第89話 ボーナス屋、初めての迷宮探索 3
――地下遺跡B49 隠し部屋内――
一つ目巨人と黒い龍が追い詰められていた絵の次に会ったのは、目から黒いビームを放って神様達に反撃する一つ目巨人の絵だった。
「『魔の神は不死身だった。大地より魔を吸うことで力を得ている魔の神は胸を貫かれようとも頭を潰されようとも死ぬことはなかった。戦っていた青年は疲れ果て倒れそうになった。それを見ていた大鴉は羽を広げて天を貫くような鳴き声を上げた。』。」
よく見ると、塗料が剥がれて分かりにくくなってるが一つ目巨人が大地から黒い靄を吸収している。
靄の中には人間のシルエットみたいなのが幾つもあった。
これはあれだ!
漫画やゲームのボスキャラとかがよくやる、人間の負の心から力を得るってパターンだ。
逃げた人々が狂ったりしていたようだし、まず間違いないだろう。
次の絵に移ろう。
「――――『――最初の2行が崩れている――3柱の女神の加護を得た青年はさらに雷を放つ剣を手にして魔の神に挑む。その時、さらに別の神々も現れ、青年と共に力を合わせて魔の神を倒す為に戦った。そして槍が邪眼を貫き、光が五体を切刻んで雷が心の臓を貫いた。』。」
沢山の神様達が一つ目巨人と戦う絵だった。
青年が剣から雷を放って一つ目巨人の心臓を貫いている。
『ゴケェ~!(勝ったんだ!)』
「良かったですね!」
「いや・・・まだ続きがある!」
次の絵は少し奇妙な絵だった。
空に巨大な穴が3つ開いていてそれぞれに黒い球が吸いこまれていく絵だった。
そしてその穴を4柱の神が囲んでいた。
神様達はそれぞれ手に剣、槍、壷(?)、石を持って囲んでいる。
その横では白い龍と赤い龍によって黒い龍が倒されていた。
「何だこれ?」
「え~と、『魔の神は“魂”と“力”と“体”の3に分けられて封印された。神々は何重にも封印をかけ、その鍵は――〈1行ほど崩れている〉――と流浪する純潔の鍵に分けられた。闇の龍は白き神と赤き神により鎮められ、幾日と続いた戦いは終結した。』。うわ!次の絵と文章、ほとんど崩れて読めねえ!」
「飛ばしていいんじゃないか?」
ロルフは気にしていないようだがそうはいかない。
ここに描かれているのは物凄く重要な情報だと訴えているのだ。
例によって肝心な部分ばかり欠落しているが、それでも情報は少しでも多く集めておくべきだろう。
俺はほとんど崩れている絵と文章を調べた。
絵の方は謎の金色の龍の頭だけがどうにか残っている。
黒い龍にそっくりだけど、何者なんだ?
文章の方は気になる単語があった。
大半が崩れて読めない中で、“龍王”という単語があった。
“龍王”、龍族の中でも銀洸と同格かそれ以上の存在!
