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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
戦争編Ⅲ-ファル村大決戦の章-
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第68話 ボーナス屋、炊き出しを手伝う

 しばらくして、負傷者の治療を終えたチームステラちゃんとチームバカ皇子、ヴァール騎士団の面々が村に戻って来た。


 流石に敵だったその他大勢を村に入れる訳にはいかないので村に来たのはステラちゃんのバカ皇子、ダニーくんなどの代表の面々だけだ。



「ハッハッハッハ!弟妹達よ、兄は戦場から生きて帰還し・・・・・グハッ!!」



 バカ皇子は突然落馬し、苦しみながら地面を転がっていった。



「うっ!何だこの臭いは・・・!?」


「ステラ様、ここは危険です!村の外に避難を!」



 村中に漂う異臭に気付いたステラちゃん達は村から離れようとした。



「お~い!大丈夫だから出て行かなくていいぞ~~!」



 俺は村から出ようとするステラちゃんを止めに入った。


 ちなみに、俺の鼻にはしっかりと鼻栓がしてある。



「シロウ、何だこの臭いは!?」


「・・・・・・焼いた干し魚?」



 俺は正直に話したつもりだが、ステラちゃんには通じなかったようだ。


 ステラちゃんだけじゃない。


 この強烈な臭いを嗅いだ全員が信じてない様子だった。



「嘘を言うな!干し魚がこんな臭いを放つわけがないだろ!」


「まあ、俺の故郷の伝統的な干し魚なんだけどな。俺も食べた事はないけど・・・。」


「何?シロウの故郷の魚だと?」



 目をパチパチさせるステラちゃんにどう説明すればいいか迷った俺は、とにかく現物を見せる為にある場所へと案内した。


 あ、ちゃんと鼻栓を渡しておいたぜ!





--------------------------


 そこは俺が滞在する家がある村の一角だった。


 たまに気分で食事をする為に丸太を切って作ったテーブルやイスが並んでいるその場所で、それはこの世界の人間には強烈すぎる異臭を放っていた。



「あ、お帰り~~~~~♪」


「おお勇者殿、この干し魚は臭いはキツイですが中々美味ですな!」



 そこには、七輪の上で焼かれている魚を美味しそうに食べる龍王と村長がいた。


 村長、何時の間に来たんだ?



「うっ!やはり途轍もない臭いだ・・・!本当に食べ物の放つ臭いなのか!?」


「そうだよ~~~♪異世界は日本の伝統的珍味、“くさや”だよ~~~~!」



 銀洸は焼けたくさやを箸で掴んで振り回しながら答えた。


 そう、この異臭の正体は俺の祖国の臭い食べ物、くさやだった。


 それも銀洸が持ってきた弁当の中に入っていたそれは、普通(・・)のくさやよりも2倍美味い代わりに臭いも2倍という日本人にも耐えられないような強烈な一品だった。


 というか、弁当にくさやを入れるって何!?



「うえ~~~~~~~~ん!!」



 と、そこに強烈な異臭で泣き出したルドルフがヨチヨチとこっちに走ってきた。



「ルドルフ!」



 それを見たロビンくんは慌てて駆け寄り、魔法でルドルフの周りの異臭をシャットアウトした。


 あ、その手があったか!



