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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
結婚とエピローグ編
461/465

第446話 とある異世界のベランダから……

主人公はほぼ登場しません。


――地球世界から遠く離れた辺境の異世界――


 時空の海の最果てに浮かぶ辺境の異世界――――


 あまりに最果てな、時空レベルで秘境的な位置に存在するその世界は全世界を滅ぼそうとした《盟主》ですら無視しており、他世界からの侵略を受けることなく文明を育んできたこの世界は、地球の歴史に当て嵌めれば中世末期から近世初期、「大航海時代」の時期にあたり、海上には多くの帆船が浮かんでいた。


 そしてこの世界に存在する大陸の1つ、人間種を含めた数多の種族が暮らしている「トルアシア大陸」には変わった新興国が存在していた。


 大陸の南東部に位置し、標高の高い北部と南部の熱帯地域を除けば国土の多くが四季のある温暖な気候であり、周囲を山脈に囲まれているお蔭で陸からの侵攻から守られており、海の方も近海に乱立する島々や海流によって艦隊による侵攻を防いでくれていた。

 だが何より、この国を守護する王国軍が他国の侵略を防いでいた。



 『フリューゲル王国』――――

 10年程前に建国されたばかりの新興国でありながら、豊富な資源と高度な技術力により急速的に発展し、その国力は大陸中の国々が無視できないほど膨れ上がり続けていた。


 広大な農地、鉄や銅を始めとした各種金属の大鉱脈、良質な塩が採れる海、年々増加傾向にある優秀な人材、他国が羨むほど恵まれた環境にある国家であるが、この国を建国したのはそれまでの経歴が一切謎に包まれた1組の夫婦だった。


 彼の夫婦は王国が誕生する2年前に風の様に現れ、当時はまだ「金欲しさに雑用にも食いつく傭兵の紛い物」と揶揄される傾向にあった“冒険者”として名乗りを上げ、各地で暴れまわっていた魔物を次々と討伐、稀少な素材も大量に発見して『冒険者組合』の懐を潤し、また、戦争の影響で溢れ返っていた孤児達を弟子として受け入れて教育を施し、その弟子達もメキメキと頭角を現していった。


 そしてある日、大陸東部を支配する大帝国で暗殺されそうになっていた皇帝と皇太子を保護、反乱を起こした貴族連合軍を大魔法の連発で壊滅させ、それに関連して発生していた周辺国の動乱も鎮圧、少数でありながら一騎当千の活躍を見せ、更には各国の復興にも積極的に協力した事で彼らは大陸南東部にある辺境の土地を褒賞として授かり、更には独立国の建国の許可まで得る事が出来たのだった。


 その後はとんとん拍子に進み、最初は夫婦が拾ってきた孤児や難民たちと一緒に未開地を開拓、冒険者をしていた時に築いた人脈をフル活用して職人や商人も集め、最初は中規模の城と小さな街が出来たところで建国を宣言した。


 その後は加速度的に人口が増え、開拓も進んで町や村も次々に出来上がり、現在では最近まで辺境だったことすら信じられなくなるほどの発展を遂げているのだった。







「今日の夕飯(ディナー)は何かな~?」



 ベランダから城下を眺めながら、フリューゲル王国国王タツオ=オオバは鼻歌を口遊むように独り言を呟いていた。


 彼の視線の先にはこの10年弱で急速に発展したこの国の王との光景が広がっていた。


 最初は小さな村の規模だったのが嘘のように都は発展し、人口こそご近所の大帝国の首都には及ばないが、民衆らは誰もが生き生きとした顔で日々を過ごしていた。



「この国も随分と大きくなったな。最初は本当に何も無かった……いや、誰も気付かなかっただけの宝の山だったけどさ」


「あなた?何を独り言を喋っているの?」


「フェリシア」



 独り言を呟くタツオに声をかけるのはこの国の王妃、フェリシア=オオバであった。


 艶やかな金髪を揺らしながら、彼女はベランダに備え付けられているテーブルに自分で淹れたお茶の入ったカップを並べていき、それを見たタツオも「ありがとう」と告げながら椅子に座り、夫婦でティータイムを楽しんでいった。



