第406話 クロウ・クルワッハ、無双?
最近不調……
――魔王城(地下)――
イスラエル第三代国王ソロモン。
彼の王が召喚し使役した72柱の悪魔の内5柱がクロウ・クルワッハの前に立ちはだかっていた。
蒼いロバや馬に似た姿をした悪魔の侯爵、序列4位サミジーナ。
緑の外套を纏い顔を覆面で隠し狩弓を装備した侯爵、序列14位レラージュ。
蝙蝠の翼と蛇の尾を持ち、その手に怪しい剣を装備した公爵、序列18位バシン。
その姿は怪鳥、敵意を隠すことなくこちらを睨む伯爵、序列40位ラウム。
豹の獣人に似た姿を持つ一騎当千の大総長、序列57位オセー。
魔王と契約し、絶大な力を得て進化した大悪魔達は、勇者と契約して同じく超進化したクロウ・クルワッハを滅ぼそうと体勢を直していく。
バシンは周囲の空間を歪ませ、何本もの刀剣類を出現させてクロウの周囲を囲んでいく。
レラージュは音も無く空気に溶け込む様に姿を消し、ラウムは翼を羽ばたかせ自身の羽根を撒き散らせながら上昇していく。
オセーは剣を構えながら不動の体勢をとり、サミジーナは数歩前に進むとクロウの動きに細心の注意を図りながら攻撃を開始した。
『―――――ッ!?』
だが、気付けばサミジーナの視界は反転していた。
時間を停止させての高火力攻撃。
だった筈が、気付いた時にはクロウに片手で投げ飛ばされていた。
「……未契約の神格にはキツイ攻撃だな。けど、そんな攻撃は俺には通じねえぞ?」
クロウは何時の間にか武人のような眼差しになりサミジーナの目を睨んでいた。
その視線にサミジーナは寒いものを感じていた。
「確かに魔力は段違いだ。種の壁も超えている。が、それでも彼奴と契約し生まれ変わった俺に勝つには――――まだ足りない」
『調子に――――乗るな!』
威嚇するように放った言葉に過敏に反応したのはクロウの真上を飛んでいたラウムだった。
『《無音なる焔獄》!!』
ラウムは通常の爵位級悪魔では考えられないほどの魔力を、数値にして700万近い魔力を器用に操作して攻撃魔法へと転化し、その名の通り一切の音を立てることなくクロウへと放った。
《神速回復》といった回復補正があるからこその力業、ラウムの傍ではバシンが時空を操作してクロウを《転移》などで逃げられないように封じ込め、クロウは一歩も動く事無くラウムの攻撃をその身に受けたのだった。
そして地下空洞は静寂に包まれながら地獄と化してい……かに思えた。
――――ドス!
生々しい音が地下空洞に響き、それを見たサミジーナとバシンは目を丸くした。
『ガ……ゲホッ!?』
「何度も言わせるな。俺とお前達とでは、格が違う」
クロウの右腕がラウムの胸を貫通していた。
血を吐き、信じがたい現実に驚愕するラウムだったが、思考する時間すらクロウは与えなかった。
「――《真龍の大晩餐会》――」
ラウムの体内で光が弾けた。
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――ッッ!!』
地下空洞にラウムの絶叫が響き渡る。
ラウムは為す術も無く全身をクロウの右腕に吸い込まれるように消えていった。
『『!!』』
その光景にサミジーナ達は絶句する。
想定外過ぎる一方的な決着。
その辺の上級神すら片手間に屠れる力を得た筈のラウムが一瞬で胴を貫かれ、抵抗すら許されずに消滅した事実を彼らはすぐには受け入れられなかった。
「……ん?」
そんな彼等の事など眼中にないのか、クロウは何やら訝しみながら己の掌の中を見つめていた。
『ピ~!(おのれ~!)』
「は?何でこうなった?」
クロウの手の中にはヒヨコ……いや、何かの鳥のヒナがいた。
雛鳥はじたばたと暴れていたがクロウの力に敵うはずもなく、数秒でダウンしてしまった。
「……存在ごと吸収するつもりが、可愛いペットになったな。チビッ子達の土産にするか」
『ピ~!(放せ~!)』
悪魔の伯爵は何故か雛鳥になってしまった。
それも女子高生100人中100人が「カワイイ~♡」と声を上げるほどの可愛らしいタイプの雛鳥に。
きっとソロモン王もビックリするだろう。
「新能力の副次効果か?まあ、いいか!」
クロウは雛鳥をポケットに仕舞うと、未だに現実を受け入れられていないサミジーナの方を振り向いた。
『……!』
「さあ、やるか?」
ニヤリと、クロウは悪魔よりも悪魔らしい笑みを浮かべた。
流石は元・邪龍である。
『―――――舐めるな!!』
『ラウム如きを倒して図に乗るな。トカゲモドキが!』
サミジーナの魔力が爆発し周囲の景色が激しく歪み出す。
同時にバシンが剣の群と共に駆け姿を消す。
音よりも速く、雷よりも速く、そして光よりも速く加速し続け―――――
「いや、遅いから」
る事は無かった。
『―――――ッッ!?』
龍鱗に覆われた拳がバシンの上半身を砕いた。
直後に黄金の光柱がバシンの残骸を飲み込み跡形も無く消し去った。
唯一残った剣もクロウが疲労と同時に彼の体内の吸い込まれて消えた。
『《終焉無き時の厩》!!』
バシンを倒した直後のクロウをサミジーナの魔法が襲う。
最早余裕が無いのか、今は兎に角クロウが全力を出す前に、人化を解いて本来の姿に戻る前に始末する事しか考えられないように見えた。
だが、その考えは甘かった。
まず前提が間違っている。
人化している今のクロウにならまだ勝ち目がある、その考えがそもそも間違っていたのだ。
「ほう?」
『!!!!』
クロウが浮かべた笑みにサミジーナは戦慄する。
そして同時に、サミジーナは己の未来を、幾通りもあるこの戦いの結末を全て目にして青ざめた。
(勝率……ゼロ……!)
