第7話 ボーナス屋、現実逃避する
《エフォートエクスチェンジャー》を使っていくに連れ、その使用法が幾つかある事に気付く。
本来は俺を含めた対象者にボーナスを与えるものだが、そのシステムにはいくつか補助的なシステムなども組み込まれている。
例えば、最初に起動した時に表示される項目の中には『2、ポイントを確認する』と言うものがある。
これは読んで字の如く対象者のボーナスポイントの残量を確認するのだが、これは交換する人が使う以外にも使い道がある。
ポイントとボーナスを交換する際、ボーナスの選択自体は俺でも可能だが、最後の決定だけは本人が直に決めないといけない。
だが思い出してみてほしい。
アンナちゃんや村長がボーナスを交換する際、ほとんどの操作は俺だけでやっていた事を。
つまり、この能力はボーナス交換の“最終確認以外の操作”は、俺単独で自由にできると言う事なのだ。
話は戻るが、起動時に表示される『2、ポイントを確認する』を使えば勝手に他人の保有するポイントの残量を確認する事ができるのである。
有効範囲は俺の視界にさえ入っていれば誰にでも有効なのは確認済みなのである。
そして“ボーナスポイント”とは、その人の努力や苦労、善行の積み重ねを数値化させたものであり、当然努力などを積み重ねていけばその量は増えていくが、逆に犯罪を起こしたり、他人を貶めたりすればその数値はそれに応じて減少するのである。
日本にいた時に検証した結果から言えば、街で過度な問題ばかりを起こしている人物の場合、ポイントは0を通り越して“マイナス値”になっていた。
ちなみに、世間の評判が悪い人物全てがマイナス値になっている訳ではなく、評判が悪いだけで裏では優しい人物などはちゃんとポイントがプラス値になっていた。
つまり、このシステムを使えば他人が普段悪行と善行、どちらを多くやっているのか判別する事ができるのである。
あのバカ皇子や甲冑1は俺やステラちゃんと比べればポイントは低いものの、プラス値である以上は善行をちゃんと積んでおり、根は悪い奴じゃない事がうかがえる。
------------
さて、話は戻って俺はロビンくんに能力を使っている。
「ちなみに、ロビンくんは魔法は得意なの?」
「いえ、私は魔法は苦手な方で、使えるのは風や水の初級魔法位です。ですので、普段は剣や槍で戦っています。」
なるほど、魔法が苦手な戦士タイプか?
俺は起動画面の《4、ステータスを確認する》を選択した。
普通は《ステータス》が使えないと見れない自分のステータスだが、俺の能力を使えば普通の人でも自分のステータスを確認する事ができるのだ。
ロビンくんの現在のステータスは以下のようになった。
【名前】ロビン=W=ハワード
【年齢】17 【種族】人間
【職業】騎士 第1皇子補佐官 【クラス】苦労補佐官 皇帝の落胤
【属性】メイン:空 サブ:風 水
【魔力】9,800/9,800
【状態】精神疲労(微)
【能力】攻撃魔法(Lv1) 防御魔法(Lv1) 補助魔法(Lv3) 特殊魔法(Lv4) 剣術(Lv2) 槍術(Lv2) 体術(Lv2) 虚空の銀槍
【加護・補正】物理耐性(Lv2) 魔法耐性(Lv1) 精神耐性(Lv3) 空属性耐性(Lv3) 英雄神プイスの加護
「「「・・・・・・・・・・・・。」」」
それを見た俺とロビンくん本人、そしてステラちゃんはその場で固まった。
え、何?何か結構ステータス良くない?と言うか、俺とそんなに歳違わなくない?
メイン属性はレアな空属性だし、苦手と言ってたけど特殊魔法はレベル4だし、何かカッコ良さそうな武器もある。しかも英雄神の加護付って・・・・・。
て言うか!何でロビンくんにまで《皇帝の落胤》なんてワードが載ってるんだ!?
