第48話 ボーナス屋、ビックリする
騎士団の連中と一旦別れ、入浴を終えたオッサン達と合流した俺は村長の家へと向かった。
奥さんとクリスティーナちゃん、温泉に入って色々スッキリしたみたいだな?
肌はスベスベ、髪はサラサラ、奥さんなんか外見年齢が明らかに変わってる気がするんだよな?
あの温泉、マジで神様の加護とかあるんじゃないのか?
いや、それどころかファル村のあるこの土地そのものが不思議な加護とかあるかもしれないな。
豚や鶏といい、温泉といい、何かあるような気がするんだよな。
村の人達に訊いても詳しい事は知らないみたいだけど、こういうのって漫画とかだと絶対に何かがあるフラグなんだよな~。
訳アリの土地の地下に古代遺跡があるとか、何かが封印されているとかってお約束だし・・・。
まあ、今は気にしても仕方ないよな。
「フフフ、まるで生まれ変わった気分です♡」
「私のクリスティーナがまた一段と綺麗になってしまった!将来がさらに大変だ!」
「お父様も臭わないです!」
オッサンは相変わらず親バカ全開だな。
クリスティーナちゃんの声は都合よく聞いてないみたいだ。
近くだと臭ってたのか。
「あ、伯爵様!」
村長の家の前まで来ると、そこには服の袖で汗を拭くエルナさんがいた。
一緒にいるのは村長?
「これはエルナ嬢、魔法具の改良は終わったのか?」
「ハイ!シロウさんのお陰でたくさんの魔法具を作れました!」
・・・たくさん?
あの額縁通信機以外にも何か作ったのか?
「ほお!早速成果をあげているようだな。それで、何を作ったのだ?」
「遠距離を一瞬で移動できる魔法具です!」
はい?
今、なんて言った?
「具体的にはどのような魔法具なのだ?」
「実際に見てもらえるとわかります。こちらに来てください。」
俺達は村長の家の庭に移動した。
そこには石でできた四角い台座があり、真ん中には円形状の光があった。
目を凝らせば光が渦巻いているようにも見えるな?
何だか、某人気ゲームの“あれ”に似てるな。
「この台座の中心に入れば、一瞬で伯爵様のお屋敷に行けます。お屋敷の方にも同じ物を設置してありますので、お屋敷からココに戻ることもできます。」
「それはスゴイ!早速試させてもらおうか!」
オッサンは迷わず台座の上に上がった。
そして消えた!
「あなた!?」
「お父様!」
奥さんとクリスティーナちゃんが驚きの声を上げる
すると、すぐにオッサンが同じ場所に現れた。
「おお!本当に戻ってきたぞ!」
「あなた!無事ですの!?」
「ああ、それより凄いぞ!本当に我が屋敷にまで移動できたぞ!」
どうやら本当に移動できるらしい。
こんな短時間で作るなんて、エルナさんマジ天才!
「けどこの台座、屋敷側の方はどうやって設置したんだ?」
「村長様にお願いしました。」
ああ、なるほど。
村長はボーナスで空属性とそれに関する知識を取得してるから《空間転移》が使えるんだった。
ロビンくんに知識を伝授したのも村長だしな。
「エルナ殿に頼まれて協力したのですが、私自身も面白くてつい熱が入ってしまいました。向こうで久しぶりにヘンリク殿にも会えましたしな。」
「村長様には本当にお世話になりました。村長様の魔力が無ければ、この魔法具は起動させることができませんでいした。それに私の知らない魔法体系に関する基礎知識に効率の良い魔―――――――――――」
あ~~、何かエルナさんが難しい話を語り始めちゃったな。
これはかなり長くなりそうだ。
何とか話を逸らさないと日が暮れてしまいそうだ。
「それでエルナさん、他には何か作ったのか?」
「―――――――あ、すみません、勝手に話を進めてしまって!他に作った物ですね!他には照明用の魔法具、食べ物を冷やして保存する魔法具、地下から水を汲み上げる魔法具、普通の錠前よりも壊されにくい鍵の魔法具、冷たい風を出す魔法具などを作りました。」
「ほう、どれも便利そうな魔法具だな。見せてもらえるかな、エルナ嬢?」
「はい、こちらです!」
そして見たのは、オール電化ならぬオール魔化となった村長の家だった。
台所には蛇口に似た物があり、そこから地下水が直接流れてきている。
そのすぐ近くには木でできた箱・・・どう見ても冷蔵庫だな。
中を開けると、2段構造でしかも冷凍庫付き!!
よく見れば竈も改造されてないか?
