第385話 ボーナス屋、真実を知る
――???――
女神――――日本神話に置いて天地開闢の時に誕生した神世七代の最後の1柱である伊邪那美神は艶やかな黒髪を揺らし、黒真珠の如く美しい瞳で俺を見つめながら語り始めた。
俺は普通の人間ではなく、『奇跡の神子』と呼ばれる存在であるのだと。
『――――地球世界の各地に残る神話と民間伝承、その中には「神と人間が交わる」という逸話が幾つも残っている。ゼウスの子然り、ルーの子然り、インドラの子も然り。日本にもまた、神と交わり生まれし子の末裔が今もなお生きている。そして神の血を受け継ぎし人の子の多くは“英雄の卵”として生を受け、その中でも強き意志により孵った者は英雄となり、死後も『英雄神』として人々に崇められてきた』
それはペルセウスやクー・フーリン、日本だとヤマトタケルの事だろうな。
言われてみれば、神と人間の間に生まれた半神半人って、後に英雄神となる人が多い気がする。
ゼウスの子供だとヘラクレスもその中に入る。
この話の流れから推測するに、俺の中には神様の血や因子のようなものが流れていたということだろう。
日本は八百万の神の国、皇族に限らずそこら中に何らかの神様の因子が散らばっていても全然おかしくないしな。
『そして大羽士郎、貴方は――――』
イザナミ様は真剣な面持ちで俺をジッと見つめる。
その足元にはボロ雑巾になったイザナギ様がいるけど、この場の全員はそれを無視した。
俺はイザナミ様の言葉に耳を傾ける。
『――――なんか色々混じって生まれた挙句、一度家族と一緒に死んだ時に“神血”を与えたら主人公的なキャラとして生き返った『奇跡の神子』よ!』
「色々台無しじゃねえか!!」
俺は思わずイザナミ様の頭を手加減無しで叩いた。
何、その突然変異な人造人間的なの!?
「色々混じって生まれた」って人間なのかすら怪し過ぎる言い回しじゃないか!
さっきまでも重い前ぶりは何だったんだ!!
『お、落ち着きなさい!!気持ちは分かりますが、兎に角落ち着いて~!!』
「放してくれペルセポネ様!俺はこの堕神をもう一発叩かないと気が済まないんだよ!!」
『イザナミ様は正気を失っているんです!世界の調和が乱れ、生と死を司るイザナミ様の精神は汚染されて一時的に変になられているだけなんです!恨むなら世界を乱した者達を恨んでください!魔神とか!冥王とか!無限神とか!悪神とかを!!』
「いや!コイツは素でやっているんだ!!」
怒り狂う俺を、ペルセポネ様が必死に抑え、ヘカテー様はイザナミ様の耳を引っ張って俺から遠ざけながら何か説教をしていた。
すると、そこに新たな客が現れた。
『……貴方達、何をやっているんですか』
『茶番をしているほどの余裕はあるのですか?』
『何、この茶番?』
女戦士な金髪巨乳美女、背中から翼の生えた古代エジプト風の衣装を着た美女、そして冷めた目をした美少女の3人の女性が現れた。
これまでの流れからして、この人達も女神様なのだろう。
そして俺の予想は当たり、3人を見たペルセポネ様は驚いた顔をして彼女達の名前を叫んだ。
『スカアハ様!イシス様!ヘル様!何故、ここへ!?』
『貴方達が一向に話しを進めないから仕方なく来たのよ。一体、貴方達は何をしているの?』
『……』
冷たい視線を向けるヘル様にペルセポネ様は目を逸らした。
しかしスカアハ、イシス、ヘルか。
どれも冥府の女神様じゃないか。
もしかしなくても、地球世界の冥府の女神が大集合しているのか?
『――――貴方にはお父様が迷惑をかけたわね。一家を代表して謝罪するわ』
ペルセポネ様を睨んでいたヘル様は俺に謝罪を述べてきた。
そういえば、ヘル様はあのバカの娘だったっけ?
『当人は私達の事など自作の生物兵器としか思ってないみたいだけどね。またはネタね』
「ネタって」
『あの父が地に堕ちて清々したわ。ありがとうね♡』
と言って、ヘル様は俺の頬にキスをした。
「!!??」
『さてと、肝心の女神が夫婦諸共使い物にならないみたいだから、私が代わりに説明しますね』
「キャラが変わった!?」
ヘル様は冷徹スマイルから爽やかスマイルにチェンジした。
何、この早変わり!?
これも神業なのか!
