第426話 ボーナス屋、帰ってすぐ仕事(神!)
――オオバ王国――
約2時間ぶりに王国に戻ると、既に王都は臨戦態勢に入っていた。
王城の前では魔改造(弱)された兵隊達が忙しなく動き回り、街の方でも冒険者ギルドの前に立てられた『急募!邪神討伐』の看板の前に沢山の冒険者が集まって、対応しているギルド職員に報酬や配置について問い質していた。
倒す気なんだ。神。
「これは聖戦である!」
また別の場所では神の僕の皆さんが聖典を片手に叫んでいた。
かなり興奮している様子から狂信者の気があるんじゃないかと思ってしまうけど、どうやら狂信者じゃなく単に離れしていない若い聖職者がテンパっているだけだったようだ。
「聖戦」なんてそうそうある訳ないしな。
地球だとでっち上げる事が度々あるけど。
「さあさ!陛下率いる最強軍団VS邪神の軍勢!一世一代の大ギャンブルにお前らは何処に賭ける!」
「勇者の一方的な蹂躙に10万!」
「止めを嫁にとられるに8万!」
「ニワトリのエサに20万!」
「世界と心中に10!」
「お前、それ悪ふざけだろ!」
そもそも賭けとして成立するのか不明なギャンブルも開催されていた。
勿論、殆どの人は邪神側が勝つのには賭けていないけど、中には破滅願望があるのか、大金を俺の惨敗や人類滅亡に賭けている連中も存在したけど、周囲に「破産だな♪」とからかわれていた。
俺もそう思うけど、変に刺激しない方がいいんじゃないか?
お約束的に、精神が追い込まれて邪神(?)に憑依されて真・邪神に超進化な展開になりかねないからさ。
あ、フラグが立ちそうだって?
大丈夫、直ぐに折ってくる!
フラグは全部追っておいた。
1本だけじゃないのかって?
ついでに定番の死亡フラグも一緒に折って来たってきたんだよ。
これで少しは生存率が上がるな。
「陛下!休憩時間はとっくに過ぎています!一気に積もった書類の山に戻ってください!」
換わりに俺の死亡率が上がったけどな。
王城に帰ると仕事の鬼が仁王立ちして待ち構えていて、気付いた時には魔改造(強)された近衛隊が逃げ道を完全封鎖、他の秘書官達が嬉々としながら両手で凶器を抱えていた。
「いや、俺には他にも仕事が……」
「追加の勇者殿達への対応は此方でしますので、陛下は陛下にしかできない重要な仕事を片付けて下さい!神速で!」
「……はい」
鬼の迫力に押し負けた俺は仕方なく執務室へと連行された。
勇者パーティ?
女性秘書官(20歳独身・文系チート)が別室に案内していったけど、もしかしたらフラグ♡が立つかもしれない。
そっちは折らない。
緊急時でも鬼は容赦が無かった。
連合軍の入国に関するものや物資の搬入とかの書類とは別に、通常の予算請求や各事業の許可請求とかの書類までたんまりと出してきた。
ああ、戦争に伴う国民への諸々の保障……仕事は神速で進むけど、新しい仕事も亜神速で増えてくるよ。
「あとは鉄道工事に関する申請書類をお願いします。他にもあるので超神速でお願いします」
「ワザとだ!絶対ワザと仕事を増やしてるんだー!」
俺は何度も悲鳴を上げた。
ぶっちゃけ、第三者から見れば神速で仕事を片付けてはいるけど、俺自身の体感だと現実と変わらない時間働いているようなものだ。
常人ならとっくに精神が壊れてると言える。
人間卒業したメリットが此処に来てでてくるとは……
「全ては陛下が勝利した後の王国の為です。陛下は必ず勝つと我々は確信していますので、今の内に戦後の準備を始めておきました。無駄に終わった時は世界と一緒にこの国も終わるので、頑張ってください陛下♪」
「いや、確かにそうだけど!」
「ちなみに、仕事を全て後回しにした場合、邪神討伐後は休暇ゼロで1ヶ月オーバーワークフェスティバルになる確率が極めて高いという計算結果が出ています。神でも過労死しそうですね。その方がいいのでしたら……」
「超々神速!!」
俺、本気を出すぜ!
後でソフィアちゃんや各国の王様達に聞いたんだけど、俺に雪崩のように仕事が舞い込んでくるのは、俺がドチートを自重無しに発揮し過ぎたせいで、同時期に国内で沢山の国家事業が始動したり、国外からも仕事が雪崩れ込んできたからだそうだ。
有り得ない速度で国造りを進めたせいで、王の仕事も有り得ない速度で増加してきたという訳だ。
やり過ぎた!
