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護衛決定 2

「あ、あの、王様? 聞き間違いでしょうか……今、"一人目の護衛"って、言いました……?」

「うむ、そう申した。聞き間違いではないぞ」


思いがけない言葉に恐る恐る聞き返すと、王様はしっかりと頷いて肯定を返した。

え……ど、どういう事?


「え、えっと、それは、つまり……まだあと何人か決めるようにって、そういう事でしょうか……?」

「いや、何人かではない。あと一人で良いのだ」

「あと、一人?」

「私からご説明致しましょう、異世界の乙女」

「え?」


予想外の展開に首を傾げている私に、宰相様が再び声をかけてきた。


「異世界の乙女、貴女はご存じないかもしれませんが、隠密部隊はその特殊な任務内容から、少数精鋭部隊でしてな。人数が少ないのです。よって、レンベールには貴女の護衛と、隠密部隊の任務を兼任して貰う事になります。ですがその任務には、やはり内容故に貴女を連れて行く事は許可できず、任務に当たっている不在の間、貴女を守るもう一人の護衛が必要、というわけなのですよ。それに、休日も必要ですしね」

「あ……」


言われてみれば確かに、公開演習の時に見たどの部隊も、隠密部隊よりずっと多くの人がいたっけ……。

少数精鋭かぁ。

なら、仕方ないよね。


「わかりました。そういう事なら、もう一人の護衛も、早めに決めますね」

「ああ、いえ。その必要はございません。もうこちらで決めさせて戴きましたので」

「え!?」

「入れ」


宰相様が短くそう言うと、直後、扉が開いて一人の男性が部屋に入って来る。


「ご紹介致しましょう、異世界の乙女。彼は近衛第一部隊所属の騎士、アジャスト・ウルセイルでございます。如何ですか? なかなかの美男子でございましょう?」

「……ソ、ソウデスネ……」


はい、ゴリラ来ました!!

ゴツいです、暑苦しいです!!

一日中一緒なんてキツいタイプです~~!!

ねぇ、"決めさせて戴きました"って事は、もう一人の護衛、この人で決定?

ねえ決定なの!?

拒否権はないの~~!?


「……異世界の乙女の護衛に選ばれるとは、身に余る光栄です。このアジャスト・ウルセイル、誠心誠意、貴女様にお仕え致します。麗しき乙女よ」


衝撃で固まっている私に近づくと、アジャストさんは徐に私の手を取り、なんとそこに口づけた。


「ひぃっ!!」


私は短く悲鳴を上げて、急いで手を引き抜くと、リュシンさんの背中に隠れた。

そんな私の様子を見て、アジャストさんは一瞬ぴくりと不快そうに眉を動かした。

けれどそれはすぐに元のにこやかな笑顔に戻る。


「……おやおや……異世界の乙女はウブでいらっしゃいましたか。これは失礼致しました。どうか機嫌を直して、そんな男の背から出てきて下さいませ」

「!?」


え……ちょっと、今この人何て言った?

"そんな男"?

"そんな男"って誰の事よ……?

まさか、リュシンさんの事だとか、言わないよねぇ!?


「さぁ、異世界の乙女。こちらへ」

「えっ、ちょ、やだ来ないで!!」


手を差し出しながらにこやかな笑みを浮かべて再び近づいてきたアジャストさんに、さっきの発言のせいか嫌悪感を抱いた私は、咄嗟にそう口に出してしまった。

しかしアジャストさんはそんな私の言葉などまるで耳に入らなかったかのように笑みを浮かべたまま尚も近づいて来る。


「はは、恥ずかしがっておられるのですか? 可愛らしい方だ」

「なっ、やだ、来ないでってば……!!」

「……失礼。そこで止まって戴きたい」

「え」


そうして距離を詰めてきたアジャストさんと私の間に、リュシンさんが立ち塞がった。

まるで、アジャストさんの視界から、私の姿を完全に隠すように。

アジャストさんの顔が、今度は目に見えて不快そうに歪む。


「……何の真似だ?」

「私は、彼女の護衛ですから」

「ああ、そうらしいな。不愉快な事だが」


え……不愉快?

何が?

