第396話 ボーナス屋、空移動する
――ワクワク大陸 ナールン帝国――
空から降ってきた100万匹スラ太郎。
その現実的過ぎる問題に頭を抱えていた俺だったが、意外にもあっさりと解決した。
『ピィ!』
『あの体積は何処に消えてんだ?』
『ピィ!』
クロウの前で顔は無いけどドヤ顔なポーズをとるのは1匹のスラ太郎、周囲にはスラ太郎以外のスライムの姿は無く、スラ太郎も通常のスライムと変わらないサイズに収まっている。
だけど油断して行けない。
この小さな体の中には100万匹分のパワーが潜んでいるんだから。
さらに、俺はさっき、沢山動いてお腹が減ったらしいスラ太郎にお弁当を食べさせたからステータスが大変なことになっていたりする。
【名前】『スライム大帝』スラ太郎
【年齢】1 【種族】スライム(キングゴッドエニグマスライム)
【職業】スライム超神(LvEx) 超々帝(LvEx) 虚空の覇者(LvEx) 【クラス】スライムの極
【属性】無(全属性)
【魔力】――測定不能――(無限?)
【状態】正常
【能力】スライム超魔法(Lv5) スライム武神術(Lv5) スライム超闘気術(Lv5) スライム超隠形術(Lv5) スライム超生産(Lv5) 真・魔改造 友情召喚 万物消化 超万能吸収 無限増殖β New! 超絶合体 寄生支配 超次元跳躍 スライム流星群 超次元砲∞ 癒しの聖火 不思議幻想 スライム開祖 奇跡発光 幻想太陽 雄の波動 神戦士化 超勢零勢 絶対覚醒 一撃滅殺 終焉巨炎 最適化 真智之神域 不戦不敗の神剣 輪廻転生 New! etc
【加護・補正】物理攻撃無効化 魔法攻撃無効化 精神攻撃無効化 全属性無効化 全状態異常無効化 全能力異常無効化 完全詠唱破棄 超絶思考 神速回復 神速再生 超適応力 超危険察知 超柔軟 重量無視 New! 不滅 限界皆無 神童 万能遺伝子 数の理不尽 New! 契約したスライム お助けスライム チートスライム 勇者の眷属 大群の統率者 超克者 大量滅殺者 迷宮攻略者 英雄 百獣の王 魔獣ハンター 竜ハンター 昇神者 神喰い New! 悪魔ハンター 巨人殺し スライム神 職業補正 職業レベル補正 元祖スライム神の契約 超神の契約
【BP】1000(*全自動決定:ON)
職業からレベルが消え、魔力が測定不能というか無限に近くなった。
『超々帝』って何?
『ピピ~ピピピィ~!』
『……「ちょっと臭いがあって癖が強かったけど美味しかったです!」だってさ。何の感想かは訊くなよ』
「……」
今後、スラ太郎の主食は神になる日が来るかもしれない。
そうなった場合、俺も食糧に入っちゃうのだろうか?
