第445話 ボーナス屋、嵌メラレ……タ!?
――イギリス 首都ロンドン――
『大変!申し訳ありません!!』
俺の目の前で、天使長ミカエルさんは本場の日本人も真似できないような見事なDOGEZAを披露している。
一体、何故こんな事になったのか?
『事前に情報の真偽を確認せず、連絡も無しに突然の訪問、挙句に事情を全く知らない御家族の方々に対する非礼の数々、大変申し訳ありませんでした!!』
「いや、だからいい加減に頭を上げてくれませんか?」
『そうもいきません。部下が大勢の命に係わる不祥事を起こしただけでなく、責任者である私自身も御迷惑をお掛けした以上、頭を上げることなどできません!』
「話が進められないから、兎に角立って!ミカエルさんがDOGEZAしていたら、折角元気になったお祖父ちゃんが心臓麻痺起こして死んじゃうから!既に老執事さんが天に召されかけているから!」
今、この病室内に居るのは俺とミカエルさんを除けば全員がキリスト教徒だ。
キリスト教徒にとって天使は神の遣いであり、神の次に崇拝する存在、ミカエルさんはその筆頭だ。
そのミカエルさんが降臨しただけでも卒倒ものなのに、俺の前でDOGEZAしている光景なんて見た日には、信仰心の強い人なら卒倒どころか発狂してしまうかもしれない。
又はショックであの世行き!
その証拠に、老執事さんは胸を押さえながら息を切らしている。
『……それは不味いですね。私としたことが冷静さを欠き、更なるご迷惑をお掛けするところでした』
俺の説得によりミカエルさんはようやく立ち上がった。
ついでにミカエルさんが放つ神々しいオーラも消えた。
初心者にはあのオーラはきついからな。
俺は部屋の全員に《回復魔法》をかけて心身の両方を回復させ、ようやくお祖父ちゃん達も会話に参加できるくらい落ち着き始めた。
「ミカエル様?え、本当に天使様……!?」
「これは夢か……!?」
『いえ、これは現実です。改めてご挨拶を。私は天使長ミカエル、御孫様には大変お世話になり、同時にご迷惑をお掛けしました。御家族の方々にも謹んでお詫び申し上げます』
「「……!?」」
ミカエルさんに頭を下げられ、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも再び困惑する。
お祖父ちゃんに至っては理解が追い付かないせいで俺を孫じゃないと否定することもできなかった。
まあ、敬虔な信徒が天使に嘘は吐けないだろうからな。
「それで、何で此処に降臨したんだ?サンダルフォンさんの話だと、向こうに来る話じゃなかった?」
『ええ、私もそのつもりでした。ですが先程、同僚の1人が慌てながら貴方が危機に陥っていると告げ、先日の謝罪も込めて助けに行くべきだと進言してきたのです。今思えば、あの男にまんまと嵌められたのでしょうね。ラジエルが不在であるから事実確認は出来ないだろうと……』
「そいつ、ハプニング映像でも撮影する気だったんじゃないのか?」
『かもしれません。まったく、ウリエルめ……』
どうやら今回の騒動は某・熾天使の悪戯が原因だったようだ。
勘だけど、真面目なミカエルさんの肩の力を抜かせようとか、そんな気紛れな思い付きでやったんだろう。
天界にも色んなのが居るんだな。
頑張れ、ミカエルさん!
「じゃあ、正式な謝罪とかはまた後日ってことで!」
『ええ、本日の件も含め、改めまして謝罪をさせて頂きます。ですが取り敢えず、驚かせてしまった御家族の方々に、お詫びを込めて私の加護を授けましょう』
「え!」
『終わりました。では、私はこれにし失礼します。良い1日を』
こうしてミカエルさんは天界へと帰っていった。
ポカンと口を開けている俺達を残して。
「ミカエル様……!」
「これは夢?夢なの?」
「天使は実在した……!」
「私は明日から毎日教会に行く!」
「神よ、我が罪を許したまえ……!」
これ、どうやって収拾すればいいの?
