第51話 ボーナス屋、調査する
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これからも頑張ります!
船が港を出発してからしばらくのこと、船上ではちょっとしたトラブルが起きていた。
「おえぇぇぇぇぇぇ!」
「おえぇぇぇぇぇぇ!」
食事中のみなさんゴメンなさい。
ただ今、甲板にて約2名が船酔い中です。
「・・・まだ落ち着かないのか。ジャン、ロルフ?」
「う・・・気持ち悪ぃ・・・。」
「くそぅ・・・金槌は直ったのに・・・おぇ~!」
船酔い中なのは金槌疑惑があったジャン、そしてロルフだ。
俺とヒューゴ、ケビンはいたって平気だ。
特にケビンはさっきから甲板の上を走り回って漁師のみなさんの手伝いとかしている。
元気だな。
「ったく、守ってくれる奴が先に使いものにならなくなってどうすんだ?これだからガキは・・・」
「んだとぉ!?」
相変わらず口の悪いツンデレのおっさんとヒューゴはさっきからにらみ合いっぱなし。
おいおい、依頼人とのトラブルはヤバいぜ?
「けっ!ちょうど船室が空いてるから、そこの邪魔なガキどもを放り込んでこい!」
「おっす!」
若い漁師の1人がジャンとロルフを両脇に抱えて船内に入っていった。
ん~~~、さっきのは「部屋を空けてきたから休ませてやってね。」って意味なんだろうな。
ツンデレなのが分かっているから容易に想像できちゃうな。
と、別の漁師が俺のところにやってきた。
「すまねえな。親っさんは口は悪いが、本当は良い人だからわかってやってくれ。」
うん、それは分かってるから。
「ああ見えて、本当は子供が大好きだからよ!内心、お前らのことを可愛く思ってるんだぜ?」
それ、聞く人によっては誤解を招くな。
初対面のオッサンに可愛いなんて思われても嬉しくないし、むしろ怖い。
「昔はもう少し素直だったんだけどよ。奥さんに先立たれた挙げ句、一人娘が家出してから余計面倒くさい性格になっちまったんだ。」
「妻子いたのかよ!」
「そりゃいたさ。けど、奥さんは娘が幼い頃に流行り病で亡くなって、娘も親っさんに反発して家を飛び出しちまった。その上、町の歓楽街で身を落として毎日知らない男の相手をしてるって知ったときはかなり荒れてたぜ。」
ツンデレマグロにそんな過去があったとは・・・。
オッサンの娘はホステスか娼婦をやってるわけか。
「会いに行ったりとかはしなかったのか?」
「昔は何度も連れ戻そうとはしたらしいが、その度にケンカしてばかりだったらしい。そのまま意地になって十年以上も会っていないって話だ。噂じゃ、もう足を洗って真っ当な職に就いたとか、ゴロツキに嵌められて奴隷商に売られたとか・・・・・・。」
「へ、へえ・・・・・。」
なんか、後半の部分がどっかで聞いた話に似てる気がするのは俺の気のせいか?
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数十分後、船は目的の海域に到着した。
当たり前だが船の周りは全て海だ!
「お~~!海の中が透けて見えるぜ!」
「キレ~~~~~!」
俺とケビンはどこまでも澄んだ海の中を覗き込んだ。
テレビとかでは何度も見たことはあるけど、綺麗な海って本当に何所までも透けて見えるもんだな。
けど、テレビで見たのとは違ってこっちは魚とかの姿が全然ないな?
「・・・・・ちっ!やっぱ魚の姿が嫌に少ないな。」
「そうっすね。何時もならこれでもかってほど泳いでるはずなんすけど・・・。」
「どうなってんだ?」
「それを調べるんだろうが!さっさと始めるぞ!」
「「「おっす!!」」」
漁師達が木箱みたいなのを海に投げ入れていってる。
あれは何だ?
