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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
最終戦争?編
433/465

第418話 ボーナス屋、急展開?

遅くなりました。

小説の神が降ってこない……きっと士郎に持っていかれたせいだ。(言い逃れ)

――オオバ王国 王城・大広間――


「サンダルフォン様、何故この程度の事でひくのですか!?」


「我々は納得がいきません!!」


「事は世界の危機です!一国の事情など無視してでも推し進めるべきです!」



 モブ天使集団の一部が声高々にサンダルフォンさんに異議を唱え始めた。


 あ、他のモブ天使達が頭に手をやって溜息を吐いてる。


 なんか若手社員の教育に苦労している先輩社員みたいなオーラが出ているのは気のせいじゃない。



「そこの貴方も、世界が滅んだらこの国も消し飛ぶのですよ!それを解っていながら小さなことで断るなど、愚か――――」


「貴方達、口を閉じてくれる?」



 モブ天使達の1人が俺にまで突っかかってきた直後、サンダルフォンさんの一言で部屋の空気が一気に氷点下にまで下がったような錯覚が襲ってきた。


 俺に突っかかってきたモブ天使は瞬時にフリーズし、他の若手社員なモブ天使達も一様に氷像の如くフリーズしていた。


 サンダルフォンさん、パネエです。



「私、此処に来る前に言いましたよね?今回の件は重要な案件であると。下手に掻き乱して欲しくないから許可無しに発言する事は止めなさいと、私は何度も貴方達に言いましたよね。違いますか?」


「「「…………(ガクガク)!」」」



 サンダルフォンさんの冷たい視線怖い。


 モブ天使達は一言も反論する事を許されず、あっさりと心を折られて沈黙した。


 あのままテンプレなバトルイベントが起きるかと思いきや、起こる前に潰されてしまったけど、手間が省けたから善しとしよう。


 そうしよう。



「――――部下が無礼を働いてしまい申し訳ありませんでした。これは全て、上司である私の不徳の致すところです。如何様な処罰もお受けします」


「いや、気にしなくてもいいから。きっとさっきのは雑音か何かだし」


「……御慈悲、感謝します」



 別に慈悲とかじゃないんだけどね。


 単に余計な仕事を増やしたくなかっただけだし、下手に対処したらそれこそ後々に更なる厄介事となって帰ってきそうだしさ。


 女性天使一同が身売りに来たりとか、サンダルフォンさんが妾になるとか、そんな感じの。


 そしてそれを面白がって騒ぐ神界のバカ神ども。


 折れるフラグは降ります!



「では、雑音(・・)の始末は此方で付けておきます」


「「「…………(ビクッ)!!」」」


「本日はお忙しいにも拘らず話を聞いてくださりありがとうございます。同盟の件は白紙になりましたが、お困り事があれば我々は何時でも協力を惜しみません。今後とも、より良い関係でいられることは望んでいます」



 一瞬寒いものを感じたが気のせいだ。


 俺とサンダルフォンさんは握手をして対談を終え、「雑音」と呼ばれたモブ天使達は厳しい目をした先輩モブ天使(仮)達にホールドされながら大広間を静かに去って行った。


 あいつ等左遷されるのかな?


 なんて下らないことを考えているとサンダルフォンさんも大広間を出ようとしていた。


 俺は途中まで見送ろうと少し慌てながら彼女の下へと足を運ぼうとし――――止まった。




「!!!!」


「――――ッ!これは――――!!」




 ゾクッとする何かが俺の全身を走った。


 それはサンダルフォンさんにも起きたようで、俺達は反射的に真上を振り向いた。


 天井を見上げる俺達の視線が向く遥か先、世界の境界の向こう側で蠢くものの気配に、俺とサンダルフォンさんは否応なく気付かされることとなった。










--------------------------


――同時刻 狭間の世界――


 士郎達がその気配に気づいたのと同じ頃、世界と世界の狭間、その深奥の更に深奥となる場所では1柱の『魔神』が禍々しい力を無尽蔵に放ち続けながらその巨体を起こし、顔に浮かぶ一対の眼とは異なる第三の眼を生々しい音を響かせながら開眼させていた。