多分、絵の中に出てくる4体の龍のどれかを指しているんだろう。
他に読めそうな文を探すと、“贖罪の為に自ら”や“消えていった。”、“千年を越える時”といったのが読めた。
何となくだが、凄く意味深な感じがする。
そして俺はこの部屋の壁に描かれた最後の絵に視線を移した。
「「は?」」
思わずロルフと声がダブってしまった。
最後の絵、そこに描かれていたのは青年と赤い髪の女性が神々に祝福されながら結婚する絵だった。
花嫁は両足で2人の女性を踏みつけているが・・・。
「・・・『神々の戦いが終わり、魔の神と戦った神は女―――と結ばれ、翌年には2人の間に赤子が生まれた。赤子は父と同じ瞳と母と同じ髪を持って生まれ、後に―――の王となった。』。」
「あれ?これって・・・。」
「アンナちゃん、どうかしたのか?」
「勇者様、この最後の絵のお話・・・私、前に本で読んだ気がします!」
「本当か!?」
驚いてアンナちゃんに訊くと、アンナちゃんは頷いて答えてくれた。
「確か歴史の本だったと思います。多分、ファリアス帝国の建国時の事を書いた本だったかと・・・。」
「なるほどな。」
つまり、今までの隠し部屋の壁に描かれていたのはファリアス帝国が誕生するまでの歴史を絵と文章で表したものだったってことだ。
流石異世界、国1つが誕生するまでの歴史もファンタジーで一杯だ。
だけど、1つだけ気になる事がある。
壁画の登場する『白い神』と呼ばれている龍、名前は書かれていないけど、もしあの龍が俺の知っている龍と同じだとしたら・・・今度銀洸が来た時にでも訊いてみるか。
「他にはもう何もなさそうだし、この部屋にはもう用はないな。ロルフ、この部屋に宝物とかは隠されてないよな?」
「ああ、今調べ・・・あった!」
「あるのか!」
ロルフは朽ちかけた机の前に移動し、机を横に移動させて壁を斧で破壊した。
「!」
すると、壁の中に小さな空洞が現れ、中から幾つかのアイテムが出てきた。
「・・・鍵と羊皮紙、それと指輪か?」
壁の中から出てきたのは鍵束に収められた3本の鍵とスクロール状の羊皮紙、そして錆びた指輪だった。
鑑定してみると以下のようになった。
【古の鍵(登録済)】
【分類】鍵
【品質】普通
【詳細】魔法扉を開ける為の鍵。
使用した魔法扉と登録してある魔法扉を結ぶ。
長期保存用の魔法がかけられていたが、今はほとんど効果を失っている。
【戦女神の婚姻届+99】
【分類】神器
【品質】最高品質(MAX)
【詳細】とある女神の力がこれでもかというほどの込められた婚姻届。
これに名前を書いた夫婦は誰にも引き裂かれる事はない。
2人の間を引き裂こうとする者は女神の怒りによって死をも超える恐怖を味わうだろう。
夫婦のどちらかが死ぬと白紙に戻る。
再利用可。
【???の指輪】
【分類】アクセサリー(?)
【品質】悪い
【詳細】錆びている謎の指輪。
僅かに魔力を宿しているが何の効果を持たない。
鍵束の方はファルの森の洞窟に遭った扉に使える物のようだ。
スクロールは何と言えばいいのか・・・女の怖い部分が見えてしまう。
というか、コレも神器なのか?
最後のはよく分からない指輪だ。
名前もハッキリしない謎の指輪、何の効果もないようだけど、こういう物に限って重要品だったりするから回収しておこう。
「宝っぽい物も回収したし、そろそろ行くか?」
「ハイ!」
「おう!」
『ゴケッ!(ハイ!)』
俺達は隠し部屋を後にし、すぐ近くの階段を下りて最下層へと向かった。
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――地下遺跡B50(最下層)――
階段を下りた先に真っ直ぐと伸びている通路の先には大きな扉があった。
コッコくんの話だとあそこがこのダンジョンの最深部の部屋らしい。
横を見れば他にも通路や部屋があるみたいだけど、コッコくんは奥の部屋しか行っていないみたいだ。
「ここが最下層か。奥の部屋にあった宝物はコッコ団が全部回収したようだし、他の部屋とかを探索するか?」
「そうです・・・・・え!?」
「どうした!?」
返事を言おうとしたアンナちゃんは驚いたような声を漏らして前ではなく右の通路の方を振り向いた。
「勇者様!あっちの方から人の声が聞こえました!!」
「何!?コッコくん、トサカレーダーだ!」
『ゴケッ!!(ラジャッ!!)』
コッコくんは自慢のトサカを光らせ、アンナちゃんが指差した方の通路の奥を調べ始めた。
すると複数の生物の反応、正確には2足歩行する複数の生物がこっちに向かって近づいている事が分かった。
「人間でしょうか?」
「さあな。もしかしたら人間に化けている魔獣かもしれないな。どっちにしろ、遺跡の最深部にいる以上は迷子の一般人てことはないだろう。3人(2人と1羽だが)とも気をつけろ!」
俺が呼び掛けると3人(2人と1羽)は頷いて答えた。
俺達は魔法による照明を弱めると、壁側に寄りながら何者かが接近する通路の奥の方へゆっくりと進んでいった。
柱や開いたままの部屋に隠れながら慎重に近付き、向こうの動きもトサカレーダーで常に把握しながら距離を詰めていく。
そして10分ほど経った頃、小さな光が見えてくるのと同時に俺の耳にもその声がハッキリと聞こえてきた。
「――――――――そ!今度こそ地上への出口に通じている筈だ!お前達もさっきの明かりを見ただろ?あれは別の入口から中に入った者が持っていた松明の灯りに違いない!」
「まあ!?聞きました?この人、またおかしなことを言い出しましたよ?」
「あらあら。きっと悪い物を食べて頭がおかしくなったのですね。」
「可愛そうに。只でさえ残念な頭が更に残念になられたのですね。」
・・・オッサンとオバサン?
