第61話 ボーナス屋、黒幕達と戦う
男勇者1(諭)が撃たれました。
俺の防御魔法をものともしないで銃弾は男勇者1の肩に当たった。
今の弾丸、魔法で強化したのか!?
「ああああああああ!か・・肩がぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「諭!!」
「な、何で・・・・!?」
「そんな・・・・これは何かの間違いですよね!?」
男勇者1の肩から血が噴き出し、男勇者1は悲鳴を上げた。
「ロビンくん、早く止血だ!」
「ハイ!」
ロビンくんや回復魔法の使える仲間が男勇者の応急処置を始める。
あいつ、今のはワザと肩を狙ったのか?
「おい!お前が今回の黒幕だな!!」
「フッ!そんなこと、訊かなくても分かっているだろ。帝国の勇者くん?」
「―――――――!」
「お前のことはダニールから聞いていたが、聞いた話より随分と強いようだな?それどころか、雑魚のはずの連中まで魔力が異常に高い。一体どんな手品を使ったんだ?」
アイアスは笑みを浮かべながら俺を一瞥すると、すぐに勇者達の方へ視線を戻した。
「全く、邪魔な帝国の勇者を消すつもりでお前達をぶつけたというのに随分な結果だな?所詮、捨て駒として召喚されたゴミでしかなかったという訳だな?」
「アイアスさん・・・・何を言ってる・・・の?」
「まだ分からないか?お前達もムリアスのバカ共も俺達の捨駒に過ぎないって言っているんだ。」
「嘘・・・だろ!?」
「嘘じゃないさ。お前達は俺が「勇者」と呼んだだけでバカみたいに調子に乗った、ちょっとだけ力を得ただけの捨駒にすぎないんだよ!もっと言えば、お前達をこの世界に召喚したあの儀式は勇者を召喚する為のものじゃない。単に、こっちに都合のいい異世界人を召喚するだけのものだ。お前達は俺に唆されてバカみたいに大量殺人をやったただの犯罪者なんだよ!わかったか、自称正義の勇者のクズども!」
勇者達は今度こそどん底に落とされたようだ。
全員、顔を真っ青にして言葉を失ったように口をパクパクしている。
「さて、捨駒の後始末はいいとして、こうなった以上は俺達で目的を達成するしかないな。おい、いい加減傍観してないでお前達も出て来い!」
アイアスは戦場全体に聞こえるように声を上げた。
その直後、戦場に巨大な火柱が立った。
「――――――――言われなくても出るつもりだったんだけどな?」
俺達が後ろを振り向くと、泥沼化した戦場の中央に立った火柱の上に見覚えのある男が立っていた。
「よう、久しぶりだな?」
「――――――――ダニール!!」
そこにいたのは、俺がこの世界に召喚された日にバカ皇子やステラちゃんを嵌めようとした男だった。
やっぱり奴もいたのか!
奴のことを知っている俺達は警戒心をさらに強めた。
「ダニア~~~ル!!あの時はよくも俺を嵌めてくれたな~~~~!!」
「ハハハハ、久しぶりだなバカ皇子!ちょっと見ない間に随分強くなったじゃないか?」
「下りてこ~~~い!!」
バカ皇子は火柱の上にいるダニールに向かって剣を振りながら挑発している。
おいおい、いくら強くなったと言ってもダニールにはまだとどいてないぞ?
つーか、五月蠅い!
「アイアス、お前の今回の捨駒は散々だったな?」
「・・・ダニール、お前の話と随分違ったぞ?」
まるで世間話をするようにダニールとアイアスは話し始めた。
「それは勘弁してくれよ。俺もこうなるとは思ってなかっただぜ?それに、召喚によって獲得する能力は人によって大きく異なる場合もあるのは知ってるだろ?」
「まあ、そうだろうな。見たところ、他人の成長を促進したり強化する類の能力ってところだろうな。」
どうやら俺の能力の事を話しているらしい。
2人は異世界召喚によるチートだと思い込んでいるようだが違うんだよな。
けど、態々教える意味はないから黙っておこう。
「―――――――で、ブラスはどうした。一緒じゃないのか?」
「ああ、奴ならザックと・・・・・」
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
ダニールが何かを言いかけた瞬間、戦場に大勢の悲鳴が上がった。
悲鳴のあった方を見ると、今の今まで忘れてた帝国勢や王国勢が地面から生えた植物の蔓に吊し上げられたり縛られたりしていた。
その中でもステラちゃんのお兄さん2人と、バカ皇子の弟&妹は他の兵や騎士達よりも高く吊し上げられていた。
「な、何なんだこれは~~~~!!??」
「くっ・・・魔法が使えない!?」
「「あ~~れ~~~~~~~!?」」
「い、一体何なの~~~~~!?」
必死で蔓をどうにかしようとしてるようだが、どうやら魔法が使えなくなっているらしい。
魔法を無効化する植物なのか?
