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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
最終戦争?編
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第422話 ボーナス屋、怨霊と戦う?

――東京郊外 白井家――


 ソフィアちゃんは“敵”の正体を明かした。



「これが、今回の“敵”の正体です」



 モニターには烏帽子をかぶったちょび髭の男が映っていた。


 一言で言うなら平安時代あたりの貴族のオッサンだが、何処かで見たことのある肖像だ。


 確か……




「――――東国の英雄、『三大怨霊(・・・・)』の1人、平将門(たいらのまさかど)です」




 八百万の神の中でもよく祟ると大評判の神様だった!!


 確か厄除けの神とか武神とか、日本刀を使った武士第1号とか呼ばれていて、生前は関東で大活躍してそのまま独立しようとしたら朝廷に討たれて死んだけど、恨みが強過ぎて大怨霊になって祟りまくった、日本の怨霊トップ3の1人だ。


 崇りが強過ぎてGHQも逃げたって聞いた事があるな。


 そんな大怨霊兼神様な将門が何で此処に?



「……勇者の家は祟られた?」


「そんな!」



 まさかイザナミが居ないせいじゃないよね?


 だとしたら、何割かは俺側にも非が……泰雅も日本の大手大災厄が自宅に出現したと知って顔から血の気が引いていっている。


 下手をしたら中に居る勇者パーティは1人残らず崇り殺されてしまう。


 一刻も早く倒さないといけない、と俺は神速思考して速攻で白井家全体に浄化を掛けて瞬殺しないといけない。


 一応は神らしいからその辺の魔王(ザコ)より強いだろうけど、その程度なら離れた処からでも瞬殺できるはずだ。


 三大怨霊よ、安らかに成仏するがよい!



「よし!先手ひっ――――」


「その必要は無さそうです」


「「え!」」



 白井家の真上に特大の浄化パワーを生み出しそのまま放とうとした寸でのところでソフィアちゃんに待ったを入れられてしまう。


 直後、扉の向こうからこの世のものとへ思えない断末魔が響いてきた。



『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――ッッ!!』



 まんまホラー映画とかで出てくる悪霊の絶叫だった。


 違うとすれば、本物であることと、怨念の総量が桁違いなせいか、声に込められている“質”というか“格”が明らかに大き過ぎる処だろう。


 例えるなら「魔王の断末魔」だ。


 流石は大勢を祟ってきた三大怨霊だ!



――――バンッ!!



 感心していると、目の前の扉が勢いよく開いた。


 というか吹っ飛んだ!



『アアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


「わあああああ!何か出てきた!!」


「えええええええ!!」



 そして飛び出してきたのは本物の和製ホラーこと大怨霊兼神だった。


 烏帽子を被っている辺りが平安感(?)を醸し出していて迫力を底上げしている。


 そんな大怨霊が何故逃げるように飛び出してきたんだ?


 その答えは直ぐに分かった。



『ワンワン!』


「あ、ラッキー!」


『ワンワン!』


「ロッキーも!」



 大怨霊を追って現れたのは2匹の犬だった。


 どうやら白井家のペットのようだ。


 それが何故か俺達の眼前で大怨霊な平将門らしきモノに飛び掛かり、そのまま容赦なく噛み付いて制圧したのだった。



『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


「「……」」



 断末魔を上げる平将門、その姿は三大怨霊としての畏怖も、神としての神威も穴の空いたタイヤの如く萎んでいくようだった。


 そしてこの光景に、俺は物凄く既視感(デジャブ)を感じた。



(犬版コッコくん!?)



 そう、それはまるで若かりし頃の――と言っても数ヶ月前のことだけど――コッコくんだった!


 まるで忠犬の如く、飼い主の敵を排除しようとする勇猛果敢で、人に買われているのに野性味を感じさせる姿を俺は異世界で何度も見てきた。


 そんなコッコくんを思わせるこの2匹の犬は一体何者!?



