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忠義の近衛(寸劇)

作者:

裸の王様をご存じでしょうか


幼い頃、絵本で見た人もいるでしょう


物語は、お洒落好きな王様をある日二人の仕立屋が訪ねる所から始まります


「世にも珍しい衣装を仕立てることが出来ます」


「他には決してない、素晴らしい衣装です」 

「馬鹿でその仕事に相応しくない者には見えない<魔法の服>です」


と胸を張る仕立屋


・・・勿論、そんなものは存在しません

仕立屋がお金儲けの為に、嘘を吐いているだけです


しかし、見えないと言えば王様は馬鹿で、王様に相応しくないと言われてしまう


山のように高い王様のプライドがそれを許さず、王様はまんまと仕立屋の目論見通り、ありもしない<魔法の服>をあると言い、なんて素晴らしいのかと絶賛してしまいました


これを見ていた王宮のえらーい人達も、プライドと王様に右にならえの精神で見えない服を素晴らしいと絶賛してしまいます


仕立屋の思う壺です


終いには王様は、素晴らしい新作の衣装で街を練り歩き、民に見せびらかす事を決めました


重ねますが、<魔法の服>なんてものはありません


結局物語では、仕立屋に報酬を渡し、王様は下着姿で堂々と街を練り歩き、小さな子供に指をさされ、言われるのです


【裸の王様】だ!と



さて、そんな王様を止める人間はいなかったのでしょうか?

この話は、そんな本来ならば居るだろう人間に焦点を当て、始まる裏舞台のお話です





王宮中が<魔法の服>を絶賛している最中、難しい顔をし額を付き合わせている三名の近衛騎士がいました



「やはり、陛下には<魔法の服>なんて無いのだと申し上げるべきだ」


実直で真面目な隊長は、陛下に進言すべきだと主張します


「しかし、魔法の服はある、と言い聞かせている方に、無いと言えば、お前は馬鹿で近衛に相応しくないのだ、と言われてしまうだろう


もしかしたら、クビと言われるかもしれないし、陛下の機嫌を損ねたと石牢に入れられてしまうかもしれないぞ」


ひねくれものだが、仲間思いの副隊長は、隊長の未来を心配して<待った>をかけます


「王宮中が、素晴らしい衣装だと絶賛しておりますし、我らも倣いましょう」


流されやすい隊士が波風を立てないようにしようと提案します


「しかし、もし<魔法の服>を着て街を歩き、陛下を指差し笑うものが現れたらどうだろうか?きっとお怒りになり、どちらにせよ処分される。

ならば、お止めし陛下の威厳を守って処分された方が忠義に恥じぬ行動を取ったと言えよう」


実直で真面目な隊長は、部下の言葉に首を振りました


「なに、心配するな。

陛下に申し上げるのは私だけで構わん。

副隊長は、私が処分を受けた後、近衛を頼む」


「隊長」


「そういうわけだ。では、仕事に戻ろう」


カラリと笑った近衛隊長は、二人に背を向け職務に戻っていきます


「全く・・・此方の意志は無視ですか」


「このままでは隊長が処分されてしまいます


副隊長、どうされますか」


溜め息を吐く副隊長に隊士は尋ねました

このままでは、隊長は大変な事になります


「ちょっと忙しいが、やりたいことが幾つかある。手伝え」


「はいっ」


顔をあげた副隊長は、ニヤリと笑い隊士と連れだってその場を後にしました




翌日、<魔法の服>を纏っているつもりで下着姿の国王を前に、近衛隊長は膝をつき頭を下げました


「何用か

私はこれから街に出てこの素晴らしい<魔法の服>を民に披露せねばならないのだ。手短に用件を済ませよ」


「・・・申し上げます

陛下、私の目には<魔法の服>などというものは一切見えません

陛下、仕立屋は嘘を吐き、ありもしない<魔法の服>を言葉巧みに在るように見せかけ、陛下を陥れているのです」


「戯れ言を


しかし、自ら己の無能を私に進言した事は誉めてやる。お前は今このときをもって隊長解任だ

・・・石牢に入り処分を待つが良い」


不愉快そうに隊長を見下ろす国王


隊長が連れていかれそうになった、その時です


「陛下、お待ちください。」


「どうぞ、隊長への処分はこいつの話を聞いてからお願いいたします!」


「近衛隊の副隊長と隊士の一人


それに仕立屋ではないか!」


広間に現れた近衛の副隊長と隊士の姿、それに仕立屋の二人に国王も隊長も驚き目を見張ります


「さあ、何もかも話してしまえ

・・・でないと、分かっている、な?」


副隊長の台詞に連れてこられるまで何があったのか、何度も頷いた仕立屋の二人は、青い顔でこの度の企みを白状するのでした





「私を騙すとは・・・不届きものめ


石牢に入れてしまえ


・・・近衛隊長、良く私に忠言した。我が身を省みず、忠義を尽くした褒美を与えよう」


「陛下、私の忠義の心はただ、陛下のもの


許されるならばこの先も、仕えさせていただきたく存じます」


「お前たちのようなものを真の忠臣と呼ぶのだろう。是非頼みたい」


「勿体ないお言葉、痛み入ります」


深く頭を下げる近衛隊長に倣うように副隊長、隊士も頭を下げました


忠義の近衛の己ね身を省みない勇気ある行動により王様が子供に街の民に笑われるのを防いだこの三人は、忠義の近衛として高く評価されたのでした

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