第386話 ボーナス屋、御土産を貰う
――???――
俺の足元でイザナギ&イザナミはボロ雑巾になって転がっていた。
俺と俺の両親の人生を夫婦喧嘩で狂わせた元凶に、俺は容赦のない裁きの鉄槌を下した。
この場合、罪状は殺人罪?過失致死罪?
『まさか、常に高密度の神気を纏っておられる御二方をKOにするとは……』
『肉体だけでなく、魂も人間を辞めているせいでしょう。ある意味、神を越えています』
『……因果応報ですね』
『あの時も、彼の御両親は怒り狂って御二人をタコ殴りにしてましたね。因子持ちは無条件で神を殴れるという事実が発覚した瞬間でした』
『あの事件は結局、他の神々には何時もより派手な夫婦喧嘩だと思われているんでしたっけ?アレの余波で100人くらいの魂が異世界に転生しちゃったのに、よく気付かれませんでしたね』
『あの夫婦、前科が多過ぎますから』
『あれでどうして信者が絶えないのか不思議です』
背後では女神様達が色々と呟いているけど、この時の俺は興奮していて殆ど聞こえていなかった。
『……少しは落ち着きましたか?』
「ヘル様……」
『時間が押していますのでこのまま話を続けます。貴方を蘇生させた時の事故ですが、その際にこの世の何処でもない場所に存在する「古き存在」が持つ“特別な因子”が貴方の中に入り込み、貴方の魂は更に規格外なものになりました。それでも当時はまだ普通の人間でした』
「結局辞めちゃったけどな!」
『あれは半分は自業自得です!』
「だよね……」
異世界のラスボス級の方々を部下ごと大量虐殺しちゃったのがキッカケだし。
そういえば、冥府にも苦情が殺到しているんだっけ?
『クレーマーには脳筋を差し向けたので問題ありません』
「あるだろ!絶対戦争になるだろ!」
『なる前に相手が逃げますので。それよりも続きです。貴方の蘇生は、肉体の破損が少なかった事と、運び込まれた病院の医師の腕が良かった事も幸いし最終的には無事に終わりました。そしてそのまま普通の人生を歩ませられる筈だったのですが、暫く観察している時に気付いたのです。貴方は存在そのものが過去最高の「勇者の器」に進化していた事に』
「それもこれもアレのせいだろ?」
『そうです』
「あれ、持ち帰ってコッコくんのご飯にしていい?」
『どうぞどうぞ』
言質は取った。
コッコくん、今夜はパーティだ。
『「勇者の器」――――それは世界の災厄に対し強い運命を持ち、且つ怒涛の如き運命の流れに抗う“可能性”を秘めた者を指す神々の間で使われる隠語の1つです。決して全員が「英雄」になれるという訳ではなく、人より異常に“可能性”が高いの言う意味ですので、その辺りは誤解しないでください。もっとも、現代の日本ではあまり意味の無いものですが』
「まあ、今の地球じゃ「勇者」は居場所が無さそうだしな……」
宇宙人が攻めてこない限りは今の地球じゃ「勇者」は基本無職だしな。
「勇者」と言えばやっぱり剣と魔法の世界だし。
『そして貴方は、イザナミのポカのせいで結果的にですが、後天的に人外レベルの「勇者の器」になり、それを見た私達は、貴方なら世界を滅ぼす7柱の《盟主》を討つ事が出来ると直感しました』
「……勝手だな。神のせいで死んだ被害者に、今度は神同士の問題の解決を頼むとか」
『ええ、ですからその案は直後に破棄されました。そんな厚顔無恥な神など、大抵はラスボスになって勇者に殺されるか、『大魔王』の餌食になる定めですから』
「絶対、後者の方が理由で止めたんだろ?」
『……ともあれ、私達は人間として貴方を蘇生させ、もしもの事態に備えて経過を見届けていたのですが、今から約半年前、あの日の夜を境に貴方だけでなく世界の運命を大きく動き出しました』
約半年前の夜――――
思い浮かぶのは就寝の時間を過ぎた真っ暗な俺の部屋に現れた、青いスーツを着た仮面の男。
俺や唯花達に固有能力を開花させるとすぐに消えた天使の男。
『『神の賛美』――――天界の天使達の頂点に立つ七大天使の1人が貴方の前に現れるのは全くの想定外でした。彼の天使の力は努力する者、耐える者、不条理に抗う者に対し“祝福”を与えて1つの固有能力を開花させる、貴方の固有能力と似て非なるもの――――いえ、今となっては貴方の下位互換といったところすね。孤児になりながらも懸命に生きる貴方の生き様が彼を引き寄せたのかは分かりませんが、あの日の出来事がキッカケで急速に人間離れしていきました』