「メス犬のラッキーとオス犬のロッキー、どちらも雑種犬です。雑種を嫌った前の飼い主に捨てられ彷徨っていた処をこの家に拾われたようです。好物は骨です。狩猟犬の血が騒いでいるのか、平将門を喰い殺していい敵と認識しています」



 特に重要じゃない情報ありがとう。



「……お宅のペットは熊と戦う訓練でも受けてるの?」


「受けてないよ!今朝まで大人しい普通の犬だったよ!ラッキーもロッキーもどうしちゃったんだよ~!?危ないことをしないで!」


「大丈夫です。間もなく平将門は――――終わります」


「怖い口調ヤメテ!」


「あ、生首飛んだ!」



 そうこうしている間に平将門は胴体から首が外れ、そのまま空に逃亡しようとしていた。


 だが、その行為は今どきのペット相手にはタブーだった。



『ワオ~~~ン!』


『ギャアアアアアアアアアア!!止めろおおおおおおおおおお!!』


「ラッキ~~~!!」



 まるでフリスビーをキャッチするように平将門(首)に噛み付いた。


 視方によってはかなり生々しい光景だな。



「ラッキーは秋田県とシェパードの雑種(ミックス)です。主人に対する忠誠心が遺伝子レベルでカンストしている為、外敵に容赦はしないようです。尚、誤解の無い様に捕捉しますが、雑種が純血より劣っているということはありません。寧ろ優秀なケースも多々あります。そもそも、この世の生命は大抵雑種です」


「うん、説明有難うソフィアちゃん。それよりも、何で大怨霊で神なアレ(・・)を圧倒しているの?」



 既に平将門は頭部をラッキーに、胴体をロッキーに食べられ始めていた。


 生々しい。



「ラッキーもロッキーも、そんなの食べちゃダメだよ!死んじゃうよ!」


「食べられること自体はツッコまないんだな?ソフィアちゃん、どうしよう?」


「このまま放置しても問題ありませんが、綺麗に片付けるのなら浄化をお勧めします。「発狂した平将門」は「綺麗な平将門」か「勇ましい平将門」の何れかになるでしょう」


「何、その童話みたいな話!?」



 イソップ童話かよ!



「ちなみに、その童話――「金の斧」――に出てくる神は一般的には女神ですが、原作はあのバカ神(ヘルメス)です」


「マジか!?」


「ある意味、嫌な童話ですね」


「そんな事より浄化しないと!《清廉の女神の息吹(パーフェクト・ホーリー)》!」



 俺が衝撃に事実に仰天している隙に泰雅が平将門(残骸)を浄化する。


 これは《神聖魔法》かな?


 平将門が「あー!」と恍惚になっていくところから推測すると最低でも神話級の威力はある浄化技だな。



『おお!身も心も洗われていくぞぉぉぉぉぉぉ!』


『『ガルルルルルルルル!』』


『ああ、愛らしいワンコ達だな!ハハハ、某は食べ物ではないぞ?』


『『ガルルルルルルルル!』』



 爽やかなオッサンが現れた!


 五体がバラバラだった平将門は勇者(たいが)によって綺麗に浄化され、首もしっかりくっ付いた爽やかスマイルのオッサン「綺麗な平将門」にチェンジした。


 ちなみに身長は俺と同じ位だ。


 昔の人って現代人より背が低いっていうけど、そうでもないみたいだな。



「――――その認識には誤解があります。日本人の祖先は大陸から渡ってきており、人種的に見ても元々身長が伸びる資質を持っています。明治以前の日本人の平均身長が低かったのは食糧資源が現代ほど豊かでなかったのが大きな要因の1つです。ですが、どの時代でも食糧事情が豊かな一部の中には現代人と変わらない身長の方も存在し、当時は大男などと呼ばれていました。平将門が存命だった平安時代でも、男性の平均身長は160㎝を少し超えていた程度なので、彼の身長は時代的にも誤差の範囲内です」



 更に余談だが、日本人の身長が低かったのは江戸時代だそうだ。


 そういえば飢饉とかがよく出てきた気がする。



『ハハハハ!某の見ている傍で汚職を行っている阿呆共の姿に苛立っていたら急に天から瘴気らしきものが降ってきた。そして気付いた時には生前の恨みやら未練やらが無尽蔵に沸き出し、瘴気に誘われるがままに此処に来てしまい、そしてワンコとお前達に目を覚まさせられた。礼を言うぞ!』


「説明おつ!」



 爽やかに説明してくれているんだろうが、頭に犬が噛み付いたままで言われては威厳も何もあったものじゃないな。



「駄目だよラッキー、ロッキー!ほらハウス!」


『『ワンワン!』』


「あ、離れた」


「躾が行き届いてますね」



 しつこく噛み付いていた犬2匹は「ハウス」の一言で平将門から離れ、振り返ることなく家の中へと入っていった。


 最初からこれ言えばよかったんじゃないのか?