「士郎が死んだ!?」
執務室に籠ってから1時間後、執務机の上に伏したまま動かない俺を見て唯花が悲鳴に近い声を上げ、続けて一緒にいた他の婚約者ズも悲鳴を上げた。
「シロウ様!!」
「嘘…嘘だと言ってくれ!!」
「そんな……どうして!?」
「お、お医者様あああああああああ!!」
「イヤ~~~~!!」
「……犯人、殺ス!!!!」
「死んじゃやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「神よ、どうかお助けを!!」
執務室は一変して殺人現場のようになってしまった。
気のせいかサスペンスなBGMが何曲も重なって聞こえてくる。
個人的には火曜日のアレが好きだ。
「皆さん、主は死んでいません。ちょっとオーバーヒートしているだけです」
そこへハーブティーと一緒にソフィアちゃんが登場、そして勿論、俺は死んでいない。
仕事という未曾有の災厄との死闘に勝ち、少しばかり力尽きて倒れただけだ。
そして一緒に仕事をした鬼の秘書官ケネスは【職業】王宮筆頭秘書官をカンストさせ、新たに『神の秘書官』に転職し、《超速睡眠》という8時間分の睡眠と回復効果を数秒で得られる能力もゲットしたのだった。
の〇太を遥かに超える睡眠超人がここに爆誕したのだ!
余談だが、【クラス】が『ブラック秘書官』にもなった。
「主、もう回復しているので起きて下さい」
「うぅ……あと5分……」
「……《超圧縮完全熟睡》。起きて下さい」
「は!なんだか一瞬でスッキリした!?」
ソフィアちゃんは一瞬で俺の身も心もリフレッシュした。
まるで重労働の後に数日間休みまくったような爽快感だ。
「え、生きてる!?」
「よ、よがっただ~~~」
「本気で心配しちゃったじゃないのよ~!!」
そして一斉に安堵&デレる婚約者ズ。
唯花が凄く可愛かった。
「皆様、ハーブティーを淹れましたのでご一緒にどうぞ。本日は医神ミアハ様からの御歳暮で頂いた聖なるハーブをブレンドさせていただきました。心身が癒され元気が湧く一杯をご賞味ください」
「あ~、そういえばお歳暮シーズンだったっけ?」
どうやら神様達の間にもお歳暮の風習はあるようだ。
俺も何か贈らないとな。
コッコ団の雌鶏達が産んだ高級卵で作ったお菓子の詰め合わせがいいかな?
勿論、ラスボス(笑)を倒した後だけどな。
「「「美味しい~♡」」」
「お~!」
ハーブティーは物凄く美味しかった。
香りも味も文句無しの一杯。
ハーブも凄いが、淹れたソフィアちゃんのスキルも凄い。
「世界が滅びるかもしれないのに、こんなにのんびりしていていいのですか?」
ハーブティーを飲みながらアンナちゃんが今気付いたように呟いた。
うん、とてもラスボス(笑)戦前だとは思えない緩い空気だよな。
外に出れば何千何万の戦士達が大興奮して開戦を待っているのに。
「ソフィアちゃん、ラスボス(笑……『魔神』の様子は?」
「現在、誰かが設置した防衛システムと戦闘中です。具体的には、“誰か”に従僕された神50柱、天使210柱、古代種を含めた龍族77体、聖獣及び幻獣が1480体、英霊8025名、その他が約4万です。完全復活を果たした『魔神』とその軍勢と今も死闘を繰り広げています」
「何、その過剰戦力?」
どう考えても只の防衛システムには聞こえない内容だ。
というか、“誰か”って絶対『大魔王』の事だろ!
「――――尚、この防衛システムの戦力は“誰か”の全戦力の約1割弱です。残りは地球世界を含めた他世界の防衛に配置されています。隙あらば《盟主》も下僕にするつもりです」
「敵に同情してきたよ」
どうやらラスボス(哀)にはバッドエンドしか待っていないようだ。
多分だけど、仮に俺達が負けても『大魔王』が降臨して蹂躙するんだろう。
勝った場合は……
「あれ?なんか最初から特大の死亡フラグが立ってね?」
もしかしなくても、ラスボス(哀)よりも恐ろしい真・ラスボス(死)が待ち構えているんじゃないのか?
「主、これは更にチートを増やすしかありませんね♪」
「ソフィアちゃん、楽しそうだな?」




