第3話 ボーナス屋、消火する
村の帝国側の端まで来ると、そこには大勢の帝国兵が国旗を掲げて村の入り口の前に集まっていた。
その先頭には、あからさまに王族っぽい感じの派手な鎧を着た男が馬に乗っていた。
とりあえず、《ステータス》を使ってみる。
【名前】ヴィルヘルム=O=ファリアス
【年齢】18 【種族】人間
【職業】皇子 【クラス】暴走皇子
【属性】メイン:火 雷 サブ:光 風 時
【魔力】10,800/10,800
【状態】正常
【能力】攻撃魔法(Lv2) 補助魔法(Lv3) 剣術(Lv2) 投擲(Lv2)
【加護・補正】魔法耐性(Lv2) 全属性耐性(Lv2) 鍛冶神ゴヴニュの加護
やっぱりプリンスだったか・・・・・。
しかし、「暴れん坊王女」に続いて「暴走皇子」って、大丈夫なのかこの世界は?
それに、《全属性耐性》は凄いが、《鍛冶神の加護》って、鍛冶師に転職した方がいいんじゃないのか?
「ハハハハ、我が名はヴィルヘルム=O=ファリアス!ファリアス帝国第1皇子にして、次期皇帝となる男だ!ここに敵国の王女が潜んでいると聞いてやって来た!村人達よ、憎むべき敵国の王女の居場所を言いたまえ!」
―――――――――――バカ皇子だ。
あれだ、俺の知ってるバカとは別物のバカ皇族だ。
「これはこれは、こんな村に皇子様が来てくださるとはの~~~。私はこの村の村長をしています、ロンと言うしがない年寄でございます~~~。確かに、村には隣国の王女と兵達が拘束されておりましてな、どうすればいいのか迷っていたところなんですじゃ~~~。」
村長、語尾は伸ばすのが癖なのか?
あ、バカ皇子がめっちゃ喜んでいる。
「おお、そうか!すでに敵は全員捕まっていたか!よし、お前達、すぐに王女を引き渡すのだ!それ以外は・・・うん、ここで処刑だ!」
「「「ハッ!!」」」
おい!今よく考えないで言っただろ!?
それにここで処刑って、村が血の海になるぞ!?
って、バカ皇子どもが勝手に村の中に入って来た!!
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そして、地面に埋まったステラちゃんとバカ皇子が出会った。
「プッ!な、何だその恰好は!?ハハハハハ、『戦姫』と名高いステラ王女の姿とは思えないな?」
「く・・・・!ヴィルヘルム・・・・・!!」
ああ、ステラちゃんが別の意味で真っ赤になってる。
それにしても、帝国は何でこんな重要な事にバカ皇子を出してきたんだ?失敗する事を考えてなかったのか?
明らかに指揮官向きじゃないだろ!?
やっぱ、考えてみれば俺が来てからの状況はおかし過ぎる。
王国の襲来は別に不自然じゃない。分かっていたからアンナちゃんは俺を召喚された訳だからな。
けど、極秘っぽい作戦の割にタイミングよく帝国も皇子が、しかもバカ皇子が来るっておかしくないか?
「殿下、王国兵は全て埋まっていて動かせません!」
「よし!じゃあ、そのまま処刑だ!」
よし!じゃねえよ!
何だこのバカ皇子!?何でこんなに兵を連れてこられたんだ?誰が許可した!?
俺がいろいろ悩んでいると、不意に帝国兵の方から強い魔力の気配がした。
「――――――――《大地を囲む劫火》!!」
その声が聞こえた直後、村が灼熱の炎の壁に囲まれた。
「「「――――――――――――――!?」」」
帝国兵と王国兵、両方が突然の出来事に絶句する。
何だ?どっちかの作戦とかじゃないのか?
って、その前にこのままじゃ村が全焼するだろ!!俺達もウエルダンだよ!!
