表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
2ヶ国奪還編Ⅱ-ファルの遺跡の章-
96/465

第91話 ボーナス屋、食事会に出る

 難産でした。


――ファル村――


 その日の夕食は村の一部を会場にしたちょっとした食事会になった。


 奪還作戦を控えているので大規模な宴会という訳にはいかないが、それでも俺や村長一家、アンナちゃん一家やヒューゴ達ファリアス皇族関係者、ステラちゃんを始めとするフィンジアス王族関係者、ついでにムリアスのダメ殿下が参加する食事会となった。


 ムリアスのダメ殿下ことアレクシスは捨駒勇者達とは別に、一時的に軟禁状態にあった。


 意識を取り戻した後、村長やステラちゃん達による取り調べが行われ、多少現実逃避している節はあったが今回の食事会には参加させることにした。


 理由は単純、一度、3ヶ国の要人達の顔合わせとかがあった方がいいという政治的な理由からだ。


 勿論、下手な真似をしないように見張りも付けてある。


 だが、アレクシス個人にとっては参加しない方が安全だったのかもしれない。


 何故なら―――――



「――――刺し殺す!!」


「ギャァァァァァァァァ!!」


「お祖父ちゃん、落ち着いて!!」



 ツンデレ爺さんは銛を持ってダメ殿下を殺そうとした。


 普通なら即逮捕ものだ。


 同機は単純、ムリアスが娘と孫のいる村(ファル村)を襲撃しようとしたと知ったからである。


 奥さんに早世されてしまった爺さんにとって娘と孫は命より大事な家族、その家族の命を己の野心の為に奪おうとした――ツンデレ爺さんはそう思っている――一味の頭を許せる筈がなかったのである。


 ダメ殿下はツンデレ爺さんに怯えながら逃げていくが、祖父さんが投げた銛がダメ殿下の服に刺さって転んだところで捕まって殴られた。



「イイぞ~!!」



 ツンデレ爺さんを陰から応援するバカ皇帝。


 数秒後、女性陣に再び袋叩きに遭った。



「ギャァァァァァァァァァァァ!!」



 その晩、村中にダメ殿下とバカ皇帝の悲鳴が夜遅くまで響き渡った。





--------------------------


「え、え~~~~と・・・・?」


「勇者様、私が作った料理を食べてください♡」


「・・・あげる。」



 説明しよう、俺は今、料理皿を持った皇女様2人(ダブルプリンセス)に挟まれている。


 一方はアンナちゃん、もう一方は今日バカ皇帝と一緒に村にやってきたばかりの新登場の皇女エミーリアちゃんだ。


 エミーリアちゃんはダンジョンから帰って来て手当をしてあげてからというもの、ずっと俺の後をついてきている。


 ちなみにエミーリアちゃんは10歳、マイカと同い年だ。



「・・・姉様、邪魔。」


「・・・え?」



 うわっ!


 一瞬で空気が氷点下になった!?


 その後、バカ皇子が空気を壊しに来てくれるまで女同士の冷戦が続いた。


 バカ皇子、ナイス♪


 そんなこんなで、食事会は特に問題(・・)もなく進んでいき、チビッ子達は早めに解散となった。



「それにしても不思議なものだ。戦争している国同士が、身分を無視して食事をしているとは。王都に居た時は考えもしなかったよ。」


「私も同感です。兄上。」



 チーム修羅場(New!)がいなくなり、俺の周りにはステラちゃんや第一王子(エドワード)などチームVIP(New!)が集まってきていた。


 あ、皇帝は懲りもせずに女性陣を誘っていた(・・・・・)ので向こうで吊し上げられている。


 村長に、後で俺の能力でなんとかしてほしいと頼まれたけど、なんとかできるのか?



