第90話 ボーナス屋、初めての迷宮探索 4
――ファル村 広場――
ダンジョンから村に戻って十分後、村の広場は処刑場になっていた。
「・・・ゴメンなさい。とにかくゴメンなさい。反省しているので降ろしてください。頭に血が上って苦しいです。」
俺の目の前で、ファリアス帝国の皇帝は宙に逆さ吊りにされていた。
地面から突き出た柱の突起から吊るされた皇帝、その皇帝を大勢の怒れる人々が凶器を持って囲んでいた。
「・・・怖っ!!」
何故こうなった?
時は30分ほど前まで遡る。
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――30分前、地下遺跡B50(最下層)――
皇帝が現れた。
バカ皇子シリーズの父親が目の前に現れた。
後ろに女性達と子供を引き連れて・・・・・・。
「――――イイエ、私はハ皇帝デハアリマセン!リッチナ冒険者デス!」
本人は即否定した。
無理が有り過ぎる言い訳を言いながら。
「そうか!じゃあ、俺達が助けなくても大丈夫だな?俺達は探索を続けるからこれでサヨウナラ。」
「嘘です!出口を教えてください!」
「「「・・・・・・・・・・・。」」」
あっさりと吐いた。
その後、何で帝都で行方不明になった(らしい)皇帝が女子供を連れて遠く離れたファル村の地下ダンジョンにいるのか尋ねた。
「・・・2日前、その日も早く仕事を片付けて歓楽・・・街の視察に向かおうとした。」
「行くなよ!」
「・・・。だが突然、私は極寒の中に居るかのような寒気に襲われた!長年の経験から厄介事の前兆だと知った俺は何時もよりも早く宮殿を後にした。しつこい騎士や警備兵達が騒ぎだすのを見ながら街に向かおうとすると、今度は歓楽街か・・街の方から嫌な予感がしたからすぐに道を変え、宰相達にも黙って勝手に造った隠し通路を通ってスラム街の近くまで逃げた。」
「帝都を勝手に改造するなよ!」
色々ツッコむ点が多い話になりそうだ。
横を見るとアンナちゃんが呆然とした顔で立っていた。
そりゃそうだ。
目の前に立っているのは帝国の皇帝であり、何よりアンナちゃんの実の父親だからな。
いろんな意味でショックは大きいだろう。
「スラムに来た私は雑貨屋兼情報屋を営んでいる悪友の元に身を寄せた。そしてそのすぐ後にクーデターが起きたのだ!」
ここから先は無駄話が沢山混ざるから俺が要約する。
情報屋一家のところでちゃっかり夕飯を食べながらクーデターの事を聞いた皇帝は以前から悪友に預けていたヘソクリと手持ちの金を元手に帝都を脱出する計画を立てた。
雑貨屋でもある悪友の家で必要最低限の物資を調達し、帝都を足を確保する為に変装して平民街の酒場へと移動した。
そこはある事情から普段は通っていない、来るのは半年ぶりにもなる訳ありの酒場だった。
酒場に入った皇帝は主人に睨まれながら店の奥へと入っていった。
予定ではその酒場を行き着けにしている悪友の商人に会い、馬車を借りて帝都を脱出する予定だった。
だが、店の奥で待っていたのは予想外の人物達、今皇帝と一緒にいる子連れを含めた女性達だった。
貴族を始め、商家の娘にウェイトレス、踊り子、休業中の冒険者、娼婦、女騎士、そして酒場の主人の娘がいた。
言わなくても想像できるが全員が皇帝と関係を持った人達で、中には妊婦もいた。
クーデターの情報を知って先回りした彼女達に痛め付けられ、最後は――酒場の主人に恨まれながら――彼女達と彼女達との間にできた(宰相達も把握していない)子供達も連れての帝都大脱出になった。
無事に帝都を抜けた皇帝一行だったが、反皇帝派が帝都の外にまで捜索の手を回し始めたので仕方なく帝都から程近い場所にある遺跡にある『古の魔法扉』に逃げ込んでこのダンジョンにやってきたらしい。