「何だ!?王国の仕業か!?」
「知らん!帝国の策略ではないのか!?」
バカ皇子とステラちゃんも困惑している。
あ、こういうのって漫画とかでよくある展開だな。
「ゆ、勇者様!一体これは・・・・・・!?」
「・・・アンナちゃん、どうやら俺達は帝国か王国の皇位(王位)争いに巻き込まれたようだぜ?」
「え?どう言う事ですか!?」
「待て!貴様、そこの怪しい奴、何を言ってるんだ!?」
「バカ皇子は黙ってろ!」
「何!?」
「――――プッ!」
あ、ステラちゃんが笑った!可愛いな♪
俺はステラちゃんに質問をしてみる。
「聞くけどステラちゃん、ステラちゃん達は極秘の作戦でこの村に来たんだろ?そこの甲冑1が暴露しちゃったけど?」
「甲冑1とは俺の――――――」
「お前は黙っていろ!そうだ、王国に潜ませていた諜報員からこの地域の守備が甘くなっていると情報が入ってきたのだ。・・・名は言えんが、ある者の提案した作戦の元でやって来たのだ。」
うわ!なんかあからさまにキナ臭い気がするな・・・・・。
「で、バカ皇子もステラちゃんが兵を引き連れてくるって、誰かに言われて同じように兵を率いて来たんだろ?大方、バカで皇帝の印象が悪いから手柄をたてようとか考えて?」
「ぐっ・・・・・・・・!!」
「――――――まさか!?」
あ、ステラちゃんは勘付いたようだな。
「結論から言うと、どっかの黒幕が2人を一緒に暗殺しようと企んでいたんだぜ?きっと、どっちの国でも2人の兄弟姉妹の誰かを唆してさ!『成功すれば次の皇帝(国王)はあなたのものです!』とか言ってさ、うまく利用してるんじゃないのか?死んだ後は『相打ちで死んだ』とでも言って誤魔化してさ。もしかしたら、どっちも既に死亡扱いになってるかもな!」
「バカな・・・・!?この第1皇子の俺が・・・・!?ありえん、これは王国の陰謀だ!!」
「それはないんじゃないか?これって、どっちの国にも上層部に黒幕側の人間がいないと成立しないし、王国側の陰謀にしてはステラちゃんと一緒に失うのがバカ皇子じゃいくらなんでも大損だろ?それよりも、第3の勢力が帝国と王国の両方で暗躍している方が現実的だろ?」
まあ、両者が遭遇するタイミングが良すぎるしな。
「う・・・・・・!」
「―――――――確かに、王国内でも不穏分子の存在は噂されていたな。そうだな、フィリス?」
「はい、少なくとも上層部しか知らない情報が外部に漏れていたのは疑いようがありません。帝国側でも似たような状況にあるという情報もあります。」
「バ・・・・バカな!?」
俺も漫画とか参考にして言っただけだけど、当たってるっぽいな?
しかし、誰が・・・・・・?普通に考えれば別の国だろうけど、さっき聞こえた魔法は何となく俺の魔法と同体系ぽかったし、もしかして――――――?
「・・・・もしかして、異世界人とか?」
「――――え、勇者様?」
半分冗談のつもりで言った直後、俺の考えを肯定する声が聞こえてきた。
「――――――――――――大正解だ!」
声は民家の屋根の上から聞こえてきた。
俺達は揃って屋根の上に立つ、帝国兵の格好をした男を見た。
「お前――――――――――」
「貴様、そこで何をしている!?」
おい、邪魔だぞバカ皇子!!
「バカ皇子は黙ってな、俺はそこの勇者君に話があるんだからさ?」
「なっ・・・・・!」
俺以外からも馬鹿と呼ばれてるとは・・・・。
しかしこの展開、もしかしてアイツらから聞いていた“あの組織”か?
「なあ、もしかして『創世の蛇』なのか?」
「そうだ!」
「あ、答えるんだ?」
「今更隠す必要もないからな。大体はお前の予想通りだぜ?俺達はそこのバカ皇子の弟と、そこの王女の姉を唆して今回の暗殺計画を遂行した訳だ。まあ、主な目的は王国の主力にもなる第2王女とその一派の全滅と、帝国側の不要な人材の一斉処分だけどな。もちろん、そこのバカ皇子も含めてだ。」
「な、姉上が!?」
ステラちゃんショックみたいだな。
お姉さんが自分を殺そうとしたんだから、そりゃショックだろうな。
しかし、マジでヤバいな、こいつがこの前、俺の世界で“あんな事”をやった組織の一員かよ?
