第383話 ボーナス屋、ついに〇〇を〇〇する!
ガラスが砕けるような音が空に響き渡り、動きを封じられていた混沌の王は盲目の顔を1柱の神と1人の勇者へと向けながら自身の力を急速に圧縮させていく。
数値にして1000万を超える膨大な魔力はその純度と密度を上げ、この惑星だけでなく周辺の天体も道連れに消滅させる凶悪な兵器へと変貌し、その過程で僅かに漏れた魔力が1つの惑星を闇で覆い尽くしていった。
(――――零落れた最高神が無駄な足掻きを。1柱の神が何をしようとも、我を止めることは叶わぬことは貴様自身がよく知っていように)
『混沌王』アポフィスの分体の1つであるソレは力の多くを注いで己を封じる神ウルの行動を愚行であると下していた。
消費しても瞬時に魔力が回復するソレの前では無駄に力を浪費するだけの無意味な行為、決して状況を好転させる事のない戦術としても間違った行為である、と。
だが、次元の狭間に居る“本体”と常に繋がっているソレは神ウルの隣に立っている少年が居る前では決して隙を見せようとはしなかった。
地球世界とこの世界ルーヴェルトに置いて幾度となく自分達の計画の邪魔をし、数ヶ月前には《盟主》の1柱である『魔神』バロールの肉体を滅ぼした危険因子。
“本体”と比べれば格段に劣る力しか持ち合わせていないソレは、危険因子の過去の経歴からまともな戦い方では確実にこの世から消す事はほぼ不可能、ステータス上の優劣も未だに発展途上である危険因子の前では無意味と判断し、現時点で打てる最善手として自身の力の全てを使った超広域殲滅魔法を使う事にした。
そう、指定範囲内の空間を混沌の力により未来永劫生命が生まれる事の無い世界へと変貌させる絶望の力を。
(この地に顕現している者共も道連れに混沌の中に消えよ。原初の意志が創りし「異質なる奇跡」よ)
既にこの惑星周辺の空間は外部から切り離され、ソレ以外の者はこの世界の外に移動する事は不可能な状態になっている。
最早逃走も回避も不可能、ソレは神ウルの力を破ると同時に絶望の力を解放した。
『――――消えよ。害悪』
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「――――必殺!《悠久清浄神閃》(超理不尽バージョン)!!」
絶望の直前、勇者は希望の一矢をソレに向けて放った。
数値にして1500万を凌駕する魔力が込められた一矢はソレの急所を目掛けて音速を超え、光速で異世界の空を走った。
(くだらん)
だが、当然攻撃される事を想定していたソレは矢が届く前に転移して姿を消し、死と冬の大陸とは正反対の北の極地、ニブルヘイム大陸に現れた。
この星ごと相手を消す以上、この星の何処から絶望を放っても結果は同じ。
ソレにとって危険因子の眼前で攻撃する必要など無いのだ。
『!!』
が、それだけで勇者の放つ希望からは逃れることは出来ない。
その矢はソレと同じく転移して標的を追いかけてきた。
それに気付いたソレはほぼ反射的に別の場所へと転移を繰り返していき、1つの惑星を舞台にした光速を越えた鬼ごっこが繰り広げられたのだった。
常人は決して認識する事の許されない世界での逃走劇だったが、それは開始から1秒が経つ寸前で終わりを遂げる事となる。
『―――――――ッ!!』
ソレは絶句する。
矢から逃げつつ絶望の一撃を放とうとした刹那、ソレに逃げ場は無くなっていた。
最後に転移したその場所には既に数万もの矢が――最も近いものでは1mm手前に――存在しており、ソレに次の転移の時間を与える間も与えず一斉に襲い掛かった。
殆どの矢はソレにかすり傷を与える事すらできなかったが、それでも1割近くは確実にソレの力を削ぎ落とし、ソレをその場に縛るだけの効果を発揮した。
それは、希望の一矢が直撃するには十分過ぎる時間だった。
(オノレ!!この力、あの軍神の権能か!!)
ソレは己の不幸を呪った。
あらゆる攻撃が通じない筈の自身にダメージを与えられるとしたらそれは、危険因子が自身の能力で素早く有効な力を手に入れたか、先の軍神との戦いの際に彼の神の持つ権能の中から運良く《無法暴君》を引き当てた彼のどちらかであり、ソレは瞬時に後者であると判断、危険因子のあまりにも強く都合が良過ぎる幸運を罵倒すると同時に不幸過ぎる自分も同様に罵倒した。
そして自分は此処までだと素早く判断を下し、この短時間で得られた情報の全てを次元の狭間に居る己の“本体”へと神速で送信した。
(さらばだ。そしてまた―――――――――――)
最後、ソレはこの世界全体を嘲笑しながら一瞥し、脳天を貫かれてこの世から消滅した。
しかし、ソレを貫通した矢はソレを倒しても消えるどことか止まる事も無く、ソレの体が出ていた時空の穴の向こう側にまで飛んでゆき、その後、完全に消えるまでの約1分間までの間に色々ととんでもない事をしでかすのだった。
そして、矢を放った張本人の意志に関係なく彼を稀代の英雄へと伸し上がらせていくのだった。
それを一言で言い表すなら――――『理不尽大驀進』、または『ラスボス大量殲滅』である。
結果、彼は一気に人間卒業を迎える事となるのだった。
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――死と冬の大陸上空――
「無事、あの《盟主》の分身は消滅したようです。ただ、消滅の際にかなり派手な大発光が発生したので、近隣の住民達は大混乱していますね」
「ま、倒せたなら結果オーライだろ?」
チート弓矢を作成し、試射する事も無くぶっつけ本番で矢を放った俺は無事に敵を消滅させる事が出来て安堵した。
だって、失敗していたらマ〇ンテでこの世界は跡形も無く消し飛んでいたかもしれないんだから、緊張と不安がかなり溜まっていたんだもん!
