第94話 元勇者×4、地獄に堕ちる 3
大魔王降臨の話はこれで最後です。
――軟禁小屋――
1分後、諭達の精神は再び戻ってきた。
だが顔は真っ青で目は死んだようになっており、心が粉砕しているかのようだった。
「飲め。」
そこにラートンは別の薬を無理矢理飲ませて精神は強制的に復活させる。
目に生気が戻ると、再び悲鳴が木霊した。
「ウワァァァァァァァァン!!!!!」
「ゴメンなさい!ゴメンなさい!ゴメンなさい!ゴメンなさい!ゴメンなさい!・・・」
「腕がァァァァァ!!足がアァァァァァァ!!」
「・・・・・・・・・(ブルブル)。」
「五月蠅いっつってんだろが!!」
4人はまた踏まれた。
諭達に何が起きたのか、簡潔に言えば一時的に意識をあの世に送られて自分達が殺した人達に復讐された。
現世では1分でも冥府では数日、数十日も経っている。
冥府で何があったのかは省略するが、少なくとも彼らは自分達の罪の重さをようやく自覚させられ、今まで自分達を支えていたプライドの全てを砕かれたのだった。
「ったく、お前らのした事のせいで俺がどれだけ迷惑被ってると思ってるんだ?」
「うう・・・・・・迷惑・・・!?」
泣き崩れながら訊き返す諭に、ラートンはイラついた表情で答える。
「1つ、俺の保養地が更地になった。」
「え?」
諭は目をキョトンとさせる。
“保養地”、それは彼らが、というより諭が大規模魔法で燃やした戦場となった辺境の町の1つだったが、勿論諭達が知る訳がない。
「2つ、俺の酒の原料の群生地が水没した。」
「え?」
今度はゆかりがキョトンとなった。
“酒の原料”、それはこの世界でもファリアス帝国領にのみ自生する植物のことで、ゆかりの《精霊術》で水没したのである。
ラートンの家では毎年その植物から採取した樹液でオリジナル酒を造っているのだが、勿論これも彼らが知る訳が無かった。
「3つ、俺の行きつけの店が落雷で全壊した。」
「は?」
豪樹もキョトンとなった。
“行きつけの店”、それはラートンが毎回この世界に来る際に必ず寄る酒場だったが、誰かの力任せな雷魔法によって全壊し、店主も重傷を負った。
勿論、これも彼らが知る訳がない。
「4つ、俺の玄孫が植えた花が凍って枯れた。」
「え?」
章子もキョトンとなった。
“玄孫が植えた花”、それは最近よくこの世界に出入りしているルチオが日当たりが悪く元気が無かったのを移植した花だが、氷の矢に当たって枯れてしまったのである。
勿論、彼らがそれを知る訳が無かった。
「その他、日本にいるお前らの家族が俺にケンカを売って迷惑を掛けてきやがった。」
「「「え!?」」」
最後は全員同時にキョトンとなった。
この世界以外でのことであり、彼らには心当たりが全くなかった。
「ああ、最後のは当事者全員にやったからお前らにはついでだ。死ね!」
と、再び彼ら4人を半殺しにしようとした時だった。
ラートンのポケットから某人気ゲームの主題歌が流れてきた。
「あ、メール。」
4人がズッコケているのを無視し、ポケットからスマフォを取り出したラートンは地球から送信されたメールを開いた。
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From:元気一杯のルチオ
Sub:大爺ちゃま早く来て!
ママの陣痛が始まっちゃった!
パパは夜勤でいないから早く来て!
