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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
結婚とエピローグ編
459/465

第444話 ボーナス屋、祖父母と対面する

――イギリス 首都ロンドン――


 イギリス――――正式名称は「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(UK)」であり、「イングランド」、「ウェールズ」、「スコットランド」、「北アイルランド」の4ヶ国で構成されているヨーロッパを代表する国の1つだ。


 現代では数少ない貴族が存在する国でもあるが、世界史の教科書に出てくるような貴族社会の貴族とは大分変ってきているようだけど、それでも地元の人々から慕われ尊敬される貴族も少なくないとかかんとか。


 国は違っても貴族って言葉は心にビビッと来るものなのかな?



「ようこそ士郎様、お待ちしておりました!」


「「「お待ちしておりました!」」」



 そんな国の大地に立っている俺、大羽士郎は現在、とあるVIP専用な病院の前で大勢の執事とメイドに頭を下げられながら歓迎されていた。


 いや、もう王様になった辺りから慣れちゃったんだけどな。


 まさか、地球でも同じ扱いを受けるとは思わないじゃん?


 名古屋から公爵家専用機でロンドンに直行、空港からは高級リムジンで護衛に囲まれながらの移動、明らかにそっちのプロの皆さんが俺をガードしてくれています。


 彼らは知らない。


 護衛対象が自分達の総力でも足元にも及ばず、むしろ自分達が色々なものから護られているという驚愕の事実に……!



「……此処って、貴族しかいない?」


「はい。この病院は貴族の中でも代々王室に仕えておられる由緒ある家とその関係者のみが利用できる、世界最先端の技術と人材が集められた場所でございます。稀に、他国の要人の方も来院なされるのですが、基本的には英国貴族専用の医療施設となります」


「まさに貴族の為の病院!」



 ドラマの世界限定じゃなかったのか、セレブ専用の病院!


 と下らない事に感動しつつ、俺はSPに護られながら、病院の中でも更に厳重なセキュリティに護られた特別病棟の一室に案内され、その中には沢山の管に繋がれた白髪の老人がベッドの上で寝ていて、その横には同じく白髪の老婆がハンカチで涙を拭きながら立っていた。



「――――!」



 そのあまりにやつれた姿に息を飲んだ。


 父方母方通して初めて出会う祖父の姿、横で泣いている女性――状況から呼んで間違いなく母さんの母親、俺の祖母だろう――の弱り切った姿に、此処までの移動の間に抱いていた様々な感情が消し飛んだ。



「奥様、士郎様をお連れしました。士郎様、彼方に居られる方は旦那様の奥方、士郎様の御祖母にあたられるアネット=ヴィリアーズ様でございます。そしてベッドの上で休まれておられるのが我が主、ジョン=ヴィリアーズ公爵閣下でございます」


「セバス……その子がシロウ……娘の子なの?」


「はい。間違いなく亡きフェリシア御嬢様の御長男でございます。御嬢様と奥様の面影がある、とても凛々しい方です」


「ああ……!!」



 色々と混乱しかけている俺を余所に話は勝手に進んでいった。


 お祖母ちゃんは涙腺が大崩壊させながら俺に抱き付き「ゴメンなさいゴメンなさい」と懺悔し始め、後ろの控えていた執事やメイド達も一斉に号泣し始めた。


 一体、父さんと母さんが駆け落ちしてからこの公爵家では何があったというのか?


 少なくとも、『大魔王』が絡んでいるからまともな事ではないのは確かだ。


 そう思うと俺の涙腺も緩んでくる。


 あれは……真の地獄だった……!!



「あの、お祖母ちゃんと呼んでも良い……ですか?」


「え、ええ!こんな情けない私で良ければ……!ああ!まさか恨まれていると思っていた孫からお祖母ちゃんと呼んでもらえるなんて……!お祖母ちゃん、何て心温まる響き!」



 え!


 ついお祖母ちゃんと呼んだら、親バカならぬ婆バカを発症しちゃった!?



「奥様……!このセバス、今日ほど神に感謝した日はありません!」



 いや、俺が()そのものなんですけど!


 そしてお祖母ちゃん、貴方の娘を殺したのはその神様の2柱です!



「それにしても、ずっと日本で暮らしていたのに英語が上手なのね。フェリシアが教えたのかしら?」


「士郎様はとても聡明なお方でございます。調べによりますと十数ヶ国語の日常会話を話す事が出来るようです」


「流石私達の孫!」



 いえ、言語関係はチート仕様です。


 日本ではごく普通の高校生やってます!



「奥様、旦那様にも」


「は!そうですね。あの人にも孫の顔を見せて差し上げないと」



 10分近くお祖母ちゃんに可愛がれた後、俺は病室の奥のベッドに寝ている老人、俺の祖父ジョン=ヴィリアーズの傍による。


 さっきの騒動を聞いて目を覚ましたのか、少し獣ののようにも見える鋭い眼差しを俺に向けてきた。



「フン……貴族の義務を放棄した者の息子が何をしに来た。公爵家の遺産が目当てか……?」


「旦那様!!」


「貴方!!初めて会った孫に対して何を仰るの!!」


「……私に孫など居らぬ。娘も東洋の猿に唆されて共に死んだ。嫡男も家を継げる体ではない。我が公爵家は私の代で終わりだ……」


「何を弱気な事を言うのです!病気なら世界中から集めた名医が必ず……」


「気休めは止せ。私の体は私が一番よく知っている。……もう半月と待たずに私は天へと召されるだろう……お前には最低限の財産を残す。好きなように使え。残りは国や慈善団体に寄付する。お前達も私の事は忘れ……好きに生きといい。その孫を名乗る者は直ぐに追い出せ。二度とヴィリアーズ家に近付けるな……」



