第40話 バカ皇子、生まれ変わる?前編
今回はバカ皇子のお話、ちょっと長くなったので2話に分けます。
俺の名はヴィルヘルム=O=ファリアス、偉大なるファリアス帝国皇帝の第一子にして次期皇帝を約束されたこの世で最も高貴な男・・・・・・だった。
何がどうしてこうなった?
本当なら帝都を凱旋して俺の名前はこの世界の歴史に永遠に刻まれるはずだった。
それが今では弟に嵌められて戦死者扱い。
同じく実の姉王女に嵌められたフィンジアス王国の第二王女と一緒に辺境の田舎でヒッソリと暮らす羽目になった。
本当にどうしてこうなったのだ!?
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あれは半月ほど前の日の事だった。
その日も俺は、貴族子弟の中から選び抜いた直属の騎士団(周囲は親衛隊と呼んでいる)と共に園遊会に参加し、有力貴族達との交流を深めていった。
開戦の理由は忘れたが、我が帝国は隣国のフィンジアス王国と戦争中だ。
帝国の第一皇子である俺は貴族達の意志をひとつにまとめる義務があると親切な者に言われ、俺は毎日のように有力貴族達との親交を深めていっている。
この日の前日も別の貴族のパーティに参加し、その前の日は湖畔で地方貴族の令嬢達と帝国の未来について語り合い、さらに前の日は他の騎士団や軍上層部の面々と・・・とにかく忙しい日々を過ごしていた。
「ヴィルヘルム殿下、本日は当家の園遊会に御参加していただき、まことにありがとうございます。」
「ハッハッハ!次期皇帝として貴公の誘いを無碍にはできないからな!」
「皇子、声が大きすぎます!」
あの日の園遊会もいつも通りに終わる筈だった。
あの話を聞くまでは・・・。
「・・・・・・では、エーベル殿下が?」
「ええ、日時はまだ未定ですが、帝国の代表にはエーベル様が選ばれるそうです。噂では陛下の御指名があったとか。」
「先日の件といい、エーベル殿下の活躍は凄いですな?」
「同感です。私の予想では、次期皇帝の座はブリッツ様とエーベル様の何れかと・・・。」
その話を聞いた瞬間、俺は肉の喉に詰まらせて危うく窒息死するところだった。
何と、俺の知らない所で俺は次期皇帝候補から外されていたのだ!
次期皇帝は俺だろ!!
俺の今までの汗と涙は!?
「・・・皇子、両手に木の枝を持って何してるんですか?」
「(シッ!静かにしろロビン、見つかったらどうする!?)」
「(それで隠れてるつもりですか・・・!?)」
横でロビンがブツブツと何か言っていたが、その時の俺はそんな事よりも貴族達の噂話を聞くのに夢中になっていた。
そして、俺はさらに衝撃を受けた。
「やっぱり、次の皇帝にするならブリッツ様ですよね♪」
「ええ、あの知性に溢れた顔は皇帝に相応しいわ!」
「あの若さで政の手腕を発揮するお姿、一度見たら忘れられませんわ。」
「私はエーベル様も素敵だと思いますわ。先日もゴリアス国の大使との対談も成功させましたし、お父様の話ですと同盟締結の会議にも帝国代表として陛下直々に選ばれたそうですし。
「それは本当ですか!?」
「では、陛下はエーベル様を次期皇帝に?」
「それは無いですわ!次の皇帝はブリッツ様です!!」
俺は信じられなかった。
そこでテーブルを囲んでいるのは、みんな俺が日々の職務で会ってきた上級貴族の令嬢達だった。
彼女達は何を言ってるんだ!?
何時も俺こそが皇帝に相応しいと言っていたではないのか!!
一緒にボートに乗って未来を語り合ったじゃないか!!
「(・・・い、いや、きっと照れて正直に言えないだけだ・・・・多分。)」
「(いえ、思いっきり本心だと思います。)」
「(ハハハ、きっとおれに惚れてるのに素直に口に出せないだけなんだぞ?)」
「(・・・現実を見ましょう、皇子。)」
きっとすぐに俺の名が話に出てくるはずだ。
そう思っていた。
「――――――そういえば、今日もヴィルヘルム様が来てますわね?」
「あのお方も暇ですよねえ?」
暇ではない!多忙だ!