「王妃がお茶を入れたら周りが卒倒するだろ?」


「それは今更ですし、此処には理解のある人が大勢居るので問題ありません。私よりも、国王が街角でストリートライブをしている方が問題じゃないですか?」


「それも今更だろ。音楽は俺の命だし、この国の魂だ!」


「カルチャーショックが強すぎて、パンデミック並みに流行しましたね。密偵の報告では、西の公国にまで広まってるそうですよ?」


「それは良いことだな♪」



 夫婦水入らずのティータイムを2人はゆっくりと楽しんだ。


 既に本日分の重要な案件はほぼ全て片付けてある。


 何か緊急性の高い事案が発生すれば文官達が扉を蹴破るなり、内線電話(・・・・)を使って報せて来るはずだ。



「ん?そろそろ初等学校は下校時間だな?」


「ええ、子供達もそろそろ帰ってくるはずです。寄り道をしなければ、ですけどね」


「ハハハ!この前はまんまと護衛を撒かれたんだったな!」


「笑い事じゃなありません!あの子達ももう少し王族としての自覚を持たせなければ、後々取り返しの付かない事になります!王族は暗殺・拉致の標的になりやすいのです!」


「確かにな……。けど、昔のお前みたいに、過剰に縛るのも弊害が大きいだろ?」


「それは……確かに一理ありますね。私も小さい頃は色々と……」


「それに、学校で良い仲間に巡り合えるかもしれない。こっちは俺の願望…理想だけどな」


「そうなるといいですね」


「ああ」



 2人は自分達の子供達の歩む未来を想像しながら笑みを浮かべる。


 今は城下にある国営の初等学校で護衛から逃亡しようとしているかもしれない。


 本当はいけない事なのだが、同級生の子供と一緒に城下の街を駆け回って絆を育んでくれていればなと、タツオは王ではなく父親としての願望を思い浮かべていた。


 フリューゲル王国では成人未満の国民の殆どが一定期間の教育を受ける義務が発生しており、これは元々夫妻が冒険者時代に孤児達を教育する為に始めた私塾が基盤になっており、現在では国内の全ての町や村には最低1校は日本の初等教育相当の教育を受ける事ができ、卒業後は希望者は更に高度な教育を受けられる仕組みが出来上がっている。


 建国当初は国民の多くが農民を始めとする平民階級で、子供を労働力として頼るのがこの世界ではまだ当たり前だったので反対意見が多かったが、其処は王妃フェリシアが利益(メリット)を上手に説明したりすることでどうにか受けいられることができ、その後も試行錯誤もあったが、現在では農民の子供が王城に仕官できたりと、教育改革の成果は着々と出始めている。


 国王夫妻の子供達も2人の希望もあり、城下の子供達と共に同じ学び舎で勉強をしている。


 まだ歴史が浅い新興国だからこそ可能なことかもしれない。



「あれからもう10年以上になるのか……」


「そうですね。この世界に来た時(・・・・・・・・)は、本当に大変でした。右も左もわからず、私はあなたがいなかったら奴隷になっていたかもしれません」


21世紀(・・・・)から400年くらいタイムスリップした気分だったからな。しかも最初に立っていたのが戦争直前の国だったし、風土病も流行してたしな」


「自分達がどれだけ豊かな場所で生きてたか身に染みて解ったよな。あと、音楽の大切さも」


「娯楽が壊滅的に少なかったですしね」



 子供達の成長を思う内に、2人はこの世界に転生した(・・・・・・・・・)ばかりの頃の事を次第に思い出していった。


 前世の世界で命を落とし、この異世界の地で第2の人生を与えられたばかりの頃を。



「まあ、それ以前にお前は精神がかなり危なかったよな。あの時ばかりは、俺は本気で奴らを殲滅しようかと思う位の殺意が湧いたよ。今でも実行犯を半殺しにはしたいとは思ってるけど」


「私も……事故で死んだと思ったら、事故じゃなくて()災だなんて誰も思わないですよ。特に私の故郷の人達は」


「敬虔な神の信徒が、神の夫婦喧嘩の巻き添えで死んだとかだからな。宗教の違い以前に、神が夫婦喧嘩で人間を死なせるなんて発想は普通の人はしないだろう」


「……だけど起きたんですよね」


「ああ、それも常習犯によってな」



 ゴキリと、タツオは無意識の内に拳を鳴らしていた。


 それは不幸な事故としか言えない筈の最後だった。


 夫婦は共に命を落とし、そのまま3人とも(・・・・)死後の世界へと送られる筈だった。


 だが、気付けば2人は真っ白な世界で複数の神様にDOGEZAされ、交通事故で死んだと思ったら神様同士の夫婦喧嘩の余波に巻き込まれて死んだと知らされ、普段は温厚でマイペースなタツオも堪忍袋の緒が切れかけてしまった。