その際、遺跡を根城にしていた盗賊団を皇帝が無双してしたが、盗賊団の小間使、というより奴隷に近い扱いをされていた子供の中に行方不明になっていた皇女が1人混ざっていたので他の子供も一緒に救出した。
その後、魔獣に遭遇したり道に迷ったりするなど何度も困難を乗り越えた末に今に至るという訳だそうだ。
「ハハハハ、子供の頃に親に隠れて冒険者をしていた経験が役に立ったな♪」
「あら、何言ってるのかしら?やっぱり頭が壊れたのではないんですの?」
「確かに戦いでは役に立ってくれたけど、それ以上に迷惑もかけていたのを忘れたの?」
「あ、いや・・・。」
「陛下が道を間違えた時は死ぬかと思いましたわ。よりにもよって、数百年前に滅んだと言われていた魔獣の巣の扉を開け、更にはA+指定のメタルスカルドラゴンに襲われたりと、歩いているだけで危険を呼び寄せていましたわ。」
「・・・・・・・。」
皇帝、女性陣に言われ放題だな。
俯いてしまって威厳の欠片もないな。
『ゴケゴケェ~~~!(勇者様助けて~!)』
「おっきいトリ~~!」
「ふかふか~!」
あ、コッコくんがチビッ子達に遊ばれている。
アンナちゃんは・・・いや、ここはそっとしておこう。
ロルフは細目で皇帝を見ている。
「この子達の世話も誰が見ていたと思っているのかしら?」
「体だけは立派でも、それ以外はまるで駄目よね?」
「ウフフ、アレは上手なのに残念な人♪」
「・・・・・・。」
何、この尻に敷かれているオッサン?
さてと、何時までもここにいても仕方ないし村に戻るか。
その後、何時までもこの光景を見ているのに厭きてきた俺はクラウ・ソラスを抜き、ここにいる全員を地上へと転移させた。
あ~あ、結局最下層の探索はできずに終わったな。
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――ファル村 広場――
ダンジョンから村に帰還してからの出来事は嵐のようだった。
一瞬で場所を移動した事に驚愕する皇帝一向。
そこに村長が現れたと思ったら目にも止まらぬ速さで皇帝にドロップキック!
皇帝は100m先まで吹っ飛んだ。
そこへ騒ぎを聞きつけたヒューゴ達隠し子組が全員揃って登場!
勘の良い貴婦人にヒューゴ達が隠し子である事が発覚!
更にそこへヒューゴ達のお母さん達までやってきて、広場は地獄と化す!
皇帝はすぐさま縛られて地面に転がされ、懐から凶器を出したお母さん方にフルボッコ!!
そこへ今度は何故か漁師のツンデレ爺さん登場!
事情を知ったツンデレ爺さんは銛を持って皇帝を(本気で)殺そうとする。
ツンデレ爺さんをケビンがどうにか宥め、その間に村長が魔法で吊るし台を造って皇帝を逆さ吊りにし、現在に至る訳である。
「あらあら?私の記憶が確かなら、陛下は私にこう言いましたわよね?「お前ほど私の心を動かした女性は今までに会ったことがない。」と。どうやら、動いてらしたのは心ではなく、その卑しい下半身だけのようですわね?」
ゴゴゴゴゴ・・・・・・・!!
怖い!貴婦人怖い!
笑っているけど全身からこの世のものとは思えないオーラが容赦なく溢れている・・・!!
「私の時はこうだった!「私の中にいるお前への“愛”を討伐してほしい♡」と。討伐すべきは陛下御自身だったようだ。帝国騎士として、婦女子の敵をこの世から排除させて頂こう!」
「ウフフ♡私は「お前の人生を全て私の中に直結している!」だったわね♡」
「・・・「お前が奪った私の心を返して欲しい。」って言われました。逆に私が奪われてしまいました。色んなものを・・・。」
広場に充満した殺気が更に濃度を増していった気がした。
皇帝、お前そんな事を言ってたのか・・・。
「・・・・・・あれが俺らの親父かよ。」
『キュ?』
背中にシャインを乗せたヒューゴが引き攣った顔で呟いた。
ジャンも同じだ。
「・・・燃やす?」
誰かが冷徹な声で死刑執行を教唆した。
おいおい、冗談に聞こえないし言ったの誰だよ!?