聞こえてきたのは中年のオッサンっぽい声と、セレブのオバサンっぽい声だった。
何だか今までの緊張感が台無しになったな。
会話の内容からして相手は人間のようだ。
「(何だかバカっぽい声が聞こえるな?緊張感が全然ねえ。)」
ロルフも同じ感想を抱いていたようだ。
「(勇者様、どうします?)」
「(・・・もう少し様子を見よう。)」
俺達はもう少し隠れて様子を見ることにした。
すると、薄らとだが通路の奥から人の姿が見えてきた。
「もう魔獣は出てこないみたいだな。まあ、出てきたとしてもまた俺が全滅させるけどな♪」
「は?何調子に乗ってるの?」
「誰のせいで魔獣に遭遇していると思ってるのかしら?誰かさんが道を間違えて魔獣の巣に入るからで
しょ?」
「ええ、倒すのは当然の義務ですわ。まあ、男らしかったのは認めますが。」
「あの・・・・カッコよかったです♡ほら、あなたも言ってあげなさい?」
「パパカッコいい~!」
「ハハハハハハ!!」
「・・・種馬がコレなのに、よく私達の子はまともに育ったものですね。」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」」
あの笑い声、誰かに似ている気がするな。
それはそうと、声の主たちの姿がハッキリと見えてきた。
テニスボールサイズの光の玉を目の前に浮かばせて歩いてきたのは、多少汚れてはいるが随分と高そうな服装の男女がニ十数名、先頭を歩いているのは30代か40代前半の男性でその後ろを女性や小さい子供がついてきていた。
「(貴族・・・でしょうか?)」
「(なあ、気のせいかもしれないが、あのオッサン、空気的に見覚えがないか?物凄く!)」
「(ああ、それに髪の色・・・。)」
俺は先頭を歩くオッサンの髪の色に注目した。
オッサンの髪の色、それはファル村でよく見る赤い色をしていた。
俺はまさかと思い、オッサンのステータスを確認した。
【名前】『俊足皇』ランドルフ=T=ファリアス
【年齢】42 【種族】人間
【職業】皇帝 【クラス】絶倫皇帝 バカ皇帝etc
【属性】無(全属性)
【魔力】179,000/230,000
【状態】頭部に軽度の打撲
【能力】攻撃魔法(Lv3) 防御魔法(Lv3) 補助魔法(Lv3) 特殊魔法(Lv3) 精霊術(Lv2) 剣術(Lv3) 槍術(Lv2) 斧術(Lv2) 弓術(Lv3) 盾術(Lv3) 体術(Lv4) 投擲(Lv2) 錬金術(Lv3) 神王の鍵
【加護・補正】物理耐性(Lv3) 魔法耐性(Lv2) 精神耐性(Lv4) 全属性耐性(Lv3) 全状態異常耐性(Lv3) 王の直感 絶倫 老化遅延 不撓不屈 銀腕神ヌアザの加護
【BP】132
数秒間、俺達の時間が停止した。
そして、俺達は同時に口を開けて大声を上げた。
「「「『皇帝かよ(ですか)(ゴケェェ)!!??』」」」
ダンジョン最下層に俺達の叫びが響き渡った。
皇帝、お前はここで何をやってるんだ!?
「誰だ!?」
あ、気付かれた。
皇帝、生きてました。
しかも女連れで!