第77話 とある騎士×2、空き瓶を見る
空き瓶の話です。
★空きビン★
ファル村にはヴァール騎士団の宿舎がある。
宿舎と言っても大勢が泊まる大きさはなく、少数の常駐組が寝泊まりするに困らない程度のものである。
なにせ、村には港町ヴァールに直通している転移装置があるので、村の防衛を任されている騎士達の多くは町の宿舎で寝泊まりしている。
村に常駐しているのは深夜の監視を任された者や、純粋に村が気に入った者達ばかりだ。
それはいいとして、その宿舎には食堂がある。
魔道具職人エルナの最新技術が遠慮なく使われており、夏は涼しく冬は暖かい。
キッチンには冷蔵庫には常に冷えた酒や食料があり、竈は石窯はすぐに火が出せるので調理は簡単、水道のお陰でいちいち井戸まで汲みに行く必要がない。
町育ちの騎士達から見ても超快適な設備の数々は常駐組の騎士達に大好評だった。
さらに今日、某勇者の発案で発明された「水洗トイレ」が設置されたのだがそれは置いておく。
さて、最新設備に囲まれた食堂の中央には大きなテーブルがあり、そのテーブルの中央には花を挿した瓶があった。
「あれ?花が増えてないか?」
「ん?」
最初に気付いたのは仕事を終えた男性騎士だ。
彼は冷えた酒とポテトチップスで同僚と晩酌をしていた。
「どうした?」
「なあ、あの瓶に挿してる花、かなり育ってないか?」
「そうか?気のせい・・・・あ!」
尋ねられた騎士はその花を見て目を丸くした。
テーブルの中央にある瓶に生けてある花、それは村の見習いシスターであり皇帝の落胤である少女が今朝持ってきた花だった。
教会で咲いていたのを持ってきてくれたのだが、生憎と宿舎に花瓶は無かった。
代わりに常駐組の若手騎士が持っていた空き瓶を代用した。
その花が現在、かなり育っていた。
「・・・確か、切り花だったよな?」
「ああ、1本に1輪ずつ咲いてたな。」
「どう見ても山盛りに咲いてるよな?」
「・・・どうなってるんだ?」
今朝は4本4輪の花は数十輪の大盛りの花を咲かせていた。
そう見ても異常である。
「鑑定して調べてみたらどうだ?」
「そうだな、何かの変異種かもしれないからな!」
そう言って男性騎士は花に《鑑定》を使った。
【スーパーキュアフラワー】
【分類】草花
【用途】薬用、飾り
【詳細】ダーナ大陸南部に自生している草花である「キュアフラワー」の変異種。
通常よりも花数が多く高品質の薬の材料になる。
変異条件が解明されておらず、人工栽培が不可能とされている。
重病の治療薬の材料にもなるので、市場では高額で取引されている。
予想通り変異種だった。
しかもかなり高級品のようだ。
だが、何故変異したのかは不明だ。
「なあ、花を挿してる瓶と水も調べたらどうだ?そっちに原因があるかもしれないぞ?」
「勘か?」
「勘だ!」
同僚の勘を信じて瓶と中の水を鑑定する。
【大魔王の調合瓶】
【分類】神器(?)
【用途】調合
【品質】高品質
【詳細】大魔王な人間が作った魔法の瓶。
中に材料を入れて混ぜるだけでいろんな薬が調合できる。
作れる薬は材料によって異なり、稀に身近にある物で伝説級の薬ができる場合もある。
調合に必要な魔力は大気中の自然魔力を用いるので使用者への負担はない。
【植物用活力剤(+5)】
【分類】肥料
【用途】農業・園芸用
【品質】高品質
【詳細】ファル水(井戸水)とキュアフラワーのエキスを調合してできた薬。
植物に与えると元気に育つ。
与えた量によっては植物を変異させる場合もあるので注意が必要。
一定以上の強さの酸と混ざると効果を失うので人体には無害。
瓶も瓶の中身もとんでもなかった。
2人は知らないが、この瓶は騎士団がファル村に来た日に行った“ガチャ”の景品である。
当てた本人はただの空き瓶だと思って放置していたようだが、ある意味あの日1番の大当たりだったのだ。
「「・・・・・・。」」
瓶を凝視する2人の騎士、彼らは頭の中で好からぬことを考えていた。
そして瓶から花を抜き、試しに飲んでいた酒を少量入れてみた。
そして少し待ってから《鑑定》で確認してみる。
【元気になる男性用精力剤(+3)】
【分類】薬
【用途】ピー(規制)
【品質】高品質
【詳細】質の良い活力剤に冷えた酒を調合した薬。
飲むと全身が元気になる。
回復力も上昇するのでその日の傷も疲れもあっという間に消える。
飲んだら自分も相手もその日は眠らせない。
男を見せたい男の為の秘薬♡
「「!!」」
2人の騎士はガッツポーズをとった。
そして酔っていた事もあり、その日の晩は怪しい調合活動で盛り上がったのだった。
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翌朝以降、チームバカ皇子やチームステラちゃんの一部の男性陣の間では妖しい薬の売買が行われた。
売られている薬はどれも市場には流れない貴重な物ばかりで大いに売れた。
男達は鬼の目を盗んで村の女性やチームステラちゃんの女性陣を誘ったり、修業の成果を悪用して村長宅にある転移装置でヴァールに出かけたりした。
そこには何故か、先日の戦いで人質になっていた第七皇子の姿があったらしい。
しかし後日、その悪行は呆気なく表沙汰になるのだがそれはまた別の話である。
なお、騎士2人が作った薬の一部は以下の通りである。(精力剤以外)
【モエテヤセール(+5)】
【分類】薬
【用途】ダイエット
【品質】高品質
【詳細】ファル水とファルピーチ、キュアフラワーを調合した薬。
体内の代謝を大幅に上げて内臓脂肪をどんどん燃焼させていく。
肥満に悩む人にはお勧め。
ただし、飲みすぎると全身の脂肪が無くなって命の危機になる場合もあるので注意。
【スーパーヘアパワー(+2)】
【分類】薬
【用途】増毛
【品質】高品質
【詳細】スーパーキュアフラワーとシュンサツトリカブト、ゲイルドラゴンの血を調合した薬。
毛根が死んでいようと関係ない!
死滅した毛根さえも復活させてみんなをハッピーにする!
頭皮に塗って大事なものを取り戻そう!
【魅惑の芳香剤(+6)】
【分類】香水
【用途】ナンパ、ピーな商売
【品質】高品質
【詳細】色んな物を適当に調合してできた香水。
顔にかけるとその量に比例して異性を引き寄せる。
使用した人の長所を目立たせる効果もあり、効果が切れても相手の心を惹く場合もある。
使いすぎると効果が切れた際のダメージが酷くなるので注意。
稀に同性愛者も引き寄せてしまう。
これ以外にも怪しい薬があるが今回はここまで。
なお、瓶の持ち主は勝手に使われている事に未だ気付いていない。
次回は“あの人”の過去話です。
タイトルをどうするか悩んでいます。
エピソード0、レジェンド・オブ・〇〇、英〇伝説?