安心して鼻歌を歌いたくなっても仕方ないよな?
「さてと、後は後始末だけど――――」
すっかり安心しきった俺は見事に穴が開いてしまった死と冬の大陸をチートで修復しようとしていたが、その足は直後のアナウンスの奔流でオリハルコン並に硬直してしまった。
〈勇者は異世界シルヴァリアの魔王ゴーヴァを瞬殺した!〉
〈勇者は異世界ギャトルの暗黒大帝キリシュバリカを滅殺↓した!〉
〈勇者は異世界クォスラリアの邪神ノシュドスを討滅した!〉
〈勇者は邪神の権能《輪廻掌握》を獲得した!〉
〈勇者は異世界オルトヴァイスの魔人王エンドレッドを瞬殺した!〉
〈勇者は神界で復活途中の帝釈天を倒した!〉
〈だが、勇者は帝釈天は不完全体だったので権能は獲得できなかった!〉
〈勇者は地球世界で邪神モレクを討滅した!〉
〈勇者は邪神の権能《豊饒支配》を獲得した!〉
〈勇者は異世界フォルラの魔王ケレクを瞬殺した!〉
〈勇者は異世界レーガの魔王ジョルジャードを倒した!〉
〈勇者は異世界ウォール・トーグの邪龍デュグオンを倒した!〉
〈勇者は異世界ヨルステトルの魔皇帝ゼオドルクを倒した!〉
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〈勇者はその他大勢を28,765,239人倒した!〉
「……」
「……」
「…………どうやら、アレを倒した矢がそのまま時空を幾つも超えて魔王や邪神の類を手当たり次第に倒していったようですね。ああ、(アナウンスが)止まった処を見ると矢はようやく消えたようです」
「……」
「念の為に訊きますが、あの矢を放つ時、正確に標的を指定しましたか?まさか、大雑把に「ラスボス関係全て」などにしていませんよね?」
「……」
「しっかりと、「標的はアポフィスの分身」に指定しましたよね?」
「……」
「沈黙はそういうことと受け止められますよ?」
俺は、何も答えることが出来なかった。
ウルの言うとおり、あの分身を見た時の俺は思わず「ラスボスの偽者」と認識してしまう、あの必殺の一撃を放つ時も無意識の内に「ラスボスを倒せ!」と念じてしまっていた。
その結果、矢は本来の標的だけでなく、時空を飛び越えて色んな世界のラスボス達を手当たり次第に倒していったらしい。
それこそ、それぞれの世界の主人公の出番を根こそぎ奪っていく感じで。
「やってしまった事は仕方ありません。この件についてはアドバイスを――――誘導した私にも責任があります。各世界の神々から攻撃の嵐が来るのは避けられませんが、それは私が責任を持って対応してきましょう」
「……ウル様!」
ウル様は素晴らしい神様だった!
俺はこの時、オオバ王国にウル様を祀る神殿か社を建てようと決意した。
供物には日本の銘菓を毎日供えよう!
〈異世界の冥府から苦情が来ているんだけど…… byスカアハ〉
〈妻がブチギレそうです……。 byイザナギ〉
〈勇者、後で反省文を書きなさい! byヘル〉
〈わ~!!余所の神が殴り込みに来た!! byアヌビス〉
その前に、他の神様達にもお供えをしておこう。
〈あ、面白そうだから言って来るわ♪ by斉天大聖〉
〈異世界神話大戦開幕☆ byカグツチ〉
〈酒の肴に丁度いいか? byオモイカネ〉
〈ちょっと笑いに行ってくる(笑) by暇な神一同〉
〈……死ねばいいのよ、貴方達。 byヘスティア〉
そうだね、ヘスティア様。
いっそ、全員異世界の神様達の餌食になる事を祈りましょう。
〈勇者は人間の限界レベルに達した!〉
「え!」
「ああ……ついにこの時が来たようですね。御愁傷様です」
「え!?」
御愁傷様って、一体何!?
これから俺に何が起きるっていうんだよ!?
〈勇者が人間を辞める時が来た!〉
ナ、ナニヲイッテイルンダ…………!?
「何割かは私の過失です。すみません」
俺の横でウル様が頭を下げて謝罪している。
何、その「もう諦めて下さい」的な空気は!?
〈やっとキターーーー!! by神一同〉
バカ共が騒ぎ出した!
お前らはあくまで俺で遊ぶ気なんだな!
だが、俺にはルギエヴィートから簒奪した新能力がある!
これを使えばルール無用で――――
「―――――あれ?」
「ああ、例の能力はインターバルに入りました。理不尽で阻止することは出来ません」
「わ~~~~!!」
諦めない!
俺は諦めな―――――
〈勇者は火魔神イグディアを倒した!〉
〈勇者は火魔神から《業火より生まれし寵児》を獲得した!〉
〈勇者は人間の限界を突破した!〉
……はい?
「最後に致命傷を受けた者が息絶えたようですね」
〈勇者の進化が強制的に始まった!〉
強制的にって何だよ!
誰かが強制的に始めたのかよ……って、言ってる傍から俺の体が輝き出した!?
「次も人間の姿をしているといいですね」
「何、その憐憫の眼差し!?」
そして何故右手を振っているの!
そうこうしている間に、俺の視界は真っ白になっていき、俺の意識は途切れた。
―――――また来られましたね。
主人公、まさかの時空を超えた大虐殺!
経験値が大洪水の如く流れ込み、ついに人間を越えちゃうようです。
スサノオ「は!大事なイベントが始まった気がする!行かねば!」
クシナダヒメ「行かせん!!」
スサノオ「ギャアアアアアアアアア!!」