 その第三の眼はどんな生き物の血よりも赤く禍々しく、見るもの全てを無差別に滅ぼすような、言葉では言い表し切れないほど悍ましい気配を周囲に放っている。


 そしてその眼の主は誕生したばかりの新たな肉体の調子を数瞬確認すると、溜まりに溜まった憤怒と憎悪を上げて咆哮した。




『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――ッッ!!』』』




 咆哮は狭間の世界に暴嵐を生み出し、時間と空間の流れを大きく掻き乱していく。


 世界同士を結ぶ道は自然のものも人工のものも関係なく破壊され、憎悪に満ちた神気は数多の世界を浸蝕するように広がっていくが、世界の境界の直前で時空神達により張られた障壁に弾かれていた。


 各世界は辛うじて1つの災厄から護られていた。



『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――ッッ!!』』』』


『『『許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌ!!許サヌゾ―――――ッッ!!』』


『『『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――ッッ!!』』』


『『『ダーナに連なりし神々(ゴミ)どもがあああああああっっ!!』』』


『『『至高の7柱に牙剥く愚神どもめ!!』』』


『『『定命の者どもが!!』』』


『『『神の創造物如きが!!』』』


『『『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――――ッッ!!』』』


『『『旧キ欠陥品(セカイ)ガ生ンダ大特異点(バグ)如キガヨクモ我ガ肉体(ウツワ)ヲ!!壊シテクレタナッッッ!!!!』』


『『『我が自由を縛る(くびき)は今此処に消えた。今より我らが大命を――――――旧き世界の終焉を再開する』』』


『『『滅べ!!苦シメ!!亡べ!!悔め!!ゼツボウセヨ!!消えよ!!沈め!!』』』


『『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――ッッ!!』』』




 1柱の巨神から怨嗟の込められた幾百幾千の声が溢れ出す。


 その矛先は数多の世界へ無差別に向けられ狭間の世界を更に荒れ狂わせ、それぞれの世界を守護する障壁に波紋を立たせていく。


 だがその矛先は次第に1つの世界へと集約してゆき、嵐の如く入り乱れていた巨神の意志も1つに纏まり始めていった。




『『『―――――その権能(ちから)ごと―――――我が糧としてくれる――――――』』』




 そして嵐は静まり、巨神の3つの眼は冷たくも激しい炎を宿しながら1つの世界を――――正確にはその世界にある1つの惑星の1つの大陸を射抜くように凝視する。




『『『―――――ダーナの一族――――――我が血脈(フォモール)に叛逆せし愚孫――――――忌々しき蟻共――――旧き世界が生みし『勇者(イレギュラー)』―――――ッッ!!』




 秘密結社『創世の蛇』の頂点に君臨せし7柱の神、その1柱たる『魔神』バロールはこの世で最も憎き仇敵たちの居る世界へと進軍(・・)を開始する。


 嘗て己を封印した者達と、今は消え亡んだ旧きより愛用していた肉体(うつわ)を滅ぼした勇者達を滅ぼさんが為に。









--------------------------


――オオバ王国 王城・大広間――


〈――――以上が私が観測した一連の光景です。この直後から狭間の世界全体を他の《盟主》が蹂躙し続け、現在正確な観測は極めて難しい状況となっています〉



 目の前にドンと広がる特大スクリーンに流された映像に部屋の中にいた全員が息を飲んだ。


 色々と騒いだり青くなったりしていたモブ天使達は更に顔を真っ青に染めながら両膝を床に付き、その他のモブ天使の皆さんは戦慄一色の顔をしている。


 サンダルフォンさんはサンダルフォンさんで「まさか、こうも早く……!」的なシリアス顔でスクリーンを見つめていた。



(あのちょっと物足りないセリフさえどうにかなれば文句無しなんだけどな~)



 そんな中、俺だけは天使の皆さんとは斜め向こうの感想を抱いていた。


 ソフィアちゃんに見せてもらった映像はRPGの最終章直前のラスボス覚醒シーンやラストダンジョン出現シーンみたいな、日本のゲームを愛する者なら心が躍ってしまう迫力満点の映像だったが、肝心のラスボスさん(?)が叫んでいるセリフに何処か陳腐さを感じてしまって何だか消化不良を起こしたような気分だ。


 これなら咆哮オンリーか、終始無言の方が良かったかもしれない。


 なんてダメ出しする俺の精神はおかしいのかもしれない。



(マスター)、この状況を打破する為に力の強化供給を要請します。私の主の力が合わせれば《盟主》が何柱居たとしてもこの眼を遮ることはかないません!〉


「うん、分かった。取り敢えず一千万くらい送ってく。あ、ついでに《万象昇華》もプレゼントしておくよ」


〈ありがとうございます!では、私は失れ……ぁん♡〉


「ん?」


〈……失礼しました〉



 一瞬、色っぽい声が聞こえたと思ったけど何だったんだ?



