第442話 ボーナス屋、勝利の美酒を味わう
ラスボスを倒した!
――オオバ王国 王都――
聖戦の終結はソフィアちゃんネットワークによってルーヴェルト中の人々に報じられ、世界は歓喜一色に包まれていった。
戦いを見守っていた民衆は異形の怪物や悪魔と戦った英雄達に声が枯れるのも忘れて喝采を浴びせ回って行った。
戦いを終えた英雄達の一部には疲労や痛みも忘れて戦っていた者もおり、その者はソフィアちゃんからの終戦報道を聞くと同時に意識を失ってしまいちょっとした騒動になったが、それも1時間とかからず全快になって事なきを得た。
各国の王も(一部を除いて)ラスボス達との最終決戦を生き抜いた彼らを誉め称え、この勝利の喜びを皆で分かち合おうと宣言した。
つまりは世界規模の戦勝パーティーだ。
「――――では、難しい長話はここまでにして、乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
王城の前の大広場で、俺は高級酒が注がれたグラスを掲げながら全国民に向けて宴の幕開けを告げた。
そして国中から聞こえてくる喜びの声を聞きながら酒を一気に飲む。
良い子はジュースでも一気飲みは止めようね♪
「酒だー!!」
「御馳走だー!!」
「甘味よー!!」
「婚活だー!!」
数時間前まで邪悪な軍勢(笑)と戦っていた勇猛果敢な戦士達も完全に羽目を外して古今東西の美味や美酒が並べられたテーブルへと突撃していく。
一部に変な輩も混ざっていたけど、ほっといても問題無いよな?
『わんをわんを!』
「あ!慌てなくてもちゃんとあげるよラッキー!」
『くぅ~ん』
「ロッキーの分もあるから!」
あっちでは勇者くんが愛犬と一緒に戯れている。
俺の記憶によれば犬は全部で30匹に満たなかった筈だけど、今の“アレ”は明らかに50匹に近い数はいるんじゃないか?
一体、何時の間に増えたんだ?
このままワンコ帝国でも建国するんじゃいかと心配になるが、別に害は無さそうだから暫くは放置しておくか。
「い、犬に負けた……!?」
「犬耳を付ければ私も……」
……犬よりも女性に気を付けた方がよさそうだな。
泰雅よ、背後からブスリ!な展開になる前に、今夜辺りでも頑張って予防してくれ。
さてと、俺は美味しいものをタップリと味わいますか。
尚、俺は超有名人なので気配と姿を隠蔽しながら移動しています。
だってそうしないと生き残れそうにないし。
「陛下はいた!?」
「こっちはいないわ!」
「こっちもよ!」
「偉大なる王よ、是非我が番に……何処だ!?」
「また増えたわ!競争率高過ぎ!!」
「だけど負けない!私は勇者王陛下と結婚するの!愛と政略を兼ねて!」
「ハッキリ言ったわよこの子!?」
「……もうダメかも」
「諦めちゃダメ!英雄は色を好むって言うわよ!ファリアス皇帝の前例もあるから、ここに居る全員が娶られる可能性はまだ十分あるわ!」
「そうよ!希望は私の国の皇帝陛下が示してくれたわ!」
「……そうね!諦めたら、其処で破局よね!」
「じゃあ、今度はあっちを捜すわよ!」
「「「お~~~!!」」」
…………あんなのが王都中で大量発生しているし!
某国の貴族令嬢とか、王族とか、とある森の部族長の娘とか、どさくさに紛れて女悪魔とか精霊とか妖精とかが狩人の眼になって俺を捜しているんだ。
アレに見つかったら最後、俺の精気は枯れる気が……する。
〈は?《絶倫》で《始まりの雄》なお前が? byとある男神〉
喧しいけど、確かにその通りだ!
今の俺は子孫超繁栄の権化、一発やるだけで家族が増えちゃうスーパービッグダディだ!
『きゅ~~~!』
1人で悶々としてる処へ、1匹のぬいぐるみサイズの小龍が俺に向かって飛び込んできた。
真っ白い……というよりほんのり金色の入った綺麗な鱗を持った東洋龍だ。
初めて見る龍だけど、俺には誰なのか一目で分かった。
「おお!変身できるようになったのか、壮龍!」
『きゅう♪』
「イイ子イイ子。でも、今は色々と危ないから人化しような?』
『きゅう~だ!』
「ちゃんと1人で戻れるんだな?凄いぞ壮龍!」
『だぁ!』
小さな東洋龍は一瞬でベビー服を着た壮龍に変身した。
始祖龍だからなのか、ここ数日の壮龍には成長の兆しのようなものが見え隠れしていたんだけど、まさかもう龍の姿に変身できるとは思わなかったな。
俺の子は天才か?
「士郎~!そのまま壮龍をつかまえておいて!!」
「あ、唯花!」
「あ、唯花!じゃないわよ!あなたがずっと戻ってこないからこの子寂しがって、気付いたら変身して飛んでいったのよ!何で乾杯が済んだら直ぐに来なかったの!?」
「え……あ~そのう……ゴメンなさい」
「謝る相手が違うでしょ?」
「うん、そうでした。ゴメンな、壮龍」
「あ~!」
非があったのは俺の方なのですぐに謝り、俺は壮龍の頭を撫でながら優しく抱きしめる。
「ん?というか、隠蔽中の俺をよく見つけられたな?」
チートの無駄遣いと言われても反論できない位強力な隠蔽を施してあるんだけど、唯花と壮龍はどうやって発見したんだ?