『――――既に聞いた通り、貴方の生まれ故郷である地球世界には神々を祖先に持つ人間が数多く存在します。その多くはその事を知らずに暮らし、また、代を重ねるごとに血が薄くなる為に神の力を継ぐ者も居なくなりました。貴方の御両親もまた、自身に流れる血の真実を知らぬままに過ごした「神の末裔」なのです。そして貴方自身も』
「ええええ!!」
『とはいえ、ご両親に限って言えばほぼ一般人ですが。貴方は御両親の出自については御存知無いようですね?』
「う、うん……」
実際、俺は死んだ両親については殆ど知らない。
父さんは自称天涯孤独で親戚も存在しないって聞いていたし、母さんもイギリス人だったと思うけど親族については知らない。
多分、俺の勘だと両親は駆け落ちか何かだと思うけど……ソフィアちゃんに訊いておけばよかったな。
『貴方のお父様は由緒ある神社の跡取りでした。あそこボケて……いるイザナギ様とイザナミ様を祭神とする、地元では有名な神社の長男でした』
「訂正しないのかよ!」
ヘル様はイザナギ様とイザナミ様の夫婦をボケと下した。
否定はしないけど。
『将来は親の跡を継ぐ予定でしたが、自由な性格をした貴方のお父様はノリで家を飛び出して海外に飛び出しました。有名人になると言って』
「ああ……確かにそんな人だったな……」
『そこそこ才能があったのか、地元の若者とバンドを組んでプロデビューを果たしました』
「まさかプロ!?」
マジか!
そういえば、父さんの遺品に高そうなギターとかあったけど、あれって現役時代に使っていた品だったのか!
今思えば、町内会のイベントで演奏していた気がする。
『1本だけですが映画にも出演しました。ちなみに大ヒットです』
「まさかの映画デビュー!!」
『サスペンスドラマにも何本がゲスト出演し、熱狂的な女性ファンもいました』
「ハーレムフラグ立ててたのかよ!」
俺が女性にモテるのは父さんの血のせいだったのか!
ちょっとは薄くなってほしかったけど!
『そしてその中には某貴族令嬢――――貴方のお母様も居ました』
「まさかのVIPだと!?というか、リアル貴族!?」
現代の地球では絶滅危惧種なみに少なくなった本物の貴族!
あの、生きてた頃は割烹着を着て肉じゃがや味噌カツを作っていた母さんが、まさかの貴族!
近所のスーパーに行った時はタイムセールが始まると肉食獣の如く特攻したり、大相撲を観戦しに行った時には座布団を投げていた母さんが、英国貴族!
最近の日本人よりも日本に詳しい上に、箸の使い方が達人級の、偶に国籍が怪しくなる母さんがリアル貴族……だと!
『ちなみに現当主はお母様の父君――――貴方の御祖父様で爵位は公爵です』
「最高位貴族じゃないか!何でそんな人が日本で主婦やってんの!?」
『お母様は生粋の日本マニアで、御忍びでコンサートに行った際にお父様に一目惚れなされ、その後色々あって2人は駆け落ちしました。なお、駆け落ちした時点でお母様は貴方を身籠っていました』
「……公爵家令嬢って、そう簡単に駆け落ちできるものなのか?公爵家だろ?子飼いの特殊部隊とか、独自の情報網とかで捕まるんじゃないのか?」
英国貴族なんて映画やドラマでしか知らないけど、現代の貴族は実業家が多いからそういうものを抱えていてもおかしくない。
現実的に考えれば国外に出る事すら無理ゲーじゃないのか?
『……ご両親は御近所の底力で駆け落ちを成功させました。それこそ、国家権力すらも出し抜いて』
「何、そのテレビの特番のようなノリ!」
『お父様のバンド仲間とロンドンの自宅の御近所の皆さん、そしてファンクラブの皆さんやお母様の御友人方が面し……2人の熱意に動かされて頑張ってくれました。それこそ、アカデミー賞を獲れそうなくらいの大作戦を実行して』
「今、「面白がって」って言おうとしたろ?」
『実行者の中には国際刑事警察機構が行方を追っている一流ハッカーや傭兵、スパイの方も居たので……』
「何、その無駄に豪華なキャスト!!」
『更にお母様の御友人方が同時刻に自分達の駆け落ちを実行されて、貴族の皆さんは大混乱に陥り、御両親だけに人手を注ぐ余裕を奪われました。余談ですが、その駆け落ちした令嬢の中には『大魔王』の曾孫がお相手だったので……超大変でした』
「そりゃ成功するよ!チート満載の魔王が賛成したら駆け落ちだってするよ!」
まさかの『大魔王』ファミリーの投入!
色んな意味で非人道兵器を使うとは、母さんの人脈は怖ろし過ぎる。
いや、おそらく本人も知らないんだろうけどな。
『後日、真相を知った御両親はビックリしてました』
「だよな!!」
『当時の全公爵が亀甲縛りで大衆の見世物にされたと知って言葉を失いました』
「……」
犯人が誰かは訊かない。
そして表沙汰になっていないだけど、裏では他にも色々されていたのではとも訊かない。
訊いた途端に本人が現れるような予感がしたから。
『そして時が経ち、貴方が生まれ―――――全員死にました。交通事故です』
「唐突にバッドエンド!」
まるで俺が生まれたせいで死んだみたいじゃないか!
しかも俺も死んでるし!
じゃあ、今ここに居る俺は何なんだ!?
