第52話 ボーナス屋、怪獣大決戦に巻き込まれる
漁師のみなさんが海に投げ入れた魔法具が一斉に警鐘を鳴らした。
おいおい、魔獣用以外のも鳴ってるぞ。
欠陥品だったのか・・・?
「うぷっ・・・な、何なんだこの音は・・・・!?」
「あ、ジャン!」
おっと、ここで船酔い組が登場か。
まだ気分は悪いみたいだな。
「お兄ちゃん達を呼んできました!」
「うおっ!?何だよアレ!」
「・・・敵・・・・か?」
「よ~し、これで全員集合だな!」
約2名は不安だが、俺達で戦うしかないからな。
それにしても、さっきからあのビーって音が五月蠅いな。
「おい!あっちの方にも何かいるぞ!!」
「!?」
若い漁師の1人がドラゴンが接近してくるのとは別の方角を指差した。
全員がその方角に視線を向いた直後、海の中からそれは出てきた。
『キィィィィィィィィィィィィ!!』
出てきたのは俺達が乗っている船よりもデカい巨大イカだった。
って、デカすぎ!!
触手も含めて100m以上はあるんじゃないのか!?
「ななななななな、何だあれは~~~~~!?」
「大きいイカ!!」
「デカすぎだろ!!」
「ま、まさか!海の暴食王か・・・!?」
「お伽噺じゃなかったんすか!?」
漁師のみなさんはもちろん、ヒューゴ達も巨大イカにパニくっていた。
おい!今はドラゴンも接近しているんだぞ!
などと思いつつ、俺も巨大イカに《鑑定》を使った。
【キングクラーケン ♂】
【分類】軟体型魔獣
【用途】食用、その他
【詳細】ダーナ大陸の漁師達からは『海の暴食王』と恐れられている巨大イカの姿をした魔獣。
その異名の通り、海にいる生物なら何でも食べる。
過去に無差別に生物を食い荒らし、海だけではなく陸や空の生態系を狂わせた事もある。
起きている時は常に獲物を求めて移動し、獲物がなくなると深海の巣に戻って眠る。
より大きい生物を狙う傾向がある。
コイツもキングかよ!
どうやら大きい生物を狙うらしいが、もしかしてドラゴンを狙ってるのか?
『ギャォォォォォォォォォ!!』
『キィィィィィィィィィィィ!!』
当たりみたいだな。
よく見たら、ドラゴンの方もクラーケンの方に向かっていく。
最初から俺達は眼中になかったのか?
「あ!あっちの方からも何か出てくるっす!」
「「「何ぃぃぃ!?」」」
またかよ!
って、もう出てきてる!
『ギギギィィィィ・・・!!』
今度は巨大な蟹!
何だよあれ!エ○ラならぬ、カニラかよ!
【クリムゾンクイーンキャンサー ♀】
【分類】水棲甲殻類型魔獣
【用途】甲羅は武器・防具の素材、身は食用
【詳細】主に大陸の近海に生息する蟹の女王。
そのハサミは金属すら切断する強度を誇る。
縄張り意識が強く、住処を荒らすものは力で排除する。
キングの次はクイーンかよ!
何だこの大怪獣南海の大決戦みたいな状況は!
「おい、あれも倒すのか!?」
「大き~~い!」
「う~ん、こっちには興味がないみたいだし、少し様子をみるか?」
こっちは船を守りながら戦わなきゃいけないし、数が減るか消耗するのを待った方がいいだろうな。
「親っさん!あっちから何か接近してくるぞ!」
「どうなってんだ、この海は!?」
ツンデレマグロは大混乱だな。
ドラゴン、イカ、カニ、次は何だ?
『シャァァァァァァァァァァ!!』
今度は鮫か!
○ョーンズより迫力があるな!
じゃなくて、アイツも参戦するのかよ!
【ブルーキングシャーク ♂】
【分類】水棲型魔獣
【用途】皮は防具の素材、牙は武器の素材、肝は薬の素材
【詳細】世界中の海を巡って己の強さを鍛える鮫の王。
その鋭い牙は竜の体も喰いちぎり、牙の力が強いほど王としての格が高い。
好戦的な性格で、より強い敵との戦いを好む。
知能も人間並に高く、戦闘には魔法も使う。
やっぱりキングだったか。
さっきからキングやクイーンばっかりだな。
南海の怪獣王者決定戦かよ。
「あ!」
「どうした、ケビン?」
「少し離れた所から別の魔獣が近づいてくる!」
「またかよ!」
「もっと増えるのかよ・・・おえ!」
「うっ・・・想像しただけで気持ち悪・・・!」
頼むからここで吐くなよな?
あ、漁師のみなさんはみんな顔が真っ青だ。
もう逃げようとか考える余裕もないんだろう。
この後はどうするかな?
数が減ってくれればいいんだけど、それって一番強いのが残るって事だしな~。
それに、どの魔獣も水圧に強そうだから俺の《加重》が効くか微妙だ。
う~ん、アイツらに有効な攻撃って何だろう・・・?
“土”・・・海の上だからあまり使えない。応用の重力系は使えそうだけど。
“木”・・・ポ○モンだと効果は抜群なんだけどな。
“火”・・・水で消されそうな気が・・・いや、確か魚介類とかって熱に弱いはず。もしかしたら・・・?