「エルナ嬢、竈も随分と変わっているようだが?」
「これは竈の中に火を蓄えられるようにしてあります。一度たくさんの火を蓄えておけば、後から適量の火を火力を調整して使えるようにしています。」
「ほう、それは便利だな!」
つまり火のバッテリーが入ってるわけか。
きっと冷蔵庫モドキも、冷気を蓄えられる作りになってるんだろう。
そして俺の予想はすぐに正しい事が分かった。
「―――――――これらの魔法具は、元々私が帝都にいた時に構想していた魔法具なんです。学院では『人工魔石の精製』と『魔法や自然現象の長期保存』を研究していたのですが、私には構想を練って設計する才能はあっても、直接作る才能はなかったので、どれも机上の空論だったんです。」
「それが、シロウから貰ったボーナスで実現したというわけか。」
さらに話を聞いていくと、エルナさんは学生時代にたくさんの魔法具を設計していったが、その多くを所属していた研究室の博士に奪われてしまっていたらしい。
出世欲の強いそのゲス博士に研究成果を奪われる中、今回使った火や魔力を充電する技術だけはどうにか守り抜いたらしい。
どの世界にも、そういう連中はいるようだな。
ちなみに、ゲス博士に奪われた研究は『魔法の才能が無くても、道具を介して魔法を使う』という技術の構想を書いた論文らしく、現在、帝国の軍内部で実用化しようとしているようだ。
「昔話になってしまいましたね。では、他の魔法具をお見せします。
そして俺達は台所から今へと移動した。
すると、そこは夏なのにヒンヤリとした空気に満ちていた。
「おお!」
「お父様、この部屋とても涼しいです!」
「この部屋の壁には空気中の湿気を吸収しながら涼しい風を出す魔法具を設置しました。風の強さや冷たさはある程度調整できるようになっています。」
凄いな。
この世界に来てから冷房とは無縁の生活をしてたけど、まさか魔法具で似たような環境を作れるとは思ってなかったぜ!
「そして天井には照明用の魔法具を設置しました。」
「ほう、油や蝋燭は使わなくても明かりが点くのか?」
「はい。他の魔法具同様、定期的に魔力を蓄えれば何時までも使う事が出来ます。」
エルナさんの話だと、どの魔法具にも魔力の属性を変換する仕掛けが施されているらしい。
俺にはよく分からないけど、それを聞いたオッサンは随分驚いていたな。
もしかして俺、この世界の未来の発明王とお知り合いになっちゃったのか?
そんな事を考えながら、俺達はその後もエルナさんに次々と魔法具を見せてもらった。
村長の家の鍵も魔法具に取り換えられ、物理的には無理矢理開ける事はまず不可能、しかも無理矢理開けようとすれば魔法が発動して凄い事になるらしい。
何が起きるんだ?
「・・・それにしても、よく短時間でこれだけの物を作る事ができたな?」
「確かに・・・手伝う者がいたとしても、これだけの数を作るのは楽ではないはずではないか?」
「そうなんです!不思議なんですけど、作れば作るほど何だか頭が冴える様な・・・それに力が湧いてくるような気がするんです!」
作れば作るほど・・・?
エルナさんにそんな補正とかってあったか?
とりあえず、ステータスを確認してみるか。
【名前】エルナ=シュナイダー
【年齢】22 【種族】人間
【職業】魔法具職人(Lv11) 錬金術師(Lv6) 魔法使い(Lv2) 【クラス】天才職人
【属性】メイン:水 氷 風 サブ:土 雷 時 空
【魔力】4,800/16,000
【状態】正常
【能力】攻撃魔法(Lv1) 防御魔法(Lv1) 補助魔法(Lv4) 特殊魔法(Lv2) 剣術(Lv1) 体術(Lv1) 弓術(Lv1) 調合術(Lv1) 錬金術(Lv5) 鑑定
【加護・補正】物理耐性(Lv1) 魔法耐性(Lv3) 精神耐性(Lv2) 水属性耐性(Lv2) 氷属性耐性(Lv2) 風属性耐性(Lv2) 健康眼 発明神テウタロスの加護 職業補正 職業レベル補正
【BP】17pt
早っ!!
レベル上がるの早っ!!
たった数時間だけでレベルが10も上がってるよ!
“錬金術師”も5も上がってる・・・“魔法使い”は1だけか。
あ、【クラス】が『天才職人』に変わってるな。
しかし、魔法具作っただけでこれだけレベルが上昇って、一週間後はどうなっているか想像できないな。
チート魔法具職人、ここに誕生・・・・か?
