第78話 Legend Of Ron 第一章 前編
リクエストにあった村長の過去話です。
――ダーナ神暦1411年 ファリアス帝国 貿易都市『トレーネ』――
その日、ファリアス帝国の東海岸にある貿易都市『トレーネ』の外れに住む大工一家の家に1人の男児が誕生した。
「オギャァァァ!!」
「おお!生まれたか!」
「おめでとう、元気な男の子じゃよ。」
生まれた赤ん坊は実に元気に泣いていた。
両親は第一子の誕生を隣人を巻き込んで喜んだ。
「お前の名前はロンだ!“ドラゴンのように逞しい子”という意味だ!元気に大きくなれよ!!」
「フフフ、あなたったら顔に似合わず図書館に通って名前を決めてたわよね?」
「ハッハッハ、可愛い倅の名前だ!しっかり考えて付けねえとな!」
赤ん坊は家族に祝福されて誕生した。
この赤ん坊が後に『群青の豪傑』と呼ばれる帝国の英雄、ロンなのだった。
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――ダーナ神暦1417年――
ロンは6歳になった。
ロンはこの年に才能を開花させ始めていた。
「父ちゃん!僕、魔法が使えるようになったよ!」
「おお!流石俺と母さんの子供だ!将来は英雄か?」
「うん!僕、英雄になる!」
「ハッハッハ!それは楽しみだ!」
その後、調子に乗った父親は知り合いのベテラン冒険者に剣の稽古を頼み、同じく知り合いの偏屈魔術師に魔法の指導を頼んだ。
結果、2人の師匠から「天才だ!」と言われ、その噂は町中の噂になった。
数ヶ月後、ロンは6歳で“光”“火”“土”“風”“木”の5属性の中級魔法を全て習得し、翌年には上級魔法も使えるようになった。
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――ダーナ神暦1421年――
ロンは10歳になった。
ロンの剣と魔法の才は町中に知られていた。
「父ちゃん、丸太の加工終わったよ!」
「そうか、ちょっと早いが休憩していいぞ!」
「うん!」
ロンは父親の仕事を手伝うようになっていた。
ロンの家は平民には珍しく代々魔法が使える家系で、特に建築物を造る《建築魔法》に秀でていた。
トレーネで唯一この魔法が使えるロンの家には多くの仕事が舞い込み、幼くして多くの魔法を習得したロンも手伝うようになっていた。
そんなある日、午前の仕事を終えて休憩していると突然声をかけられた。
「おい!お前が平民のロンだな?」
「・・・誰?」
ロンは同い年くらいの少年に声をかけられた。
身形がよく、後ろには同じく身なりの良い子供が数人いた。
「お前!僕を知らないのか!?」
「・・・・・・?」
「僕は!この町の領主、デーゲンハルト侯爵の第二子、フェリックス=S=デーゲンハルトだぞ!」
少年は領主の息子だった。
「お前は街で天才と噂されるお前に決闘を申し込む!どっちが強いか勝負だ!」
どういう訳か決闘する事になった。
そしてロンはフェリックスに勝った。
だが、取巻きはそれに納得がいかず、大人を呼んでロンを悪人だとか無茶苦茶な事を言った。
「バカ息子が!帝国貴族としての誇りはないのか!!」
「正々堂々と行われた決闘を汚すんじゃない!!」
だが、逆に取巻きはこっぴどく叱られた。
トレーネに済む貴族は良識人が多く、取巻きの親達はロンとフェリックスに謝罪した。
「ロン、決闘に勝った褒美にお前の友になってやる!」
「は?」
ロンとフェリックスは友人になった。
その後、何故かフェリックスはロンの家に頻繁に訪れるようになった。
ロンの父と領主も飲み仲間になった。
ロンの母と領主夫人はママ友になった。
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――ダーナ神暦1423年――
ロンとフェリックスは12歳になった。
ある日、町の外で魔獣が目撃されたと知った2人は、何故か未だに付いてくる取巻きと一緒に魔獣退治に出かけた。
武器は領主の館にあった物をフェリックスが失敬した物を使った。
「魔獣がいたぜ!」
「“牛頭の森熊”だ!」
魔獣は頭が牛に近い熊型の魔獣だった。
ロン達は魔法や剣で魔獣をフルボッコにし、10分ほどで倒した。
だが、魔獣は1体だけではなかった。
「うわぁぁぁぁ!!」