俺は謎の植物の蔓に《鑑定》を使ってみた。
【バインディングクリーパー】
【分類】植物型魔獣
【用途】使役
【詳細】野生の植物型魔獣を人工的に品種改良して生まれた魔獣。
僅かにある知性は主人に従順で、標的を無数の蔓で捕まえて無力化する。
魔力を吸収して増殖する性質があり、並大抵の魔法では拘束を解くことも倒すこともできない。
寿命は短いが、その分成長が早く魔力を与える事で急成長させることもできる。
あれも魔獣なのか!
情報を見る限り、誰かが使役しているようだ。
状況から考えてダニール達の仲間だろう。
「―――――――兄上!!」
「ステラ様!行ってはいけません!!」
「放せロビン!俺達の弟妹の危機だぞ!」
「皇子が行くとややこしくなるので行っちゃだめです!!」
家族のピンチにステラちゃんもバカ皇子も動揺している。
あの魔獣を操っている奴は何所にいる!?
「ハハハ、良い様ですね殿下?」
「「ザック!?」」
バカ皇子2&3の前に宙に浮かんだあの騎士団長がいた。
やっぱりあいつも仲間だったのか。
「ロックロード騎士団長!これはあなたの仕業なの!?」
「違いますよパトリシア殿下。共犯である事は認めますが、今殿下達を拘束している魔獣を使役しているのはこの方ですよ。」
「―――――――ファリアス帝国第一皇女殿下、お初に御目にかかる。」
何時の間にかザックの隣に大柄の男が浮かんでいた。
瞬間移動?
「私はブラス=アレハンドロ、初対面早々で悪いが殿下達にはここで死んでもらう。」
「「「――――――――――!?」」」
や、やばい!!
理由は不明だが、バカ皇子の時みたいに殺すつもりだ!
「――――――――邪魔しないでもらおうか?」
と、助けようとしたらアイアスの声が耳に入ってきた。
敵がバラバラの位置にいるからややこしい!
「あなた達の相手はコイツらだ。《土人形兵創造》!」
「な、地面から・・・!?」
「何だあれは!!」
「地面から人が!?」
アイアスが何かの魔法を唱えると、戦場全域の地面から土でできた人型の兵士や騎士が次々に出てきた。
あれってもしかしてあれか!
ファンタジーの定番、ゴーレムか!
というか多すぎだ!
見た感じ千体以上はいるぞ!
「こっちも無視するなよ?《火人形兵創造》!」
今度はダニールの方かよ!
周囲に火の玉が千以上も現れたかと思ったら、それが次々に人型になっていった。
炎版のゴーレムだ。
あっという間に戦場には二千体以上のゴーレムが現れた。
この状況で戦うのは流石の俺達でもキツイ。
「そういえばそこにもファリアスの皇子が2人いたな?」
「ああ、そこのバカと隣にいる騎士だ。」
アイアスの質問に、ダニールはバカ皇子とロビンくんに目線を向けながら答えた。
ロビンくんが皇子だってことを知ってるのか。
つーか、奴らの目的は帝国の皇族!?
「おい、そこの暇そうな精霊達!」
『え、何?』
『アイアス~、もう帰ってい~い?』
「そんなにあの小娘と仮契約させたのが気に入らなかったか?まあいい、向こうで縛られている王国の王子を消してこい!」
『え~~~?』
『しょうがないわね。』
おいおい、まさかあの精霊ズはアイアスと契約してたのかよ!
「お前ら!一体何が目的なんだ!!」
「あ?素直に教えるとでも思ってるのか?」
「この前とは違って、今回は全員死んでもらうからな!」
クソ!
完全に嘗められている!