『落ち着いてください。まだ続きがあります』
「続き?」
『はい。貴方の御両親は貴方と共に三途の川を渡ろうとしましたが、まだ小さい息子だけは助けたいと、偶々水浴びに来ていたイザナミ様に息子を生き返らせてほしいと直訴しました。そして勝利を獲得しました』
「ツッコみどころ満載だな!」
何でイザナミ様が三途の川で水浴びしてたんだよ。
そして直訴が通ったって、俺の親は一体何をしたんだ。
まさか、あの世から『大魔王』を召喚したりしたんじゃ……奴ならあの世にも平然と行けるから充分に有り得る。
『本来なら神が死霊の言葉に一々耳を貸す事は無かったのですが、貴方のお父様はイザナミ様を祀る神社の出身であったことと、アマテラス様の――――つまりイザナギ様の子孫であったことが判明し、親族特権で話を聞いたそうです』
「また新事実が判明したよ……」
『そもそも、大羽家の祖は室町時代に情熱的な恋をして駆け落ちした帝(天皇)のバカ息子だったのです。当時の内裏は大混乱でした』
「先祖も子孫も駆け落ちが好きなんだな……というか帝?」
『そもそも、基本的に為政者は隠し子も含めて子沢山なので、イザナギ様の血も現代では日本中どころか世界中に拡散しているので、子孫云々自体は不思議ではありません』
まあ、そうだろうな。
流石にバカ皇帝みたいなのはそうそう居ないだろうけど、過去の地球の王様とか貴族には諸事情によって大勢の隠し子がいて筈なんだ。
日本でもアマテラス様の直系子孫である皇族の血が一般庶民の中にも流出していても全然おかしくは無い。
最近じゃ皇族の身分を捨てて一般人と結婚する人もいるけど、身分は消えても流れている血は変えられないから、必然的に“神の血”は一般人の間で拡散していくことになる。
俺だけが珍しい訳じゃないんだ。
『――――そしてお母様はケルトの『神王』――――ルーの末裔でした』
「母さんもかよ!どうなってるんだよ、俺の家族は!!」
『人間と交わったルーの血は色々あって貴方のお母様から貴方にも受け継がれました。つまり、貴方には日本の天津神と、ケルトのダーナ神族の血が流れているのです。つまり、スーパーハイブリッド!』
「……あまり嬉しくないんだけど」
俺は近くで未だに動かないボロ雑巾に視線を向ける。
あれが御先祖様だとか、信じたくない。
『だが、事実です!』
「強調しなくてもいいから!」
『そもそも、ルーの血――――ダーナ神族の因子を受け継いでいたからこそ、貴方はダーナ神族の『至宝』全てを使う事が出来たのです。でなければ、都合よく扱える訳がありません。チートにもチートになる原因があるのです。ちなみに、ヌアザ達が気軽に接触してくる理由もこれが原因です』
成程、ルーの因子を持っていたから武器屋で眠っていたクラウ・ソラス、ファル村の地下遺跡にあった戴冠石も都合よく俺が使えたということか。
『話を戻しますが、ご両親はイザナミ様に貴方を生き返らせることを了承させ、本来なら貴方はそのまま生き返って終わる筈でした』
「うわ……嫌な展開が待っていそう……」
『イザナミ様は当時の貴方から“死”の因果を取り払おうとしたのですが……結果的にバグってしまいました。かなり派手に』
「……」
『そしてイザナミ様だけでは収拾できなくなり、私達、冥府の女神が総力を上げてどうにか貴方の蘇生に成功しました。ただし、この事件のせいで貴方の運命の流れが変な方向に曲がり、更には魂も人間のモノにしてはかなりハイスペックになるは、成長限界が見えなくなるは、因子が活性化してチートになりやすくなるはの問題が残りましたが』
「……」
『イザナミ様はこのスキャンダルを隠蔽すべく貴方と強制的に契約を結び、その事実も幾重にも細工を施して隠蔽、ステータスにも決して表示されないようにし、私達も同じ様に隠蔽を施しながら加護や契約を与えました。貴方のステータスに何時も表示される《冥府神????の加護》はヘカテーのものです。一度臨死体験したさいに接触したのが原因で隠蔽が緩みステータスに出てきたようですね』
「……つまり、俺が人間を辞めることになったそもそもの原因は、イザナミってこと?」
『……』
ヘル様は目を逸らした。
「あの女神、一発殴っていい?」
『……これは独り言ですけど、実は貴方達親子が死んだ事故自体、あの夫婦の何回目になるかもわからない夫婦喧嘩が原因なのです。なにせ、神話の中でも1日に1000人殺すとか言っている方なので、1日に一家族死なせちゃうことも度々あります』
「あの夫婦殺す!!」
『イザナミ様は既に死んでいるので無駄です。殺すのではなく消滅させるか吸収する事をお勧めします』
「アドバイス有難う!ヘル様!」
ヘル様に頭を下げ、俺は光速で日本の元祖バカ夫婦にドロップキックを喰らわせた。
諸悪の根源、滅せよ!!