予定を調整して来てるのだ!!
「というより、私はあのお方が遊んでいる姿しか見たことがありませんわ。」
「私もです。正直言って、お飾りの第一皇子ですわよね。ブリッツ様達みたいに賞賛されるようなご活躍は皆無ですし・・・・」
違うぞ!
俺はちゃんと陰で頑張っているのだ!!
自己主張していないだけだ!!
「それに軽いですし・・・。」
「いつも一緒にいる騎士団も、こう言ってはなんですが、ほとんどが評判の悪い人達ですし・・・・。」
「もっとハッキリ言ったらどうです?ヴィルヘルム様は――――――――――――」
俺は最後まで話を聞かずに逃げ出した。
騎士団と一緒に宮殿へと逃げ出した。
どうして彼女達があんな事を言うのか理解できない。
俺は今まで皇子として帝国の為に動いてきたはずだ。
毎晩眠気に耐えながらダンスを踊って貴族達と信仰を集め、他国の大使の令嬢達とも仲良くなっていった。
夜の方も問題にならないように我慢・・・・・・そう、我慢してきた!
それなのに何故、俺ではなく弟達ばかりが評価されるのだ!?
全く理解できない俺は宮殿の前で騎士団と別れ、1人で宮殿内を彷徨っていた。
「――――――おや、兄上ではないですか?」
「エーベル!」
すると、文官をたくさん引き連れた我が第2の弟、エーベルとバッタリと出会った。
何故かニヤつきながら俺を見ている。
「兄上は今日も暇人どもと一緒に暇つ・・・いえ、兄上も随分と忙しそうですね?僕は今から帝国の未来を賭けた重要な・・・そう、兄上の仕事には見劣りしますが、とにかく重要でちょっと歴史を動かしちゃうような仕事をしているところです。あ、本当に大した仕事ではないですよ?兄上のように高貴な方々と飲んだり食ったり踊ったりするような頭が可笑しくなるような大変な仕事ではありません。ええ、父上から今までコソコソやってきた事をちょっと評価されただけで、僕自身は兄上のように次期皇帝と堂々と名乗れるような身分ではないので。」
「~~~~~~~~~~!!!!!」
「ああ、そういえば外に兄上の騎士団がいるようですが、そろそろ兄上も戦争の最前線に立つのですか?そういえば、兄上達は此度の戦争ではどのような活躍をしているのですか?僕は何分軟弱な身なので、毎日宮殿の中で椅子に座る毎日です。きっと、僕の知らない所で活躍しておられるのでしょうね?今度是非、兄上の活躍について話を聞かせていただきたいものです!」
「・・・ハハハハ!!いいだろう、今度時間ができたらこの俺の活躍を夜が明けるまで聞かせてやろうではないか!」
「それは楽しみにしていますよ。次期皇帝の兄上♪」
我が弟エーベルはニヤニヤしながら去っていった。
何故だか知らないが、エーベルは俺と会う時はああいう感じなのだ。
小さい頃は俺の後ろにくっ付いてばかりの可愛い弟だったのが、最近では部屋に籠りっぱなしで会う機会は少ない。
前に会ったのは何日前だったか・・・・・・?
いや、それよりもこの時のエーベルは随分と忙しそうだった。
そういえば、ロビンが最近は弟達が手柄を次々にあげているとか言ってたか?
そして俺はある事に気付いた。
そう、手柄だ!
今は王国と戦争中!
戦争で不安になった貴族や民衆達は俺ではなく弟達が皇帝になると勘違いしているんだ!
うん、きっと・・・・・・きっとそうに決まっているのだ!
よくよく考えてみれば、父上も「前線に立て!」と何度も言っていた気がする。
最近どうも父上の俺に対する態度が変なのも、俺に早く手柄を取ってほしかったのだろう。
確かに、大陸中に俺が次期皇帝になる事を発表するには大手柄を立ててからの方がいいからな!