『ハハハハ!元気なワンコ達だ!では、若人達よ、縁があれば神田明神(やしろ)で会おう!さらば!』


「あんたもあんたで、本当に平将門か!?」


『ハハハハハハハハハ!』


「て、成仏するように消えてし!」


「あれって本当に神様なの?僕。神様らしい神様に一度も会った事ないんだけど?」


「大抵に人間はそうだけどな」


(マスター)、神というものは大抵こんなもの(・・・・・)です。特に平将門のような元・人間の神は、現世の人間の生き様に影響されやすいので、生前とは別人みたいにキャラ変することは珍しくありません。所詮は人の子です」


「最後、辛辣じゃね?」



 散々祟っていてはいたけど、その一方で時代の流れや文化の変化に順応していったってことか?



「ちなみに、同じ『三大怨霊』の菅原道真は現在オタク化しています。そして愛称はミッチーです」


「は!?」


「え!」


「何処かの(バカ)や、何処かの龍王(バカ)に汚染されたようですね。最近ではマンガやアニメも学問にカテゴライズされつつあることからも、今では積極的に学んでいる(・・・・・)ようです。秋葉原にも顕現しており、霊感の強い一般人に目撃されています」


「……」


「神って……」



 俺にとっては今更だが、泰雅にとっては神に対する畏敬の念が崩壊した瞬間だった


 悪名高い悪神(ロキ)ならまだしも、他の神が日本の秋葉原でオタクやっているなんて想像の埒外だろうし、まして日本では超有名神な学問の神様(菅原道真)がとなればそのショックは大きいだろう。


 だが、どんなに信じられなくてもこれが現実だ。


 お前だって異世界でバカ神達を目にしてきたんだからさ。


 同士(ゆうしゃ)よ、ここは素直に諦めてくれ。



「それはそうと、お前の仲間は大丈夫なのか?さっきから何の反応も無いけど?」


「あ!みんな!!」



 泰雅は慌てて家の中へと駈け込んでいった。


 仮にも勇者パーティのメンバーだし、神や魔王とも戦ってきた猛者達だから崇り殺されてはいないだろうけど、大丈夫か?


 俺の直感は何も訴えていないけど、家の敷地全体を浄化したり癒したりした方がいいか?



「全員無事です」


「ソフィアちゃん、それもっと早く言おうよ」



 何気に泰雅が駆けだした後に重要情報を告げるソフィアちゃん。


 狙ってやってないよね?



「……彼らは平将門の襲来にも気付かず、大音量でゲームに夢中になっています。私達の戦いに等、微塵も気付かずに……」


「もしかしてイラッとしてる?」


「……いえ、私達も行きましょう」



 今日は何かとご機嫌ななめなソフィアちゃんだな。


 平将門みたいに発狂モードにならないでくれよとしょうもないことを考えつつ、俺達は泰雅の家の中へと入ってゆきそのままリビングの方へと向かい、そこで大型テレビの前で戦国時代なゲームに熱狂している勇者パーティを目撃するのだった。



「征きなさい!私のホン〇ム!」(*某・貴族令嬢)


「殲滅よ!」(某・冒険者)


「もう!みんな夢中になり過ぎだよ!」(*勇者)



 泰雅はすっかり涙目になっていた。


 現代日本のサブカルチャーは神だけじゃなく異世界人の心も鷲掴みにしていたようだ。


 恐るべし!









日本の三大怨霊

 ・菅原道真→オタク

 ・平将門→爽やかのちケモナー

 ・崇徳天皇→???



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