第381話 ボーナス屋、話し合いが出来ない
――死と冬の大陸 魔王城――
ルギエヴィートを倒してから十分弱、魔王城の中を探索してみたが未だに人はおろか、魔獣1匹すら見当たらなかった。
無人の魔王城って、色々と嫌な予感を想像しちゃうけど、さっきみたいにフラグを立てる訳にもいかないので余計な事は云わず、無言で探索を続けていった。
「……」
そして、何重にも仕掛けられていた認識阻害などのトラップを外した末、唯一生命反応のある部屋の前
にまで辿り着いた。
見た目は王族の私室の扉だったけど、此処にも過剰と言える数のトラップや鍵が仕掛けられていて、俺の能力でも解除するのに1分以上かかってしまった。
なんか、今回の魔王はトラップ系に特化しているような気がするんだけど、気のせいじゃないよな。
直接的な戦闘は契約していた軍神に全部押し付けて、魔王自身は安全な場所で搦め手な能力で相手を翻弄する――――そんなキャラなのか?
まさか引き籠り……または身代わり残して失踪、何て事は無いよな。
「……誰か居ますか~?」
「ヒィィィィィィィィィィィィ!?」
「は?」
半分冗談で扉を叩きながら呼びかけると、扉の向こう側から女性の悲鳴が聞こえてきた。
え、何!?
「は、入りま~す!」
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!入らないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
悲鳴が聞こえてくるけど俺は構わず扉を開けた。
すると、扉の向こうで待っていたのは魔王城には似つかわしくないファンシーな――――部屋中が可愛いぬいぐるみやクッションで埋め尽くされた女の子の部屋だった。
そして部屋の中に、ぬいぐるみの山に埋もれるように隠れている女の子の姿があった。
「……へ?」
「人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い、人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い、人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い、人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い、人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い、人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間怖い。人間――――」
「……」
俺が目を丸くする中、女の子は全身を震わせながら同じ言葉を延々と呟き続けていった。
ツインテールのその子は見た目は10代半ば、髪の色は白に近い金色、俯いているせいで目の色は解らないけど、一見すれば普通の女の子の様にしか見えない。
けど、彼女からはかなり強い魔力の波動が漏れている。
信じられないけど、彼女がこの魔王城の主、魔王なんだろう。
俺は封印から解放されたばかりの“眼”を使い、彼女のステータスを確認した。
【名前】エリザベス=タナカ
【年齢】31 【種族】魔人
【職業】魔王(Lv14) 魔術師(Lv48) 錬金術師(Lv49) 【クラス】ヒキコモリな魔王(*出来損ないの魔王)
【属性】無(全属性)
【魔力】7,800,000/7,800,000
【状態】正常(*思考誘導)
【能力】魔王之魔法(Lv5) 闘気術(Lv4) 属性術(Lv5) 魔王之武術(Lv4) 錬金術(Lv5) 悪魔呪術(Lv5) 千里眼 鑑定眼 孤独の魔眼 魔道技巧 龍脈干渉 怠惰な大泥棒 白亜の知識書
【加護・補正】物理耐性(Lv4) 魔法耐性(Lv5) 精神耐性(Lv3) 全属性耐性(Lv5) 全状態異常無効化 全能力異常無効化 高速再生 高速回復 詠唱破棄 万能遺伝子 超器用 魂魄防壁 魔人の本能 (*思考誘導) (*常時監視) (*自動自爆) 創られし魔王 絶望の記憶 匠の器 転生者 臆病者 改造者 発明者 引き籠り 魔法使い(笑) 万能翻訳 無限神ウロボロスの加護 魔神バロールの加護 混沌神アポフィスの加護
【BP】0
出来損ないでした。
そして見た目を裏切って三十路を過ぎてました。
《魔法使い(笑)》って……
「こ、来ないで~~~~~!!」
魔王少女……なオバサンはブルブル震えながら俺に向かってぬいぐるみを投げてくる。
勿論ダメージは無い。
「あ、あのう……」
「魔王でゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい…………。反省します。自首します。降伏します。投降します。だから……殺さないでくださいぃぃぃぃぃぃ!!!!」
魔王は涙声で命乞いをしてくる。
ちょっと危ない感じがするけど。取り敢えずは戦意は微塵もなさそうだな。
というかこの光景、俺の方が悪者に見えるんだけど?