「元凶はアソコのバカ夫婦だけどな!」
『そうです。貴方は奇跡的な確率で複数の神の因子を受け継いだ肉体と超莫大な容量を持つ魂を持つだけの一般人でしたが、彼の天使の“祝福”を受けたのがキッカケで天文単位どころか次元レベルで超規格外な「勇者の器」に覚醒しました!満漢全席です!御馳走様!』
「ハイィィ!?」
『彼の天使の“祝福”には優劣は存在しません。対象の“器”の容量と“生き様”の質に合わせて固有能力を開花させるのです。ですので、人間にやれば基本的には人間の枠内の力が開花するはずでした……ですが――――』
ああ、大体読めてきた。
俺はバカ神達のせいで無駄にハイスペックに魔改造され、御先祖様の要らない遺伝子が活性化したとかで肉体も魂も一般人の枠を超えてしまった。
そこに現れたチートをばら撒きに来た青い天使さん、相手のスペックに最適なチートを与える彼の力は、俺という規格外に対してとんでもない効果を発揮させ《善行への特別褒賞》というチート能力を開花させた、ということか。
『貴方の能力は本来なら人間が開花させる事は不可能なものでした。種族を問わない不特定多数の相手にチートを与える力――――それは本来なら私達神々が持つものです。『大魔王』の一族のようなバグの権化以外、例え因子持ちでも開花させる事など三千世界全てを見ても有り得ない事でした』
「だよな~」
『相手の能力を一手間で消したり操作する力も同様です。人間側にとっては理不尽この上ない力です』
確かにあれは理不尽だ。
魔王だろうと神だろうと一瞬で無力化することができるからな。
『このあまりの異常に逸早く気付いたのがイザナミの子である土の神ハニヤスです。明らかにおかし過ぎる状況に、ハニヤスはすぐさまイザナミを問い詰めて吐かせ、謝罪と今後の事も考えて貴方に加護を与えました』
「え、そうなの?」
『はい。そして貴方は異世界ルーヴェルトに召喚されやりたい放だ……一騎当千を超える大活躍を幾度もお越し、ついに今、人間を超える存在へと進化しているのです。その過程でイザナミの罪は他の神々全員に気付かれる事となりましたが。以上が此処までの顛末です』
「ねえ、旦那の方もスラ太郎の餌にしてもいい?」
『どうぞどうぞ。創造神も冥府神もまだ沢山いるので♪』
国産み&神産みの神夫婦ゲットだぜ!
『そしてこれからの事ですが、私達は貴方に対し、可能であるならば《盟主》を討滅してほしいと考えています』
「それはさっきも聞いたけど、何で俺が?勇者だから?」
『それもありますが、貴方が今居る世界ルーヴェルトには貴方しか《盟主》を討ち滅ぼす事の出来る者が存在しないのです』
「そうなのか?オリンポス大陸には神様倒した勇者が一杯いるぞ?」
『大迷宮』で十二神を始めとしたギリシャ神話の神様を倒していった勇者の皆さんが。
『確かに彼らならこのまま成長していけば並の神では太刀打ちできない存在になり、中にはあなたと同様に人を卒業する者もいるでしょう』
「いや、もう辞めちゃったのもいるぞ?」
『……。既に《盟主》を時空の狭間に閉じ込める封印は殆ど解けかけています。残る最後の封印が解けた場合、ルーヴェルトにも《盟主》が侵攻してくるでしょう。特に、ダーナ神族に恨みを持つ『魔神』バロールは新しい肉体を得てやってくるでしょう。無論、眷属や配下の神を率いて』
「ゲ!あいつ、また来るの?」
苦労して肉体の方を滅したのに、新調してまたやってくるとか面倒臭い。
しかも今度は完全体で、だ。
『完全体となった《盟主》とその軍勢に立ち向かうには並の勇者だけは戦力不足。先程の『混沌神』の分身体がしてきたような攻撃に対応できるの神さえ超えた勇者である貴方だけなのです』
ヘル様の言うとおりかもしれない。
確かに俺がチート化してきた勇者達は一対一か多対一でなら神とも戦えるけど、不意打ちで大陸の半分を消し飛ばすような神と戦えるかと思うと力不足に思えてくる。
現状で考えると、俺か、俺以外だと何処に向かっているのか分からないコッコくんやスラ太郎にしか対応できないような気がする。
けど、俺は……