 神様達は彼ら夫婦に謝罪を込めて異世界への転生という選択肢を出し、更には異世界で生きていく為に幾つかの『贈物(ギフト)』を贈ると申し出てきたのだ。


 2人は熟考の上、ちょっと色々と話し合いをした末に前世の記憶を維持した状態で異世界に転生する事を選んだのだ。


 そして現在、様々な事があった末に2人は文字通り一国一城の主となったのである。



「最初に20歳前後まで若返らせてもらったのは正解でしたね」


「まあ、三十路を超えてからの冒険者デビューは厳しいだろうと思ったし、若い方がまだコッチでの伸びしろもデカいと思ったからな」



 今の彼らの外見は前世で死んだ直後と殆ど変らない、三十路前後のほぼ変わらないものだった。


 これはタツオが神様に相談(・・)して若返らせてもらった結果であり、転生直後はその若返った肉体のお蔭で幾度となく困難を乗り越えることが出来た。


 これには女性であるフェリシアは大感謝している。



「それに、またお前との間に子供が欲しかったからな。今度は沢山……」


「あなた……」



 明るかった2人の空気が急にしんみりとしてくる。


 2人の脳裏に浮かぶのは、前世の世界の1人取り残してきた大事な家族――――2人の間に生まれた息子の笑顔だった。



「死んだ直後はあの子だけは助かったのがせめてもの救いだと思ったけど、あの子は今、ちゃんと元気にやってるのでしょうか。あの子にも、近所の皆さんにも、私達の親戚の事は一切話してなかったし、多分、警察の方も見つけられていないと思います」


「ああ。俺は家出同然に実家を飛び出したし、結婚した事も子供が生まれたことも一切教えてないしな。教えたら直ぐに居場所がバレて拉致されるし!」



 思い浮かぶのは厳格な両親と家柄を大事にする母親、生家に並々ならぬ誇りを持つ弟妹達の姿だった。


 前世の世界では古い歴史のある旧家の跡取りとして生を受けたタツオだが、将来の選択権の無い実家に嫌気が差した事と、幼い頃からの夢を叶える為に実力行使で家どころか祖国も飛び出し、その先で妻であるフェリシアと出会った。


 実家の家族とは家を出て以降一切連絡を取っておらず、一方的に生死だけは確認しているだけの関係に落ち着いていた。



「私もです。こういう時、実家の身分というのは厄介ですよね。同じ貴族でも、世襲の無い一代貴族だったらまだ変わったのでしょうけど……」



 フェリシアの父親も厳しい人間だった。


 己の全てを国と王家に捧げた筋金入りの貴族、余所の国の何の後ろ盾のない男との結婚など許さず、由緒ある貴族家への嫁入りを押し付けてきた人物だった。



「多分、身寄りのない孤児として施設に入れられているだろうけど……どうしてるんだろうな。こっちの向こうの時間の流れが同じとは限らないから今は何歳になっているかも分からないしな」


「今の泣き続けていなければいんのですけど……。友達をたくさん作って、青空の下で相撲をとっていればいいんですけど……」


「お前、本当に相撲が好きだな?こっちでも普及させようとしているし」


「当然です!素晴らしい文化は異世界でも広げる価値があります!いずれはプロ化まで進めて、異世界の若貴兄弟を誕生させるのです!」


「あの兄弟、裏では結構険悪って噂だったぞ?」



 タツオは妻の情熱に若干引いていた。


 今更ながら、この夫婦が生きていたのは地球世界の日本国である。


 2人は国際結婚であり、フェリシアは生粋の日本文化ファンであった。


 祖国の皇太子一家に相撲を布教しようとして未遂に終わる程度には、だが。



「相撲は置いといて、時間の流れが同じだったら今は高校生ぐらいかな?」


「人並より賢い子ですし、奇跡的に私の実家に発見されていたらケンブリッジかオックスフォードに通っている可能性もあります」


「いや、それはないだろう。親父達に発見される可能性自体低いし、仮に奇跡で見つかったら、国境を超えた仁義無き親権戦争が勃発してるだろうしな。あの親父、頭は堅いくせに人脈とかは無駄に多いからな。一応、皇室の傍系だとか豪語してたしな。胡散臭いけど」