「それにしても、この料理はどれも美味しいな?この村の伝統料理なのかな?」



 第一王子は皿に盛られた鶏の唐揚げを食べながらステラちゃんに質問した。


 ちなみに、別のテーブルでは第二王子がフライドポテトを自家製ケチャップをたっぷり付けて頬張っている。


 どうでもいいけど。



「いえ、作ったのは村の住民ですが、料理のレシピなどはここにいるシロウが皆に教えたものです。どれも異世界の料理らしく、その味の良さから今では村中の家に広まっています。」


「いや~、料理って程じゃないけどな?」


「へえ、異世界の料理か。後で私にも教えてくれないだろうか?こう見えて、料理が趣味なものでね。」


「いや、みんな知ってるから!」


「え?」



 ステータスにハッキリと『料理王子』って書かれていたからな。


 異世界の料理にも興味津々のようだ。


 けど、最近はネタ切れになってきているんだよな。


 村で生産されている作物の種類も大分増えてきたけど、それでも日本で食べていた物を再現するにはまだ足りない食材が多い。


 特に“米”!!


 この前のカレーの一件以来、ファル村の皆さんだけでなく各国の皆さんもご飯の美味しさに嵌ってしまっている。


 是非もう一度食べたい、という意見が殺到したが、俺の能力で毎度交換していたらポイントが幾つあっても足りない。


 一度銀洸に種籾を日本から持ってきてくれないか相談したら、「生態系に影響があるかも。」といった理由で異世界の植物や動物の持ち込みはできないと断られた。


 単に面倒臭いだけなのかもしれないが。


 まあ、仮に持って来れたとしてもファル村のある地域では、降水量の少なさ等の理由から稲作は適さないだろう。


 “米”の次に足りないのは調味料、“醤油”や“ソース”、“酢”、“味噌”など数え出したら両手の指だけじゃ足りない。


 特に“醤油”、“味噌”は麹がないと1から作るのはまず無理だ。


 それに比べれば、“カレー粉”は案外自作可能かもしれない。


 問題は原料になるスパイスが何所にあるかだが・・・・・・。



「まあ、無事に帝国と王国が奪還できたら教えるよ。今は俺も鍛えなきゃだし!」


「ええ、それで構いません。」


「そういえばシロウ、先程アンナから話を聞いたのだが、ランドルフ陛下は地下にある遺跡を通って帝都から脱出したそうだな?」



 料理の件が片付くと、今度はステラちゃんが俺に質問してきた。



「ああ、ファルの森にあるのと同じ“扉”が遺跡の中にもあったみたいだな。帝都の近くにある遺跡にも同じ“扉”があったらしいな。鍵は皇帝の『魂の武装(スピリットウェポン)』を使ったみたいだ。何で使えたんだ?」



 そう、あのバカ皇帝は何故か『魂の武装(スピリットウェポン)』を普通に使えていた。


 本人は気が付いたら使えた、とか言っていたが・・・。


 ちなみに、バカ皇帝の『魂の武装』は便利な万能鍵だった。



神王の鍵(グランドマスターキー)

【分類】魂の武装(鍵)

【品質】高品質

【詳細】嘗て神々の王が所有していた鍵が、うっかり輪廻の流れに落としてしまい『魂の武装』と化してしまったもの。

 どんな鍵も開け、同時に閉じる事も出来る。

 ただし、魔法などで閉じられた鍵を開ける際は相応の魔力の消費が伴う。



 多分だが、バカ皇帝はこの鍵も使って脱走とかしていたに違いない。


 つーか、神様もこんな大事な物を落とすなよ。



「――――なら、遺跡を通って帝都へ向かうというのは無理だな。折角無事(?)に帝都を脱した陛下に無理をさせる訳にはいかんからな。」


「・・・一部の人達(・・・・・)は積極的に無理させようとしそうだけどな。それに皇帝の“鍵”で開けても、次も同じ場所に繋がるとは限らないし、移動時間を考えるとロビンくんに転送してもらった方が早いだろうな。」