 喋り続けるごとに生気が薄れていくお祖父ちゃんの言葉に全員が言葉を失う。


 死を前にした公爵の口から出た廃絶宣言、お祖父ちゃんは俺を家族とは認めず、財産もお祖母ちゃんにのみ相続させると、弱りながらも力を込めて語った。



「ち、違うのよ!この人は病気で弱ってこんな事を言ってるのよ。貴方は間違いなく私達夫婦の孫よ!」


「士郎様、旦那様はお疲れのようなので別室に御移り下さい」



 お祖母ちゃんは俺がショックを受けていると思ったのか、必死にお祖父ちゃんの言葉を否定しようとし、セバスさんも今は不味いと別室に案内しようとした。


 けど、俺は微塵もショックを受けていない。


 お祖父ちゃんは言葉では俺を拒絶しているが、本音は正反対(・・・)だとハッキリ認識しちゃっているからだ。


 その証拠はコレだ!



【名前】『亀甲縛り』ジョン=ヴィリアーズ

【年齢】72  【種族】人間

【職業】公爵  【クラス】ツンデレ公爵 New!

【属性】メイン:雷  サブ:火 風

【魔力】1100/1100

【状態】末期癌(全身転移)

【能力】――

【加護・補正】物理耐性(Lv2) 精神耐性(Lv1) 由緒ある公爵 愛煙家 酒豪 頑固者 天邪鬼(ツンデレ) 大魔王の被害者 隠れ親バカ 隠れ愛妻家 貴族の眼光

【BP】300



 二つ名が残念すぎる!!


 きっと父さんと母さんの駆け落ち騒動の末に付いてしまった不本意の二つ名だろうな。


 そして【クラス】と【加護・補正】欄に載っている内容の数々、これを見ればお祖父ちゃんがさっき言った言葉の数々が本心じゃない事は丸分かりだ。


 愛娘に駆け落ちされた後も、居場所が分からなくても心の中では愛し続けていた動かぬ証拠だ。


 俺の心は一気に熱くなってきた!


 お祖父ちゃん、母さんを今でも愛しているあなたを俺は見捨てない!!



「……まだ居たのか。セバス、この子供を早く追い出せ。私は見ず知らずの人間の前で死ぬ気など無い」


「いや、お祖父ちゃんは死なない!むしろ俺がこの場で全快にする!」


「え?」


「何を……言っている?」


「士郎様?」



 俺以外の全員が怪訝な表情を見せる中、俺は病室の周りを結界で完全隔離し、お祖父ちゃんに向かって自重無しで《回復魔法》を施した。



「《究極病気平癒(アルティメット・リカバリー)》!!」



 病室を黄金の光が飲み込んでいく。


 沢山の悲鳴が聞こえてきたが、俺は念には念を入れてお祖父ちゃんの全身を回復させていった。



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――ッッ!!」



 一番悲鳴あげているのはお祖父ちゃん本人だったけど。


 そして1分後……



「体が軽い……」


「「「ええええええええええええええええええええええ――――!!」」」



 お祖父ちゃんは無事に末期癌から回復、全身の管を全部外して1人で直立していた。



「き、奇跡!?」


「さっきのは一体何!?若様は何を!?」


「若様は聖人だったのか!」


「むしろ救世主(メシア)!?」


「これが日本で有名な魔法少年!?」



 有り得無さ過ぎる光景に執事もメイドも阿鼻叫喚だ。


 派手にやったとはいえ、全員落ち着け!


 あと、最後の奴は日本文化を誤解している!


 色々混同させているだろ!



「あと、念の為に来れも飲んで!」


「うご!?」



 俺は懐から試験官サイズの薬瓶を取り出すと、中身を強制的にお祖父ちゃんに飲ませた。


 もう完治している筈だけど、万が一の可能性もあるから念には念をな!


 その結果、俺の目の前には貴族の風格を全身から醸し出している元気なお祖父ちゃんが立っていた。



「……信じられん。衰えた体力まで戻ってきている……!」


「貴方……気のせいかも知れないけど、若返っていませんか?」


「ええ、そのお姿は正しく全盛期の旦那様そのもの!」



 ただし、ちょっと効果が強過ぎて外見年齢が実年齢の半分くらいにまで若返っちゃったけどな。


 やり過ぎちゃった……かな?


 さてと、後はこの混乱をどう収めるかだけど、一から十まで説明するしかないよな?


 何処から説明したらいいかな?



『――――此方に居られたのですね?』



 阿鼻叫喚の病室、1人考え込む俺の耳に聞き覚えの無い声が響いてきた。


 ちょっと待て!


 この状況でこんな展開になるのは不味くないのか?



「今、声が……」


「何故だか心が現れる不思議な声が……」



 なんか俺以外にも声は届いていたらしい。


 チョッと冷や汗が零れる中、次の瞬間、病室の真上から神々しい光の雨が降り始め、1人の翼の生えた美青年が降臨してきた。



『ようやく、貴方とお会いできました。世界の英雄、次元を超えそ勇者、神々を束ねし新たな希望の神よ』



 美青年は天使だった。


 背中から数十枚の羽を早し、口から出る一言一言が神々し過ぎるせいか、俺以外の全員が美青年天使の前に膝を付いていた。


 まま、まさか……!



『初めまして。私は主に代わり天界の長を務める者。熾天使の長。全ての天使の頂。天使長、ミカエルと申します』



 予想通り、この初登場の美青年(イケメン)は天使達のトップ、天使長ミカエルさんだった!


 そしてこの名乗りを合図に、キリスト教徒の皆さん達は1人残らず卒倒してしまった。


 どうしてこうなった!?









 何故、此処でミカエルさんが?

 きっと黒幕が仕組んだに違いない!

 そして士郎のお祖父ちゃんはデレてくれるのか!?



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