュシンさんが変えられるのは、一部のみ。

それならと、私は、床の一部を草原にして、そこに可愛い小動物がいる光景にして欲しいとリクエストした。

なので今、私の部屋の床には1メートル四方の小さな草原と、兎に似た小動物が現れ、ぴょんぴょんと飛び回ったり、草を食んだりしている。


「ああ、可愛い~……リュシンさん、ありがとうございます!」

「いや。こんな小さな魔法でも、気に入って貰えたなら良かったよ」

「十分ですよ! ああ、可愛い! 触れないのが残念なくらいです!」


そう、これはあくまで魔法で作っている光景なので、触れない。

さっき私は思わず手を伸ばして、すり抜けてしまったそれに驚いた。

するとリュシンさんが苦笑して、そう説明してくれた。

なので、この兎のような小動物をどんなに触りたい衝動に駆られても、ソファに座って大人しく観賞するに留まっている。

そうして飽きる事なく眺めていると、コンコン、というノックの音が扉から聞こえてきた。


「あ、来たかな」


リュシンさんはそう呟くと、ソファから立ち上がって、扉へと向かう。


「リュシンさんの、お友達ですかね?」

「恐らく。……開ける前に、名を問う。名乗れ」

「その声、リュシンだろう? 僕は君に呼ばれたから来た。開けてくれ」

「名は?」

「……フェイ。……全く、声でわかるだろうに」

「友人です。開けてよろしいですか、アイラさん?」

「えっ、あ、はい!」


扉の前で短いやり取りをした後、リュシンさんは私を振り返り尋ねた。

私は慌てて返事をする。

……リュシンさん、ついさっきまで普通に話してたのに、何で突然敬語になったんだろう?

そういえば、最初は敬語だったっけ。

でも隠密部隊の隊舎を出たあと、二人で話した時には普通になってて…………何か、切り換えのポイントでもあるのかな?


「失礼します。初めまして、異世界の乙女。僕はリュシンの友人で、フェイ・レジーマックと申します」

「あっ! は、初めまして! アイラ・カガミです! よろしくお願いします!」

「はい、よろしくお願い致します。……隊長から聞いた話によると、僕を護衛にとの事でしたが、間違いないですか?」

「え、あ……えっと」


互いにペコリと頭を下げて自己紹介したあと、フェイさんから聞かれた内容に、私は言葉を詰まらせた。

……どうしよう、全然、護衛なんてできそうに見えない……。

フェイさんは、平凡だけど中性的な顔立ちで、髪は桃色、瞳は緑。

肌は白く、痩せていて、男性にしては背もそんなに高くない。

そんな外見のせいか……どちらかと言えば、華奢な女性に見える……ん、だけど……。


「異世界の乙女……いや、アイラさん? どうされました?」

「……あ、えっと……」

「フェイ。判断するには、まず力量を見なければならないだろう? でないと答えようがない」

「あ、そうか。……ふむ……。……あの草むらと動物は、リュシンの魔法だね?」

「ああ。俺だと、あれが限界だ」

「だろうね」


そう言うとフェイさんは右腕を持ち上げて、体の前でスッと、左から右へとその腕を振った。

すると、次の瞬間、部屋の中の光景が変わる。

部屋全体が森になったのだ。

天井は雲ひとつない青空に。

壁や床は一面の木々や草花に変わり、野生の動物達が見え隠れする。


「うわぁぁ……っ!! すご~い!!」


一瞬で変わった部屋の様子に、私は感嘆の声を上げた。


「まあ、ざっとこんなものかな。護衛としての実力を見せる為でも、室内で攻撃魔法なんか使うわけにいかないから、これでいいですか、アイラさん? 気に入って貰えました?」

「はい、すっごく! 魔法の実力があるのはわかりました! よろしくお願いします、フェイさん!」

「はい、こちらこそ。……良かったねリュシン? 僕が護衛でいいみたいだよ?」

「え? ……良かったね、って? 何でリュシンさんに……?」

「え、だって。僕より護衛に適した友人、何人かいるのに、わざわざ貴女を僕の所に連れて来たんですから。溺愛する恋人が既にいる、僕の所に。フリーの奴には近づけさせたくないくらいには、アイラさんを気に入ったんだろう、リュシン? アイラさん、可愛いらしい方だもんねぇ?」

「え……ええっ!?」

「……フェイ。近いうちにリリーに、お前の秘密をばらし」

「あっ、待ってやめてごめん! ごめんリュシン! 口が過ぎた、過ぎました!!」

「夕飯」

「うん奢る! 奢らせて頂きます! ……くそ、隠密隊員はこれだから厄介なんだ……っ」

「何か言ったか?」

「いや何も!」


……え、ええと。

私は、何に反応を返せばいい……?

フェイさんがからかうようにリュシンさんを悪戯っぽく見て尋ねた言葉を皮切りに、目の前で行われたリュシンさんとフェイさんのやり取り。

それを制したのはどうやらリュシンさんらしい。

リリーさんていうのが誰かとか、フェイさんの秘密って何だろうとか、疑問はいくつかあるんだけど……。


「……あの、リュシンさん……? ……わ、私、あの、リュ、リュシンさんの恋愛対象に、な、なれてるんですか……?」

「……っ!」


服の裾を掴みながら、俯きがちに、恐る恐る尋ねてみると、リュシンさんが息を呑む音が聞こえた。

そっと視線だけを上げてリュシンさんの顔を見ると、リュシンさんは顔を赤くしていた。


「…………それを言うなら、逆だよ、アイラさん。……恋愛対象になれるかを聞きたいのは、俺のほうだ……」

「!」


これまでより小さめの声でぼそりと呟かれた言葉に、今度は顔を上げてまじまじとリュシンさんの顔を見つめる。

リュシンさんの顔は、更に赤くなっている。

私の顔も、きっと赤いだろう。

だって、顔、熱いし。

そう、きっと、周りをふよふよと漂ってる、この真っ赤なハートマークみたいに…………って、ハートマーク!?

目に入ったものにぎょっとして周囲を見回せば、いつの間にか部屋の様子は一変していた。

部屋中がピンクに染まり、私達の周りを囲むようにハートマークが漂っている。


「……こ、これって……」

「……よし、わかった。アイラさん、少しの間部屋から出ないで。ちょっと、リリーの元へ行って来るから」

「え?」


告げられた言葉に私が目を瞬くと、次の瞬間にはリュシンさんの姿は消えていた。


「あ、あ~~っ! ちょ、リュシン! 冗談、冗談だって! やめてお願い~~!!」


続いてフェイさんから叫び声が上がると、やっぱり次の瞬間にはその姿が消えていた。

……瞬間移動の魔法、なのかな?

一人取り残された私は、元の色に戻った部屋の中を見回して、呟く。


「……だから、リリーさんって、誰?」


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