「全く!しばらく見ない間にやりたい放題やってくれたものだ!」
あ、村長がサイヤ人みたいになって皇帝を睨みつけている。
そういえば、村長はあの皇帝の起こした女性問題にかなり苦労したんだっけ?
あれ?横にいるのって、もしかしなくてもアンナちゃんのお(義)母さん?
「・・・ロン先生、反省してますので助けてください。死にそうです。」
「一度死んだらどうなの、バカ兄様?」
「おお!妹よ、私はお前のことを・・・・・・」
「村長、燃やして下さい!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
皇帝、(腹違いの)妹にまで恨みを買っていたのか。
というか、今、村長のことを「先生」って呼んでなかったか?
村長って、皇帝の養育係でもしていたのか?
「あと2巡ほど痛い目を見るのだな!」
「先生ィィィィィィィィ!!!」
その後、皇帝の被害者一同(?)による公開処刑が夕方近くまで続いた。
俺は見るに耐えられなかったので、アンナちゃんと一緒に皇帝が連れて来た子供達を温泉に連れて行って汚れた体を流しに行った。
隠し子達は元気にはしゃいでいたが、盗賊団の元にいた皇女を含めた数人の子供達は精神的なダメージがかなり深く、中々心を開いてくれなかった。
体の傷は魔法や薬で癒す事はできたが心の傷は一朝一夕で癒せるものじゃない。
傷の種類は違っていても俺にも経験があるから理解できる。
俺は口を閉ざしたままの子供を無理に笑わせようとはせず、ただ優しく隣に寄り添ってあげた。
途中、皇帝の悲鳴がいろいろ台無しにしてくれたが・・・。
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夕方になると訓練を終えたステラちゃんやロビンくん達がダンジョンから帰ってきた。
そして、ボロ雑巾になっている皇帝を見て驚愕する。
「「「皇帝陛下!!!!????」」」
特にロビンくんを始めとするチームバカ皇子改めチームファリアスの反応は面白かった。
みんな全身に青痣ができ、顔が鼻血でベットリ汚れ、髪もボサボサになり、何故か頭にタコを乗せて頬を二枚貝に挟まれている皇帝の姿に目を丸くした。
「何故、帝国の皇帝がここに・・・!?」
「それには深~い訳があるんだよ、ステラちゃん。」
「え!母上!?」
「あら?元気そうね、ロビン?」
「え?ロビンくんのお母さん!?」
ステラちゃんが状況が理解せず頭がパンクしそうになる一方、ロビンくんはボロ雑巾となって地面になっている皇帝を傷を抉るように突いている貴婦人達の中に自分の母親がいることに気付き、多重の意味で驚愕していた。
俺も驚いた!
事情を聴くと、ロビンくんのお母さんは元々政略結婚でハワード家に嫁いだらしく、皇帝と関係を持つ以前から旦那とは冷え切った関係だったらしい。
それが今回、ハワード家がロビンくんをバカ皇子と一緒に切り捨てた挙句、クーデターを起こした事で完全に見限ったロビンくんママは同士達と連絡を取って一緒に皇帝を待ち伏せし、今に至ったらしい。
「そうだったのですか。母上がお元気で何よりです。」
「あなたも無事で嬉しくてよ。ロン様から聞いたわ。すっかり良いお兄さんになってるそうね♪」
「え、いや・・・・。」
「フフフ♪」
うんうん!
暖かい親子の再会シーンは実に感動的だ。
ロビンくんが良識的に育ったのはロビンくんママのお蔭なんだろうな。
って、ロビンくんママ、皇帝の頭踏んでる!!