「お、大きい!!」
「親熊だぁぁぁぁぁ!!」
ロン達が倒したのより2倍近い大きさのバイソングリズリーが現れた。
しかも2体、どうやら親のようだ。
『グォォォォォォォォ!!』
「「「あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」
取巻き達は腰を抜かして失禁する。
ロンとフェリックスは健闘するが追い詰められてしまう。
持っていた武器も折られ、魔力も尽きてしまった。
だが、彼らは死ななかった。
「――――《紅き閃弾》!」
「――――《蒼天五芒斬》!」
突然現れた2人の青年が魔獣を一瞬で倒した。
圧倒的な強さとカッコ良さにロン達は心を奪われた。
「大丈夫か?」
「う、うん!」
「ダン、俺は先に行ってるぞ!」
「ああ、俺はこの子達を家まで送り届けてくる。」
その後、謎の黒髪の青年に町まで送り届けられたロン達は鬼になった大人達に三日三晩叱られ続けた。
ロンの父親の元での労働、フェリックスの母親の元での猛勉強の刑になった。
だが、この日の出来事が彼らの運命を大きく変えた。
いや、決定づけた。
余談だが、フェリックスが失敬して魔獣に壊された武器は領主のコレクションだった。
一度にたくさんのコレクションを失った領主は凄く落ち込んだ。
しかも修理に出した際、何本かは精巧に作られた贋物だとわかり更に落ち込んでしまうのだった。
そして贋物に大金を費やした事が夫人にバレ、こっぴどく搾られるのだった。
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――ダーナ神暦1425年――
ロンは14歳になった。
そして人生初の家出を決行した。
――――俺は最強の騎士になってやる!!
置手紙を残し、ロンは深夜に家を出ていった。
家出の原因は父親との衝突、父親はロンに大工の仕事を継いでほしかったのだ。
だが、2年前に「強い男」を目の当りにしたロンは騎士の道を選んだ。
「―――――――ロン!」
「フェリックス!そっちはどうだ!?」
「ああ、追手はいない!早く出発するぞ!」
同じく家出したフェリックスと合流したロンは、ほとんど巻き添えをくらった取巻き達に用意させた馬車に乗って帝都へと出発した。
取巻き達も道連れになった。
「あれ?荷物に何か入ってる?」
馬車の中で荷物を整理していると、見覚えのない包みがあった。
開けてみると、手紙と何かの書類、そしてお金が入った皮袋があった。
皮袋には金貨が2枚と銀貨や銅貨が何枚も入っていた。
そして手紙を読むと、ロン達は目を丸くした。
――――母さんがコッソリ貯めていたヘソクリを入れておいたから大切に使いなさい。
――――フェリックスくんのお母さんに頼んで学院への紹介状を用意してもらったからしっかり勉強してから騎士になるように。
――――あと、たまには手紙を寄越さないと帝都に押し掛けるわよ!!
父親は完全に息子達に出し抜かれたが母親は違っていた。
隣ではフェリックスも自分の母親の手紙を読んで唖然としていた。
ちなみに、帝国の平民がヘソクリで金貨2枚以上(日本円で2000万円以上)を持っているのはまず有り得ない。
ロンは母親がどうやって大金を集めたのかという謎に悩まされながら帝都へと向かうのだった。
途中、食糧を狙ってきた野生魔獣や盗賊を倒して手持ち金を増やしつつロン達は帝都タラに到着する。
さらに1ヶ月後、ロン達は帝国最大の教育機関である『アマデウス帝国中央学院』に特待生として入学するのだった。
そして3年間、彼らは騎士を目指して勉学と鍛練に励むのだった。
なお、入学の際に居合わせたジーア教の枢機卿からロンに神の加護がある事が判明する。
その神は“影の国(冥界)”で最強の魔法戦士(女戦士)で、影の国の女王である『女神スカアハ』のライバルであった女神だった。
そして、加護の内容は以下の通りである。
【戦女神オイフェの加護】
・戦闘技術全般が向上しやすい。
・魔法・武術の習得能力が中上昇する。
・戦闘時、全能力が小上昇する。
・仲間が近くにいる時、最大6名まで上の効果を分け与える事ができる。
ただし、枢機卿も神の名前までしか分からず加護の内容は誰にも分からなかった。
今回は第一章を2話に分けて載せます。
続きは次章が終わるごとに載せる予定です。