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「さあ、帰るか。」
ラートンから殺気が消えた。
威圧感が消えた。
体の向きと空気が180度変わった。
「「「??????」」」
状況が全く読めない4人だった。
このまま解放されるかと思った彼らだったが、そう甘くは無かった。
「あ゛?何安心してんだ?」
「「「ヒィィィィィィィィィ!!!」」」
「死・・・ねねえんだったな。じゃ、呪われろ!」
直後、4人は抵抗する事も出来ずに大魔王に呪いをかけられた。
呪いをかけ終えたラートンは、懐からペンと紙を取り出して何かを書き、それを適当に床に置いてこの世界から去っていった。
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――ファル村近郊上空――
「ホッホ!また産まれるとは目出度いのう!」
「・・・人によっては恐怖でしかない出産だがな。また1人、世界を震撼させかねない者が産まれるか・・・。」
目の前の映像が終わり、ブラスは嘆息をつく。
応龍は「お~〇お〇」を飲みながら柿ピーを食っていた。
「しかし結果的にとは言え良かったのう?」
「何の話だ?」
「誰も死なずに済んで、じゃよ。お主、最初からあの小僧共を殺す気はなかったじゃろ?お主の撃った弾は殺傷性の無い“特殊弾”じゃったからのう。」
応龍はブラスの目の前に4発の銃弾を出現させた。
全てブラスが諭達に向けて撃った銃弾である。
「――――殺傷性はないが、その代わりに随分と厄介な術が込められておるの。効果は兎も角、名付けるなら『断罪弾』かの?お主、相変わらず―――――――」
「応龍、お前こそどうした?咎人を前にし、こうも平然としているなどお前らしくもない。」
「遅くなったが、御愁傷様じゃ。」
「?」
両手を合わせて頭を下げる応龍を訝しむブラス。
「・・・相変わらず私事には疎い小僧じゃのう。3年前の冬じゃ、流行り病で死んだそうじゃ。結局、お主が生きておる事を知らずに逝きおったようじゃな。」
「――――――ッ!」
応龍が言おうとしている事を理解したブラスは大きく目を見開いた。
「まあその話は置いておくとして、お主はこれからどうするつもりじゃ?」
「答える義務はない。」
「失敗すると思うんじゃが?足を洗うのなら今の内じゃぞ?」
「―――――失礼する。」
不愉快さを顔に出したブラスは応龍に背を向けると、そのまま宙を蹴って去っていった。
残された応龍は後を追おうとはせず、少しだけ切なさそうな表情を浮かべながら彼が消えた先を黙って見つめていた。
「相変わらず、哀れな男じゃ。」
数分後、応龍の姿は異世界の空から消えていた。
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――ムリアス公国南部国境上空――
応龍から逃げるように飛び去ったブラスはムリアス公国へとやってきた。
彼がこれから始めようとしているのは、本来ならここにはいないアイアスの仕事だった。
だが、様々なイレギュラーの影響で予定に変更が生じ、ブラスが担当する事となったのだ。
(・・・悔いは無い。元より、捨てたものに未練など残してはいない。)
ブラスは応龍の言葉を頭から振り払い、これからの事を考えようとはしていた。
丁度そこに、遠くから念話が届いた。
〈――――師匠、戻られたのですね?〉
〈エレインか。半刻前に来たところだ。そっちはどうなっている?〉
念話の相手は若い女性だった。
声の高さから言えば少女のようにも聞こえる。
〈今のところ問題はありません。明日、ファリアス帝国の第三皇子が会場となる都市へ到着の予定です。〉
〈兵力の方はどうなっている?〉
〈ハイ。予定通り、国境側の兵力を変更前よりも2割ほど増強しています。首都ドーウィンの戦力は減りますが、問題は無いでしょう。城の方には病状の悪化した先々代国王夫妻が居るだけなので、実質上、放棄しても問題ない状態です。〉