【海の探索箱(魔獣用)】
【分類】魔法具
【品質】やや劣化
【詳細】海中に魔獣がいるかどうかを探索する魔法具。
海面に浮かばせて使い、探索範囲内に一定以上の強さの魔獣がいると警鐘を鳴らす。
量産型であるため精度はあまり高くない。
へえ~、あの箱も魔法具なのか。
他にも鑑定してみたら「魚類用」や「毒物用」などがあった。
あれを使って調査するのか。
けど、それも精度はそんなに高くないみたいだ。
「おい、ガキ共!これから調査を始めるが、この辺を縄張りにする魔獣が出てくるかもしれねえ!その時はさっさと倒せよ!」
「言われなくてもっ―――――――!?」
「分かった!その時は任せてくれ!」
俺は慌ててヒューゴの口を塞いだ。
フウ、これ以上依頼人とトラブルを起こしたら危なかったぜ!
「フン!精々大怪我しない事だな!」
「んぐぐ・・・・・・!!」
今のは「無茶はしないでね。」ってとこか。
ヒューゴはそのままの意味で受け取っているみたいだ。
「プハッ!何なんだあのオヤジは!?」
「ヒューゴ、あれでも依頼人なんだからトラブル起こすなって!」
「そうだよお兄ちゃん!口は悪そうだけど、他の漁師さん達には凄く信頼されている良い人みたいなんだからケンカしないで!」
「フン!」
あらら~、やっぱりヒューゴとオッサンは相性が悪そうだな。
いや、もしかしたら同族嫌悪なのかもしれないな。
素直じゃないって点はヒューゴも同じだし。
「とにかく、敵が出るまではとりあえず待機だな。1人は見張りに残るとして、誰かジャンとロルフの様子でも見に行ってくるか?」
「俺が行く!あのオヤジの顔なんかこれ以上見たくもねえ!!」
「あっそ!じゃあ、俺とケビンは甲板で海の監視だな!」
「はい!」
「じゃあ行ってくる!」
ヒューゴは船内へと入っていった。
あれは敵が出るまで中から出てこないかもな。
さてと、俺は海の監視でもするか!
「それにしても、あんな箱で魚が減った理由とか分かるのか?」
「僕は漁師さんも魔法具を持ってるのも知りませんでした。あれってエルナさんも作れるのかな?」
「いや、むしろもっと高性能な魔法具を作ると思うぞ?」
そういえば言っていなかったが、エルナさんは今日も魔法具作りに勤しんでいる。
特に村長の家に設置した水道設備はすぐに村中の評判となって、今も各家に設置する為にエルナさんは頑張ってくれている。
そして作る度にエルナさんのレベルはドンドン上がっているわけだ。
今なら漁師達が使っている魔法具よりも高性能の魔法具を作れるようだな。
「・・・それはそうと、正直暇だな?」
まだ数分しか経ってないが、早くも飽きてきた。
何というか、静かな海というのは思っていたより暇だ。
海にはイルカどころか魚もほとんどいないから余計に暇だ。
警護って、思ったより地味な仕事なんだな?
「僕達も魔法で探索ができれば手伝えたんだけど・・・。」
「魔法・・・・・・あ!」
「え!?」
「忘れてた!そういえばあったな!魔獣とか生物を探索する魔法!」
「あるの!?」
「ああ、俺はあんまり得意じゃないからすっかり忘れてたぜ!」
得意じゃないって言うか、あまり使った事がなかっただけだけどな。
こっちに来てから探索系の魔法は村の農地で《スキャン》を使ったぐらいだ。
ケビンには戦闘系の魔法ばかり教えてきたから忘れてたぜ♪
「え~と、確か・・・《生物探索》!」
久しぶりだから失敗は覚悟の上だ!
って、一発で成功した!?
《生物探索》
【範囲】半径250m
【結果】南南東192m地点の海中に大型魔獣1体の反応あり。
魚類急激に減少中。
今の俺だと探索範囲はこんなものか。
っじゃない!
大型魔獣がすぐそこにいるじゃないか!!
「近くにデカい魔獣がいるぞ!!」
「ええ!?」
俺は魔獣がいる方向を指差した。
ここからじゃ分からないが、きっと深い所で魚とかを食いまくってるんだ。
俺達の乗っている船に気付くのも時間の問題だ。
「何体いるんですか!?」
「1体だ。多分だけど・・・・」
少なくとも俺の探索範囲内に1体いるのは確かだ。
範囲外にもいるかどうかは俺にも分からない。
「あのう!さっきの魔法、僕にも使えますか?」
「―――――ん?そうか、お前ならもっと広範囲を探索できるかもしれないな!」
なんたってケビンは魔法系チートだからな!