「そうか、確かに遺跡の最下層への移動時間を考えれば愚行だったな。」



 ステラちゃん、ガッカリしてるな。


 ステラちゃんには悪いけど、遺跡ダンジョンの完全調査が終わってない現状ではどの道その案はリスクが高いと思う。


 それと話は変わるけど、最近、ステラちゃんの所では魔法の研究をしている騎士や兵士の姿をよく見かける。


 魔法が基本無しの日本から来た俺にはそんなに実感はないが、この世界では魔法を使う事ができるのは遺伝によって先天的に適性がある者がほとんどで、その大半が王侯貴族のなんだそうだ。


 後天的に適性を得る人も稀にいるそうだけど、それでもこの世界での魔法は使えるだけでかなりのステータスであり、地域によっては魔法が使えるだけで敬われるらしい。


 チームステラちゃんの部下達でもそれは例外ではなく、俺の能力の〈魔法適正〉を手に入れた後は空前の魔法ブームになり、訓練時間以外でも魔法を使いまくっている兵士の姿も少なくは無かった。


 それに加え、同じくボーナスで手に入る異世界の魔法知識は元から魔法が使える人達にも多大な影響を与え、時間があれば集まって魔法の研究を行う、サークルみたいなものができている。


 その成果なのか、チームバカ皇子にロビンくんがいるように、チームステラちゃんの所にも優秀な転移術師がいる。


 ロビンくん程ではないにしても、奪還作戦の時は活躍してくれるはずだ。



「遺跡と言えばシロウ、遺跡の隠し部屋に不思議な壁画があったそうだな?」



 と、ここでステラちゃんが話題を変えてきた。


 そうそう、隠し部屋のこともあった!



「そうなんだよ!実は――――――――――」



 俺は隠し部屋の話を2人にした。


 2人ともその内容に素直に驚いていた。



「・・・最後の辺りはジーア教の経典や帝国の歴史書に書いてある内容に近いね。私も何度も読んだ事があるから」


「そうなのか?」


「ああ、ジーア教では鳥に姿を変える女神や女神と共に戦う英雄の話がある。帝国の歴史書の中でも、帝国の始祖は琥珀の瞳をした勇者と赤い髪の女神と言われている。帝国の皇族に琥珀の目や赤い髪の者が多いのはその為だとされている。」


「へえ、そうなんだ?」


「それにしても興味深いな。私もダーナ大陸の歴史書は一通り目は通しているけど、その隠し部屋にあった話は初めて聞くよ。機会があったら詳しく調べてみたいものだ。勿論、帝国側の了承を得てからだけど?」



 そう言うと、第一王子(エドワード)は後ろの方を振り向く。


 そこでは、バカ皇帝が上半身で木に吊るされていた。



「誰か・・・助けて・・・。」


「「「・・・・・・・・・。」」」



 クーデター派を押さえたとして、帝国大丈夫か?


 何だか不安しか残らない気がするな。



「さあ、もう遅いし私達もこの辺でお開きにしよう。」


「そうですね兄上、皿は私が片付けるので先に休んでいてください。」


「いや、これ位は自分でしないとね。ステラこそ、昼間は訓練で疲れているんだから先に休んでくれていいよ?」



 第一王子善い人だな~~~。


 さてと、俺も片づけをしよう~っと!




    ゴトッ・・・・・・・




「ん?」



 今、何所かで物音がしなかったか?


 バカ皇帝が逃げ・・・た訳じゃなさそうだな。



「・・・・・・気のせいか?」


「どうした、シロウ?」


「あ、何でもないよステラちゃん!」



 俺はすぐに物音のことを忘れて後片付けに向かった。


 だけどその夜、俺がベッドの上で熟睡している間に1つの「事件」が起きた。


 それは俺を含め、当事者以外は誰も起こった事にすら気付かない長く短い事件だった。







「――――この家の中だな。」


 その晩、ファル村にブラス=アレハンドロが村の誰にも気付かれる事なく来訪していた。






 ブラスが帰ってきました。

 次回、久しぶりのシリアス回?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