「うぅ・・・・。」


「よしよし、もう臭くないよ!」



 ロビンくん、すっかりお兄ちゃんキャラだな。


 たまに豹変するけど。



「ハハハ、今帰ったぞルドルフ・・・グシュッ!」


「にぃたぁ~はっちぃ~!」


「皇子、汚いです。」


「ヴィルヘルム、その顔をなんとかしろ!」



 バカ皇子は拒絶された。


 当然だな。


 今のバカ皇子の顔はくさやの臭いによって涙&鼻水でグチョグチョだ。


 一言で表現するなら汚いだ。



「くさや美味しい~♪」


「フム、酒が飲みたくなりますな。」


「もう一枚焼こ~と!」


「「「やめろ!!」」」



 その後、銀洸からくさやと七輪をすぐに没収した。


 ちなみに、一緒にいたはずの銀耀やルチオ達は早々に逃走し、今は炊き出し会場にいるらしい。


 俺達は魔法で悪臭を除去し、村長も奥さんや息子の嫁さんにこっぴどく叱られた。


 あ~臭かった。





--------------------------


――ファル村 炊き出し場――


 炊き出し会場は実に賑やかだった。


 何所から持ってきたのか不明な巨大な鉄鍋がいくつも並び、その中では大量のシチューが(鍋1つにつき推定1000人分)煮込まれている。


 他にもたくさんの石窯が設置され、大量の肉やパンが焼かれている。


 うん、凄く良い匂いでいっぱいだな。


 さっきとは天国と地獄の差だ。



「うむ、やはり美味い匂いとはこうでなくてはな!」



 口直しではなく()直しをしたステラちゃんはご機嫌だ。


 俺もくさやより断然こっちの方が好きだな。



「にぃたぁ、ひいにほい!」


「そうだね。もうすぐできるみたいだから、ちょっと待ってようね?」


「あい!」



 ルドルフも美味しい匂いにご機嫌回復だ。


 あ、あっちのテーブルに銀耀達を発見!


 暢気に弁当食ってやがる!



「あ、士郎だ~!」


「お前ら、ルドルフ置き去りにして逃げただろ?」


「「・・・・・・・・・・。」」



 俺が問い詰めると、チビ共は一斉に違う方向を向いた。


 そう、こいつらは一緒にいた筈のルドルフを置き去りにして自分達だけくさやから一目散に逃げたのだ。



「だって~・・・」


「だってじゃない!」


「いいですよシロウ殿、みんなまだ小さいですし、あの臭い(・・・・)じゃ私だって我先に逃げ出してしまいますから。」


「まあ、ロビンくんが言うならいいけど。」


「わ~い!」


「調子に乗るな!」



 チビッ子達へのツッコみもほどほどにし、俺達は井戸で手を洗ってから炊き出しの手伝いをした。


 ステラちゃんや何故かバカ皇子も手伝おうとしたが、ステラちゃんはフィリスが止め、バカ皇子はみんなで止めた。


 バカ皇子の場合、とんでもない化学反応とか起こしそうだからな。


 なお、炊き出しにはステラちゃんのところの給仕さん達も一緒に手伝っていてくれた。


 途中、正体不明の肉が鍋に入れられていたが見なかったことにしよう。


 完成した料理は魔法などを使って次々に村の外の方にある野営予定地へと運ばれていく。


 帝国軍&王国軍、そしてムリアス騎士団の数千人分の料理を作らないといけないから大仕事だ。


 シチューは巨大鍋で煮込んでいるからいいが、パンの方は1個1個手作業だから特に大変だ。



「フウ、エルナさんの料理用魔法具がなかったらシャレにならないくらい大変だったな!」


「そうですね、特に“時”属性を使った石窯や“発酵促進箱”のお蔭でパンの調理時間がかなり短縮できますしね。元はチーズ作り用に発明したそうですが、他の料理にも使えるみたいですね。」


「だな!それにしても、ロビンくんって貴族なのに料理上手だな?」



 俺の隣でパンの生地を捏ねるロビンくんの手付きは俺の目から見ても手慣れている。


 貴族出身で隠れ皇子とは思えないほどの手際の良さだ。


 なお、ロビンくんの隣ではルドルフが木箱の上に上がってお手伝いをしている。



「・・・元々、私は家では父に嫌われていたので屋敷では居場所があまりなかったんです。それを見かねた屋敷のメイドや料理長が気晴らしにと料理を教えてくれたんです。」


「へえ、良い人がいたんだな。」



 そういえば、ロビンくんは家では出自が原因で父親から冷たくされていたんだったな。


 その割に捻くれることなくまっすぐ育ったのは使用人の人達のお陰だったわけだ。



「ですが、勧めてきた料理長の想像以上に私は料理の才に恵まれていたらしく、途中から火がついたように教え込んでいったんです。そのせいか、他の料理人達もライバル心を抱いてしまって屋敷の厨房は別世界のように料理人達の熱気に包まれてしまいました。」


「それはそれで息苦しそうだな。」


「ええ、ですが私自身は対等に話しのできる相手ができて楽しかったです。その後、屋敷の料理は日に日に美味しくなっていって、今では帝国貴族の間でもハワード家の料理は大評判に待っています。当時見習いだった若い料理人も何人かは宮殿に引き抜かれて皇族直属の料理人になっています。」


「大出世だな。」



 ロビンくんの才能に触発されて見習い料理人から宮廷料理人に出世か。


 どれだけライバル心を抱いたんだ?



