第70話 ボーナス屋、今後を考える?
戦いが終わって一夜が明けた。
昨日はくたくたになって温泉から上がったらすぐに寝た。それは俺以外も同じらしく、ステラちゃんやバカ皇子も夜更かしはしないで早く寝た。
そして翌朝、不思議なことに早起きする事ができた。てっきり、爆睡して昼まで起きれないと思ってたんだけどな?
「う~ん!今日も気持ち良い朝だな!」
『ゴゲゴッゴォ~~~!!』
「お!コッコくんも元気そうだな?」
コッコくん、昨日は大活躍だったな。
いっそ、村の守護獣にして祭ってみるか?
『『ゴゲゴッゴ~~~!!』』
ん?
気のせいかな?コッコくんの声がダブって聞こえなかったか?
あ、他のゴールデンな鶏もいたんだった!
最近は鶏と言えばコッコくんにしか会ってなかったから、後で他の鶏達も見に行ってみよう!
「よし!朝のランニング開始だ!」
俺はほぼ毎日続けているランニングを始めた。
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昨日は混乱や暴動が起きた各国の騎士や兵達もカレーや睡眠のお陰で大分落ち着きを取り戻していた。
ちなみに、一晩経っても村中だけでなく野営地からもカレーの匂いが漂っていた。“あの缶詰”の臭いが残るより数千倍マシなので誰も気にしてはいないだろう。
「今日は1日、これの対応に追われそうだな。」
俺は数千人の人の海を眺めながら呟いた。
実は今朝の朝食の直後、帝都にいる村長の孫から緊急連絡が入り、ついさっき、帝都中に皇子と皇女の死の報せが伝えられたとことが分かったのだ。
しかもその内容は敵国の王子率いる主力部隊と相討ちという前にも聞いた事がある様な話だった。おそらく、裏で糸を引いていたダニールがいなかったからまた同じネタを使っているのだろう。
さらにムリアス公国が乱入してきた事も公式に発表され、公国が帝国と王国を乗っ取ろうとしているとの嘘の事実が大々的に広められているということだ。
村長の孫の話によれば、北の全線で公国に襲撃された生き残りの兵が死に物狂いで帝都に帰還して皇帝に報せたらしく、しかも指揮官だった皇子の遺品らしき物も一緒に持って帰ってきたので皇帝達も信じたそうだ。多分、アイアス辺りが予め仕込んでいたってところだろう。実際、ムリアスの連中は捨駒勇者達と一緒に戦場を蹂躙したのは事実だからな。
そう言う訳で現在、帝都では急速に反公国感情が急上昇してきているらしい。
「また大変な事になってきましたね。」
「あ、ロビンくん!」
「先程フィリスさんに会ってきたところなんですけど、どうやら王国側でも同様のことが起きているそうです。両国とも、ムリアス公国が宣戦布告もせず攻めてきたと国民に発表しているようです。」
「事実が混じっているから信憑性が高いだろうな。」
「ええ、お蔭で他の偽情報も証拠も無しに信じられているそうです。それと、王国のチャールズ将軍や我が国の騎士団長も公国勢を手引きした反逆者として公表されているようです。」
「どの道、捨駒にされていたんだな。で、この後はどうする予定なんだ?」
俺がロビンくんに今日の予定を尋ねると、簡単に今後の予定を話してくれた。
まず、今日はほぼ1日をかけて各国の兵や騎士達の身元を調べた上で全員をステラちゃんや(嫌々だが)バカ皇子の指揮下に降るように説得させるらしい。なお、希望する者がいたらこの場で除隊してファル村の住民にしたりもするそうだ。
今後は負傷した王国の王子や帝国のバカ皇子&皇女の回復を待って各国の首都に帰還、ダニールやブラス達の息がかかっているであろう腐敗貴族達を制圧しながら自分達の生存や戦争の真実を皇帝や国王達に報せる為の行動に入るらしい。
ダニール達が今何所にいるかは不明だが、帝都に広まっている情報がお粗末な点から考えれば少なくともまだダニールは帝都に戻ってはいないようだ。攻めるなら早い内が良いだろうな。
「そういえば、ゴリアスが何とかって言ってたな?」
「私の知っている情報通りなら、今日から8日後に同盟を結ぶ為の会談が国境近くの都市で執り行われるはずです。時間から考えて、既に帝国側の代表団は帝都を出発しているかもしれません。」
そう、ゴリアス国の件も忘れちゃいけない。
ダニールやブレスの話を信じるならゴリアス国にも『創世の蛇』のメンバーが潜入し、『至宝』を手に入れる為に暗躍しているはずだ。
そこに同盟締結のために向かう第三皇子率いる代表団、何かが起きるのは間違いない!