 1人日本に残してきた息子の安否を気遣いながら、2人はカップに残ったお茶を一気に煽った。


 丁度その時、ベランダからは厳重な警護の付いた1台の馬車が場内の敷地に入ってくるのが見えた。



「「あ!」」



 夫妻の声がハモる。


 視線の先に見える馬車は王家の送迎専用のものだった。


 つまりは載っているのは2人の家族、城下の学校に通っている子供達だった。



「あらら、今日は護衛から逃げきれなかったみたいだな♪」


「捕まえた方も上機嫌みたいですよ?」



 馬車を護衛している者達の顔は爽快なものだった。


 散々手古摺らされてきた腕白王子達に一矢報いる事ができて上機嫌になったんだろう。


 ちょっと大人気ないかもしれないが、その辺の国の兵士よりも遥かに動きが優れている皇子達が相手なのだから仕方がない。


 しばらくして、自室で着替えを終えた子供達が夫妻の下へとやってきた。



「「「父上、母上、ただいま学校より戻りました!」」」



 元気よく両親に挨拶するのは全員がほぼ同じ顔をした三つ子の男の子、フリューゲル王国第一王子タカオ、第二王子ヤタ、第三王子ヒエンである。


 今年で10歳になる彼らの名前だが、全部父親の発想である。



「お父様、お母様、ただいま戻りました」



 三つ子の兄の後に挨拶をするのは母親の面影を濃く受け継いだ第一王女ナオミである。


 兄より歳が2つ下の彼女の名前を付けたのは母親の方であり、両親のそれぞれの祖国のどちらでも存在する名前を選んだようである。



「お帰りなさい。今日は護衛の方々に負けたようですね?母としては、そもそも追われるような騒ぎを起こして欲しくないのですけど」


「いえ!明日は全員出し抜きます!」


「いえ!明日は追われる前に逃げ切ります!」


「いえ!そもそも学校をサボります!」


「少しは反省しなさい!!特にヒエン!!」


「ハハハ!元気過ぎるのも問題だな♪」


「お父様、ナオミも元気一杯です!」


「ああ、そうだな。友達と仲良くしてきたか?」


「はい!」



 母親に説教される王子と、父親に愛でられる王女、夫妻の子供達は何時も明るく元気だ。


 王族としての在り方としては異質だが、それでもタツオとフェリシアの2人は自分達が与えられる全ての愛情を注ぎ続けている。


 此処には居ない、もう2度と帰れないであろう故郷に残してきた最初の息子(長男)の分もこの子達を愛し続けようと、そして子供達全員に恥じない生き様を見せようと、2人は今も多くの人々に支えられながらも日々を必死に生きていた。



(お前も、向こうで元気に生き抜いてくれよ。士郎(シロウ)――――)



 タツオはベランダの外を見上げながら、遥か遠い世界で暮らしているであろう己の長男へエールを送った。


 それが切っ掛けだったのだろうか。


 幸福な国王一家の前に1つの奇跡が舞い降りた。




――――ど〇でもドア~♪




 不意に、日本の某国民的アニメの有名なセリフがハッキリと聞こえてきた。


 しかもタツオがよく知る元祖版の声で!


 そして彼らの前に見覚えの無い扉が現れ、独りでに開いた。



「…………えと、こんにちは?」



 そして扉の向こうから出てきたのは、高校生ぐらいの年恰好をした、三つ子の王子によく似た顔立ちをした1人の少年だった。


 その顔を見て、国王夫妻は、タツオとフェリシアは反射的に声を上げた。




「「士郎!?」」




 時空を超えた親子の再会が今、果たされた。


















登場人物紹介

・タツオ=オオバ(大羽偉雄)

 異世界転生した日本人。

 神様方貰ったチートは『超魔力』『異世界召喚』『万能適性』

 *『超魔力』…初期値100万の魔力。使う度に絶対量が伸びる。

 *『異世界召喚』…地球世界に存在する物を召喚できる。(人間やイルカは不可能)

 *『万能適性』…全技能に対する秀才以上の適正。頑張れば何でもできる。


・フェリシア=オオバ(大羽フェリシア)

 異世界から転生した英国人でタツオの妻。

 神様から貰ったチートは『超魔力』『万能検索』『魔具創造』

 *『万能検索』…地球と異世界の既存の情報・知識を検索。印刷機能付き。

 *『魔具創造』…魔力と材料に応じてマジックアイテムを創る。


・タカオ=オオバ(大羽鷹郎)

・ヤタ=オオバ(大羽八咫)

・ヒエン=オオバ(大羽飛燕)

 タツオとフェリシアの間に生まれた三つ子。10歳。

 凄く仲が良い。

 お兄ちゃんが欲しい。


・ナオミ=オオバ(大羽ナオミ)

 タツオとフェリシアの末子。

 頭がよく無属性持ち。

 家族はみんな大好き。


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