第44話 ボーナス屋、出迎える
領主のオッサン達を乗せた馬車が村に到着したのは昼近くだった。
騎士団の護衛に守られた数台の馬車が村の入り口に止まり、馬車の中から領主のオッサンが降りてきた。
腰には“例の剣”がしっかりと装備されている。
どうやら愛用しているようだ。
「これは凄い!本当にここはファル村なのか!?」
オッサンは村の外側を見回して驚いている。
まあ、この短期間で結構改造・・・じゃなく、復興を進めていったからな。
農地は以前の倍は増えたし、家屋も空き家も含めてかなりあるからな。
さらに東西には帝国と王国、それぞれの仮設駐屯地があるから、見方によっては少しカオスだ。
「アンデクス伯爵、ようこそいらっしゃいました!」
「うむ!久しぶりだなロ・・・ン?」
「ハイ、ファル村の村長のロンです!」
「・・・・・・気のせいか、若くなってないか?」
そうだった!
オッサンは村長がボーナスで若返ったのを知らないんだった!
よく見ると、団長も困惑してる。
まあ、元があれだったからな・・・。
「ハイ、勇者シロウ殿のお力のお陰で若返りました。見ての通り、現役の頃の力が戻っています!」
「なんと!そんな事もできるのか!?」
「あなた!今の話は本当ですの!?」
馬車の中から妊娠中の奥さんが飛び出してきた!
オッサン、家族も連れて来たのかよ!
「若返り」という言葉に反応するのは、歳を気にし始めているのか?
「お前、身ごもっているのだから・・・」
「あ!つい・・・・」
奥さんはハッとなって馬車の中に戻った。
心配なら連れて来なければいいだろ。
いや、もしかしたら家族サービスを兼ねて村に来たのかもしれないな?
「それにしても、前に来た時とは随分と村の様子が変わったな?」
「これも全て勇者殿のお陰でございます。戦で疲弊していた村人達も、今では嘘のように元気に暮らしております。」
「そうか、どうやら思っていた以上に世話になっていたようだな。感謝するぞ、シロウ!」
俺の方を向いたオッサンが軽く頭を下げた。
おいおい、貴族が頭を下げていいのかよ?
「俺はちょっと力を貸しただけだし、あとはみんなが頑張ってくれたお陰だ。それより、今日は急に来たりしてどうしたんだ?」
「そうだった!今日は大事な話で来たのだった!」
「旦那様、落ち着いて下さい。」
若い執事がオッサンを横から注意する。
執事さんは一緒じゃないのか?
あ、でもこの執事、よく見たら執事さんに似てる・・・息子か?
すると、オッサンは俺が執事に疑問を抱いているのに気づいたらしく、彼の紹介をしてくれた。
「ヘンリクには留守を任せている。こっちはヘンリクの末の息子のヨハンだ。ヘンリクと共に私の仕事の補佐をしてくれている。」
「お初に御目にかかります。アンデクス家で父と共に執事をしております、ヨハン=カップです。どうぞよろしくお願いします。」
「あ、こちらこそ!」
やっぱり息子だったか。
末のってことは、他にも子供がいるのか。
「さあ、伯爵殿も勇者殿もここで立ち話はこの辺りにして私の家にどうぞ。」
「うむ、ではそうしよう。ああ、私の妻子以外にも連れてきている者がいるのでその者達の休む場所もお願いできるか?」
「ええ、大丈夫です。来客用に家を増築してありますので問題ありません。」
増築したのかよ!?
って、とっくに知ってるけどな。
村長、空属性魔法の実験も兼ねて自宅を改造してたからな。
どうなっているかは見てのお楽しみだ!
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――ファル村 村長宅――
村長の家は外観も立派になっていた。
職人気質なのか、《建築魔法》をフル活用した立派な木造二階建ての屋敷だ。
俺がこの世界に召喚されたばかりの頃はせいぜい村長一家が暮らす程度の大きさだったのが、今はかなりリフォームされ、家の中も魔法によって空間がいじられて外観以上の広さになっている。
内装も村長の娘の1人が工芸技術を発揮し、明らかに個人的な趣味全開な物が数多く置いてあった。
何て言うか、外国の土産物屋とかにありそうな変なオブジェがあるな。
「ほう、以前来た時よりも随分立派な造りになっているな?それにかなり広い!」
「いやあ、年甲斐なくつい張り切ってしまいました。」
張り切ってしまいましたって、これどう見ても団体様大歓迎の宿屋並の広さだぞ?