ちなみに職業ごとの補正は以下の通りだ。
【魔法具職人(Lv11)】
知力小上昇 器用微上昇 経験値微上昇
【錬金術師(Lv6)】
知力微上昇 器用微上昇 魔力成長率微上昇
【魔法使い(Lv2)】
知力微上昇 魔法効果微上昇 魔力回復力微上昇
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バカ皇子やロビンくん達が帰ってきたのは夕方近くだった。
何だか随分とボロボロで、バカ皇子なんか一瞬だけど別人じゃないかと思ってしまった。
あ、後ろにステラちゃん達も一緒にいるな?
「ただいま戻りました。」
「おかえり~~~♪今日は何所に行ってたんだ?」
「今日、と言うよりここ数日は皇子とレベルを上げに行ってます。例の扉を通った先で魔獣と戦っていたんですが、竜種の生存競争に巻き込まれたりして帰るのが遅くなりました。」
「ハハハハ!俺には丁度いい試練だったがな!」
うん、バカ皇子は今日もバカだったようだ。
「それより、何だかたくさんの客人がいるようですが・・・・・。」
「ああ、今領主のオッサンが来ていて――――――――――――――」
村を見回すロビンくんに、俺はカクカクシカシカと簡潔に説明した。
すると、タイミングよくヒューゴ達がチビ皇子を連れてやってきた。
「にぃに~~~~!」
「おお!そこにいるのは―――――――――!?」
バカ皇子は飛び出していった。
うわあ、予想を裏切らない反応だな。
あ、ヒューゴ達も一緒に抱きしめられた!
うわあ、ルドルフ以外はあからさまに嫌がってるぞ。
そういえばヒューゴの奴、あの(ドラゴンの)卵はどうしたんだ?
食ったのか?
「おい!見てないで助けろ!!」
「うおぉぉぉ!!今日から一緒だぞルドルフ~~~!!」
「あい、にぃしゃあ。」
ちょっと面白いからもう少し見ておくか?
「・・・兄上があんなのではなくて、本当に良かった。」
「ですね、姫様。」
それを見ていたステラちゃんは、心の底からの本音を呟いていた。
俺もあんな兄貴はゴメンだな。
その後、俺達の予想通り、バカ皇子はルドルフの受け入れを迷わず賛成した。
一緒にその場にいたロビンくんは嬉しい反面、深くため息を吐きたくなる心情だったのだった。
その日の夕食時、その日は領主一家を歓迎するという名目での屋外パーティになった。
パーティと言っても、外にテーブルを置いて、そこに料理を並べただけだけどな。
それでも並べられた料理には俺が村で広めた料理、具体的にはコロッケやフライ、唐揚げにフライドポテトやグラタンなどがずらりと並んでいた。
デザートにはプリンやアイスクリーム、ケーキもある。
「では、ファル村の繁栄を祈り、乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
オッサンの音頭で全員が酒やジュースの入った木製のジョッキを掲げて叫んだ。
その中にはステラちゃんを始めとする王国勢もいる。
最初、さすがに騎士団の連中は動揺していたが、オッサンがいろいろ言ってくれたおかげでトラブルは起きていない。
「うまいぞ!何だこの料理は!?」
「こんな料理、貴族の俺達だって食べたことがないぞ!!」
「肉!肉!肉!」
「まあ、デザートも美味しそう♪」
異世界料理は大好評だ!
ガチャで落ち込んでいた連中もスッカリ元気になってる。
うん、変な空気とか漂わなくて良かったぜ!
「あ!菓子をくれた兄ちゃん!」
「ん?」
聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返ると、そこには皿一杯にポテトを盛ったアールがいた。
ああ、そういえばこいつらも来てたんだった。
「よっ!元気そうだな?」
「兄ちゃん、お菓子!」
「いきなりそれか!」
まあ、少しなら持ってるからあげるけど。
「~~~♪」
「アール、お前も今日からここに住むんだってな?」
「そうだよ♪」
クッキーとポテトを交互に食べながら答えるアール。
この食べ合わせは大丈夫なのか?
「昼間はどこにいたんだ?(オッサン一家と)村を回ってたけど、お前達の姿は見なかったぞ?」
そう、オッサン達に村を案内している間はアールだけじゃなくトーイやノエル達の姿は見かけなかった。
ルドルフだけはあちこちでヨチヨチ歩く姿をみたんだけどな。
一体、どこにいたんだ?
まさか、いつかのマイカ達みたいに森に入っていったのか?
などと俺が考えていると、ゴクンと口の中の物を飲み込んだアールはどこかを指さしながら答えていった。
「それは――――――――」
それを聞いた俺は「ハア!?」と間抜けな声を漏らした。
その後、領主一家は転移で屋敷に帰りました。