『勿論、力があるからと、過去に功績があるからと、運命であるという理由で強制するつもりはありません。貴方なら戦わずともルーヴェルトの住民全員と別世界に避難することも可能でしょう』
「……まあ、出来そうな気はするけどね」
『ですが、1つの世界が滅びればその影響は時空を隔てて隣接する他の異世界にも影響を与え、最終的には全ての世界に悪影響を与えることになります。それを止めるには、やはり《盟主》を討ち滅ぼすしかありません。ですが御存知の通り私達は基本的に現世に一定以上の干渉をすることは出来ません。すれば、私達が世界を壊しかねないからです』
「だから、俺に頼みたいということか?」
『恥じである事は十二分に承知しています。ですので強制はしません。あくまで現在のルーヴェルトには貴方しか《盟主》を倒せる者が居ないという話であり、この広大な三千世界の中には他にも倒せる者は存在し、その中には貴方の師である『大魔王』も含まれます』
「ああ……出来るだろうな」
俺は遠い目で上を見上げた。
あの男――――と奥さんなら《盟主》の1人や2人は余裕で倒せそうだ。
むしろ、俺が戦っている間に「俺の奴隷にするからどけ!」とか言ってきそうな気がする。
別に俺がラスボスと戦う必要は…………無いな。
『ですので、貴方には「異世界ルーヴェルトに《盟主》が侵攻した際の住民達の救助を含めた支援」を依頼したいのです。お願いします。あの世界を守ってください』
「いいよ♪」
『そうです―――――って早!?』
頭を下げるヘル様に俺は即答した。
「難しい話に聞こえるけど、要は何時も通りに俺の大事な人達や場所を守ればいいんだろ?」
『ええ……そうね。ルーヴェルトが滅びれば必然的にダーナ大陸も滅びるし、最悪、貴方の国も消滅してしまうわ』
「なら、依頼しなくても守るよ♪」
『……大物ね』
すっかりペースを崩されたヘル様は呆れたように俺を見つめていた。
俺は別にルーヴェルトの全てが好きな訳じゃない。
けど、今まで冒険した場所や出会った人々には思い入れがあるし、その人達が神に殺されて人生を終えるのは正直他人事には思えないし、合理的にという理由で見捨てられるような上手い人間でもない。(人間じゃなくなったけど)
まあ、簡単に言えばノリだな。
俺が俺らしく生きていくための在り方、俺の生き様的な感じで俺はルーヴェルトを可能な限り守るし、ついでに邪魔な魔王や邪神も倒してコッコくんやスラ太郎達の餌にしてやる。
『……成程ね。あれだけの力を持ちながらも堕ちなかっただけはあるわね。貴方なら、あの夫婦の事件に巻き込まれなくても何時かは何処かの世界に召喚されて勇者になっていたでしょうね。勿論、チートの権化として』
「……いや、その場合は俺は生涯一般人だから!」
『いえ、女神の勘だと、貴方はどの道波乱万丈で愉快な人生を送っている気がするわ。ハーレムは標準装備で』
「いや、ハーレムは結構辛いからやらないよ!」
『ウフフフ、どうせならそのハーレムに私の加えて貰おうかしら?』
「ちょ!変なフラグを立てないで!!」
聞こえてくる。
俺の耳元に悲惨なイベントが足音を立てて近づいてくるのが聞こえてくる!
恐るべしヘル様、チート勇者を簡単に不幸のどん底に突き落とすなんて!
『あらあら、その話、私にも一枚かませてくれないかしら?』
『スカアハ!』
そこへ更にスカアハ様が頬を赤く染めながらやってきた。
何、そのさり気無い色仕掛けみたいなポーズは!
『今更だけど、勇者様は私の初恋の人に似ているのよね。流石は子孫!』
『スカアハ……まだクーの事を諦めてなかったの?というか、彼は……』
『ウフフフ。女神は老けない分、常に青春しているのよ♪ねえ、私の神器欲しくない?今、ゲイ・ボルグMk2を作っている処なんだけど?』
『スカアハ!それ以上は離れなさい!』
何やら修羅場がやってきた!
ヤバい、このままだとケルトVS北欧の女神大戦が始まってしまう!
『あらあら、あの2柱は元気ですこと』
『もう時間が残り少ないのですが……どうしましょう?』
『取り敢えず、私は未亡人になれれば……じゃなくて、御土産を包装しておきましょう。腐りやすいので保冷剤も付けておかないと』
『……』
イシス様達はすっかり観戦モードに入っている。
御土産に保冷剤って……ああ、けど意味あるの?
約1名、既に腐っているとされているのがいるんだけど?