「こ、殺さないから!悪い事をしてないなら殺さない……」
「ヒィィィィィィィィィィ!!やっぱり殺される~~~~~!!」
「いや、だから……」
何、この面倒臭い感じの魔王……
「殺されるのね!だって私は魔王だもん!正義の勇者に殺されて、その首を大衆の前に曝されてしまうのよ!そして怒れる民衆から石を投げつけられて罵詈雑言を吐かれるんだわ!だって私は魔王、無条件で世界の敵だもん!ああああああ……婚期を逃して同僚に虐められて上司にセクハラされた反動で階段から落ちて死んで、死んだと思ったら夢の異世界に転生したと思ったら魔王で、しかも大陸には人間が1人も居なくて……勇者に殺されないように頑張ったのに結局勇者はやってきて……うわああああああああああああああああん!!」
「妄想が激しいな……」
正直痛すぎる独り言だけど大体の事情は把握できたな。
彼女は前世で不幸な人生を過ごした挙句に死んだせいで人間不信気味になり、転生後は自分が魔王である事と、転生先が人間がいない極地だったことからずっと魔王城に引き籠り続けることにした、と。
引き籠り続けたせいでああなってしまったと……。
まあ、『魔王』に転生してしまったら天敵である『勇者』に命を奪われる恐怖に襲われるのは当然だろうな。
あの鬼畜な結界とかも必死に身の安全を守る為のものということか。
「あのさ、俺は別にお前を殺したりはしないぞ?」
「嫌ああああああああああああああ!!強姦される~~~~!!」
「聞けよ!!」
誰が強姦魔だ!!
お前の頭の中じゃ勇者はどういうキャラになっているんだ!
そんな勇者は18禁の世界にしかいねえよ!!
というか、どっちかと言えば魔王達の方が18禁だろ!!
「だ、誰か助けて~~~~!!ヴィートさ~~~ん!!」
「ヴィートさん?ああ、あの軍神なら倒したから居ないぞ?」
どうやら、彼女とあの軍神は愛称で呼ぶ仲のようだ。
神を愛称で呼ぶとは中々の度胸の持ち主だな。
実はフラグとか立ててたのか?
〈タメ口の勇者が何を言う?by某・神〉
お前らは例外だ!
「死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!もう死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!もう死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!」
また危ない独り言が始まった。
どうにか話し合いで解決したいんだけど、この様子じゃ暫くの間は無理そうだ。
取り敢えず今は余計なステータスをリセットして自爆したり暴走したりしないようにしておくのが先決
だな。
出来損ない認定されているということは、完全に捨駒にして俺諸共ズドンとかされそうだからな。
「――――死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたく……ゲホッゴホッ!!」
「咳き込むまでやるなよな。取り敢えず、危ないのを消すからそこで大人しく……」
「ヒィィィィィィィィィ!!消す!?私を!?」
「いや、だから……」
「やめてえええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」
「――――な!!」
さっさと危ないステータス項目を消そうとした瞬間、またもや他人の話を聞かない魔王は妄想を爆発させた挙句、俺の知らない――おそらくは彼女のオリジナルの――魔法を力任せに放った。
俺の視界は闇に閉ざされ、全身の五感が失われていった。
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――龍仙国 『黄王宮』――
『此れはまた……』
『やはり、根本的に甘いか。相手の容姿と言動に油断するとは未熟』
魔王の魔法を受けた士郎を、遠くから見届けていた凌龍は酷評する。
彼の言う通り、扉を開けるのと同時にクラウ・ソラスやブリューナクで速攻を仕掛けていれば、あの魔王は抵抗する間も無く無力化することができていた。
