第398話 その頃、ダーナ大陸では 前編
――ダーナ大陸――
士郎が魔王城に潜入している頃、ダーナ大陸の方では彼の仲間達が魔王軍と壮絶な戦いを繰り広げていた。
大陸西部にある複数の火山の噴火から始まった侵攻は、1万体を超える魔獣が麓の町々に到達する直前でコッコ団を始めとする士郎の愉快なアニマル達と、偶々冒険者業務で現地を訪れていたヒューゴ達『ビッグウイング』のメンバー、この日も朝からバカをやっているチームバカ皇子が逸早く動いてくれたお蔭で未だに死亡者を1人も出さずにいた。
そして少し遅れて大陸中のチート戦士達が続々と集まり、魔王軍と熾烈な戦いを繰り広げていった。
ちなみに……
『『『ゴッケ~!!』』』
「母ちゃん!俺にもニワトリ欲しい!!」
「雌鶏ならいいわよ。卵を産むからね」
魔王軍の侵攻先の町の住民達は、避難しながらもコッコ団たちの活躍に夢中だったりする。
日に日にチートキャラに慣れていくダーナ大陸の住人達の神経は神の想像を超えるほど図太くなりつつあるのだった。
というより、最近はこんな光景が日常茶飯事なので嫌でも慣れてしまうのだが。
主にコッコ団とか、チームバカ皇子とかで……。
そして当然の如く魔王軍の魔獣達は物凄い息を出でかられていき、その半数近くはコッコ団を含めたアニマル達のご飯に消えていくのだが、その中には士郎が飼っている以外のアニマル達も含まれていたりした。
『キュキュキュキュ♪』
「シャイン!幾らなんでもそれは1人(匹)じゃ食えないだろ!」
例えばここに居るドラゴンなシャインちゃん――80話から登場!――、この子は士郎のパーティメンバーでありファリアス帝国の皇子様であるヒューゴの使い魔なのだがまだ生まれて数ヶ月の赤ちゃんドラゴン、サイズも子供が抱ける程度のものであり、普通に考えれば東京タワーと殆ど変らない大きさの超巨大魔獣(死)――SSSランクで神の加護を受けた魔力500万オーバーの規格外魔獣――を1匹だけで食べ切れるとは思えなかった。
だが、飼い主であるヒューゴと同様に士郎の魔改造を受けたシャインちゃんはその不可能の壁を見事に打ち砕いた。
「え、マジ!」
『キュ♪』
食べ切った!
死んでも500万を超える魔力を体内に秘めた巨大魔獣を中にある魔石ごとたった1匹で食べ切ったのだ。
これはシャインちゃんの固有能力――《神喰いの牙》《聖なる捕食》《便利な胃袋》が統合進化した能力――による所業であり、シャインちゃんはその後もヒューゴ達と一緒に倒していったSSSランク魔獣をペロリと平らげていき、当然の如く凄い勢いでレベルアップをし、そして進化をしていったのだ。
『キュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
「シャインが大きくなった~~~!?」
「兄さん落ち着いて!」
「種族が“竜”から“龍”になったぞ!」
『ヒュ~ゴ~!』
「「「喋った!?」」」
怒涛の進化を遂げたシャインちゃんは魔獣の“竜”から龍族へと進化し人語を流暢に話せるようになった。
サイズは日本の一般家屋程度だが、これはあくまで年相応のサイズに過ぎない。
シャインちゃん、進化したと言っても肉体年齢は0歳なのである。
つまり、今後は更に大きく成長する可能性があるという事である。
ともあれ、その後もシャインちゃんのお食事は続いていくのだった。
余談だが、他の龍族と同様にシャインちゃんも人化(幼女)ができるようになった。
そして別の場所では、無駄にテンションの高い馬が、同じくテンションの高い主人を背に乗せながら魔獣で埋め尽くされた大地を爆走していた。
説明するまでも無くバカ皇子とその愛馬ゴルド・ヴィント号である。
『ヒヒ~~~~~~ン!!』
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお落ち着けえええええええええええええええええええええええゴルドドドドドドドドドドドドドドドドドド・ヴィント号おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
『ヒッヒヒヒ~~~~~~~~~ン!!』
ただし、敢えてより正確に説明するならば、音速を超えて大地と大空を翔るゴルド・ヴィント号の手綱を、バカ皇子が半泣き状態で必死に掴んでいる状態である。
そんな飼い主の事など無視しているのか、ゴルド・ヴィント号は神々しい黄金の光を放ちながら無垢なる民を害さんとする魔獣達の息の根を止めていった。
そして急速にレベルアップしていくゴルド・ヴィント号は、倒した魔獣の魔石と魂を根こそぎ吸収してゆき、シャインちゃんと同様に超進化を遂げていくのだった。
魔獣から聖獣、光り輝く翼を持つ天馬へと。
『悪しき獣よ聖なる鉄槌を受けよ!我は聖光の加護を受けし金翼と神風の雄!天に変わり邪悪を滅する者なり!!!!』
「STOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOP!!ゴルド・ヴィント号STOOOOOOOOOOOOP!!」
『受けてみよ!!我が悠久黄金断罪殲光を!!』
人語を放せるようになったゴルド・ヴィント号だが、彼は重大な病を患っていた。
自分を偉大なる神を背に乗せて天を翔け、天地創造に尽力し、世界を滅ぼそうとした邪神を世界の果てに封印し、人間の姫と添い遂げた末に悲劇の死を遂げた伝説の天馬の生まれ変わりだと思い込み、今世では滅亡寸前の世界を急逝する使命があると本気で信じているのだ。
つまり中二病、不治の病である。
『我が魂の煌きの前に散れ!!』
もっとも、中二病という言葉自体が浸透どころか存在していないこの世界では対して気にすべき事ではないのかもしれないが。
こんな感じにゴルド・ヴィント号(+バカ皇子)は魔王軍を尋常ではないペースで駆逐してゆき、自らの力を急速に成長させていくのだった。
それがこの世界にとって有り難い事なのかは不明だが……。
余談ではあるが、チームバカ皇子は地道に魔王軍と戦っていました。
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戦いが民間人の犠牲者を出す事も無く進んでいく中、ダーナ大陸の魔王であるギル=ハーデスは大陸上空を単身で飛行しながら地上の様子を覗っていたが、その表情は明らかに苛立ちを見せていた。
「……折角此処まで増やした軍勢を無駄遣いさせやがって!」
時間と共に数を減らしていく魔獣の軍勢を見下ろしながら悪態を付く。
本当ならもう1ヶ月以上時間をかけて育てる予定だった魔獣達、最初はCランク以下だったのを固有能力を使用して強化し、その多くをSSランクやSSSランクにまで育て、予定通りなら1ヶ月後には神すらも殺せる驚異の軍勢――コッコ団と互角のレベル――になる筈だった。
だが、その当初の予定は突如として現れた他大陸の魔王マルスの襲来により頓挫し、自身もマルスの前に敗北し隷属、その直後に隷属の力で命令をされ育成途中の魔獣達を地上に出撃させられてしまったのだ。
それが精々時間稼ぎにしかならないと相手も理解していながら。
「クソッ!この大陸の化け物どもにはSSSランク程度じゃ相手になる筈がないだろが!無駄に駒を死なせやがって!!」
血が滲み出るほど拳を握りしめながらギルは苛立ちを募らせていく。
自慢の虎の子はまだ出してはいないが、時間をかけて育てた1万体以上の魔獣達が敵の糧となって死んでいく光景は彼にとって耐えがたいものだ。
出来る事なら今すぐにでも地上に下りて敵を葬りたいと怒りを煮え滾らせるがそれは出来ない。
マルスによる隷属により独断行動はできなくなっており、敵側から攻められるならまだしも、自分から直接敵陣に突撃する事は固く禁じられているのだ。
あくまでマルスの時間を稼ぐ為の捨駒、それがギルに与えられた仕事だった。
―――――ゴケェ~!
そして、ギルの耳に気の抜けるような鳴き声が聞こえてくる。
それは魔王であるギルにとっては不吉な声そのものだった。
「チッ!あのフライドチキン共!」
舌打ちをし、ギルは鳴き声のする方に向けて手をかざす。
幾何学模様の魔方陣が出現し、その中から1人の美女が現れる。
「奴らの相手は任せる。戦の女神」
『良いでしょう。あの現人神の眷属はこの私が屠ります』
契約者であるギルの顔を一瞥することなく女神は彼方から飛んでくるコッコ団に元に向かって疾走していった。
古代ブリタニア(イギリス)でケルト人達に信仰された戦争と勝利を司る女神、アンドラステ。
魔王ギルの能力により全盛期以上の力を得た彼女は同じく彼の能力で創られた剣を携えて戦場へと降臨するのだった。
『『『ゴッケ~~~!!』』』
『神の領域に踏み入れし者達よ、契約者の勝利の為に貴殿らを葬ります。覚悟!』
『『『ゴケェェェェェェェェ!!』』』
戦意の溢れるコッコ団と女神アンドラステの戦いが幕を上げる。
序盤はコッコ団が数の多さを利用した連携攻撃でアンドラステを翻弄しようとするが、流石は戦の女神というべきか、進化しているとはいえコッコ団の一般団員(?)達など歯牙にもかけず1分弱で剣の餌食にしてゆき、数分後には空の戦場に残っているコッコ団員は2羽、このチームの代表であるテリヤキちゃんと、ほぼ強制的に召集されたヤル気ほぼゼロのクリスピーくんだけとなっていた。
ちなみに、アンドラステがどれ位強いのかを例えで説明すると。オリンポス大陸の『大迷宮』のラスボスとして登場……というより乱入してきた某・脳筋神より強く、彼女もギルによって強化育成された1人であった。
『……恐ろしい方々ですね。流石はオリンポスの女神に一役買っただけはあります。ですが、それも此処までです』
『ゴ、ゴケェ……!』
『ゴケ~(-。-)zZZZ』
窮地に陥るテリヤキちゃんと、何故か空に浮かびながら昼寝をしているクリスピーくん。
だが、相手が神だろうとも決して負けないのがコッコ団である(?)