不思議だよな壮龍?
「だ?」
「あ、うん。お前に訊いても仕方ないよな」
「……え~と、多分それは此れのせいだと……思うわ?」
「え?」
唯花は自分のステータス画面を開くと、とある補正の情報を見せた。
【超神の婚約者】
【分類】補正・加護
【階級】Ⅸ+(混沌級)
【詳細】
・大羽士郎と正式に婚約し、且つ両想いである者にのみ与えられる恩恵。
・取得条件に性別は問わないが、肉体関係を交わしただけでは与えられないので注意。
・どんな状況下でも最愛の士郎を認識する事ができ、あらゆる誘惑や幻惑を無効化し、逆に100万倍にして相手に跳ね返す。
・種族や性別に関係なく士郎の子供を身籠る事が出来、妊娠期間も任意で短縮することが出来る。(*ただし、最短で2ヶ月)
・結婚式を迎えた後は《超神の愛妻》に進化する。
俺は無意識に顔が真っ赤になり、意味が解っていない壮龍はぺちぺちと俺の顔を叩いている。
こんな補正、少なくとも聖戦直前までは無かった筈だぞ?
どのタイミングで生まれたんだ?
「あ!じゃあ、壮龍も!」
「だぁ?」
俺は慌てて壮龍のステータスも確認した。
【超神の愛息子】
【分類】補正・加護
【階級】Ⅸ++(混沌級)
【詳細】
・大羽士郎の子供にのみ与えられる恩恵。
・血の繋がりが無くても、親子の関係があれば与えられる。
・どんな状況下でも最愛の父を認識する事ができ、その絆を弄んだり壊そうとしたりする者には邪神も滅ぼす超神の裁きが墜ちる。(*悪女は即破滅)
・父親より先に逝く事は絶対に無い。
・親子で一緒に行動すると成長に超大幅の補正が加わる。
・ファザコンになり易く……なるかも?
「「……」」
「だっだっだ!だあ!」
絶句する俺達に気付いていないのか、壮龍は俺の腕の中で踊り始めた。
きっと近くで宴会芸をしている人の真似をしているんだろう。
しかしこれ、地味に俺の能力よりも強力な補正じゃないのか?
「Ⅸ++」とか、唯花の補正よりも階級が上だし、この分だと未確認の「Ⅹ(???級)」とかも存在しそうだな。
「……まあ、息子が親より長生きしてくれるみたいだから良いんじゃね?」
「士郎……貴方、不老不死じゃなかったっけ?」
「そこはほら、程々に生きたら解除したりとか、神の部分を分離してとかやるさ。無駄に無限に生きたって、ウロボロスみたいな末路に成りかねないだろ?俺としては有限の中でお前らと精一杯楽しんで生きたいんだよ!」
「あう~!だあ!」
「……フフ、そうね。それが理想かもね」
チョッと呆れた様な顔をしながら、唯花はニコッと俺に微笑んだ。
「!!」
その微笑みを見て、俺はさっきとはちょっと違う意味で顔を紅潮させてしまう。
唯花って、こんな風にも笑えるんだな。
気付けば俺は、片手で壮龍を抱き、空いた手で唯花の手を握り締めていた。
「唯花……」
「士郎……」
王都の空には沢山の花火――エルナさんファンの神様からの贈答品――が一斉に打ち上げられ、周囲の視線が空に向いている中、俺は無意識に唇を唯花の顔に近づけていった。
唯花もそれに抵抗せず、ゆっくりと自分の唇を近付けていった。
「だ!だ!だ!どー!」
壮龍は花火に夢中になっていた。
冬の花火も綺麗だけど、俺達の心の中で弾けている花火の方が綺麗だなって思うのはちょっと臭いかな?
俺達は誰にも邪魔を去れず、親子3人で祝勝会を十二分に楽しんでいった。
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「「「シロウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――ッッ!!」」」
「「「士郎様アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――ッッ!!」」」
……なんて展開に成程、俺の人生は温くはありませんでした!
唯花の持っている《超神の婚約者》は婚約者ズ全員が当然の如く持っている訳で、俺と唯花がイチャついている場面を目撃した彼女達は、一部怒り狂いながら俺の下へと突撃してきた。
てか待て待て!!
アンナちゃんとステラちゃんは今妊娠中!!
「シロウ様、私とダンスを踊ってください!」
「シロウ、今宵の湯浴みは私が同席しよう!」
「いや、2人は妊娠中!」
「そうです!妊婦はお子様の為にも大人しくしていてくださいませ!」
「ふ、ふん!今夜は一緒に踊って……夜も寝てあげても良いわよ?」
「旦那様、妻となる女性は完全にとまでは言いませんが、ある程度は平等に接してくださいませ!」
「え~と、一緒にケーキ食べませんか?」
「あちらの料理も美味しそうです」
「陛下、少し2人で散策を……」
アンナちゃん、ステラちゃん、ユリアちゃん、リスティアーナ、ユニス、ミリアムちゃん、光葉ちゃん、薺さん。
そんなに強く掴れたら、俺の体がミンチになっちゃうよ。
「わ、分かってるよ!みんな一緒に楽しもう!」
その晩、俺はこの世界で一番楽しい夜を過ごしたのかもしれない。
どれくらい楽しんだかについては割愛するけど♡
最終戦争?編完結!
次回からはエピローグ。
まだ続きます!
次回も同じ時間に更新!!