一歩間違えたら狂信者が爆誕しそうで怖いんだけど。
「――――士郎様」
俺の肩がポンと叩かれる。
振り返ると、其処には至極真面目な顔をした老執事さんが……
「士郎様、御説明頂けますか?」
「……はい」
俺が全部説明するしかないよな。
当たり前だけど。
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――異世界ルーヴェルト オオバ王国 王都――
数日後、俺は何時もの様に世界を越えて此処に転移してきた。
呆然としている大勢の方々を引き連れて……
「……ここが俺が治めている異世界の国です」
「「「……」」」
硬直するお連れ様一同、これまでの半生で築いた常識の全てが崩壊していることだろう。
初心者には刺激が強過ぎる。
「……国王?」
最初に口を開いたのは、見た目はアラフォー、中身は72歳の現役イギリス公爵家当主、つまりは俺のお祖父ちゃんだ。
本日お連れしたのは、地球は英国の由緒ある公爵家、ヴィリアーズ家御一行様で御座います。
正確には俺のお祖父ちゃんとお祖母ちゃん、老執事のセバスさん、世話係のメイド数名と護衛役の侯爵家直属部隊の人10名だ。
ちなみに、母さんの弟で闘病中だった叔父さん夫婦は此処にはいない。
無論死んだ訳じゃなく、叔父さんの病気も俺の魔法で即回復、名医達が絶句するのを横にスピード退院してお祖父ちゃんの代わりに公爵家の留守を預かっている。
普通に真面目な叔父さんだったぞ?
「これは……夢なの?」
「だから、この前から何度も説明している通り、全部本当の話だから!」
「……流石は旦那様と奥様の御孫様で御座います。身一つで未開の地を拓き、建国するとは。亡きヴィリアーズ家の御歴々もお喜びになるでしょう」
「非常識過ぎるだろ……。天は、何をお考えになられて……」
「あ、それは考えない方がいいから!特に考えず下界の人達を巻き込んじゃう神とか普通に存在するし!」
これは落ち着かせるのにまた数時間はかかりそうだな。
まあ、これが普通の人の反応なのかもしれないけど……
あのミカエルさん降臨事件の後、俺はこの1年間の間に起きた様々な出来事を一部始終丁寧に説明していった。
天使からチート能力を授かった話から異世界に勇者召喚された話、異世界での様々な活動や魔王、邪神との戦いの数々、日本を含めた世界中で発生している異変、秘密結社『創世の蛇』との戦い、両親の死の真相、血筋の秘密、人間を辞めちゃった話、建国しちゃった話、ラスボスを話した話など、一昼夜では語り尽くせない濃厚な話を丁寧に話していった。
そして数日かけて話していく内にお祖父ちゃんの拒絶的な態度も和らぎ、母さんの死の真相を聞いた辺りでは駄神夫婦に対する怒りを爆発させず静かに涙を零していった。
「ヴィリアーズの血が……古き血が、娘を死なせてしまったのか……」
「いや、血筋はあまり関係ないから!」
自分の一族に異教の主神の血が流れている事実を知った辺りでは自虐的になり、自分が娘を死なせてしまったように曲解した時は慌てだしそうになった時は焦ったけど、孫の俺に説教されると「そうか」と呟いて考えを改めた。
そしてちょっとだけデレた。
「しかし、話を聞いただけでは全てを受け入れることは出来ない。私は自分の目で見た事実でなければ信じん」
「じゃあ、試しに神様召喚する?」
「「「若様止めて!!」」」
全てを話し終えた後、それでも全部を受け入れないお祖父ちゃんの為に、今日俺は御一行をオオバ王国へと招待したのだ。
ちなみにメイドを含めた使用人一同からの呼称は「若様」で統一された。
そして現在に戻る。
「国王陛下、御帰還!ならびに、英国よりヴィリアーズ公爵御一行ご到着!」
「開門~!」
「「「お帰りなさいませ。国王陛下!」」」
「「「ようこそ、ヴィリアーズ閣下!」」」
気のせい、じゃないよな?
さっきから衛兵達の様子が妖しい上に、女官もどこか違和感がある。
何だ、何を企んでいる?