俺は簡潔に《ライフサーチ》をケビンに教え・・・る必要あったのか?
ケビンは『賢者の指輪』を装備しているから1度見ただけで習得できるはずだよな。
「―――――――《ライフサーチ》!」
どの道、1発で成功したけどな。
さて、どれくらいの範囲を探索できたんだ?
《生物探索》
【範囲】半径5km
【結果】南南東123mに大型の竜型魔獣1体の反応あり。
西南西290mに大型の軟体型魔獣1体の反応あり。
東311mに大型の水棲類型魔獣1体の反応あり。
東南東909mに大型の水棲型魔獣6体の反応あり。
南南東1300m・・・・・・etc
探索範囲広っ!
いや、それよりもこの船の近くだけでもかなりの数の大型魔獣がいるだと!?
しかもドラゴンが混ざっている!
というか、南南東にいる奴、もしかしなくてもこっちに近づいてる!?
「ど、どうしよう・・・・!?」
「ケビン、すぐにヒューゴ達を呼んで来い!大至急だ!!」
「は、はい!!」
ケビンは慌てながら船内へと走っていった。
俺も謎の剣を抜いて戦闘準備に入る。
さっきまで暇だとか考えていた俺が恥ずかしい。
ここって、思いっきり危険の巣窟じゃないか!
と、そこに漁師のオッサンがやってきた。
俺達が慌てているのに気付いたらしい。
「おい!お前ら何を慌てているんだ?」
「―――――オッ・・・・マグロさん、こっちにデカい魔獣が接近してきてるぜ!しかも、竜種!」
「――――――――――――!?」
「それに、他にもこの船の近くに大型の魔獣がたくさん生息してるぞ!」
「ば、馬鹿な事を言うんじゃねえ!探索箱はまだひとつも・・・・・」
漁師のオッサンは反論しようとしたが、その言葉は最後まで続かなかった。
『ギャォォォォォォォォォォォォォォォォ!!』
船から数十m離れた海上に、本当にデカいドラゴンが出てきた。
デカ!ファイヤードレイクよりデカいぞあれ!?
姿は蛇みたいに細長いけど、頭部はどう見ても肉食系だし額から剣みたいな角が生えている!
メガシード〇〇ンみたいだ。
「ま、魔獣だと・・・!?」
「親っさん、竜種だ!」
「というか、上位種だ!!」
漁師の皆さんも驚きを隠せず慌てだした。
上位種?
それってつまり、ファイヤードレイクより格上ってことかよ!
とにかく鑑定だ!
【ディープブルーキングドラゴン ♂】
【分類】竜型魔獣
【用途】皮・鱗は防具の素材、角・骨は武器の素材、内臓は薬の素材・・・・etc
【詳細】ダーナ大陸の南の海に生息する竜種の中では最強の竜種。
水圧に耐え、深海での活動が可能な体は水属性の攻撃を悉く無効化する。
視力が高く、また、超音波で遠くの獲物や障害物を発見する能力に秀でている。
食欲が旺盛で繁殖期になるとその海域にいる魚のほとんどを食べ尽くしてしまう。
1日のほとんどを深海で過ごすが、10~20年に1度の繁殖期になると海面近くまでやってくる。
総合的な強さは個体にもよるが、多くが竜種の中でも上の下である。
とんでもなくヤバそうじゃん!
思いっきりボスキャラ、海の主っぽいじゃん!
情報から察すると、どうやら今が繁殖期のようだな。
それで魚が急に減少したのか。
「まさか・・・・あれは南海の最強竜か!?」
漁師のオッサンもあのドラゴンの事を知っているようだな。
「親っさん!このままじゃ・・・・・・!」
「――――落ち着け!すぐに船を出せ!」
「無理っす!追いつかれるっす!」
漁師さん達は急いで船を出そうとするが、それよりも早くドラゴンが接近してくる。
こうなったら俺が先制攻撃を――――――――――
――――――ビィ~~~~~!ビィ~~~~~!ビィ~~~~~!・・・・・・
その時、船の周囲を漂っていた探索用の魔法具が一斉に警鐘を鳴らし始めた。
マグロさんは海の魔獣にちょっと詳しいみたいです。