乙女の夢、砕かれる
美的感覚逆転ものを読んだら書きたくなりました。
楽しい話になるよう頑張ります!
あ、終わったかも。
それと目が合った瞬間、脳裏にそんな言葉が浮かんだ。
今、私の数メートル先には、大きな角の生えた、見たこともない巨大な動物が立っている。
それはさっきから私を見つめて低く唸り声を上げていた。
その様子に嫌な汗が背中を伝い、私は動物と視線を合わせたまま、少しずつじりじりと後退する。
そして、それが地を蹴ったのを目にすると、私は即座に体を反転させ、全速力で逃げ出した。
しかしそれは私の全力疾走を嘲笑うかのようなスピードで追いかけてきて、みるみるうちに距離が詰まってくる。
「う……うわぁぁん助けてぇぇぇ!!!」
徐々に迫ってくるそれに、既に色々限界だった私は、走りながらみっともなく泣き叫んだ。
何故、こんな事になったのか。
私は、買い物に行くはずだった。
家の玄関を開けて、一歩を踏み出したら、そこに何故か地面がなかった。
ぽっかり空いた穴に足を突っ込み、そのまま落ちていったのは覚えている。
そして気がついたらこの森にいて、訳がわからぬまま見知らぬ場所をさまよい歩く事になり、数時間。
精神的にも肉体的にも疲労してきた所に、この動物との遭遇である。
ああ、私の人生は、これで終わるんだ。
お父さん、お母さん、今、そっちへいきます……。
至近距離に迫った動物を見て、私は死を覚悟し、ギュッと目を瞑った。
しかし次の瞬間、耳をつんざく悲鳴と、ドオオン、と何かが倒れたような大きな音がする。
すぐにやってくると思われた私の体を襲う痛みは、やってこなかった。
不思議に思って恐る恐る目を開けると、つい今しがたまで私を追いかけていたそれが何故か横向きに倒れていた。
その体には槍が刺さっている。
「え……?」
事態を飲み込めず、私がぱちぱちと目を瞬いていると、バタバタと何かが駆けてくる音が聞こえてきた。
「危ないところだったな。大丈夫かい? お嬢さん?」
「え……あ、貴方が助けてくれたんですか……? あ、ありが……とう、ございまし、た……」
駆けてきたのは、人だった。
私の隣に来て、優しく声をかけてくれたのは、銀色の鎧を纏った長身の男性だった。
この格好にはちょっと引いたけど、助けてくれたんだから、お礼はしっかり言わなきゃならない。
私は顔を上げ、お礼の言葉を口にした。
うん、何とか言い切った。
途中止まりかけたけど。
顔を上げ、目にした男性の顔は、ぶさい……物凄く個性的だった。
何故だ。
普通こういう乙女のピンチに颯爽と現れて助ける男といったら、イケメンではないのか。
助けて貰って酷い言い草だと自分でも思うけど、なんだか乙女の夢を壊された気分だ。
近くに他の男性はいないのか。
いるならやり直しを要求したい。
「隊長!」
「おう、こっちだ!」
そんな事を考えていると、この男性がやって来た方角から数人の男性が走ってきた。
あ、いるんじゃない他の男性!
ならやっぱりその中で一番のイケメンに助けて貰いたか……った……って……えぇぇぇ!?
走ってきた男性達のほうに視線を向けた私は、男性達の姿が視界に入ると、目を見開き、顔をひきつらせた。
男性達は全員、個性的な容姿をしていた。