「俺はご飯じゃないからな?」
『ピィ?』
スラ太郎は首(無いけど)傾げた。
この話は此処までだ。
「じゃあ、魔王を退治しに行くぞ!」
『ピ!』
『行くのはいいが此処では転移系は控えた方がよさそうだぞ?今調べたばかりだが、また妙な結界が邪魔してて、より遠くから転移系の能力を使うと失敗しやすくなる仕掛けになっている。ちなみに、対象のレベルに関係なくだ』
「また面倒なトラップを……」
『相手もドチートだからな。同じドチートを邪魔する位造作も無いんだろう』
そんな訳で俺達はクロウの背中に乗って魔王城へと向かった。
ソフィアちゃんによれば、本当は力技で解決できるらしいけど、その場合俺と魔王の力が衝突して大陸の一部が何処かに飛んで行ってしまう可能性が高い、という事なので空を移動して距離を縮めながら結界を解除して方が確実らしい。
ちなみにダーナ大陸の方はというと、今やこっちの魔王の軍門に下ったあっちの魔王とその仲間達の半分近くがコッコ団を始めとする俺のアニマル達の(文字通り)餌食になっているそうだ。
その結果、アニマル達の進化ラッシュが発生しているそうだ。
ちょっと帰る時が怖いけど。
「―――――!」
『お!』
『ピ?』
そして超特急で飛ぶこと約3秒、俺とクロウは直ぐ近くでテンプレイベントが発生しているのを感知した。
「キャァァァァァァ!!」
異世界の定番、女の子の悲鳴だ。
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――ナールン帝国 某所――
「キャァァァァァァ!!」
「ゲヘヘヘヘヘ!こりゃあ上等の女ですぜ兄貴!」
「ああ、戦争のせいで最近は中々儲からなかったが、こいつらを売れば1ヶ月は食い放題飲み放題だな。お前ら、女には余計な傷を付けるんじゃねえぞ!」
「「ヘイ!」」
広大な砂漠を抜けた隣国との国境に近い草原のど真ん中で、その旅の一団はこの辺りを根城にしている盗賊団の襲撃を受け、護衛役の戦士や奴隷達の奮闘も空しく全員捕らわれてしまっていた。
捕えられた者達の中でも全員が美しさと高貴さを兼ね揃えている女性達は奴隷として高く売るべく丁寧に扱われていたが、男しかいない盗賊達の中には己の欲望を抑えきれずにコッソリ手を出そうとする者が何人かいた。
「ゲヘヘヘヘ!なあ、この女ども、絶対処女ですぜ?1人か2人くらいは俺らで食っちまっても……」
「お前ら……下のモノを斬りおとされてえのか?」
「じょ、冗談ですぜ兄貴!!お、おい!金目の物や武器は全部ここに集めろ!」
だが、リーダーの殺気の籠った視線に身の危険を感じた盗賊達は大人しく引き下がり、捕えた者達から金目の物を奪っていった。
中には金貨や宝石をちょろまかす輩もいたが、余程大量に盗らない限りではリーダーは黙認し、自分は捕えた一団の中でも一際金の匂いのする少女の下に近寄り、その鋭い視線で少女をジッと観察していった。
「……砂漠越えで重宝される魔法具の中でも最高級である『水精絹のスカーフ』、そこらの商人や貴族でもこうも気軽に用意できるはずがねえ」
「――――!」
「それに世話係か?他の女どもも随分と貴重な魔法具を装備している。奴隷達もそこらへんの盗賊どもじゃ歯が立たないほどの猛者揃い。女、お前は何者だ?」
「ひっ!」
獅子に睨まれたかのように少女は恐怖で涙を流しながらも固く口を閉ざす。
彼女は必死に自分の正体を隠そうとしたが、ナールン帝国でも屈指の実力を誇るこの男の目はそんな付け焼刃の芝居で誤魔化せるものではなかった。
「女、お前は皇族だな。年齢からして第七皇妃が生んだアニサ姫か?」
「!!」
「嘘が下手な姫だ。成程、これは思った以上の上物揃いだな。皇族や貴族の女となれば、相当な金にな
る。特にお前はマーン王国辺りが喜んで大金を出すだろうよ」
「い、嫌あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「「姫様っ!!」」
全身から血の臭いを漂わせながら、男はこの国の姫らしい少女の美しい顔に触れながら獣のような笑みを浮かべ少女達の心を追い詰めていく。
少女は恐怖で震えながらも縛られていない足で後ずさろうとするが男は少女の顔を掴んだまま離さず、そのまま仲間から引き離して戦利品の山に浮かれている盗賊達の下へと引っ張っていき、恐怖と涙で歪んだ少女は最後の悪足掻きと言わんばかりに大きな声で悲鳴を上げた。
「キャアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
「五月蠅い小娘だ。幾ら泣き喚いたところで―――――」
直後、空から黄金の光が降ってきた。
そして爆発!