最初は帝都にいる孫の顔が見たいとかで手に入れた〈空属性適性〉や〈魔法知識(空)〉が、今では色んな事に使われまくってる。
まあ、どう使うかは本人の自由だしな。
「ん?この額縁は何だ?見たところ、何も入れていないようだが?」
オッサンは絵画の入っていない額縁を見て、村長に訊いてきた。
見たところ、何の変哲のない木の枠にしか見えない。
「ええ、これは私が作った通信用魔法具の試作品です。これに空属性の魔力を流し込むと、帝都にいる私の孫と連絡ができるのです。」
「何と!魔法具なのか!?」
ああ、何となく解った。
所謂、テレビ電話みたいな物なんだろう。
まさか、《錬金術》がないのに魔法具まで作るなんて凄いな?
オッサンも凄く感心してるな。
「通信魔法具・・・話には聞いていたが、まさか作れる者がいるとはな。」
「これも勇者殿のお陰です。付け加えるなら、今のところは試作段階なので私にしか使えません。完成させるにはやはり、魔法具職人の手が必要でしょう。」
あ、やっぱり問題点が多いんだな。
「そうか、ならば丁度いいな!」
「え?」
「ヨハン、例の者を案内しろ!」
「畏まりました。」
何だか機嫌が良くなったオッサンが執事ジュニアに指示を出すと、執事ジュニアは外に出て行き、しばらくすると1人の女性を連れて来た。
頭に矢印が刺さった若い貴族風の女性を。
・・・俺のお客さん登場だな。
「紹介しよう。彼女は遥々帝都から我が領地にやってきた若き魔法具職人、エルナ=シュナイダー嬢だ。」
「初めまして、エルナといいます。」
紹介されたのは薄い金髪に銀色の瞳の女性、都市は執事ジュニアと同じ位か?
“矢印”が刺さっているってことは、何かしら苦労をしているってことか・・・。
「彼女の家は帝都に暮らす新興貴族のシュナイダー家の令嬢で、先日まで帝都のアマデウス帝国中央学院に在籍していた若き魔法具職人だ。どうやら訳ありらしく、学院を卒業した後は国内の町を転々としながらヴァールに来たそうだ。」
「・・・いえ、私はまだ魔法具職人といえるほどの者ではありません。魔法具を設計する事は出来ても、肝心の製作する能力がない落ちこぼれなんです。」
「なに、そんな事など大した問題ではない!」
オッサンはエルナさんの肩をポンと叩き、俺に向かってニヤッとした目を向けてきた。
あ~~~、何となくオッサンの考えている事が読めてきたな。
とりあえず、ステータスとボーナスポイントを確認するか。
【名前】エルナ=シュナイダー
【年齢】22 【種族】人間
【職業】魔法具職人 【クラス】家出した職人
【属性】メイン:水 氷 風 サブ:土 雷 時 空
【魔力】5,100/5,100
【状態】正常
【能力】攻撃魔法(Lv1) 防御魔法(Lv1) 補助魔法(Lv4) 特殊魔法(Lv2) 剣術(Lv1) 体術(Lv1) 弓術(Lv1) 調合術(Lv1)
【加護・補正】物理耐性(Lv1) 魔法耐性(Lv3) 精神耐性(Lv2) 水属性耐性(Lv2) 氷属性耐性(Lv2) 風属性耐性(Lv2) 健康眼 発明神テウタロスの加護
【BP】100pt
メイン属性が3つもあるなんて凄いな!?
サブ属性にはレアな“時”と“空”のある!
