第62話 ボーナス屋、王子を助ける
剣の突き刺さった胸からは真っ赤な血が流れてくる。
第二王子は何が起きたのか理解できずにいた。
「チャ・・・チャールズ、何故・・・!?」
「フフフフ、何故?見て解りませんか?暗殺ですよ。」
将軍は剣を王子から抜くとその血をペロリと舐めた。
わあ、悪人!
「フフフ、予定とはだいぶ違ってしまいましたが殿下達にはここで死んでもらいます。その他の兵達と一緒にね?」
「な、何だと・・・!?」
「私が都合よく殿下達を助ける為に兵を率いてきたと本気で思いましたか?これから死ぬとはいえ、詳細は秘密なので言えませんが、今や王国のほとんどの王子王女は用済みなんですよ。私はあなた達の命を捧げるのを条件にブラス卿達と契約したのです。殿下達の殺害完了後はブラス卿達と合流し、私は新たな力と権力を得る手筈になっているのです。」
「・・・う、裏切るのか・・・・王国を・・・!?」
「ハッハッハ!裏切るも何も、私は最初から王国にも殿下達にも忠誠は誓ってませんよ。」
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戦場に将軍の笑い声が響き渡った。
迂闊だった。
奴もあの植物型魔獣に拘束されていると思っていた。
いや、考えてみれば陰謀が好きなんだからダニール達と通じている可能性はあった。
俺の判断ミスだ。
「兄上――――――――――!!」
ステラちゃんの説教が耳に響く。
クソッ!
どうにかしたいけど魔力が足りなくて体が思うように動かない。
今の俺にできるのは・・・・そうだ、一か八か魔力を回復するボーナスを取得してみよう!
俺は再び《エフォートエクスチェンジャー》の画面を操作した。
〈魔力回復力上昇〉 10pt
〈魔力回復薬〉 5pt
〈超魔力吸収〉 30pt
・
・
・
俺は3段目に会った〈超魔力吸収〉を取得した。
〈超魔力吸収〉 30pt
・生物や無生物、魔力を持つ対象に触れることで魔力を吸収する事ができる。
・吸収力は使用者の能力に依存し、魔力がMax状態では吸収できない。
・使用者の成長次第で魔法を吸収することも可能になる。
実戦でも使える便利なボーナスだ。
吸収する手頃な魔力、それは決まってる。
俺は暴れるバカ皇子を必死に押さえるロビンくんに声をかけた。
「ロビンくん、俺をステラちゃんのいる所まで送ってくれ!」
「――――――わかりました!ちょ、大人しくしてください皇子!」
「放せ~~~~!」
バカ皇子を押さえながらロビンくんは俺をステラちゃんの隣、つまりアイアスの目の前に転送してくれた。
やっぱ空属性は便利だな。
「――――――シロウ!?」
「貴様!」
「ちょいと失礼~♪」
俺は驚いて後ろに下がろうとするアイアスに素早く触れて早速魔力を吸収した。
おお!魔力がたくさん流れてくる~~!!
「な・・・・貴様、俺の魔力を・・・・・・!?」
俺の中に大量の魔力が流れてくるのに比例してフラついていた全身に力が漲ってくる。
逆にアイアスの方は苦しんでいった。
【名前】『捨駒使い』アイアス=クロリス
【年齢】62 【種族】人間
【職業】ジーア教枢機卿 工作員 【クラス】異界の潜入工作員
【属性】メイン:土 闇 サブ:水 風 火 雷
【魔力】2,330,000/5,100,000
【状態】疲労(中)
【能力】――――
【加護・補正】――閲覧不可――
【BP】-148pt
ステータスを見てみると魔力は半減していた。
逆に俺は全開!
よし、これで戦えるぞ!