「お疲れ様でございます、陛下。そして公爵閣下、ようこそいらっしゃいました。歓迎の御用意は出来ております」
秘書官も怪しかった。
周囲が怪しすぎる中、場所は大広間に……
「「「御初に御目にかかります。御爺様。御婆様」」」
「待てええええええええええ!!」
入って早々に、俺は目の前の現実に対して盛大にツッコミを入れた。
何故か、広間にはかなり気合いを入れてめかし込んだ婚約者ズと、以前のお見合い騒動の参加者の一部が満面の笑みを浮かべながら俺達を、より正確には今度こそ言葉を失ったお祖父ちゃんとお祖母ちゃんを出迎えていた。
「公爵閣下、彼方に居られるのは国王陛下の婚約者の方々です。当王家は陛下御一人のみですので、子孫繁栄のために多くの后と契りを交わさせております」
「ケネスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!俺を謀ったなあああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
婚約者ズの中には当然ソフィアちゃんも混ざっている。
俺は全員に嵌められた!
「閣下には是非、陛下の結婚式に同席して頂きたく存じます。なにせ、そろそろ数名のお腹が大きくなり始めますので」
「まあ!初曾孫!」
「お祖母ちゃん!?」
俺が絶叫する中、お祖母ちゃんだけは逸早く現実を受け入れ歓喜した。
ヤっちまった俺が言うのもなんだけど、孫の年令とか倫理とか考えて!?
「此処では法的に問題無いのでしょう?」
「はい。成人年齢及び婚姻可能年齢は共に15歳となっています。尚、王族は重婚が普通に認められております」
「まあまあ!義孫娘が沢山出来るのですね!結婚衣装はもう御決めに?私も手伝いたいわ!」
「「「是非お願いします!お婆様!」」」
「女性陣の意気が合いすぎてるよ!」
お婆様公認という武器を手に入れた婚約者チーム。
彼女達は俺やお祖父ちゃんが困惑するのに構うことなく、お祖母ちゃんと一緒に別室へと駆け足で移動していったのだった。
「「どうしてこうなった……」」
女性陣が去った後、俺とお祖父ちゃんはシンクロしたように同じセリフを呟いた。
俺、意外とお祖父ちゃん似かもしれない。
「陛下、混乱しているところ失礼します。間もなく、日本より陛下の父君の血縁者がご到着なされます。あと、貴賓室にて養父母の方々御一行がお待ちしております」
「!!??」
秘書官の言葉に俺は崩れ落ちた。
全員……異世界も地球も含め、関係者全員が俺を…………嵌めた。
こうして、俺の一世一代の結婚式は新郎である俺の知らないところで、物凄い手際の早さで準備が進められていったのだった。
どうしてこうなった……!?
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――???――
「アハハハハハ!意趣返し成功~~~!」
「ざまあ~!」
「フッフッフ!俺達があのまま大人しくしていると思ったか!」
「今回はウリエル達にも協力してもらいました♪」
「これぞ生き甲斐☆」
「さあ~て、此処から彼奴の様子を楽しむぜ!」
「あとでBD100万枚にしてばら蒔こうぜ~」
「それは名案♪」
「盛り上がってきましたー!」
黒幕は、影で笑っていた。
誰の目も気にせず、自らの悪戯が成功した事による快楽に浸りながら。
『ゴケ?』
「「「………………」」」
だが、世の中は甘くなかった。
ミカエル様はその後、天界で大粛清を行いました。
~ヴィリアーズ家の会話~
護衛1「なあ、これって大丈夫なのか?」
メイド1「え?」
護衛1「公爵家の直系の孫が独立国家をつくったことだよ!」
メイド達「あ!」
護衛2「……女王陛下は勿論、王家の方々は誰も知らないだろうな。バレたら公爵家が主君を裏切ったと疑われかねない……。少なくとも邪推する輩は出てくる」
メイド2「マズイ!それはマズイですって!」
護衛1「マズイな」
護衛2「ああ、かなりマズイ」
護衛3「マスゴミが大喜びするな」
メイド3「緘口令をしかないと……」
メイド1「……でも、異世界の時点で大丈夫じゃない?見つからないし、大抵の人は信じないわ」
一同「……」
護衛1「兎に角他言無用だ。いいな?」
一同「はい」