けど、戦闘能力は人並みレベル、《補助魔法》のレベルが4なのは凄い。
加護の方は、どうやらアイディアがたくさん沸いて来たり技術がどんどん上達する効果があるようだ。
だが、肝心の生産系の能力が足りないから宝の持ち腐れだ。
「・・・なるほどな、俺の出番って訳か?」
「おお!頼まれてくれるか?」
「・・・伯爵様?」
さて、何時もならここでエルナさんに説明するんだけど、丁度良いから〈ボーナス決定機能〉を試してみるかな?
本当なら自分で選ばせるべきなんだろうけど・・・・・・ゴメンね♪
俺は能力を起動させて魔法具を作るのに関係するボーナスを検索した。
〈錬金術(Lv1)〉 4pt
〈錬金術(Lv2)〉 8pt
〈錬金術(Lv3)〉 16pt
〈錬金術(Lv4)〉 32pt
〈錬金術(Lv5)〉 64pt
・
・
〈魔法具製作キット〉 20pt
〈異世界魔法具知識〉 15pt
あれ?
〈錬金術〉の交換に必要なポイントが少ない気がするな?
もしかして、神様の加護とかで割引とかなのか?
ま、いっか!とにかく〈錬金術(Lv5)〉・・・で、良いよな?
―――――――――――――ポチッ!
あ!うっかり“決定”押しちゃった!
ヤベエ、勝手に64ptも消費しちゃった!!
そしてエルナさんの身体が光る!!
「ええ!?何!?何!?」
あ~、これは後戻りできないな~~~。
こうなったらトコトンやるか!
え~と、あとはみんなと同じ〈鑑定〉、〈ステータス〉、〈職業補正〉、〈職業レベル補正〉で完了!
よし、再び決定~~~~!!
「えええええ!!??は、伯爵!!わ、私の身体が~~~~~!!??」
「落ち着くんだエルナ嬢、これはここにいるシロウの与えた恩恵の効果だ。光はすぐに消える!」
「恩恵!?」
あ、オッサンが代わりに説明してくれるようだ。
そしてエルナさんのステータスは次のようになった。
【名前】エルナ=シュナイダー
【年齢】22 【種族】人間
【職業】魔法具職人(Lv1) 錬金術師(Lv1) 魔法使い(Lv1) 【クラス】家出した職人
【属性】メイン:水 氷 風 サブ:土 雷 時 空
【魔力】5,100/5,100
【状態】正常
【能力】攻撃魔法(Lv1) 防御魔法(Lv1) 補助魔法(Lv4) 特殊魔法(Lv2) 剣術(Lv1) 体術(Lv1) 弓術(Lv1) 調合術(Lv1) 錬金術(Lv5) 鑑定
【加護・補正】物理耐性(Lv1) 魔法耐性(Lv3) 精神耐性(Lv2) 水属性耐性(Lv2) 氷属性耐性(Lv2) 風属性耐性(Lv2) 健康眼 発明神テウタロスの加護 職業補正 職業レベル補正
【BP】1pt
残りポイントが1なのは寂しいが仕方がない。
ちなみに、【職業】は勝手に増えていた。
「―――――――――――と、いう訳だ。」
「・・・・本当なんですか?」
あ、説明聞いてもエルナさんは半信半疑だ。
まあ、無理もないよな。
あ、オッサンがステータス見せたら信じた!
切り替え早いな?
「まさか・・・・・・!」
「あ~、勝手にやっちゃったスミマセンでした!」
とりあえず謝罪しておいた。
ここからは少し時間がかかるから簡潔にまとめておく。
1、エルナさんパニック!
2、エルナさん、試しにその辺にあった木材や鉄屑を使ってパンッと何かを作る。
3、農具としてチートな最強のクワが完成!
4、エルナさん、感動しまくる!