魔力の差を考えれば当然だが・・・あ、バカ皇女の喉元に剣が!
魔法を出そうにもゴーレム軍団が邪魔だ!
それに精霊ズも王子達を殺そうとしている!
このピンチを逆転する手は・・・
「来るな化け物!!」
「何で?何で私がこんな目に遭わないといけないのよ!?」
「嘘・・・・僕は・・・勇者なんだ・・・!」
勇者たち五月蠅いな。
あ、そうだ!
対チート勇者用に用意したあの“秘策”だ!
俺の考えが正しければ、ダニール達だけじゃなく精霊ズにも使えるはずだ!
「ロビンくん!ステラちゃん!」
「何ですか!?」
「どうした、シロウ!話なら手短にしてくれ!」
「これからとっておきの秘策を使うから、少しでいいから敵の注意をひきつけてくれ!」
「―――――!わかりました!」
「わかった!お前を信じよう!」
ロビンくん達は周囲にいるゴーレム軍団と戦い始めてくれた。
よし、今のうちにやるぞ!
幸い、ダニールもアイアスも油断してくれている。
《エフォートエクスチェンジャー》を起動!
【強制オールリセットモードを起動します。】
【対象者を選んでください。】
対象はもちろんダニール達&精霊ズだ!
相応のリスクはあるけど迷っている暇はない!
【対象者を選択しました。】
【残量魔力の99.9%を消費しますが実行しますか?】
【実行】 【前に戻る】 【取り消し】
答えは決まっている。
「――――――――実行!!」
ピッ!と、俺は“実行”を選択した。
直後、俺の魔力は一気に減少して眩暈や疲労が襲い掛かってきた。
これはキツイ・・・・・・・・・!!
だが、変化は敵の方にもすぐに現れた。
「――――――――これは!?」
「体が光っ・・・・・グッ!力が抜ける・・・・・・!?」
「う・・・ブ、ブラス殿!?」
「こ、この輝きは・・・・・・・!?」
『ちょっと何これ~~~~!?』
『す、凄く怠い・・・・・・・・・。』
『力が抜けていく・・・!』
『もう帰りた~~い!』
『ああ・・・死ぬ前に可愛い男の逆ハーレムを・・・』
敵全員の体が光だし、敵が弱くなるのが見えてきた。
アイアスは片膝を地面に付き、ダニールは足場にしていた火柱が消えて落下した。
ブラスとザックも落ちた。
精霊ズは・・・・(いろんなのが)小さくなって薄くなった。
そして、二千体以上いたゴーレム軍団の動きがピタリと止まり、炎版ゴーレムに至ってはただの火に戻った。
「・・・成功か?」
魔力が一気になくなったせいで俺も立っているのがやっとだ。
フラフラになりながら敵のステータスを考えると、【加護・補正】の欄は未だに“閲覧不可”だったが、【能力】は“――――”だったり全能力の適正レベルが1まで下がっていた。
中には魔力の最大量が減ってる奴もいる。
スゲエ、マジチート!
「クッ・・・・!お前の仕業か、大羽士郎!」
アイアスが怒りの形相で俺に銃口を向けてきた。
マズイ、今の俺はほとんど魔力切れで魔法が使えない!
「―――――――させん!」
「ステラちゃん!」
「クッ!!」
アイアスが銃を撃とうとした時、風を纏ったステラちゃんがアイアスに急接近してアイアスの持っていた銃を剣で斬った。
ナイスだステラちゃん!
「人形達の動きが止まったところを見るに、どうやら操る力を失ったようだな?」
「・・・・・・詰めが甘いな?」
「何?」
ステラちゃんはアイアスの喉元に剣を突き付けるが、アイアスは不敵な笑みを浮かべた。
と、その時だった。
「グァァァァァァァァ!!」
「何――――――――――――兄上!?」
「ハハハ、俺達の駒が勇者や帝国の騎士団長だけだと思ってたのか?」
戦場に王国の第二王子の悲鳴が上がった。
すぐに悲鳴のする方を見ると、そこには味方の王国人の剣で胸を刺されている第二王子がいた。
刺してるのは・・・あの陰謀好きの将軍!!
士郎達はムリアス勢の相手に集中していて将軍には注意が行き届いていませんでした。
戦いはまだ続きます。