「・・・・・・そう言えば、父は私の事を不義の子と罵ってましたが、本当だったんですね。」
何か、聞いちゃ悪い事聞いちゃったよ!
ああ、何か切ない目をしているよ。
そりゃそうだ、散々お世話をしていたバカ皇子が実兄だと判明したんだからな。
似なさすぎだろ!?
何で苦労人のロビンくんがバカ皇子の弟なの?理不尽でしょ!?
いや、前向きに考えよう!そうだ、つまりロビンくんはアンナちゃんのお兄さんなんだ!
うん、こっちの方が素直に納得できるな!!
「よ、よかったじゃないかロビンくん!可愛い妹や弟ができて!?」
く、苦しい!
けど、他に何て言ったらいいのか分からない!
「そうだぞ、中々健気な娘じゃないか!あんな妹を持てて、私も羨ましいぞ!?」
「そ、そうですよね!?ハハハハハ、私って幸せ者だな~~~~~!」
「「ハハハハハ――――――――!!」」
その後、数分程現実逃避が続いた。
そして、この件に関しては落ち着いてから考える事にしてボーナス取得に戻った。
「あれ?ポイントが81に増えてるな?」
ロビンくんのポイントを確認すると、昨日は80だったポイントが81になっていた。
きっと、昨日の農作業がキッカケで増えたんだろうな。
「さてと、取り敢えず魔法から選んでみる?」
「そうですね、出来れば皇子を瞬時に捕獲できるような魔法が欲しいですね。後は情報収集に役立ちそうなものがあればいいですね。」
ロビンくん、バカ皇子に苦労してるだろうからな~~~。
けど、ロビンくんの属性って“空”だから空属性魔法を使えば普通に楽勝なんじゃないのか?瞬間移動したりとかしてさ?
そう言えば、風や水は使えるって言ったけど、空が使えるって聞いてないな?
もしかして、この世界だと空属性は知られてないのか?
「・・・・確認するけど、ロビンくんは空属性の魔法は使えないの?」
「――――?さっきから思ってなのですが、“空”属性とはどういう属性なのですか?」
「はい?」
「それは私も疑問に思ったのだが、どういう属性なのだ?」
「・・・・・・。」
どうやら、この世界では“空”属性に関する魔法は存在しない、と言うより属性自体認識されていないようだ。
まあ、文明レベルが中世っぽいから「空間」と言う概念すら知られてなくても無理もない。
俺は簡潔に空属性について説明し、どんな魔法があるか話すと、2人とも目を丸くして驚いた。
だよなあ、瞬間移動とか異空間創造とか、チートすぎる属性だとは俺も思ってるし!
と言うか、村長も昨日のボーナスでゲットしちゃったけど、大丈夫か?
「まあ、とにかく魔法関係の項目を表示するぜ?」
「はい、お願いします。」
〈光属性適正〉 50pt
〈火属性適正〉 30pt
〈雷属性適正〉 30pt
〈氷属性適正〉 30pt
〈魔法知識(空)〉 20pt
〈魔法知識(風)〉 10pt
〈魔法知識(水)〉 10pt
・
・
・
〈修復魔法〉 20pt
〈記憶魔法〉 10pt
〈地図魔法〉 5pt
〈属性術適正〉 10pt
〈鑑定〉 5pt
〈ステータス〉 5pt
「う~ん、結構いろいろあるな。この中から選ぶか?」
「・・・・とりあえず、どういう魔法か見てもいいですか?」
「ああ、構わないぜ?」
ロビンくんは画面を(当然だが)慣れない手つきで操作していく。
〈適正〉や〈魔法知識〉に関しての説明はいらないだろう。
説明が必要なのは〈修復魔法〉など、《特殊魔法》に属する魔法の方だろう。
〈修復魔法〉は言葉通り壊れた物を修繕する魔法、建物や道具など損壊した対象物を修復する事ができる。
〈記憶魔法〉は所謂サイコメトリーみたいに物や人の記憶を読み取ったり、操作したりする魔法だ。悪用されるとかなり怖い。