5、村長お手製の試作型魔法具の研究を始める。
こんな感じだ。
そして今、俺達は村長宅の来賓室で椅子に座って向き合っている。
「――――――さて、急に訪ねたのは彼女の件や以前お願いした元奴隷にされていた者達の受け入れの件などもあるが、本題は別にある。」
「面倒な事件でも起きたのか?」
「・・・率直に言えばそうなる。本当なら、殿下達も同席の上で話したいところだが、生憎とどちらも留守のようなので、ここにいる者にだけ先に話そうと思う。」
うわあ、マジでオッサン来訪はフラグだったのか・・・。
久しぶりに重い空気になってきたな。
「話す内容はいくつもあるが、まずは1つ、帝都との連絡が取れなくなった。」
「何ですと!」
「マジで?」
まさか、奴らに乗っ取られたのか!?
「正確には、こちらからの連絡が取れなくなったと言うべきだろう。ヴァールに駐留している軍や騎士団には定期連絡が届いてるらしい。だが、こちらからの連絡や問い合わせには全く返答がない。先日保護したルドルフ殿下に関してもだ。」
「何だか嫌な予感がするな?」
「私も同意見です。少なくとも、王宮内部で異変が起きている可能性が高いでしょう。あくまで個人的な推測にすぎませんが・・・。」
俺的には帝国の中枢が乗っ取られたって考えてしまう。
けど、単にこっちからの連絡とかだけを揉み消されているだけかもしれないんだよな。
どっちにしろ、俺には確かめようはないけど。
「ロンの言うとおり、王宮内部で何かが起きている可能性は私も考えている。例の、殿下達を嵌めたという男の組織が王宮内部にいるのは間違いないだろうからな、だが、情報が少ない今は無闇に憶測は混乱を生むだけだ。現在、フライハイト氏に依頼して帝都の状況について調査してもらっている。何か分かれば連絡が来るようになっているので、この件はあくまで“帝都と連絡が取れない”という部分だけ頭に入れておいてほしい。」
「分かりました。私も他言しないようにしておきます。」
「そうだな、連絡が取れないだけじゃ何の証拠にもならないしな。」
今は難しく考えても仕方ないし、次の話に進めてもらった方がいいな。
「次の話に進めよう。これはフライハイト氏を始めとするヴァールにいる商人達の話なのだが、どうやら中央のムリアス公国が此度の戦争に介入し始めたらしい。」
「公国が・・・!?」
ムリアス公国って、確か前に聞いた話だと、ダーナ大陸中央部にある四大国の1つだったよな。
基本的に戦争を好まない平穏な国らしいけど、何で帝国と王国の戦争に介入してくるんだ?
まさか、誰かが裏で何かやってるのか?
「商人達の話だと、先月から鉄や銅、武器等が多く公国に流れているそうだ。そして今朝、王国との北部国境の激戦地帯から馬を走らせてきた負傷兵の話によれば、公国の現大公の長男であるアレクシス殿下が率いた軍が突然乱入してきたらしい。」
「それって、何時の話だ?」
「昨日の夜明け前らしい。その負傷兵は寝る間も惜しんでこの事を国境沿いの町に報せ、ヴァールに到着した時はかなり疲労しきっていた。それによると、アレクシス殿下は自らを『アレクシス和平騎士団』と名乗り、戦争を仲裁に来たと帝国側と王国側の両陣営に武装解除を要求してきたらしい。」
聞いた感じだと悪い話じゃないな。
国連とかが紛争や内乱を止めに入るのと似た感じか?
それにしても、自分の名前を騎士団の名前に付けてるのかよ。
俺なら絶対やらないな。
「それって、良い話じゃないのか?」
「確かに、戦争の仲裁とはムリアス公らしいと言えますな。」
「私も最初はそう思った。負傷兵から続きを聞くまではな・・・・・・・」
「「?」」
“続き”・・・・・・・。
なんか、ヤバそうな話になってきそうだな
俺と村長は続きを聞こうとオッサンに注目する。
そして、オッサンは続きを話し始めた。
「・・・・戦闘を停止しない両陣営に対し、公国側は両陣営を武力で壊滅させたそうだ。多くの血を流してな。」
「「――――――――――――!!」」
俺と村長は同時に息を飲んだ。
そして物語は血と憎悪に染まっていき・・・・・・嘘です。
今更ですが、士郎は異世界に来てから敬語を使う事は滅多にありません。
“さん”を付けるかどうかも士郎の気分次第です。