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『あ!あと5分しかない!』
『まあ、大変!』
プチ修羅場が終わったのは残り時間――俺がこの空間に滞在できる限界時間――が5分をきった頃だった。
終始俺には寒気しか感じられなかったが、どうにか今回は最悪の事態を避けられたようで助かった。
『――――じゃあ、最後に貴方の人間卒業を記念したご褒美進呈を行うわよ!』
「何でご褒美!」
『そう言うものだから気にしないでね♪』
ヘル様、さっきからキャラが変わり過ぎじゃないですか?
どれが貴方の本当なんですか?
『まずは加護を与えてきた神々は貴方と正式契約を結ぶことを決定しました。今後は(1柱を除いて)必要とあれば何時でも貴方の下に現れます』
「それ、下心とかないよな?」
『……次は私から『冥府フリーパス』を進呈します。今後は(時間制限はあるけど)何時でも冥府に来ることができます。暇な時は遊びに来てね♪』
「それも下ご……」
『次は皆の番よ!』
ヘル様は色々と誤魔化した。
そして追及させる暇など与えない為か、他の女神様にご褒美を出す様に押していった。
『……仕方ないですね。私からはこの『イシスの指輪』を進呈しましょう。これを身に付ければ魔法の威力が格段に上がり、更には自分を中心とした周囲に邪神や悪神が干渉できない結界を常時展開してくれます』
「お!それは良いな!」
俺はサファイアみたいな石でできた指輪を貰い、早速指に嵌めてみた。
すると確かに不思議な結界が展開されるのを感じた。
これは便利だ。
『フフフ、私からはこの『神の靴』を与えましょう。サイズとデザインは自由に変更可能、時空の壁すら蹴り破り世界を足で移動することができる靴よ。ちょっと地味かもしれないけど、ヘルメスのサンダルより高性能だからきっと気に入る筈よ』
スカアハ様からは真っ黒なブーツを貰った。
既に時空を自由に移動できそうな俺には無意味な性能かもしれないけど、デザインを変更できるのは何気に嬉しい。
これで何時でも流行に後れないで済むぜ!
『私からは『神獣の卵』を授けましょう。『龍の卵』と同じように育てれば元気な神獣が生まれます。種族については親によって変わるので楽しみにしてください』
「立った!今、またあの時のような修羅場フラグが立った!」
ヘカテー様から貰った卵は色んな意味で重かった。
保身の為、暫くは人目の無い場所に隠しておいた方がいいな。
『最後に私からは『妖精花の種』を100粒進呈します。この種を健康な土に蒔いて育てると美しい花と共に妖精が生まれます』
「妖精!?」
『貴方の造る国の仲間に加えてあげてください』
最後にペルセポネ様から不思議な色の種が入った袋を受け取った。
どれも凄い物ばかりだけど、慣れ過ぎたのかそれほど驚かなかった。
価値観が麻痺してきている感じだ。
『――――時間ですね。今回はこれでお別れです』
ヘカテー様がそう告げると、不意に俺の体が光りだし、かと思ったら透明人間みたいに薄くなり始めた。
この感じは魂が肉体に引っ張られているのか?
なんだか意識が遠のいていく……
『もう少しお話しをしたかったですけど仕方ありませんね』
『どうかお体には気を付けて』
『あ!御土産忘れているわよ!』
「あ、いけね!」
『私は何時でも貴方を見守っているわ。そう、ずっと……ね♡』
『黙れ、このストーカー予備軍!!』
『神は全員ストーカーなのよ』
「開き直ってるよ!」
意識が消えそうになりながら、俺は女神様達に見送られながら白い世界から消えていった。
次に目を開けた時はどんな景色が見えるんだろう?
『あ!『奇跡の神子』のもう一つの意味を教えるのを忘れてました!』
『……教えなくても良いんじゃない?黒歴史になるだけだし』
『そうですね。あの年頃の少年には厳しい現実かもしれません』
『まあ、放っておいても何時か気付くから問題無いでしょう。それよりも、彼の両親の事を教えておくべきじゃなかったの?』
『『『あ!』』』
『あのバカ夫婦のせいで皆忘れてたようね』
『確か、慰謝料代わりに異世界に転生させたのでしたわね?私達の管轄外の世界なので、その後の事は分かりませんが……』
『コネを使って調べたら上手くやっているみたいよ?内政チートで建国して、子供が4人生まれたって聞いたわ』
『それ、絶対教えてあげないといけませんね』
『ですね』
『それで、誰が行きます?』
『『!!』』
その後、幽世でプチ女神大戦が勃発した。