「「「!!!???」」」
ナールン帝国の悪名高き三大盗賊団の一角、『砂塵の餓獣』はこうして呆気なく壊滅したのだった。
そしてこの後、盗賊団から解放された少女ことアニサ姫は恋に落ち、後世においてこの一連の出来事は「砂漠の王女と黄金王」というタイトルの童話として世界中に語り継がれる事になるのだが、それはまた別の話である。
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――ザハビア王国上空――
『お前は一体何人の女を惚れさせるんだ?』
「俺は悪くない!俺は微塵も悪くない!向こうが一方的に惚れてきただけだ!」
『そのセリフ、一瞬で全時空のモテない男達の殺意を買うだろうな』
女の子の悲鳴を聞いてちょっと寄り道を済ませた後、俺は顔を真っ赤にしながら人を犯罪者のように言うクロウに猛抗議をしていた。
盗賊に襲われていた女の子を助けた直後、助けた女の子に一目惚れされちゃうというテンプレ展開に見舞われた俺はどうにか彼女を同行者の人達に押さえてもらい、怪我人を治療、盗賊団はしっかりと拘束して彼女達と一緒に近くの都市に転送させて再び空の移動に戻っていた。
ソフィアちゃん情報によればあの女の子は大国のお姫様らしく、戦争やら権力争いやらのせいで首都に居辛くなり、母親の故郷である隣国に避難する途中だったそうだ。
国土の大半を占める大砂漠を越え、あと少しで国境にという処であの盗賊団に襲われてしまったそうだ。
そこに龍に乗って颯爽と現れた俺、お姫様はピンチに現れた俺を見て恋に落ちてしまった。
『お前はお姫様コレクションでも作るのか?』
「作るか!」
『お前が女を助ける度にこれじゃあ、嫁達も(ウザくなるくらい)過敏になってもおかしくないだろうな。この調子なら100人ハーレムも余裕でできそうだしな』
「100人も作るか!誰にも養えきれないだろ!」
『じゃあ、バカ皇帝の記録越え?』
「しない!バカ皇帝2号って呼ばれる!」
『ピ?』
こんな調子で超音速でワクワク大陸の空を移動していた。
願わくば、あんなテンプレな展開が二度と起きませんように、と。
だが、俺の願いは世界に裏切られた。
「――――クッ!殺せ!」
ドチートスペックな俺の体は、俺の意志に関係なくテンプレを回収したのだった。
ちなみに、今度は豚頭人に襲われているアラビアン系女戦士(年上)でした。
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――シャムス王国 『常闇の秘境』――
何だかんだで此処までやってきた。
此処は宗教国家『シャムス王国』、国境を湖と山で囲まれ、王都の近くにはこの大陸最高峰の山が聳え立っており、「太陽に近い国」、「光に愛された地」、「善神の寝床」など、宗教国家らしい呼び名が付いている。
ソフィアちゃん情報によれば、実際にこの国には神界に通じる聖域やパワースポット的な場所があるらしく、過去に何度か神が降臨した事もあるそうだ。
更には俺みたいに先祖に神様がいる人々も存在し、この国の王族もそれに当たるそうだけど、結構血は薄くなっていてほぼ完全に只の人だそうだ。
だけど民衆はその事を知る由もなく、今も王族や神殿に信頼を寄せている。
「そんな神聖な国に魔王が居ると!」
『ある意味じゃ、此処が一番安全だからな。俺が封印されていたとこも宗教の国だったろ?人間にとって神聖な場所に“悪いモノ”があるなんて思わないんだろ』
「確かに……」
『それに偶にだが、極端に光属性の魔力の強い場所の近くには対になるように闇属性の強い場所が発生する事があるんだ。明るい場所ほど濃い影が出来るようにな。まあ、此処は随分と極端のようだが……』
俺とクロウは目の前の森に視線を向ける。
まだ空には太陽が昇っているにも拘らず、目の前の森は異様に暗く物々しい空気を放っていた。
ぶっちゃけ不気味だ。
『入ったら死亡率99%、天然の大迷宮だな』
「濃いって!闇属性が無駄に来いって!魔王臭がプンプンするって!」
ザ・魔王の森だ。
森の奥から漂ってくる気配からも、この森にはSSSランクの魔獣が盛り沢山なのがハッキリと把握できる。
そして更に奥に進んだ方には、巧妙に隠蔽された広域結界があり、その向こう側を除けばそこにはザ・魔王城があった。
「魔王……居るな」
『おいおい……予想よりもチートじゃないか、アレ?』
魔王城の中には俺達の想像を超えるカオスがあった。
俺も他人の事言えないが、あの魔王城の中は化け物の巣窟だった。
流石にスラ太郎が倒したようなのは……1体、いや2体いるよ……。
取り敢えず、俺の処のアニマル達のような規格外魔獣達がかなりの数、中には魔獣を卒業しちゃったのまでいる。
魔獣以外にも吸血鬼や悪魔、なんか堕天使や妖怪の類も混じっていて、どれも単体で国1つ攻め滅ぼせそうなのばかりだ。
まあ、今の俺やクロウの敵じゃないけどな!