俺は奴のステータスを見てみる。
【名前】『暗躍の烈火』ダニール=ペトロフ
【年齢】32 【種族】人間
【職業】暗殺者 【クラス】異界の暗殺者
【属性】メイン:火 サブ:土 風 闇
【魔力】5,008,000/5,073,000
【状態】正常
【能力】――閲覧不可――
【加護・補正】――閲覧不可――
ゲッ!マジでヤバい!レベルが違いすぎるぜ!
“あいつら”には劣るが、勇者補正の恩恵を受けた俺なんかよりずっと上だ!
ちなみに、〈閲覧不可〉って言うのはステータスの一部を見られない様に細工されてるっとことだ。
って、それよりも火の手が広がってる!村人達もドンドンこっちに避難してくる!
「―――――安心しな、俺の仕事はそいつらが村に入った時点で火を放つだけだ。異世界から来た勇者の暗殺までは仕事に入ってないからな。ここは見逃してやるぜ?」
「あ、見逃すのか?」
マジで!?ここはみんなまとめて殺害じゃないのか?まあ、嬉しいけど。
すると、ダニールは悪意のある笑みで俺達を見下ろしながら続きを話し始めた。
「さっき、モノ好きな上司から連絡がきてな、火を付けたらすぐに戻って来いとさ。どうやら、俺が全員を焼死させる必要がなくなったみたいだぜ?」
「上司って、『幻魔師』って奴か?」
異世界から来た友人から聞いた話だと、十分にあり得そうな敵みたいだからな。
「違うとだけ言っとくぜ。それよりも、お前らは火の海から助かる事だけ考える事だな。ああ、あとそこにいる連中は両国でもすでに死亡したと公式発表しておいたから、助かっても帰る所は何所にもないぜ?偽者も跋扈していると偽情報も撒いておいたからな♪」
「何だと!?」
「貴様!!」
「じゃあ、俺はこれにて失礼ずるぜ。アバよ♪」
そして奴は、瞬間移動みたいに俺達の前から消えていった。
くそ!奴らが何を考えているのかいまいち分からねえけど、今はこの炎を何とかしないと!
「ステラちゃん、どうやらこの火を皆で何とかしないといけないから協力してくれ!」
「――――わかった!」
「そこのバカ皇子もだ!いいな!?」
「ぐ・・・・わかった。」
俺は《土術》でステラちゃん一行を解放すると、みんなで消火にあたった。
だが、既に炎は幾つもの民家を燃やして勢いをさらに増している。
「アンナちゃん!近くに井戸や川はないのか!?」
「ハイ、川は洗濯用に使っている小川が向こうに!井戸もあります!」
「よし!とにかく俺は火の手を土の壁とかで遮るから、水魔法の使える奴は鎮火にあたってくれ!ステラちゃんは兵や村人達の指揮を頼む!」
「了解した!」
「・・・わかった!」
バカ皇子は不満がありそうだが、とにかく全員で消火にあたった。
俺は急いで村の中心部の民家の屋根の上に上って炎に囲まれた村全体を見渡す。
やった事はないが、一か八かだ!
「上手くいけ!!《ロックサークル》!!」
魔力をたくさん込めて魔法を放つと、村のまだ燃えていない部分と炎の間に岩石の壁が出現して村全体を囲んでいく。
高さは取り敢えず10m以上にしたからこれで火の進行は止まるな!
けど、このままだと蒸し焼きになるから火の方を何とか消さないと!
下を見ると、帝国や王国の水魔法使いが魔法で壁の向こうに水を放っているけど、やっぱり焼け石に水だな。俺も《水術》でどうにかできるかもしれないが、それだと熱い蒸気とかありそうだからな・・・・。
あ、そうだ!もっと簡単な手があったぜ!!
「燃えてる物全部沈んでしまえ!《泥沼の檻》、フルスロットル!!」
俺は手加減容赦なく壁の向こう側全体にステラちゃん達を拘束した魔法を放つ。
すると、予想通り燃えている建物が地面にドンドン沈んでいき、蒸気を上げながら炎が次第に小さくなっていく。
考えてみれば当然だよな、燃える物がなくなれば火が小さくなるし、これだと一度に発生する蒸気も少なくて済むし、後は壁をなくして水で鎮火すれば解決だ。
「よし、沈んだら俺も《水術》に切り替えるか!」
俺は井戸や川からの水を操作し、残った火を消していった。
そして、ファル村を襲った炎は1時間後に完全に鎮火したのだった。