第6話 ボーナス屋、話を聞く
今回から連載版のオリジナルになります。
俺だ!一夜が明けたぜ!
昨日は村長が用意してくれた仮説の住居で寝ることにした。
異世界最初の夜なのでちゃんと寝られるか心配だったが、見事に熟睡できたぜ!
「ん~~~!いい朝だ~~~!」
俺は大きく背伸びをし、そのまま体を解すように夏の朝恒例の体操を鼻歌混じりにやっていった。
その後、日本にいたときと同じようにジョギングをしていく。
うん、空気が美味しいせいか足が少し早くなった気分だぜ!
「ほう、シロウも朝の鍛練か?」
「あ、ステラちゃん、おはよう~!」
振り返ると、俺の横を『暴れん坊王女』ことステラちゃんが走っていた。
流石に鎧を着たままだと走りづらいので今は軽装だ。
うん、何か陸上部の女子って感じがするな!
「だからその呼び方は・・・・・いや、もう好きに呼べばいい。」
う~ん、ちょっと不敬過ぎたか?
ま、本人から許可が出たからもう問題ないけど♪
「あ、そう言えばステラちゃん達は今日はどうするんだ?」
あ、ちなみにステラちゃん達(元?)王国兵達は村の西側、つまり王国のある方にいる。
流石にバカ皇子率いる(元?)帝国兵達とすぐに仲良く一緒に暮らせる訳がないので、それぞれ村の反対側で野営などを張っている。
「―――――――取り敢えず、信頼できる部下数名を本土に行かせて情報を集めさせるつもりだ。そして、今後必要になる物資の入手ルートなども確保しなければなら――――――――」
その後、ステラちゃんは走りながらブツブツと今後の予定を呟いていった。
今気付いたけど、それって俺に話してもいいのか?
そう言えばバカ皇子達は・・・・・まあ、あのバカ皇子がステラちゃんみたいに頭を働かせられるとは思えないな。
「―――――そう言うシロウは、これからどうするのだ?勇者としてこの戦争を止めるのか?」
「え、俺?流石に俺一人で戦争を止めるとか無理無理!そう言うのは、正直俺よりも村長の方が適任じゃん!」
「確かに・・・・・あのお方なら、また戦争を止められそうな気がするな・・・・・。」
あの村長、あまりの元気ぶりに同居している家族に驚かれていたっけ?
昨日は何人かのステータスを見たけど、やっぱり村長の強さはこの世界の人間としては別格過ぎる。
きっと、先祖に伝説の勇者といるんだぜ、きっと?
けど、確かに俺はこれからどうするかな?
ここで穏やかに農民暮らしか?いや、家族はいないが日本には大事な仲間達がいるから、帰れるなら帰りたいな。
けど、一晩経っても向こうから連絡が来ないって事は、まだ居なくなったことに気付かれていないか、この世界に来る方法が“アイツら”にもないって事だよな。
う~~~ん、どうしよう?
「――――――村長と言えば、彼女について早速訊きに行くのか?」
「ああ・・・・アンナちゃんの事か・・・・。」
アンナちゃん、俺をこの世界に召喚した張本人の村娘こと見習いシスター。
兄弟が多いみたいなんだけど、ステータスには『皇帝の落胤』と表示されてあった。
考えたくないが、場合によってはあのバカ皇子の腹違いと妹と言う事になる。
いろんな意味でありえないだろ?
しかも、アンナちゃんの弟妹も揃いも揃って『皇帝の落胤』とステータスに書いてあった。
だが、アンナちゃんは両親がちゃんといると言っていたし、ステラちゃんも聞き覚えがないと言っていた。
だから、今日は事情を知っていそうな村長に話を聞きに行くことにしているんだ。
さすがに本人達には訊き辛いからな。
「取り敢えず、朝食を食ったら訊きに行こうと思ってるんだけど、ステラちゃんも来る?」
「・・・・良いのか?敵国の王女である私が一緒だと答えてくれないかもしれないぞ?」
「村長、何だかんだで器がデカそうだし、それにバカ皇子よりは遥かにマシだから大丈夫なんじゃね?」
「・・・・・・・・・・否定はできないな。」
まあ、確かにこれは帝国側の一大スキャンダルになる臭いがプンプンするんだよなあ。
けど、ステラちゃんなら何とかなりそうな気もするのも確かだ。
バカ皇子は、何か口が軽そうなので呼ばない方が無難だろう。
聞いた途端に、「おお!お前が我が妹か!!」とか言って本人に即バラしそうな気がするからな。
「けど、一応帝国側の重要機密っぽいから、帝国側からも信用できそうな人を誘った方がいいかもな。適任な奴がいるから誘ってみるよ。」
バカ皇子の横にいた騎士くんことロビンくんなんか良さそうだな。
まあ、その前にバカ皇子を大人しくさせる方が先か?