と、俺がいろいろ考えていたら新たな参戦者が到着した。
「うわっ!また何か出たぞ!」
「今度は何だ~~~!?」
「キ、キメラだぁぁぁぁ!!」
次に出てきたのは巨大な合成獣だった。
頭はドラゴン、胴は亀、背中には磯巾着、足はタコで両手はカニのまさに海のキメラだ。
ドラゴンと同様、ファンタジーの定番も参戦かよ。
『ギャォォォォォォォォ!!』
怪獣映画より凄い光景だ。
円○プロも真っ青だろうな。
「もう、訳がわからねえ・・・。」
ヒューゴももはや呆れ気味だな。
さて、あいつの情報も調べてみるか。
【シーキメラロード】
【分類】突然変異型魔獣
【用途】各種素材
【詳細】元は雑種の魔獣同士が産んだ卵が高濃度の魔力を浴び続けて突然変異を起こした魔獣。
より強い生物を食べることでその生物の遺伝子を取り込み、体の構造などを作り替えていく。
また、取り込んだ生物の属性も手に入れるので多種多様な攻撃を仕掛けてくる。
個体によって姿形は全く異なるが、首と胴の間に隠れている魔石が共通の弱点である。
おっ!弱点情報があったぜ!
首と胴の間か・・・ギリギリ甲羅に隠れている辺りだな。
う~む、ここからだと遠距離攻撃で狙うのは難しいな。
というか、今の状況・・・
『ギャォォォォォォォォォォ!!』
『キィィィィィィィィィィィ!!』
『ギギギィィィィ・・・!!』
『シャァァァァァァァァァァ!!』
『ギャォォォォォォォォォォ!!』
巨大魔獣5体が威嚇しあっている。
マジで南海の大決戦状態だ。
「さてと、この後はどうするか?」
「戦うのかよ!?」
「どのみち、あいつらを倒さないと船は動けないしな。共倒れしてくれたらいいんだけど。」
「でも、戦いに巻き込まれて船が沈んだりしないかな?」
「・・・確かに。」
あのサイズの魔獣が暴れたら津波とかありそうだな。
そして船は海の藻屑・・・。
ここは船を諦めてケビンに全員を港まで転移してもらった方が賢明か?
今のケビンじゃ、まだ船ごと転移するのは難しいみたいだからな。
けど、折角の大物を逃すのももったいない気もするな。
「せめて足場があれば戦えそうなんだけどな・・・。」
「足場か・・・。」
確かに足場があれば接近戦も可能だな。
海底を隆起させ・・・いや、もっといい方法があるな!
「ケビン、魔獣達を海ごと凍らせるんだ!」
「え!?」
「海を凍らせて足場にするんだ!」
「あ、そっか!」
正直、今のケビンの力でどこまで凍らせられるか分からないけど、少なくとも十分な足場は造れるはずだ。多分。
「いきます!《凍える嵐》!」
「うおおおお!!」
「寒ィィィィィ!!」
「ケビン、少しは加減しろ!」
「何だ何だ!?」
ケビンは氷属性の(多分)上級魔法を(多分)手加減なしで放った。
周囲の気温が一気に下げるほどの冷気の嵐が一帯を飲み込んでいく。
うお~い!何だよこの魔法は!?
俺、こんな魔法は教えてないぞ!
ケビンのオリジナルか!?
『ギャゴ~~~~!?』
『ギィィィ~~~~!!』
あ、魔獣達も苦しんでる!
もしかして、寒さに弱いのか?
それとも、急激な気温の変化に適応できないのか・・・クシュッ!
ヤバ!このままだと俺達の身も危ないな。
「コ、《寒冷防御》!!」
俺は甲板にいる全員に防寒用の魔法をかけた。
フウ、これで一安心だ。
「あ、寒くないぞ!」
「ホントっす!」
みんなもこれで大丈夫のはずだ。
さて、海の方はどうなった?
「終わりました!」
「スゲエ!海が凍ってる!!」
ロルフが船から身をのり出しながら叫んだ。
うおっ!マジで凍っているぞ!
数百m先まで氷の大地が続いている!
やっぱケビンは魔法チートだ!
「おいガキども!これは全部お前らがやったってのか!?」
「まあな♪」
「魔獣どもも凍ってるじゃないか!!」
ツンデレのオッサンは信じられないという顔で魔獣のいる方を指さした。
うわ~!ドラゴンもイカもカニも鮫もキメラも氷漬けだよ!
俺は一瞬、呆気なく勝てたのかと思った。
けど、世の中そんなに甘くはない。
『ギャオォォォォ!!』
「あ!ドラゴンが・・・!」
『キィィィ!!』
「イカも!」
『ギャォォォォ!!』
「キメラも氷から出てきたぞ!」
氷の中から次々と魔獣達が出てきた。
伊達に名前にキングやロードが付いてないってことか!
『シャァァ・・・シャッ!?』
あ!鮫だけ氷の上でピチピチ跳ねてる。
あれじゃ、陸の上の魚だな。
『ギギィィィ!!』
カニは何だか元気になってないか?
あ、カニ歩きしている!
「あ!みんなこっちを見てる!」
「よし!足場ができたし、ここからが本番だぜ!」
「魔獣ども、覚悟しやがれ!」
「お前ら、何時の間に復活したんだ?」
さっきまで船酔いに苦しんでいたジャンとロルフが完全復活している。
まあそれはいいとして、とにかく戦闘開始だ!