まさか、リュシンさんが私の護衛な事が?


「で、だから何だ? 俺も彼女の護衛なんだが?」

「理解しています。ですが、それ以上は近づかないで戴きたい。嫌がっておられます」

「嫌がる? 誰が、誰を? まさか、彼女が、俺をか? あれは照れて恥ずかしがっておられるだけだ。美形である俺を嫌がる女性がいるわけがないだろう? ……ああ、モテない男には女性の心の機微などわからないか」


は?

私、嫌がってますけど?

わかってないのは、貴方のほうですけど?


「モテない男は憐れだなぁ? わからないなりに、彼女に気に入られようと必死といったところか? 異世界の乙女の護衛は伴侶候補も兼ねているもんなぁ? 分不相応にも、それなりに愛らしい容姿をした彼女を伴侶にと望んでるわけだ? で、美形の俺を彼女に近づけたくないわけか」


……憐れ?

分不相応?

気に入られたいと思ってるのも、伴侶に望んでるのも、貴方に近づいて欲しくないのも、私のほうなんだけど?


「……良いのですか。陛下の御前ですが」

「はっ! 図星をつかれ旗色が悪くなったら陛下を理由に逃げるとはな! 意気地無しめ!」

「……っ! ……冗っ談じゃないわ……私にあんな事した挙げ句リュシンさんに暴言ばっかり……!! あんたみたいな傲慢な男と毎日ずっと一緒に行動するなんて嫌よっ!! 王様!! 私この人を護衛にする事、断固拒否します!!」

「……は……? い、異世界の乙女? 何を……どうしたのです?」


我慢の限界を迎え怒りをあらわに声を上げた私に、アジャストさんは目を見開いて問いかけてくる。


「どうしたもこうしたもありません!! 言葉の通りです!! 護衛がもう一人必要なら、そのもう一人も私が自分で決めます!! いいですよね王様!?」


私はアジャストさんを睨みつけ、そのまま王様に尋ねた。


「……ふむ。良かろう。許可しよう」

「なっ!?」

「へ、陛下、何を仰います!? アジャスト・ウルセイルは私が選びに選び抜いた、侯爵家の子息ですぞ!? 腕も立つ優秀な男だとご説明申し上げたはず!! 異世界の乙女の伴侶に相応しい男なのですぞ!?」

「はぁ!? 嫌ですこんな人!!」

「……だそうだ、宰相。異世界人の伴侶も護衛も、その意思を尊重するのが決まり。異世界の乙女が嫌だと拒否するのなら、それまでであろう?」

「そ、それは……!!」

「それなら、決定ですね! この人を護衛にはしません!! お話は以上ですね? 失礼します!! 行きましょうリュシンさん!!」

「……失礼します」


私がきっぱりと拒否をし、そのまま部屋の扉に向かうと、リュシンさんは王様にぺこりと頭を下げたあと、それに続いた。

私達が部屋を出ると、『こ、こんな馬鹿な……!!』とか、『宰相閣下、お話が違います!!』とかの、宰相様の嘆きの声と、アジャストさんの怒ったような声が聞こえてきた。

そして、『黙れ騒々しい!! 余の前でまだ醜態を晒すか!!』という、王様の一喝も。

あの王様、あんな声も出せるんだね。


「あ~あ……それにしても、あと一人、どうしよう。人が少ないんじゃ、また隠密部隊からってわけにも、いかないよねぇ」

「……アイラさん。その事だけど、もしこれという人物がいないなら、一度俺の友人に会わない? 魔法部隊に所属してるんだ」

「え、リュシンさんのお友達ですか?」


魔法部隊……そんな名前の部隊、確か公開演習の中になかったなぁ。

まだ見てない部隊だったのかな。

魔法……魔法かぁ。

それなら斧なんて振り回さないだろうから、少なくてもゴリラの集団って事はないよね?

あ、でも、もやしの集団って事はあり得るのかも。

けどどちらかと言えば、ゴリラよりはマシかな……?

それにリュシンさんのお友達なのなら……うん。


「わかりました、会ってみます!」

「……ありがとう。じゃあ、行こうか」


あ、今から行くんですね!

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