3.A shield and a sword
特に何も見当たらずにやって来たこの日。
スティと私の旅の始まりの日だ。
いつもの着慣れた服を着る。
大きな肩もを覆う紺色の襟、紺色の短めのプリーツスカート、紺色のスパッツ。
全体的に紺色で固められた服の柄は、襟と袖口の2本のラインだけ。
みんなは変、変わってると言うけど、私はこの服を気に入っているし、うんと昔から知っている気がする。
赤いリボンを襟にかけ、胸の辺りの輪に通し、お守りを胸ポケットに入れるとリビングに向かった。
「あら、もう支度終わったの?カバンは?」
「あ…」
しまった、部屋にカバンを忘れてた。
大事な物や旅の必需品を入れたリュックがあるんだ。
「もう、おっちょこちょいねぇ。」
でも、普段からおっちょこちょいでドジっ娘なママには言われたくなかった。
部屋でリュックを背負い、リビングから玄関へ行く。
「行ってきます、ママ。」
「行ってらっしゃい、頑張ってね。」
ママがうん、と頷いたのを見て家を出た。
家から出ると、村全員がスティを取り囲み、私の家の近くには別の家に住むグランマがいた。
「ゆっちゃん、スティちゃんと旅に出るんだってねぇ。死んだグランパと一緒に応援してるからねぇ。」
ゆったりとした喋り方が心地よくて、落ち着く。
グランマの喋り方は優しくて好きだけど、今日は特別暖かくて優しかった。
「あ、ゆっちゃん!やっと来たの?おそーい!」
急かすような口調で、スティがこっちに向かって話しかけてくる。
しかし顔には怒りの感情は微塵も無く、笑顔で彩られていた。
スティは、私の格好をじーっと見た後、口を開いた。
「うーん、あまり重装備過ぎると足が遅くなるけど……ゆっちゃん軽装過ぎない?いくら前衛じゃないからって言っても、あまり軽装過ぎると危ないよ?」
「そうかな?防具とか、うちに無くて…」
スティはひらめいたような顔をした。
「ちょっと待ってて!すぐ戻るから!」
スティはそのまま、自分の家の方向にスタタッと走って行った。
何をするつもりだろう。
10分くらいすると、スティが何かを抱えながら帰ってきた。
「はぁ、はぁ、待たせてごめん。ゆっちゃん、これ。」
スティの手の中には、かなり大きめの盾とガントレットとレガースがあった。
「これ、くらいなら、あまり重くないと、思う。はぁ…はぁ。」
「あ、ありがとう…」
「んじゃあ、さっそく着けてみて。」
「ご、ごめん。私着け方知らない…」
「え、あ、そっか。じゃあ着け方教えるからちゃんと見ててね。」
親切に、わかりやすく丁寧にスティは教えてくれた。
大体は覚えれた。
「けっこー似合うじゃーん。どう、重くない?痛くない?」
ガントレットもレガースも少しきつめにだけど、きつすぎるとかじゃあなかった。
それに、頑丈そうなのにあまり重さを感じなかった。
「それ、軽くて使いやすいでしょ?パパのお古なの。」
かと言って軽くはないけど。
あとまだ使い心地はわからないよ。
「盾、大き過ぎない?」
「軽いでしょ。」
いやこれに関して言うと、あまり軽くない。
むしろ少し重い。
「さぁ、そろそろ行きましょ。」
「そ、だね……」
話を逸らされた。まあいいか。
その時、人混みをかき分けてママがやって来た。
「……気を付けてね。子供の心配をしない親なんてごく稀なんだから。」
ママはそう言うと、エプロンのポケットから何かを取り出した。
「これ、どこか遠くにいるパパのお守り。あとこれは私から。魔除け厄除けの効果があるの。」
ママがくれたのは、チョーカーとミサンガ的なものだった。
黒い薔薇の装飾が施された豪華なチョーカー。
それと真逆な、紐を編んで作られた、お世辞にも豪華とは言えないミサンガ。
それでも、嬉しかった。
「ありがとう、ママ、パパ。行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
スティはこちらを見てへらりと笑った。
「さ、行こ。頑張ろうね。」
私は頷いた。
いい旅になるといいなあ。