第50話 ボーナス屋、海に出る
――ファルの森――
俺はコッコくんと一緒にファルの森に来た。
目的はコッコくんのレベル上げだ。
『ゴケッ!』
死んだ魔獣の上で誇らしく鳴くコッコくん!
実験を兼ねてやってみたんだけど、結果から言うと大成功(?)だった。
「コッコくん、どんどん強くなっていくな・・・。」
最初は野ウサギ、次は小型の魔獣と段々強い相手と戦わせてみたところ、あっという間にレベルが20になった。
キングな鶏だからなのか、それとも動物だからなのかは不明だが、どうやらコッコくんの成長速度は人間よりも早いらしい。
最初は俺がほとんど助けていったのに、今は単独で小型魔獣を倒してしまった。
しかも、レベルが上がる毎に全体のサイズが大きくなっている。
一応ステータスを確認したが、やはり魔獣ではなく鶏だった。
コッコくん、もしかしなくても最強の鶏になってないか?
「コッコくん、そろそろ帰るか?」
『ゴケ!』
その日はあまり深く考えずに村へと戻った。
なお、コッコくんの職業にはいつの間にか“鶏王”と“軍鶏”が増えていた。
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――港町ヴァール近郊の街道――
2日が経った。
あれから俺はコッコくんと森には行っていない。
替わりにヒューゴ達と狩りや採取、つまり冒険者稼業をしながらレベル上げをしている。
言い忘れたが、俺達『ビッグウイング』はEランクに昇格している。
最近はゴタゴタしていてギルドに行くのは《転移》の使えるケビンが中心だ。
ヒューゴ達の家族が奴隷から解放されてからは、ヒューゴ達は依頼を受けるペースを下げて家族と過ごす時間を増やしていた。
けど、もうすぐ村に敵が来ると知ったあいつらはさらに強くなろうと気を引き締めなおしたのだ。
なお、ヒューゴ達にムリアスの件をバラしたのはバカ皇子だ。
バカ皇子、余計な事を言いやがって・・・。
それはさておき、今日も俺達は戦っている!
『シャァァァァァァァァァ!!』
本日の敵はビックサイズのアナコンダ!
先日からヴァール近辺に出没するようになった蛇型魔獣の親玉だ!
「行ったぞ!!」
地表を滑るように高速で動く巨大蛇に、俺達も最初は苦戦していた。
だが、ロルフの補助魔法で動体視力や瞬発力を強化した後はかなり楽勝だった。
「捉えた!《炎の柱》!」
『シャァァァァァァァァァァァ!!』
「今だ!」
「いくぜ、ヒューゴ!」
俺の放った魔法が巨大蛇の頭部を丸焼きにし、動きが止まったところにヒューゴとジャンが斬りかかる。
頭部と胴体を斬られ、蛇の親玉は絶命した。
「よ~~~し!これで依頼完了だな!」
「じゃ、早速ギルドに報告に行こうぜ!」
「あ、蛇は買い取って貰うから収納頼んだぞケビン!」
「うん!」
辺りにに散らばっている沢山の蛇型魔獣の死体を回収し、俺達はギルドへと戻った。
ちなみに、親玉以外にも蛇型魔獣は軽く100体以上いた。
ま、今の俺達の敵じゃなかったけどな♪
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――港町ヴァール 冒険者ギルド――
「――――――――ケ、ケーニッヒシュランゲの頭部ですね、確認しました。」
ギルドに戻った俺達は、受付で討伐証明である巨大蛇の頭を見せて依頼を達成させた。
何だか妙に驚いているから訊いたみたら、どうやら今回の依頼、本当は親玉巨大蛇の子分達の討伐依頼だったらしい。
親玉巨大蛇がいるとはギルド側も知らなかったらしい。
俺達が依頼を受けた時点ではDランクだったが、本来はCランク以上の依頼だったらしい。
ま、倒しちゃったものはしょうがないよな?
ちなみに、ドラゴンの討伐依頼は最低でもCランク、それもソロじゃなくパーティじゃないと受けられない依頼だそうだ。
俺達が倒しまくったファイヤードレイクは子供だとB~Aランク、成体だと間違いなくSランク以上の冒険者しか討伐できないレベルらしい。
俺達、ザックザック狩りまくったんだけど・・・・。
「―――――それでは、今回の依頼の報酬です。ケーニッヒシュランゲの分の追加報酬も加わっているのでご確認ください。」
「よし!」
報酬を受け取り、次は買取所で蛇の素材を買い取って貰った。
巨大蛇と子分蛇、全部合わせて1300万Dで売れた。
状態が良ければもっと高かったらしいけど充分な値段だ。
買い取りも終え、俺達は次の依頼を選ぶために掲示板の前に来ている。
「う~~ん、次も討伐依頼にするか?」
「けど、Eランクじゃ大物の討伐は受けられないぜ?」
「やっぱ、何時もみたいに採取しながら近くの魔獣を狩っていった方がいいんじゃないか?」
俺はEランクやひとつ上のDランクの依頼を見ていくが目ぼしいのは中々ない。
まあ、当たり前なんだけどな。
「・・・・お兄ちゃん、この依頼って・・・・。」
「ん?いいのがあったのか、ケビン?」
不意にケビンが1枚の依頼書を指差しながら何かを呟き始めた。
何々・・・・?