「……これは、急いで天界に帰還した方が良さそうですね。ミカエル様達と急ぎ、策を講じなければ」



 サンダルフォンさんは冷や汗を流しながら呟く。


 その後ろではモブ天使集団がどうにか全員立ち上がっていたが、何人かは今にも卒倒しそうなじょうたいにあった。


 きっと、俺とは違ってあいつ等にはラスボス(?)なバロール完全復活シーンは刺激が強過ぎたようだ。



「士郎様、この急変に対し、私は急ぎ天界へと戻らなければなりません。本来ならば正式な過程を踏んだうえで事を運びたかったのですが、現状はそれを許してはくれないようです」


「……この世界が戦場になる、ということか。あの魔神、しつこ過ぎ!」



 仮にもラスボス(?)だからしぶといのは当然だが、この前大イベント――転生魔王軍戦&アンラ・マンユもどきとの大決戦――を終えたばかりなのに休む間もなく来ないでほしいと思うのは俺の勝手な都合だけどな。


 あ、でも、休む間もなくイベントが続くのもお約束(テンプレ)か?



「正確にはこの世界にではなく、ダーナ大陸が戦いの中心になるでしょう。『魔神』のダーナ神族に対する憎悪と執念は常軌を逸していますので。そしてこうなった以上、天界も現世側の承諾に関係なく強行的に動くことになるでしょう。私としては、手順に沿って穏便に準備を進めたかったのですが……」


「それは仕方ないさ。敵はこっちの事情に合わせる理由が無いんだからさ」


「そのお言葉、痛み入ります。私も可能な限りこの世界に損害を与えるような策に出ないよう進言します。では、失礼します」



 サンダルフォンさんは俺に頭を下げ、遅れてモブ天使達も深々と頭を下げる。


 そして今度こそ大広間を去り、この世界からも去って行ったのだった。



「ん?異世界同士を結ぶ道は全部壊されてなかったっけ?どうやって帰ったんだ?」


〈主、現世と天界を結ぶ道は狭間の世界とはさらに異なる次元に存在するのでまだ(・・)破壊されていないので通行は可能となっています。ただし、そちらも間もなく《盟主》出現による影響を受けることになり、3時間以内に通行不可能になる確率は75.6%です〉


「バロールⅡがこっちに付く時間は?」


〈――――“狭間の世界”の最深奥から各時空神達の妨害を受けながら進攻しているので直ぐに到着する事はありませんが、この世界(ルーヴェルト)の時間で1~3時間以内に境界に到着します。ですが、この世界の境界には主の力を含め、複数の超越者(・・・・・・)による防衛機能が施されている為、コレを突破するのに更に84時間以上の時間を要すると予測されます〉


「意外と時間がある?」



 最低でも3日以上の猶予が残ってるのか。


 てか、移動の20倍以上の足止めをする防衛機能って、誰が創ったんだ?


 今までそんなの発動した事ってあったっけ?


 少なくとも俺はそんな代物を創造した記憶は無い。


 精々、毎度鬱陶しい連中が干渉してこないように軽く世界全体を結界で覆ったくらいだ。



〈…………………。兎も角あくまでこれは現時点での予測に過ぎず、未来は常に変動しています。少しでも最善の未来を選択することができるよう、関係各所に緊急連絡をしておきましたので、主も急ぎ動いてください。今は1秒も無駄には出来ません〉


「おっとそうだった!コッコくん達も集めないと!」



 色々と疑問もあるが、今はこの世界に向かっているラスボス(?)な『魔神』バロールへの対策を打たないといけない。


 俺はソフィアちゃんとの念話を一旦切り、これから始まるであろう緊急会議の準備の為に動き出す。


 コッコ団もそれ以外のアニマル達も全員集合だ!



『ゴケ!』


『ピィ!』


「到着早っ!?」



 と思ったら呼ぶ前に全員集合しそうな流れになった。


 いや、実はずっとスタンバってただろお前ら!










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