けど、あれらが魔王と一緒に相手しないと思うとちょっと面倒そうだ。
『しかもこの大陸の龍脈――大地の中に張り巡らされたエネルギーの流れ――の要の真上に城があるな。下手に《超神雷霆》をぶつけたら、この大陸どころか星中の活火山が大噴火、大惨事だ。エゲツない場所に建てたな~』
「これも俺対策か?」
『そうじゃないか?火気厳禁の場所で火炎放射器を使わないのと同じ理屈だろ。流石のお前でも、この星と魔王を心中させるわけがないと考えたんじゃないか?』
「それ、人質はこの星全てってことか?」
下手に派手な大技を使えば惑星全土に被害が及んでしまう。
それは避けないとな。
「じゃあ、取り敢えずは魔王+αを好き放題に戦える場所に拉致してから倒すって方向で!」
『お前なら余裕だな!(笑)』
〈貴方でも余裕です!〉
「うお!ソフィアちゃん!?」
不意打ちの如くツッコみを入れるソフィアちゃん。
コメディアンとしてもやっていけるんじゃないか?
〈主、途中経過を報告します。敵軍の主力魔獣は地下深くで膨大な星のエネルギーを蓄えており、並の兵では倒せない個体ばかりでいたが、チームバカ皇子及びチームステラが各地で無双しているお蔭で既に8割以上が討伐済みです〉
「おお!バカ皇子は?」
〈……それなのですが、主はバカ皇子の相手が面倒だと、彼のボーナス付与を全自動決定モードにしたのですよね?〉
「ん?そうだけど?」
〈……〉
「……」
意味深な沈黙が生まれる。
バカ皇子、最近は部下の多くが独り立ちしたり転職したりで寂しいと騒いでいたのもようやく収まり、今は新たな部下達と色々活躍していると聞いていたんだけど、また何かやらかしたのか?
〈……オホン!失礼しました。バカ皇子ですが、愛馬と共に大活躍しています。ええ、愛馬と一緒に……〉
『その言い回し……ああ、成程な』
直接本人達を見ているんだろう、クロウは1人で納得している。
俺も真似て現地を見ようとするが、時間の無駄とばかりにソフィアちゃんは話を進めていく。
〈――――コッコ団ですが、テリヤキちゃんとクリスピーくんが魔王の契約神である女神アンドラステを討滅、2羽は女神を食べて更なる進化を遂げました。別の場所では軍神オグンをブレイくんとヒューゴくん達が現在も戦っています〉
「うわ~、コッコ団がドンドン進化していくよ。そしてブレイくんも!」
『もう、神はあいつらの進化アイテムでしかないな。聖職者が見たら卒倒しそうだが』
確かにな。
「神?何それ美味しいの?」って訊かれたら「うん!」と即答する未来がやってきそうだな。
神に対する信仰も畏怖も地を這いそうだけどな。
〈最後に魔王ですが、空を移動しながらブレイくん達の下へと向かっています。此方の方は終盤に向かっていますので、主達も存分に暴れて下さい。可能な限り、急いで応援に駆け付けますので。あと、魔王の結界の解除式を送信しておきましたのでご確認ください。では失礼します〉
ソフィアちゃんとの念話はそこで終了した。
そして脳内を検索すると、全知なソフィアちゃんが解析した結界の安全解除法がり、これさえあれば何の障害もなく、且つ敵側に気付かれる事無く結界を素通りすることができる。
毎度の事ながら流石だぜソフィアちゃん!
『向こうの方はもう大丈夫そうだな。あとは俺達があそこの連中を片付ければ終了だ』
「そうだな、行くぜクロウ!」
『おうよ!』
流石に俺とクロウの2人だけでは万が一事もあるから暇な戦力を召喚し、俺達は魔王の森へと静かに突入したのだった。
勿論、でかすぎるクロウにはちゃんと人化してもらった。
さあ、最後の魔王退治だ!