すぐに形勢逆転劇が始まった。
『ゴケ?ゴケッコ?(ん?呼び出し?)』
今の今まで居眠りをしていたクリスピーくんが目を覚ましたのである。
どうやら此処にはいない仲間からの呼び出しを受けたらしく、まだ眠たさそうな顔をしながらも閉じていた瞳を開き、その眼は訝しむように彼を見ているアンドラステを捉える。
『ゴケゴケ!ゴケゴケェ~!ゴケゴケ!(クリスピー!寝てないでこっちも手伝ってよ!ピンチなの!)』
『……ゴケ?ゴケッコ(……え?いいよ)』
寝惚けたままテリヤキちゃんの前に出るクリスピー。
対するアンドラステは神の直感からか、テリヤキちゃん以上に寝坊助クリスピーくんを警戒する。
周囲に《神術》による障壁を張り巡らせ、剣にも複数の術を付与し、その剣先からは空間を歪曲させるほどの力を漏出させていく。
『―――――ッ!見た目に反し、何という猛々しき力……!』
『ゴケェ……。ゴケェゴケゴケ~!(眠い……。じゃあ、行くよ~!)』
『なっ――――!』
クリスピーくん無双タイム開始!
クリスピーくんは超光速でアンドラステに突撃、直後にダーナ大陸全域に届くかのような爆音と共に閃光が大空を埋め尽くした。
そして閃光が空を埋め尽くしている間にも戦いは続いていく。
『こ、この速さは何!?』
『ゴケゴケゴケ~!(クリスピーライジングラッシュ~!)』
クリスピーくんは速かった。
それこそ、神速で動けるアンドラステを完全に翻弄できる程までに。
『ゴケゴケゴケ~!ゴケ!(クリスピーウェポンブレイク~!極!)』
アンドラステの剣にクリスピーくんの嘴が衝突する。
すると神の力を纏っていた筈の剣がガラスの様に砕け、続けて彼女の装備品の全てが煙のように霧散して消滅、更には彼女自身に掛けられていたあらゆる術式が消滅した。
クリスピーくんの不思議パワーがアンドラステの防御をゼロにした瞬間である。
『こ、これは……!?』
動揺するアンドラステ。
気付けば全身から力が抜け出ており、振り返ればテリヤキちゃんが口を大きく開いて彼女の力を超吸飲していた。
『ゴケゴケ~!ゴケ!(コッコバキューム~!極!)』
クリスピーくんも超吸飲を開始する。
防御がゼロの状態なのでアンドラステの力は見る見るうちに減っていく。
彼女の回復力すら超える勢いで力を吸飲してゆき、彼女は宙に片膝を付いてしまう。
『これ程……とは……!』
その気になれば某・脳筋神も倒せる力を持っている筈のアンドラステは自身の敗北を確信する。
切り札とも言える数々の能力も何時の間にか封じられ、あとは素手で――一発で山を抉る程度の威力があります――戦うしかなく、彼女はあっという間にクリスピーくんとテリヤキちゃんに追い詰められていく。
彼女は知らない。
彼女の神の力を超吸飲する事により、戦闘中でも2羽の能力が進化を続けているという事に。
テリヤキちゃんの固有能力《美食進化》が超進化し、自分だけじゃなく仲間すらも進化させ、《魔法消去》も超進化して魔法だけじゃなく神の力も無効化することも可能になったという事に。
クリスピーくんの能力も個性的に超進化し、更には3分間だけコッコくんと同等以上の強さを得られる能力を獲得したという事に。
戦いの最中に動揺し、力の一部を封じられた彼女は最後まで気付く事が出来なかった。
『ゴケゴケェ~!(クリスピーノヴァ!)』
『ゴケゴケッコ~!(テリヤキエクスキューション!)』
ズドンと成層圏まで巻き込む大爆発が起き、女神アンドラステは戦闘不能となった。
それでも討滅に至らなかったのは流石は戦の女神(強化)なのだろうが、むしろ討滅していた方が彼女にとっては幸福だったのかもしれない。
何故なら……
『『『ゴケゴケ~!(いただきま~す!)』』』
コッコ団のご飯になる事は無かったのだから。
この後、女神を美味しく戴いたクリスピーくんとテリヤキちゃんは超進化することとなる。
新たな鶏神の誕生だ。
〈コッコ団パネエっす! by男神一同〉
〈クリスピーくん可愛い♡♡♡ by女神一同〉
〈俺のポジションが……!! by自称鶏神〉