「調子に乗るな!」
「なっ・・・!」
「危ない!!」
俺が魔力の吸収を終えた直後、アイアスが目に見えない速度で右手を動かした。
それがダガーナイフだと気付いた時には自力で回避する事が出来ない所まで迫っていた。
寸でのところでステラちゃんに押し飛ばされた俺はそれを回避できたが、代わりにステラちゃんが腕を斬られた。
「ステラちゃん!!」
「大丈夫だ、それほど深くはない・・・!」
「チッ!浅かったか!」
「この野郎!《アーススラッシュ》!」
俺は腰の謎の剣を抜いてアイアスを吹っ飛ばした。
「《加重》×5!」
「グッ・・・!」
「シロウ、私はいいから兄上達を助けてくれ!」
「分かった!けど、その前にフィリスの所に送るぜ!」
謎の剣を抜いている今なら空属性が使える。
魔力は全快だし、使わない理由はない!
「《転移》!」
俺てステラちゃんは一瞬でフィリスの元に移動した。
「ステラ様!!」
「フィリス、ステラちゃんの治療を!」
「分かりました!」
「シロウ、兄上を・・・!」
「任せろ!」
次は殺されかけている王子達の所だ!
ここから見ると、まだ生きているようだ。
将軍の奴、たっぷり苦しめながら殺す気らしい。
俺は再び《転移》を使おうとしてステラちゃんから少し離れようとした。
その時、ステラちゃんの腕から流れた血が謎の剣にこぼれた。
ピカッ―――――!
「え!?」
おや、謎の剣の様子が・・・?
またパワーアップか?
いや、今はそれよりも王子達が先だ!
「《転移》!」
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「クッ・・・・・・!」
「あ、兄上・・・!」
「ホオ、これでもまだ気絶しないとは驚きだな。だが、そろそろ死んでもらいましょうか!」
「―――――――させるか!!」
「何!?」
ギリギリセーフ!!
将軍が止めを刺そうとする一歩前で間に合った。
俺はパワーアップ中の謎の剣を振るった。
「打っ飛べ・・・って、また何か出た!?」
「グワァァァァァァァァァァァァァ!!!」
謎の剣を振った瞬間、謎の剣の刀身から銀色の極太ビームが発射された。
何?今度は自動ビーム機能が追加されたのか!?
まあ、将軍を倒せたからいっか♪
とにかくW王子救出だ!
「ていっ!」
W皇子を拘束していた魔獣の蔓を斬って解放すると、俺はすぐに治療できる奴のいる場所へ転移した。
「―――――――――――あの剣、まさか・・・・!」
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「――――――盾!治療を頼む!」
「だから俺はマテューだっつってんだろうが!!!」
ヤベ、思わず盾って呼んじゃった!
だけど謝るのは後、俺はマテューに回復魔法を頼んだ。
W王子は出血は酷く、どう見ても重傷だったがマテューに回復魔法をかけてもらうと傷口はあっという間に塞がり出血は止まった。
「ふう、これでとりあえず出血は止められたな。けど、失くした血はどうにもならないな。」
「今はそれで十分だ。」
とりあえず今死ぬ心配はなくなったようだ。
さて、次はバカ皇子2&3とバカ皇女か。
確かまだ弱体化したザックやブレスが近くにいたはず。
〈強制オールリセット〉で能力は使えなくなったはずだがアイアスみたいに銃の類を所持している可能性は高い。
早めに拘束しておいたほうが良いと思い、俺はまた転移をしようとした。
その時だった。
「――――――《ファイヤーアロー》!!」
「危ない!」
「盾!」
「盾じゃないって言ってるだろ!!」
また言ってしまった。
マテューは俺を庇うように前に立ち、突然襲ってきた魔法を自慢の盾で防いだ。
おいおい、この声って・・・。
「・・・大人しくしてもらおうか?」
「ダニール!」
十数m先、そこには魔法が使えなくしたはずのダニールが何故かいた。
「おいおい、何で魔法が使えるんだよ?」
「フッ、まさかステータスそのものを弄れる能力とはな?だが、プロの人間が保険のひとつもなしに仕事をするとでも思っていたか?」
すると、ダニールは指や腕に身に付けているアクセサリーを俺達に見せた。
何だ?
調べろってことか?