勝機は皆無だった。
幾つもの未来を視ても、彼がクロウに勝つ未来は存在しなかったのだ。
いや、正確には無くなってしまった。
つい数分前までは、士郎と共に魔王と対峙してからこの地下空洞に来るまでの間は決して高いとは言えなかったが、確かにサミジーナ達にも僅かに勝利の未来は存在していた。
それらの未来が今、ひとつ残らず消え去っていた。
――――無慈悲な断罪超神
光が全てを飲み込んでいく。
サミジーナは莫大な力で対抗するも、最後は為す術無く光に飲み込まれ消えていった。
――――魔王四天王1名脱落。
「――――で、お前は何時まで仁王立ちしているんだ?」
光が止んだ後、クロウは未だに1人で仁王立ちしているオセーに話しかけた。
直接ではないにしろ、先程の光を浴びたオセーは魔王との契約により手に入れた数々の恩恵を喪失しており、総合的に見てもクロウを大きく下回っている。
普通なら逃走を図ってもおかしくない状況だが、オセーは微塵もそんな素振りを見せていない。
『なに、結果が見えているとはいえ、汝程の猛者とは一対一で戦いたいと思うただけよ。これは隠れているレラージュも同意しておる。横やりは刺さん。まあ、敵の言葉など信じられんだろうがな。だが、儂が生粋の武人である事は解るだろう?』
「……ああ、確かに解る。笑えるほどの戦闘狂だってことはな」
クロウはニヤリと笑う。
既にレラージュがこの場に居ない事はクロウも把握しており、オセーの言葉に偽りが無い事も確信している。
本来ならオセーの言葉など聞き流して瞬殺するところだが、何かの気紛れなのか、クロウはオセーの希望を叶えることにした。
『――――こっちの姿の方が好みだろう?』
クロウは人化を解き、その本性を露にする。
人化している時には抑えられていた真龍神のオーラが遠慮なくオセーに襲い掛かる。
『おお……!儂は此れを待っていた……!』
オセーの顔に狂気を含んだ笑みが浮かぶ。
そして彼は全ての力を解放し、それを圧縮させて全身に纏わせた。
チート能力等頼らない、純粋な肉体の力で戦うつもりだ。
『行くぞ!強き龍よ!!』
『―――――来い!』
片や勇者と契約した真龍神、片や魔王と契約した悪魔の大総長。
誰にも譲れない漢と漢の戦いが幕を上げた。
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
オセーは宙を蹴る。
その衝撃は邪龍神の攻撃にも耐え抜いてきた地下空洞の壁に亀裂を走らせ、地盤との均衡を一瞬で破壊する。
そしてその拳は光以上の何かと化し、迎え撃つクロウと衝突を――――
『ピィ~~~~~~~!!』
……しなかった。
『『は?』』
『ピィ~~~~~~~!!』
それは刹那よりも短い時間の出来事だった。
地盤を貫き、巨大なスラ太郎がオセーの真上から落下してきた。
――――プチ!
悪魔の大総長、死亡。
死因、圧死(笑)。
『ピィ!』
『ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!』
スラ太郎、ドヤ顔。
クロウ、大絶叫!
〈シリアス?何それ、美味しいの? byスラ太郎FC〉
〈特別ゲストのソロモンさん。今どんな気持ち?どんな気持ち? by某・暇な男神〉
〈私の偉業、ストップ安! byソロモン〉
最後は何時だってスラ太郎!
次回「スラ太郎、無双?」(予定)