俺はすぐに自室に戻って、俺に相応しい大手柄をたてる作戦を考え始めた!
だが、そこですぐに大きな壁にぶつかってしまった。
「・・・戦争って、何すればいいんだっけ?」
これは大きな問題だった。
戦争など俺が生まれてからほとんどなかったのでどうすればいいのか分からなかった。
これは次期皇帝の俺にも難しい問題だった。
するとそこへ、何時もの親切な人が俺の悩みを解決しに来てくれた。
「―――――――ヴィルヘルム様、でしたら敵将を倒すのが1番でしょう。丁度先程、王国に潜入させておいた密偵から情報が届きまして、それによりますと、第二王女ステラが騎士団と兵を率いて帝国の領土に侵入するとのことです。『戦姫』と名高い王国の第二王女を捕まえればこの戦争は帝国の勝ちです!」
「そうか!なら早速捕まえに行くぞ!!」
「その決断の早さ、若き頃の陛下にそっくりです。やはりヴィルヘルム様こそが次期皇帝!建国の始祖の血を色濃く受け継いだ歴代最高の皇帝になるお方です!!」
「ハハハハハハハハハハ!!!本当の事だが、人から言われるとなんだか恥ずかしいな♪」
「御謙遜を、それでは早速兵を集めて出立の準備を致しましょう。早く動かなければ殿下の活躍を待ち望んでいる陛下のご機嫌が悪くなって臣下達に余計な負担をかけてしまいます。」
「よし!さっそく我が騎士団を筆頭にした、帝国最強の部隊を作るのだ!!」
「御意!では、将来有望な兵達を選別してきます。軍上層部からも注目されている兵を集めますので、少しばかりお時間を。」
「ハハハハハハハハハハハハ!!頼んだぞ!!」
こうして俺は騎士団と、軍の中でも優秀だと言われている兵達を率いて敵国の王女を倒しに国境近くのファル村へとやってきたのだ。
だがその結果がこれだ。
―――――――――俺達はそこのバカ皇子の弟と、そこの王女の姉を唆して今回の暗殺計画を遂行した訳だ。まあ、主な目的は王国の主力にもなる第2王女とその一派の全滅と、帝国側の不要な人材の一斉処分だけどな。もちろん、そこのバカ皇子も含めてだ。
俺の兵に紛れ込んでいた暗殺者は、俺を敵国の王女ともども焼き殺そうとした。
――――――――――ああ、あとそこにいる連中は両国でもすでに死亡したと公式発表しておいたから、助かっても帰る所は何所にもないぜ?偽者も跋扈していると偽情報も撒いておいたからな♪
何という陰謀だ!!
『創世の蛇』とかいう謎の組織は、このヴィルヘルム=O=ファリアスを恐れて暗殺しようとしたのだ。
許さん!
すぐに態勢を整えて反撃に出てやるぞ!!
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!
見ていろ悪党共め!!
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――余談――
ヴィルヘルムは早足で去ったので最後まで聞かなかったが、園遊会での令嬢達の会話にはまだ続きがあった。
「・・・あ!でも、エーベル殿下って偶に変な笑い声を上げる事がありますわ!」
「そうなんですの?」
「ええ、以前、お父様と一緒に宮殿に行った際、殿下の部屋から高笑いする声が聞こえましたわ。」
「そのお噂なら私も聞いた事がありますわ。エーベル様を悪く言う訳ではありませんが、エーベル様って何と言うか、周りに流されやすい時がありますよね。」
「それは私も同感です。人の話をあっさり信じてしまい、上手く利用されてしまいそうな感じがしますわね。」
「それを言ったらブリッツ様も・・・・」
ヴィルヘルムが去った後、彼女達は彼以外の皇子達の短所の話で大いに盛り上がっていた。
中には本人達はおろか、彼女達の両親を含めた貴族達も知らないような事まで事細かに語られていたのだが、彼女達以外に知る者はほとんどいなかった。
そう、彼らを裏で利用している者達を除いて―――――――――――――――。
続きは次回で。