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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
2ヶ国奪還編Ⅲ-恐怖の夜の章-
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第93話 元勇者×4、地獄に堕ちる 2

 今回は大魔王降臨のため、少々痛い表現がありますのでご注意を。

 何故こうなった!?


――――『剣聖』と呼ばれたのは外見年齢30代半ばから40代前半の濃い栗色の髪をした、ボトルを片手に持ちながら立つ長身の男。



――――『界の龍神』と呼ばれたこの世界には場違いな中華服を着た長い白髪の老人。




 どちらも最初からこの場に居たかのようにブラスの背後に立っていた。



「お前達にこの者達を助ける義理は無い筈だが?」


「あ゛あ゛!?何勘違いしてんだ?誰がクソガキ共を助けに来たって言った?」



 『剣聖』ラートン=B=スプロットはボトルの酒を飲みながらどこぞのヤクザみたいな目付きでブラスを睨んだ。


 顔見知りだからこそ敢えて眼を合わせないブラスは、数十年経っても相変わらずなラートンに口元を僅かに綻ばせた。



「―――――停めたのは儂じゃよ。咎人とはいえ、この村(・・・)を子供の無惨な死体で汚すのは心苦しいからのう。」


「・・・それは、この村以外でなら殺しても構わないとも聞こえるな?」



 腰まで伸びた白髪を揺らす老人、嘗ては地球の古代中国で歴史に名を刻んできた王や将と契約してきた()龍王、今では長き年月を経て神格化され『界の龍神』と称されている最高位の龍族の1人、応龍は比較的穏やかな目付きでブラス達を見ていた。



(奴らの子孫が出入りしている時点で遭遇する可能性は想定してはいたが、まさか2人揃ってここに現れるとはな。やはり、今回の件においてはこちら側の情報不足はかなり厳しいようだ。)



 ブラスは天地が引っくり返っても決して勝ち目のない相手が同時に2人も現れた事で、今夜の作戦遂行はまず絶望的だと速断した。


 ブラスはファル村に来る際、前回の戦いでのバカ龍王やその弟と契約者を目撃していたので少なからず背後に立つ2人がこの世界の理(・・・・・・)を無視して来る可能性を考えていた。


 いや、彼らと遭遇するリスクを知っていたからこそ、部下ではなく自らこの村に来たと言った方が正しい。


 『剣聖』と『龍神』、どちらと遭遇したとしても並大抵の者では生きて帰る事すら絶望的、まして両方と同時に遭遇したとなれば色々諦めなければならない。


 それを理解していたが故、ブラスは敢えて誰も同行させずに単独で村に来た。


 少なくとも、仮に両方と同時に遭遇しても自分だけなら逃げ切る事はできると分かっていたからだ。


 もっとも、本当に両方同時に遭遇する事になるとは思ってもいなかったようだが。


 そして今、ブラスは応龍の発言から1つの疑問を抱いていた。



「――――知人の村(・・・・)を守る為に態々降りてきたのか。神格を持つ者が現世に干渉する事は制限されているというのに。」


「そうじゃのう。じゃが、何事にも例外はつきものじゃよ。」


「・・・・・・。」



 背中越しに応龍の存在感が伝わってくるのをブラスは感じていた。


 実年齢にして優に1万を超える年月を生きた龍族でも最古の存在、魔力や気迫は完全に抑えているが数々の修羅場を超えてきたブラスはその圧倒的な存在感を、並の神々すら圧倒する神格を直に感じていたのだ。



(どうやら、捨駒を直接処分するのは諦めるしかなさそうだな。)



 ブラスは嘆息し、持っていた銃を懐に仕舞った。


 最早長居は無用と判断したブラスは戦意を微塵も見せずに軟禁小屋を後にしようとした。



「――――失礼する。――――ツ!?」


「死ね!!」



 ラートンの声を聞くよりも早く、ブラスは反射的に加速して軟禁小屋の外に飛び出した。


 あの瞬間感じたのは龍さえ瞬殺しかねないほどの殺気、軟禁小屋の外には漏れてはいないが明らかに危険なものだった。





--------------------------


――ファル村上空――


 小屋の外に出たブラスは迷わず地を蹴り、一瞬で上空2000mまで跳んだ。


 同時に《防御魔法》、《補助魔法》を無詠唱で使いまくって戦闘態勢に入った。


 だが、数秒経ってもあの殺気の主であるラートンが接近する様子は無かった。



(――――――追う気はないのか?)