【烈火の魔輪】
【分類】アクセサリー型魔法具
【品質】高品質
【詳細】魔力があれば誰でも火属性の魔法が使えるようになる指輪。
魔法の威力は適正レベル2程度だが、過負荷さえ与えなければ半永久的に使い続ける事ができる。
【亜空の魔輪】
【分類】アクセサリー型魔法具
【品質】高品質
【詳細】魔力さえあれば誰でも空属性の魔法が使えるようになる指輪。
魔法の威力は適正レベル2程度だが、過負荷さえ与えなければ半永久的に使い続ける事ができる。
【魔獣使いの腕輪】
【分類】アクセサリー型魔法具
【品質】高品質
【詳細】魔獣を調教する事ができる腕輪。
魔力次第で野生の魔獣を強制的に支配する事ができる。
ただし、調教できる魔獣は上の下クラスまで。
どれもこれも厄介なアイテムばかりだ。
俺の能力は相手の所有物には影響は与えられない。
流石プロの暗殺者、準備が良いな。
「おっと、全員動かないことだ。動けばこいつらの命の保障はできないぜ?」
ダニールはパチンと指を鳴らすと、奴の横の地面に黒い穴が出現し、そこから1個のでかい檻が出てきた。
そこには4、5人ほどの男女が入っていた。
そのうち2人はこの世界に来て何度も見かける見覚えのある赤毛の少年だった。
おいおい、まさか・・・。
「知らない者も多いだろうから教えてやろう。この中に入っているのはファリアス帝国第六皇子ヴィクトール、第七皇子ディートハルト、あとは帝国と王国の将軍だ。」
やっぱりか!
というか、第六皇子って勇者達に殺されたんじゃなかったのか?
人質にするためにこっそり拾われていたのか?
周りからは動揺の声が上がっている。
「―――――――大羽士郎、こいつらを助けたかったらお前の持っている剣を渡してもらおうか?」
「剣?」
剣って、俺が今持っている謎の剣のことか?
そういえばさっきまで光っていたのが収まっているな。
もしかして凄く激レアな武器だったのか?
というか、さっきからダニールのやってる事ってテンプレ的に三下の悪足掻きみたいだ。
「・・・やはり知らないようだな?言っておくが、考える時間を与える気はない。《燃焼》!」
「「「うわぁぁぁぁぁぁ!!」」」
「あ、やめろ!!」
ダニールは檻に火を放った。
檻の中からは人質達の悲鳴が聞こえてくる。
あいつ、本気で殺す気だ。
「それと人質はこいつらだけではないぜ?」
ダニールがまたパチンと指を鳴らすと、今度は戦場全体から悲鳴が上がってきた。
「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
「な・・・!!」
な、魔獣の蔓が暴れ出している!
そうか、あの腕輪で操っているのか!
『ギャォォォォォォ!!』
『アンギャァァァァァァァ!!』
『ギギィィィィ!!』
今度は地中から別の魔獣が出てきた!
ドラゴンにモグラに虫!
どれも凶暴そうだ!
「理解したか?お前の持っている剣を俺に寄越せ!」
汚い奴だ。
きっと、渡しても渡さなくても人質を殺す気だ。
「魔法で助けるつもりならやめておけ。お前の魔法が出るよりも先に俺の魔法がこいつらを焼き尽くす。」
それは嘘じゃないだろう。
実践経験の差は向こうが圧倒的に上だ。
下手に手を出したら先に人質が殺される可能性は高い。
「他の連中も下手な真似はしないことだ。些細な犠牲と言って済ませるなら別だがな?」
マズイ!
人質が多すぎる!
檻の中の人質だけはもしかしたら助けられそうだけど、戦場全体にいる帝国兵や王国兵の人質全員は俺達だけじゃ助けられそうにない。
「さあ、さっさとその剣を渡せ!」
「(クッソ~~~~~~!!)」
何か、何か良い手はないのか・・・・!!
考えている間にも檻を囲む炎は大きくなっていく。
『ゴケェ~~~~~~~~~~~~~~!!』
その頼もしい(鳴き)声が聞こえたのはその時だった。
次回、コッコくんタイム!