「じゃあ、こっちも早めに動く準備をしないといけないな!会談場所へは転移はできるのか?」
「ええ、幸いにも会談予定地の都市は私も行った事のある場所なので大丈夫だと思います。今はレベルも魔力も上がったので一度に大勢を転移させることも可能でしょう。」
「頼もしいな♪」
「あ、そろそろ私も行かないといけないので失礼します!」
「おう!また後でな!」
ロビンくんとはそこで別れた。
そうそう、ロビンくんのステータスが今回の戦いで変化が起きていた。
【名前】ロビン=W=ハワード
【年齢】17 【種族】人間
【職業】冒険者(Lv51) 魔法騎士(Lv1) 転移術師(Lv1) 【クラス】尊敬される兄
【属性】メイン:空 サブ:風 水
【魔力】1,620,000/1,620,000
【状態】正常
【能力】攻撃魔法(Lv2) 防御魔法(Lv2) 補助魔法(Lv3) 特殊魔法(Lv4) 剣術(Lv2) 槍術(Lv3) 体術(Lv2) 虚空の銀槍
【加護・補正】物理耐性(Lv2) 魔法耐性(Lv2) 精神耐性(Lv3) 空属性耐性(Lv3) 風属性耐性(Lv1) 水属性耐性(Lv1) 英雄神プイスの加護 職業補正 職業レベル補正
【BP】140pt
見て分かる通り、ロビンくんの職業が新しくなった。
きっかけはロビンくんの“騎士”と“魔法使い”のレベルが50になった時だ。
新しい職業が一気に増え、その中から“魔法騎士”と“転移術師”が自動的に入れ換わっていた。
どうやら“騎士”と“魔法使い”はレベル50が限界だったらしい。“冒険者”はまだ上がるみたいだ。
どうやら職業によって限界レベルが違うみたいだな。
なお、新しい職業の効果は以下の通りだ。
【魔法騎士(Lv1)】
防御力小上昇 精神力小上昇 知力小上昇 魔法効果小上昇
(追記:騎士と魔法使いの両方から派生した上位職)
【転移術師(Lv1)】
魔力小上昇 空属性効果小上昇 魔法消費魔力小減少
(追記:魔法使いから派生した上位職)
ちなみに、俺や他の人達も職業が新しくなっている。
それについてはまた今度♪
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昼近くになった。
ファル村の人達がいつもと同じように農作業から休憩の為に戻り始めた頃、ちょっとしたイベントが各所で起きていた。
「あ、あんた!!」
「ははは、帰ってきたぞ!」
「父ちゃ~ん!!」
「うぅ・・・バカ息子が!どれだけ心配したと思ってるんじゃ!?」
ある一家が1人の帝国兵の男を囲みながら泣いていた。
どうやら徴兵されていた家族が戻ってきたようだ。
この光景は村の至るところで見られ、泣きながら家族と抱き合う姿が多かった。
「ジジイ、帰ってき・・・って、誰!?」
「おお!!お前も生きていてくれたか!!」
村長も孫の帰宅を泣いて喜んでいる。ちなみに、帝都にいる孫とは別の孫だ。
現在、昨日の戦闘に参加した帝国兵のうち、ファル村出身者はバカ皇子の権限でこうして帰宅していた。
あれだけの数だ。村の出身者が混ざっていても不思議じゃないよな。
「あなた!2人目が生まれたのよ!今度は男の子よ!」
「うぉぉぉぉ!!」
感動的な光景はあちこちで見られた。
それは俺がチビッ子達の相手をしながら散歩していた時にも起きた。
「――――――――リーナ!?」
「・・・兄様?」
毎日元気なチビッ子達と村の外れを歩いていると、野営地を歩いていた1人の若い帝国騎士とリーナが驚いた様な顔で目を合わせた。
あれ?もしかしてリーナのお兄さん?
「リーナ!」
「兄様!」
帝国騎士はリーナの元に駆け寄り、リーナも跳んで抱きついた。
「リーナ、屋敷にいるはずのお前が何でここにいるんだ!?」
「え・・・・・。」
「家出したら色々あってこの村に保護された!」
「ええ!?」
リーナが話し辛そうだったので俺が簡単に説明した。
当然、リーナのお兄さんは驚いていた。
その後、リーナのお兄さんことリーンハルト=レーベンくん(15歳)にリーナがファル村に来るまでの経緯を説明した。
(通称)リーンくんは終始顔を真っ青になったままで、実の妹が呪いにかけられた挙句家出して奴隷商に売られた事や、自分達が戦場にしようとした村にいた事に酷くショックを受けていた。
ちなみに、リーンくんはバカ皇女の部下をしていたそうで、当たり前だが苦労していた。
「そうか、俺がいない間大変だったんだな、リーナ!」
「・・・うん!」
「俺もしばらくはここにいられるから、また一緒に遊んであげるからな。」
「・・・うん!」
・・・邪魔しちゃいけないな。
俺は他のチビッ子達を連れて2人からそっと離れていった。
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――ファル村 軟禁小屋――
チビッ子達と遊んで別れた後、俺は問題児達が一時的に軟禁している小屋へとやってきた。
軟禁小屋と言っても空き家を魔法で強化したりしただけだが、無力化しているあの4人を閉じ込めるには丁度いい作りになっている。
「ヒィ!!」
「な、何しに来た!?」
「こ・・・・来ないで・・・!」
「イ・・・イヤ・・・・・!」
中に入ると、4人の捨駒勇者は俺を見るなり怯えだした。
おいおい、俺はレイプ魔じゃないぞ?
「おい、いい加減に落ち着けよな?」
「こ、これが落ち着けるかよ!」
「そうだよ!魔法が使えないし、周りは怖い人ばかりだし、日本には帰れないんだよ!?これで落ち着ける訳がないよ!!」
「それに、私達は体が自由に動けないんですのよ!!」
4人はようやく現状を理解できるようになっていたけど、それが逆に不安を煽ってしまう結果になったらしい。
しかも、今のこの4人は現在とある後遺症で体を自由に動かすことができないのだ。
もっとも、それも元の世界に帰れないという問題と比べれば些細な問題のようにも見える。
このまま自暴自棄になってまた問題を起こされるのも嫌だし、ここは俺が昨夜聞いた良い情報を教えてやるか!
「そう悲観的になるなって!日本に帰る方法は残っているみたいだしさ?」
「「「え!?」」」
4人は揃って目を丸くした。
そして俺は、昨夜聞いたばかりの“ある情報”を同郷の4人に話していった。
戦争編はこれで終わりです。
次回からは番外編をやります。