〈地図魔法〉は地図を作ったり、対象の現在位置を特定する魔法だ。《補助魔法》の適正が高いとより広範囲の地図を――紙などは用意しないといけないが――作る事ができる。
ちなみに、昨日の時に知ったのだがこの世界の人間には《属性術》の適正は基本的にはないようだ。
ステラちゃんも、俺の説明を聞いて初めて知った位だ。
「・・・取り敢えず、〈魔法知識(空)〉と〈地図魔法〉、後は殿下達と同じ〈鑑定〉と〈ステータス〉が欲しいですね。魔法以外も見せていただけますか?」
「ああ、いいぜ。」
うん、欲張らず賢明に選んでるな。
俺は魔法以外のボーナスからお勧めの物を検索して表示させた。
〈回復力上昇〉 10pt
〈成長力上昇〉 10pt
〈鷹の目〉 15pt
〈衆智の収集書〉 40pt
・
・
・
「・・・・ん?」
幾つか出た中で、〈衆智の収集書〉というのに目に留まった。
ロビンくんも同じらしく、その詳細情報を調べてみた。
〈衆智の収集書〉 40pt
・他人の持つ知識を収集する魔法の本。
・その本に触れた者の持つ知識が絵や文章になって無尽蔵に記録される。
・あくまで知識だけが記録されるのであって、その人の思い出などの記憶情報は記録されない。
・本本体は持ち主が死亡するまで破壊不可能。
・所有者本人のみ、他の人物への所有権の移譲が可能。
あれ?これってレアアイテムじゃないのか?
消費ポイントは多いけど、それでも十分に元は取れるんじゃないか?
「これって、もしかして〈魔法知識〉とかも記録できるって事じゃないのか?」
「「―――――――――!」」
2人とも俺の言いたい事を理解したようだ。
そう、例えば村長には〈魔法知識(空)〉がある。
なら、この本を取得して村長の知識を記録すればボーナスで取得しなくても〈魔法知識(空)〉の情報を得られると言う事にならないのか?
うん、使いようによってはかなりチートだな!
「これにします!!」
うん、やっぱりそうするよな?
そして、その後も検討した結果、ロビンくんは以下のボーナスを選択した。
〈衆智の収集書〉 40pt
〈属性術適正〉 10pt
〈地図魔法〉 5pt
〈鑑定〉 5pt
〈ステータス〉 5pt 合計65pt 残り16pt
今後の事も考え、ポイントは余裕を持って残したようだ。
これがバカ皇子だったら残さず使ってただろうな。
「これで完了だ!」
「ありがとうございます。では、さっそく村長の家に戻って試してきます。」
ロビンくんは何度も俺に礼を言い、村長の元へと向かった。
うん、後で俺の知識も記録しておこうかな?
「さてと、ステラちゃんはこれからどうするんだ?」
「私は予定通り兵を選抜して王都へと調査に向かわせる。他には野営地にテント以外の建物の設置、後は昨日と同じく村の復興の手伝いと言ったところだな。」
「だったら俺も今日は村の手伝いかな?ちょっと確認したい事や試したい事があるしな。」
「では、いったんここで別れよう。また後で!」
「ああ!」
俺は手を振りながらステラちゃんと別れた。
昨日から思ったんだけど、ステラちゃんの喋り方、もう少し可愛くできないのかな?
ま、今も十分に可愛いけどな?
ピ―――――!
「!?」
俺が足を動かそうとした直後、開いたままだった《エフォートエクスチェンジャー》の画面から何かの合図のような音が聞こえてきた。
「何だ?」
【自分以外の20名以上の相手に〈ポイント交換〉を確認しました。】
【開放条件が達成されたので、新たな機能が使用可能になりました。】
「はい・・・?」
俺は首を傾げながら呟いた。
ガンバレロビンくん!
ちなみに、ロビンくんのお母さんは今も皇帝の不倫相手の1人です。