「今思えば、私の加護の影響もあったのかもしれませんね。」


「そっか!英雄神の加護!」



 忘れた人もいると思うが、ロビンくんには神様の加護がある。


 その名は《英雄神プイスの加護》だ!



《英雄神プイスの加護》

・別名「異界王」と呼ばれた英雄の加護。

・自分と仲間の全能力に成長補正がかかる。

・より強い者(能力の高い者)と戦うか鍛えられるほど能力が成長する。

・危機察知能力が中上昇する。

・空属性の効果が中上昇する。



「きっと、料理人さん達に補正がかかったんだろうな。」


「それと最近になって知ったんですが、料理長は元冒険者で若い頃はそれなりに名が売れてたそうです。何かしらの理由で引退したそうですが詳しいことはわかりません。」



 なるほど。


 ということは、加護の2つ目も作用してロビンくんの料理の腕は上がったのかもな。



「にぃたま、でけた!」



 ロビンくんの隣でお手伝いをしていたルドルフがロビンくんの裾を引っ張りながら声をかけてきた。


 そうそう、ルドルフには成形したパン生地にハケで水を塗ってもらってたんだ。


 ルドルフ、結構自慢気な顔をしてるな?



「よしよし、よく頑張ったね。焼けたらみんなと食べようね。」


「あい♪」



 微笑ましい兄弟だな。


 ルドルフ、お前は皇帝やバカ皇子みたいになるなよ?


 なんて考えていた時だった。



      ボン!



 突然、石窯のひとつが爆発した。



「な、何だ!?」


「にぃたま、くろくろ!」


「そ、そうだね・・・黒いね・・。」



 黒い煙が立ち昇り、それを見たルドルフは目を輝かせている。


 石窯の不調か?



「―――――様、何でパンを焼いているんですか!?危険ですと言いましたでしょ!」


「い、いや・・・私も何か手伝おうと・・・。」


「逆に邪魔ですので兵の指揮に戻ってください!」



 ・・・・・・。


 俺は何も見てないし、聞いてもいない。


 さてと、生地を成形して発酵させよ!



「うわあ、バカ兄が焼いたパン美味しい!」


「形はイビツだけど美味しい!」


「ハッハッハ!俺の才能がさらに開花してしまった!」


「でもバカ・・・。」



 バカ皇子、何時の間に・・・・・。


 予想外の才能を持っていたようだ。


 ロビンくんには悪いが、やっぱり兄弟なんだな。



「た、たたた・・・!」



 と、そこに今度はダニーくんがやってきた。


 “た”って何?



「どうしたんだ、ダニーくん?」


「た、大変です!ムリアスの騎士達や帝国兵や王国兵の一部が暴れだしました!」


「「!?」」



 おいおい、俺達がちょっと目を離している間に何が起きてるんだ!?



「どういうことですか?」


「ハイ、野営予定地に着いてしばらく経つと、一部の兵が自暴自棄になって暴れ始めたんです!それがきっかけになって、他の騎士や兵達も暴れ出したんです!な、何分、数が多すぎたので全員に注意を配るのが難しくて・・・」



 ああ、確かにあの数を見張るのは一苦労だよな。


 総合的には俺達が上でも、数の差は圧倒的だからな。


 隙を突かれたってことだな。



「けど、すぐに対処できたんじゃないか?」


「そ、それが、王国の王子が人質にされて・・・!」


「本当ですか!」


「ハイ!ですから下手に手を出せないんです!」


「分かった!ロビンくん、すぐに行こう!」


「分かりました!」



 そして俺達はルドルフを近くのおばちゃん達に預けて問題の発生している現場へと向かった。







 銀洸が幼馴染から貰ってきた弁当の中には“あの缶詰”も混ざっていたりします。


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