【依頼名】魔獣の生態調査
【ランク】E
【期限】募集開始日より10日以内
【内容】最近、大陸中の山や森に生息する竜種の数が急に減少し始めたとの報告あり。
中には主が居なくなった事による魔獣の縄張り争いが激化している。
以上のことから、各ギルドの担当地域の魔獣の生態に異変が起きていないか調査してほしい。
*報告内容により報酬に変動あり。
【報酬】20,000D~
「「「・・・・・・・・・・・。」」」
うわあ、俺達原因知っているかも・・・。
ドラゴンの数が減ったって、それ間違いなく俺達が原因だよ。
狩って狩って狩りまくったからな~~~~。
「何だか騒ぎになってきたな。」
「つーか、俺らが竜種を狩りまくったのって最近だろ?そんなに早く数が減ったってわかるもんなのか?」
「そういやそうだな?俺達以外にもドラゴン狩りまくってる奴がいるのかもな。」
考えられるとしたらムリアスの勇者だろうな。
帝国と王国の兵士だけじゃなく、ドラゴンも虐殺しまくっている可能性はある。
けど、銀耀とルチオの話だとあいつらが召喚されたのはつい最近なんだよな~。
もしかした、更に他にも勇者がいるのか?
「あ!おい、ちょっとこの依頼も見てみろよ!」
「どうした?」
ジャンも1枚の依頼書を指差した。
今度は何だ?
【依頼名】謎の竜種の調査
【ランク】D
【期限】無期限
【内容】最近、アンデクス伯爵領にて銀色の竜種が目撃されている。
新種の竜種の可能性あり。
目撃証言を集め、何所を縄張りにしているか調査してほしい。
なお、稀少種可能性もあるので討伐は可能な限り避けてほしい。
【報酬】3,5000D
「「「・・・・・・・・・・・・」」」
うわあ、こっちも心当たりあるよ。
というか、絶対アイツの事だ!
新種のドラゴンだと思われてるよ!
「ま、まあ、あいつらならその辺の冒険者に襲われても返り討ちだろうから平気だろ!」
「だ、だよな!」
「・・・俺、一度雲の上に放り出された事があるぜ。」
「ロルフ・・・。」
俺の知らない所で何があったんだ?
まあいいや。
それより、何か良さそうな依頼はないかな~~~?
お!これなんかどうだ?
【依頼名】《急募》ヴァール近海調査の警護
【ランク】D
【期限】本日中
【内容】最近、ヴァール近海での漁獲量が減少している。
原因究明の為に調査船を出したいので警護してくれる者を募集している。
魔獣と遭遇する可能性あり。
ソロではなく、3名以上のパーティを希望する。
【報酬】50,000D
依頼主は『ヴァール漁業協同組合』か。
この世界にも漁協ってあったんだな。
そういえば、この世界に来てから魚介類はほとんど食べないな。
それに海に生息する魔獣にも遭遇した事はないし、少し興味もある。
「なあ、この依頼にしてみないか?」
「船の警護か。俺は別にいいけど、お前らはどうだ?」
「僕もそれでいいよ!」
「ジャンはカナヅチじゃなかったか?」
「も、もう大丈夫だ!!」
へえ、ジャンって元カナヅチだったのか。
今はどうかは怪しいけど・・・。
とにかく、全員の同意は取ったから受付に持っていこうっと♪
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――港町ヴァール 漁港――
という訳で漁港だ!
受付で依頼人との待ち合わせ場所を聞いてやってきたら、そこにあったのはデカい漁船!
漁船と言うよりは貿易船に見えるな。
「何だ、護衛の冒険者が来るっていうから来てみたらガキばっかじゃねえか?」
船の前で待っていたのは顔に傷痕のある嫌な感じの漁師さんだった。
何だかあからさまに不満そうな顔をしている。
「まあいい、精々調査の邪魔だけはするんじゃねえぞ!こっちは金払ってやってるんだからな!」
「――――んだとぉ!?」
「お兄ちゃん、落ち着いて!!」
超上から目線の漁師のオッサンにヒューゴはキレ気味だ。
ジャンやロルフもあと一言でキレそうな感じだ。
俺もちょっと不愉快だが、こういう人はテンプレ的にギャグキャラだったりするんだよな。
「海の上に逃げ場はないから嫌なら帰れ!死んでもいいならさっさと乗りな!」
「フン!」
ヒューゴの中では漁師のオッサンの好感度は急降下中だな。
そして漁師のオッサンが船に乗ってその後にヒューゴ達が順番に乗っていく。
俺は最後に乗って、ちょっと気になったから漁師のオッサンのステータスを見てみた。
【名前】マグロ
【年齢】51 【種族】人間
【職業】漁師 【クラス】ツンデレ漁師 悔いる男
【属性】メイン:風 水 サブ:土 木 氷 雷 時
【魔力】3,800/ 3,800
【状態】アル中(小)
【能力】剣術(Lv1) 槍術(Lv1) 体術(Lv1) 盾術(Lv1)
【加護・補正】物理耐性(Lv3) 精神耐性(Lv1) 毒耐性(Lv2) 麻痺耐性(Lv2) 海の男
【BP】209pt
ツンデレ・・・。
それにアル中か・・・。
予想通り、お約束的なキャラだったか。
能力は全体的に普通って感じだけど、『悔いる男』って何だ?
実は~~な過去が、とかありあそうだ。
つーか、名前がマグロで漁師って・・・。
「行くぞお前ら!!」
「「「おっす!!」」」
漁師のオッサンが声を上げ、他に乗っていた若い漁師達が錨を上げて船は動き始めた。
そういえば俺、船に乗るのは初めてだったっな。
コッコくん、きっとこれから大活躍してくれる・・・かもしれません。