 不可解に思いつつも、態々村に戻ってリスクを冒す気のないブラスはそのまま退散しようとした。


 だが、村から1㎞北に進んだところで停まった。



「・・・何か用か?」


「何、ちょっと世間話をしに来たのじゃよ♪」



 応龍は胡坐をかきながらブラスのすぐ横に浮かんでいた。



「・・・大魔王(・・・)はどうした?」


「これじゃよ。」



 応龍がパチンと指を鳴らすと2人の前にある場所の光景が表示された。





--------------------------


――1分前 軟禁小屋――


「死ね!!」



 ブラスが反射的に軟禁小屋を脱出した直後、大魔王ことラートンはブラスの事など100%無視してムリアスの元勇者達全員の顔面を踏み潰した。



「「「>?*@#$+P)=‘!!??」」」



 ブラスが彼らにかけていた拘束はあっさりと破れ、彼らは頭から床に減り込んだ。


 その際、無理矢理拘束を破ったので彼らの両腕は見事に骨折した。



「「「あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」


「チッ!死んでねえな?やっぱ()で蹴った位じゃ死なねえか。俺も老いたもんだ。」


「「「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」


「五月蠅え!!」



 激痛に悲鳴を上げる4人を、ラートンは容赦なく何度も踏んでいく。


 鼻が折れ、指が折れ、肋が折れ、それでも容赦なく踏んでいく。


 そして全身の各所を粉砕骨折させると、ラートンは懐から薬の入ったボトルを取り出して彼ら全員に飲ませた。



「ほら、これで完治するから黙れ。黙らないと、次殺す!」


「「「~~~~~ッ!!??」」」



 薬を飲むと彼らの体は健康体に戻った。


 痛みが消え、骨折も出血も綺麗に完治した。



「やっぱ殺す!」



 そして再び顔面を踏まれる。


 踏まれた豪樹は再び悲鳴を上げる。



「グガァァァァァァァ!!??」


「黙らないと殺すって言っただろ?」



 そして指をパチンと鳴らし、豪樹は電撃に襲われ、ミディアムになって心臓が停まった。


 だが、数秒で傷は再び完治して心臓はすぐに動き出す。



「ああ、間違って『超万能薬(エリクサー)』を飲ませちまったな。これじゃあ24時間はどんなに痛め付けても殺せねえな。」


「「「ヒィィィィィィィィィ!!!!」」」



 元勇者4人は地獄にいるかのような恐怖に襲われた。


 ラートンからはあからさまに殺気やら威圧やらが漏れまくっている。


 その質は彼らが数日前に感じたバカ龍王からのものなど生ぬるいと思えるほど圧倒的なものだった。


 彼らは自分達が失禁している事にも気付かず、口からは悲鳴しか出せなかった。


 その事に気付いているのいないのか、ラートンはボトルに入った(アルコール度数96の)最強酒(スピリタス)を飲みながら見下ろしていた。


 ハッキリ言って色んな意味で人外の男である。



「フゥ・・・。」



 ボッと口から火を噴いたラートンはボトルの蓋を閉め、床に転がっている諭の胸倉を掴んで持ち上げた。



「お前がコイツラの頭か?」


「あ・・・あ・・・・あ・・・!!」


「答えろ。」


「イ・・・・ハイ・・・!!」



 諭は必死に震える口を動かして返事をする。


 ラートンの目は誰が見ても「お前、殺す」「KILLING」「処刑」という言葉が伝わる程の迫力があった。



「お前ら、自分達が何をしたのか理解してるか?してねえか。」


「?????」


「お前ら、自分達がこの世界で何人の命を奪ったのか覚えてるか?覚えてねえよな、数えてこい。」


「「「・・・え?」」」



 直後、諭達4人の精神はこの世から消えた。





--------------------------


――ファル村近郊上空――


「一時的に精神を冥府に送ったか。」


「あ奴は沢山の神にコネがあるしのう。今回はスカアハかベビォンの所にでも送ったのじゃろうな。現世(ここ)冥府(あそこ)とは時の流れが異なる。何が起きてるのかは想像せんでおこう。」



 応龍は柿ピーを食べながら観賞していた。



「食べるかの?」


「・・・結構。」





--------------------------


――その頃の士郎――


「(何故こうなった・・・!?)」


「ん・・・・・・・♡」


「勇者様・・・・・・。」


「・・・・・・お兄ちゃ・・・・・。」



 狭いベッドの中、シロウは複数の少女に挟まれながら混乱していた。



「(ね、眠れない・・・!!)」


 彼の夜はまだ永い・・・・・・。








超万能薬(エリクサー)(大魔王製)】

【分類】魔法薬

【品質】超高品質

【詳細】あらゆる病や怪我があっという間に完治する。

 通常のエリクサーよりも質が極めて高く、服用後も一定時間内は半不老不死状態になり、一瞬で全身が消滅しない限り死にたくても死ねない。

 あくまで肉体を回復させる薬なので、精神的ダメージは回復しない。

 服用の際は用法用量を守り、大魔王の忠告を聞いた上でお願いします。



 死にたくても死ねない。まさに生き地獄・・・。


 ついでに大魔王の飲んでいる酒は、もはや酒なのかすら怪しい・・・というより、飲み物ではありません。普通は死にます。普通は。


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