「そうだな、ならそちらは任せよう。」
俺達はその後村を2週ほど走って別れた。
その後、アンナちゃんが用意してくれた朝食を食べた後は、村の東側で野営をはっている帝国兵達の元に行ってコッソリとロビンくんを誘っていった。
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――ファル村 村長宅――
そして現在、村長の家には俺とステラちゃん、そしてロビンくんの3人がテーブルを挟んで村長と向き合っていた!
「―――――――と言う訳で、アンナちゃん達って皇帝の隠し子何だろ?」
「シロウ殿、いきなり核心を訊くのは・・・・!?」
俺が迷わず訊くと、隣に座っていたロビンくんが慌てて止めに入る。
ん~~、直球過ぎたか?
「そうですか、気付かれたのでしたら仕方がありません。勇者殿が訊かれるのならお話ししましょう。ただし、これはあくまで他言無用でお願いしますぞ?特に本人達にはまだ話さないでもらいたい。あの子達は、自分達の出生については何も知らないのです。」
「分かった!その時が来るまで黙っておくぜ!」
「うむ、私もこの名に懸けて誓おう。」
「私もです。皇子には・・・・・まあ、面倒になるので黙っておきます。」
あ、ロビンくん視線を逸らした!
きっと、俺と同じことを考えてたんだな。
「では、順を追ってお話ししましょう。まず、ファリアス帝国の現皇帝、ランドルフ陛下は“アソコ”が絶倫で無類の女好きでした。」
「ハッキリ言うな、村長?」
何か、皇帝に対する敬意があんまり感じられない口調だったな。
それでも“陛下”を付けて呼ぶと言う事はそれなりに無能ではないと言う事だろうな。
あ!ロビンくんがまた視線を逸らしている!
「陛下は魔法の才に恵まれており、財政に関してもそれなりに手腕を発揮しているので公務においては問題の無い方でした。しかし!その日の公務が終わると一変して城外へ飛び出し、酒場や娼館に一直線に突入するのです!!」
村長は力強くテーブルをドンと叩く。
あ、今ので亀裂が何本も走ってる!!
「しかも、どういう訳か底なしと言うべき・・・・まあ、モニョモヨなので毎晩何人もの女性と関係を持っていったのです!」
「・・・・皇帝がそんなんで、大丈夫なのか、帝国?」
「ええ、側近の者達は皆その事で頭を悩まされていました。当時既に隠居していた私の元にも、城から毎月使者が来て相談に来てました。今は全員門前払いしてますが・・・・。」
「・・・・・私が知ってる情報より酷いな。」
村長は深く溜息を吐き、ステラちゃんは顔を引き攣らせている。
何か、“知り合いのバカ”を想像しちゃうな・・・てか、バカ皇子は父親似だな、絶対!
「当初は妃を持てば大人しくなるのではと考える者もいたのですが、あの陛下が正妃1人で満足する訳もなく、すぐに貴族の娘達を手当たり次第に妾妃にした挙句、ほぼ同時期に全員を孕ませていったのです!」
「・・・・・引くな~~~。」
「・・・・・全くだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
あ、ロビンくんが遠くを見ている!現実に戻ってこ~~~い!
「――――――その後も、ほぼ毎年のように子供が生まれていき、今では皇子と皇女の数が建国以来歴代最大数となってしまったのです!その数、公の記録では63人!!」
「多すぎだろ?」
しかも「公の記録」を付けているって事は、公になっていない子供も多数存在するって事じゃん!?
なるほど、大体読めてきたな。
「つまり、アンナちゃん達は皇帝が町娘とかとの間作った子供って事か・・・・・。」
「ハイ、流石にこれだけのの御子がいる以上、庶子の存在を公にすれば真っ先に皇位争いの標的として消されることになります。それを危惧した穏健派の貴族がアンナを始めとした庶子の多くを隠す事にしたのです。」
「―――――――可能性の1つとして予想はしていたが、まさか他国の目を欺く程上手く隠し通せているとはな。余程、優秀な者達が動いたのだろうな。」
ステラちゃんはアンナちゃんの存在を隠した人達の手腕に感心しているようだ。
まあ、普通はこういったスキャンダルは真っ先に漏れたりするからな。
それをほぼ完全に隠し通すって、よほど情報操作にたけた人材や動く手足が居なければ不可能だろう。
「ステラ殿下の仰る通り、庶子達を隠すのに尽力してくださった方々の中に、帝国の情報管理を一手に担う大臣の1人が居られたのが幸運でした。大臣は商人に扮した隠密を使って私にも事の次第を知らせ、庶子の何人かを村で匿う様に頼んできたのです。私はそれを了承し、村に住む“ある一家”にアンナとその異母弟妹を預けたのです。」
「・・・じゃあ、アンナちゃんの今の両親は―――――――」
「・・・ここから先は更に機密に触れますがお話ししましょう。アンナの今の両親、母親の方は先代皇帝の御落胤、陛下の腹違いの妹君であり、彼女の叔母に当たるのです。先日徴兵された兄も叔母の子であり、アンナの従兄弟になるのです。」
う~~ん、訳アリ一家だったのか?