隠された罠等があった可能性も有ったとしても、油断しなければ呆気なく攻撃を受ける事もなかったかもしれない。
というか、チートなんだから瞬殺でとっくに終わっており、今頃は外野の観客達がギャーギャー騒ぎ、
それに対して士郎が怒鳴っている光景があった筈だ。
凌龍が酷評するのも当然であるが、その酷評した当人は何処か呆れた顔をしながら床の映像を見ていた。
『――――が、その甘さと未熟さを埋めるだけの力を要しているようだ。此れは早々に父上を喚ぶ準備を整えたほうが良いだろう』
元より覚悟していたとはいえ、こうも此方の思惑の斜め上を行くとはな――――と、何処か諦めの籠ったようなことを呟く凌龍だった。
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――魔王城――
闇は一瞬で霧散した。
俺のクラウ・ソラスの一振りによって。
ちなみに、これは後でソフィアちゃんから聞いた話になるけど、この時俺が受けた魔法は下級の神様なら確実に完全消滅、中級以上の神様でも百年単位で封印されてしまう程の凶悪な魔法だったらしい。
なんてものを人間に放つんだ、この魔王は……いや、魔王だからか。
「はひ!?」
「取り敢えず無力化するな?」
俺は彼女との間合いを一瞬で詰め、彼女の胸にクラウ・ソラスをサクッと突き刺した。
ちょっと痛みはあるかもしれないけど外傷は残らない筈だ。
けど、刺された本人は当然解らない訳で……
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!殺される~~~~~~~~~~~~~!!」
「喧しい!!」
「痛い!?」
俺は彼女の頭を殴って無理矢理黙らせる。
そして作業はあっという間に終了、彼女のステータスは一旦全てリセット&没収となり、毎度迷惑な自爆補正も綺麗サッパリに無くなった。
これで彼女は只の1人の魔人――――女性になった訳だけど、この後どうしようか。
「傷物にされちゃった……」
「誤解を招くことをいうな!!」
傷を付けていないし、その言葉の使い方は明らかに間違っているだろう!
〈責任取れよ? by某・神〉
黙れ!!
「え、あれ?魔法が使えない……!?」
「お願いだから、俺の話を……」
「キャ~~~~~!!犯されるぅぅぅぅ~~~~!!」
「しねえよ!!」
「ト、トラップ発動!!侵入者を強制排除して!!」
魔王はぬいぐるみの山に隠れながら大声で叫んだ。
だが、幾ら待っても何も起きない。
「…………あれ?」
「罠とか、防犯装置なら全部解除したから」
「ええええええええええええ!?あんなに沢山あったのに1人で!?雷も超える超々高圧電流とか、絶対零度のレーザーの嵐とか、地下のマントルの中に強制転移とか、一瞬で屍鬼になっちゃう呪詛とか、どんな金属も溶かす酸の池とか、ニシンの缶詰より強烈な異臭地獄に落ちる落とし穴とか、500Gの重力に襲われる床とかあったのに!?」
「なんて鬼畜なものばかり造ってるんだよ!!」
「痛い!!」
俺は再び彼女の頭を殴った。
どの罠も罠というよりは兵器、どれも普通は嵌った相手をオーバーキルしてしまう凶悪兵器だ。
一体、どんな侵入者を想定していたんだ!?
〈お前みたいなバグキャラじゃないのか? by斉天大聖〉
……。
兎に角、彼女をどうするかを考えないとな。
〈焼殺すればいいんじゃないか? byカグツチ〉
〈親にそれをやって斬殺されたバカが何か言ってるぞ! byタケミカヅチ〉
〈そのお蔭でお前が生まれたんだけどな(笑) byオモイカネ〉
何度も言っていて厭きそうになるけど、外野は黙っていろ!
「兎に角、あんたは一旦外に連れて行くからそのつもりで……」
「ヒッ!!拉致監禁!?」
「ちゃうわ!!」
「痛い!」
俺は再度彼女を殴った。
こんなやり取りがこの後も10分近く続く事となったのだが、面倒だからその辺りについては省略する。
この魔王、マジで面倒臭い!!
カグツチさんの過去
誕生→お母さん(イザナミ)を焼殺→お父さん(イザナギ)により斬殺される→残った血肉からタケミカヅチさん誕生