「ロビン、あなたはコレみたいな駄目な男にはなっては駄目よ?」
「死んでもなりません!」
「それで良いのよ。」
「・・・・・・。」
ロビンくんは即答した!
皇帝は無言のまま頭を地面に沈めている。
・・・・・・。
「――――勇者様、もうすぐ夕食の仕度が出来上がります。」
「そうか!さ~て、チビッ子達を呼び集めて来るか!」
「何時もすみません。本当は私がマイカ達を呼びに行かなくてはいけないのに・・・・。」
「イイのイイの!」
俺はアンナちゃんと一緒に広場を後にした。
今夜の夕食は凄く賑やかになる!(良くも悪くもだが。)
大勢の食事を作らなければならないアンナちゃんの代わりに、俺は村の外れで遊んでいるチビッ子軍団を呼びに向かった。
背後から誰かの救いを求める声を聞いた気がするが気のせいにしておこう。
あ、そういえばコッコくんの姿が見当たらないけどチビッ子軍団と一緒か?
その後、皇帝とは別にチビッ子軍団によってボロ雑巾に成り果てていたコッコくんを発見した。
その場には鮮やかな羽根は飛び散り、地面にはダイイングメッセージのように「こども、こわい」というメッセージが書かれていた。
コッコくん・・・・・・。
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~本日の成果~
【名前】『ボーナス屋』大羽 士郎
【年齢】16 【種族】人間
【職業】魔法剣士(Lv20) 神器使い(Lv13) 勇者(Lv13) 【クラス】神に気に入られた勇者
【属性】メイン:土 木 サブ:火 風 水
【魔力】1,550,000/2,860,000
【状態】正常
【能力】攻撃魔法(Lv4) 防御魔法(Lv3) 補助魔法(Lv2) 特殊魔法(Lv2) 属性術(Lv3) 剣術(Lv3) 体術(Lv2) 投擲(Lv2) 善行への特別褒賞 超魔力吸収 命無き物の可能性 進化する可能性 鑑定
【加護・補正】魔法耐性(Lv2) 精神耐性(Lv2) 土属性耐性(Lv3) 木属性耐性(Lv3) 火属性耐性(Lv2) 風属性耐性(Lv1) 水属性耐性(Lv2) 竜殺し 土神ハニヤスの加護 豊穣神アヌの加護 銀腕神ヌアザの加護 異世界言語翻訳 職業補正 職業レベル補正
【BP】41
【名前】アンナ=ファリアス
【年齢】15 【種族】人間
【職業】シスター(Lv28) 魔法使い(Lv37) 農民(Lv27) 【クラス】片思いの少女
【属性】メイン:光 水 風 サブ:火 木 土 雷 空
【魔力】12,600/489,000
【状態】精神的疲労(小)
【能力】攻撃魔法(Lv2) 防御魔法(Lv3) 補助魔法(Lv2) 特殊魔法(Lv3) 調合術(Lv2) 鑑定
【加護・補正】魔法耐性(Lv3) 闇属性耐性(Lv2) 水属性耐性(Lv2) 風属性耐性(Lv2) 女神ブリギッドの加護 職業補正 職業レベル補正
【BP】96
【名前】ロルフ
【年齢】12 【種族】人間
【職業】冒険者(Lv60) 魔法戦士(Lv19) 討伐者(Lv19) 【クラス】悩める少年
【属性】メイン:土 サブ:水 風
【魔力】521,000/870,000
【状態】正常
【能力】攻撃魔法(Lv2) 防御魔法(Lv2) 補助魔法(Lv5) 特殊魔法(Lv2) 剣術(Lv3) 体術(Lv2) 鍛冶術(Lv3) 宝探しの秘技 鑑定
【加護・補正】物理耐性(Lv2) 魔法耐性(Lv2) 精神耐性(Lv1) 土属性耐性(Lv2) 毒耐性(Lv2) 麻痺耐性(Lv1) 成長補正 職業補正 職業レベル補正
【BP】165
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女性陣の皇帝へのお仕置きはまだ始まったばかり!
果たして皇帝の運命は如何に!?