しかし、今の皇帝も前の皇帝も落胤作りまくっていたとはな。
それとも何か、馬鹿が皇位を継承するしきたりでもあったり・・・・する訳ないよな?
「―――――帝都でも様々な噂がありましたが、そんな事になってたんですね。」
ロビンくん、ようやく喋ったな。
一体どんな噂が流れているのか知らないけど、きっと碌でもない内容ばかりだろうな。
と言うか、結局今の皇帝は全部で何人の子供がいるんだ?
俺は試に訊いてみる事にした。
「村長、結局今の皇帝には子供は何人いるんだ?」
「(今年の春時点で)174人です。」
「「「多すぎだろ(です)!!??」」」
どんだけヤリまくったんだ!?
名前を覚えるだけで大変な大家族じゃねえか!!!
俺だけじゃなく、ステラちゃんやロビンくんも思わず大声でツッコんじまったじゃん!!
「私が知る事は以上です。先に言いましたが、この事は何卒他言無用で―――――――」
「・・・・言えねえだろ、いろんな意味で?」
「ええ・・・・・。」
「そうだな。」
公表などしたら、兄弟姉妹174人で皇位継承争って、帝国は血の海確定だろ!?
その後、村長がいくつかの補足情報を話し、この場での話は終わった。
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「・・・・聞いてはいけない事を聞いてしまった気分だ。」
ステラちゃんは頭痛がするかのように頭に手を当てていた。
「そうですね、この話は下手に皇子にも話せません。きっと、碌な事になりませんから。」
うん、間違いなく碌でもない事になるな!
きっと、「我が弟妹達よ、兄の雄姿を~~~~」とか言ったりするんだぜ?
「そう言えば、バカ皇子はこれからどうするつもりなんだ?」
「・・・・・それなのですが、どうにも帝都に戻るとか、敵を討つとか喚いているんです。」
「どうせ、無策なんだろ?」
「そうなのですよ!皇子は何時だって何も考えずに勝手に動くし、お金も湯水のように使いまくってるんですよ!少しは自分が民に養われているという自覚を持ってほしいものです!!」
ロビンくんはその後もバカ皇子に対する愚痴を語っていった。
それによると、バカ皇子は基本的に自意識過剰のおっちょこちょいだが、最近は優秀な弟皇子達の姿を見て焦りだし、魔物討伐やら戦争やらで名を上げようと勝手に動いていたらしい。
当然、考えるのはロビンくんを始めとする真っ当な側近達ばかりで、皇子自身は上級貴族のバカ息子たちとつるんで手柄を取る事ばかり考えていたらしい。
その結果、ついに昨日の事件でまとめて死亡者扱いになったそうだ。
「何と言うか、貴公には凄く同情する。何か困った事があれば、いつでも我々の元に来るといい。この村に居る限りは互いに協力していこう!」
「・・・・・ステラ殿下!!」
あ~~~、ロビンくん泣き出しちゃったよ。
きっと、俺の想像なんかできないほどの苦労があったんだろうな。
俺も何か助けてやりたくなってきたな。
あ、そう言えばロビンくんは昨日はポイントの確認はしたけどボーナス取得はしていなかったっけ?
「なあロビンくん、昨日は遠慮してたけど、ボーナス受け取ってみない?」
「え?」
「そうだな、貴公も遠慮しないで受け取ったらどうだ?」
ステラちゃんも俺に同意見のようだ。
そうだよな、あのバカ皇子を見ていたらそう思わずにはいられないだろうな。
「し、しかし!私が・・・・・!」
ロビンくん、まだ遠慮してるよ。
「まあまあ、俺はほんの少しキッカケを与えるだけで、ボーナスはロビンくんの人生の結果なんだからさ!」
「それに、あの皇子が勝手な行動をした時のための対抗手段が手に入るかもしれんぞ?“一瞬で相手を拘束する魔法”や、“相手の場所を知る魔法”と言った具合にな?」
「―――――――――ハッ!!」
ステラちゃんの言葉に、ハッとした顔になるロビンくん。
そう言えば、俺の魔法でステラちゃんが拘束されたの知ってるんだっけ?
「シロウ殿!どうか、よろしくお願いします!!」
「お、おう!」
泣きながら、俺の両手を握りしめて懇願するロビンくん。
うん、そんな顔をしなくても聞いてあげるからさ、とりあえず顔を拭こう?
そして俺は、ロビンくんの為に《エフォートエクスチェンジャー》を起動した。