〈現女王は?〉
〈既に会場都市の領主の館に到着し、既に就寝しています。摂政の方は派閥の方々と一緒に酒盛りをしています。問題ありません。〉
女性は淡々と質問に答えていく。
〈――――遺跡の調査はどうなっている?〉
〈8割7分ほど完了しています。まだ最下層へは到着していないので断言はできませんが、7割以上の確率で当たっていると思われます。『四至宝』の1つ、『神槍ブリューナク』はあの遺跡に眠っている可能性があります。〉
〈充分だ。こちらも『ダグザの魔釜』の調査を再開する。ゴリアスでの判断はお前に一任する。くれぐれも注意しろ。ファリアスとは違い、ゴリアスの方は替えが効かない。〉
〈承知しています。それと報告すべき事項がもう1つ残っています。〉
〈何だ?〉
〈ゴリアスの《奇跡の書》の行方が判明しました。〉
〈―――――!〉
ブラスは息を飲んだ。
《奇跡の書》、それは異世界から召喚者が指定した人物をこの世界に召喚する物。
ファリアスでは士郎を、ムリアスでは諭達を召喚したこの世界においても、ブラス達にとっても重要なアイテムだった。
〈――――国外か?〉
〈ハイ。ダーナ大陸最北の国家、「ミストラル王国」の蒐集家貴族の手に流れたようです。〉
〈アナム国と同盟を結んでいる国か。ゴリアスの先代王妃の出身国でもあったな。まあいい、《奇跡の書》については今は置いておく。今は『四至宝』に集中しろ。〉
〈了解しました。〉
〈では、今後は緊急時以外は《念話》は互いに控えるようにしろ。〉
〈ハイ、失礼します。〉
念話はそこで終了した。
(――――そう、今は『魔釜』の入手に専念すべきだ。)
頭を切り替えたブラスは首都リュミエールへと向かった。
そして、ブラスの姿は夜闇の中に消えていった。
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――ファル村――
フウ、昨夜は寝不足になるところだった。
アンナちゃんとエミーリアちゃんが喧嘩を始めた後、何故か他の皇女を巻き込んだ大騒動になった。
その結果、俺は両脇に女の子を並べながら寝る事になった。
普通なら嬉しいけど、正直複雑な気分だ。
「さ~てと、今日も元気よく朝のランニングを始めよう!」
俺は早朝ランニングを何時も通りに熟し、村を見て回っていく。
すると、捨駒勇者達を軟禁している小屋の前に村人達が集まっているのが見えた。
「どうしたんだ?」
「あ!丁度いいところに来ましたですぞい!」
気になって近寄ってみると、爺さんAが俺の手を引っ張って軟禁小屋の中に入れた。
「あれ?無人・・・?」
中に入ると、居る筈の捨駒勇者の姿は無かった。
脱走か?
【名前】『剣聖』『大魔王』ラートン=B=スプロット
【年齢】340 【種族】(多分)人間
【職業】大魔王 剣聖 医薬王 【クラス】理不尽
【属性】メイン:光 風 空 サブ:火 土 水 木 雷 氷
【魔力】9,300,000/9,300,000
【状態】正常(完全健康体)
【能力】攻撃魔法(Lv5) 防御魔法(Lv5) 補助魔法(Lv5) 属性術(Lv5) 武術(Lv5) 隠行術(Lv5) 錬金術(Lv5) 鍛冶術(Lv4) 彫金術(Lv5) 精霊術(Lv5) 千里眼 浄化 獣使ノ神技 龍殺剣アスカロン 魔剣サモセク 巨剣エッケザックス etc
【加護・補正】物理耐性(Lv5) 魔法耐性(Lv5) 精神耐性(Lv5) 全属性耐性(Lv5) 全状態異常無効化 龍殺し 神殺し 天使殺し 魔王殺し 幻獣殺し 万能翻訳 不老長寿 王の器 王の直感 完全健康体 超回復力 契約王 制圧王 主神ユピテルの加護 軍神ウィツィロポチトリを下僕 象頭神ガネーシャを下僕 酒神ディオニュソスを下僕 万能神マルドゥクを下僕 悪神ロキの契約 etc
大魔王は当然ですが正義の味方ではありません。自分の味方です。
ですが、家族には少し甘いです。
ルチオは目に入れたいほど可愛がっています。