第367話 ボーナス屋、巫女と対話する
――ガンドウ大陸 天草 某・漁村――
「貴様!戦巫女様に何をしてる!?」
「成敗!!」
「死ね!!」
意識を取り戻した兵士の皆さんが俺に襲いかかってきた。
言動は兵士というより、過激なファンみたいだ。
『ガウガウ!』
『ショケー!』
『シャアアア!』
『『『ゴケェェェェェ!!』』』
「「「ぎゃああああああああああああああああ!!」」」
アニマル達に瞬殺された。
ガル助が蹴散らし、アリアが魔法で痺れさせ、タマ子が引っ掻きまくり、止めは鶏の皆さん。
心身ともにKOだ。
「……大変申し訳ございません」
そして戦巫女さんはDOGEZAである。
命を救ってもらいながら、その恩人に兵達が暴行を働こうとしたことに対する罪の意識に苛まれていた。
ちなみに、ひょんなトラブルで発生したキスイベントについては、直後に初心すぎる戦巫女さんがパニックを起こしたので触れないようにしている。
周りでお爺さんお婆さん達がニヤニヤしているのも無視する。
「それで実は……」
「ああ、事情に関してはハニヤス様から聞いているから。妖怪に襲われて全滅したんだろ?」
「ええ!?」
事情説明では、ハニヤス様が直々に俺に連絡を送ったという事実に戦巫女さんはビックリだ。
どうやら戦巫女さんは、自分にハニヤス様の加護がある事は儀式とかの診断で知っていたようだけど、対話などは一度もした事も無いのに命を救って貰えたことに「え、ええ!?」と困惑していた。
まあ、普通は都合のいいタイミングで神様が助けてくれるとは思わないだろうな。
「そうですか……ハニヤス様が私達をお救いに……」
「まあ、主に助けたかったのは君だけかもだけどな?」
俺は床で転がっている兵士達を一瞥する。
五月蠅いので猿轡もしているが、未だに何かを叫ぼうともがいている。
少なくともハニヤス様が積極的に助けようとは思わないタイプの人種だ。勘だけど。
「あの、それで、私達と一緒に怪我をした女の子もいませんでしたか?」
「ああ、治療して今は別室で寝かせているよ。なんか、ケモ耳に発狂したお爺さんが――俺とタマ子が治療している間に発見していた――逸早く連れ帰っていた」
「じぇ、けもみみ……?」
どうやら「ケモ耳」という言葉は通じないようだ。
尚、勝手に女の子をお持ち帰りしたお爺さんは現在、外でお婆さんに叱られている。
見方によっては誘拐だからな。
けど、結果的には女の子の安全が確保されたわけだから、多分、そんなに厳しくはされていない筈だ。
だって……
「……私の祖国、常盤ノ国では古来より獣人を始めとした亜人種の全てを迫害の対象としているのです。過去の帝が「この世界は神が人間に与えたものであり、亜人は神の意に反する異形の存在である」と説いたのがキッカケになり、今でも人間の国民の大半がこの価値観を植え付けられているのです。恥ずかしながら、大地に生きる全ての命を尊ぶ「常盤の大社」の中にも亜人を人と思わぬ者が多くいるのです」
戦巫女さんは落ち込みながら、妖怪に襲撃された経緯を話していく。
結論、兵士達はこのまま痺れさせておこう。
というか、横で聞いていたお爺さんお婆さん達が兵士達に対して説教を開始している。
抵抗不可能な集団に対して一方的に説教って………。
「じゃあ、あの女の子がボロボロの服だったのは……」
「はい。亜人の多くは都市部から離れた辺境に暮らしています。人里で暮らす者もいますが、殆どは……」
「満足な暮らしを送れてない?」
「……はい」
話を進めると常盤ノ国の中でも極少数ではあるが、亜人へと迫害を禁止しようという動きはあるようだが、圧倒的多数を占める迫害派の妨害もあって結果は芳しくないそうだ。
それどころか、中には亜人を保護しようとする者を他国のスパイだとか、国賊だとか中傷する集団も現れているらしい。
だが、何処までも人類至上主義な態度のせいで、亜人の人権を認めている他国からはかなり嫌われているそうだ。
「ハニヤス様と皆さんの助けが無ければあの少女は今頃は命を落としていたでしょう。本当に、ありがとうございます」
戦巫女さんは正座したまま深々と頭を下げて俺達に感謝した。
魔王のハーレムに加わっている巫女さん達とは大違いの清らかさが漂ってくるな。
出来れば、このまま汚れないでいてほしい。
「ん?そういえば、自己紹介ってしていなかったよ?」
「……あ!これは失礼しました。私は常盤の大社の二級戦巫女が1人――――高坂薺と申します」
「俺は大羽士郎、よろしくな!」
後ろで全身麻痺の兵士達が頭をガル助達に噛まれた状態でお爺さんお婆さんの説教を受けている中、俺達は互いに自己紹介を済ませた。
そして話題はガンドウ大陸の魔王軍こと、妖怪軍団に移っていく。
拐われた巫女さん達の現状については告げず、俺は薺さんから各地の巫女さん達の現状について聞いていった。
それによると、巫女さんが居る、主に神道系の国々では神社や軍隊が日々妖怪退治に追われていて、巫女さん達が拐われる度に人手不足が進んで悲鳴を上げているようだ。
薺さんが所属する常磐の大社も例外ではなく、彼女の上司である筆頭巫女さんが拐われたせいで組織内は大混乱に陥っているそうだ。
「国の方は動いてくれてるのか?」
「表向きには軍を動かしてますが、主力の大半は都に集中させており……」
「ああ、強いのは偉い人だけを護ってるのか。で、国民を守っているのは余り者と」
「はい」
常磐ノ国、近いうちに崩壊するんじゃないか?
俺は内心でそう思った直後のことだった。
『ますたーたいへんです!まおうがうごきました!』
「「!?」」
ミニ・ソフィアちゃんが俺のポケットから飛び出して叫んだ。
俺だけじゃなく薺さんも驚いてミニ・ソフィアちゃんに注目する。
『まおうは「てんねんっぽいみこ」がほしいといって、みずからようかいをひきいて『やまと』にいる“みこひめ”をなんぱしにしゅっぱつしました!このままだと、あと24ぷんでみこひめのところについてしまいます!』
「まだ巫女が欲しいのかよ!」
「大和の巫女姫……まさか、光葉様ですか!?」
魔王はあらゆる属性の巫女をコンプリートする気らしい。
どんだけ巫女好きなんだよ!
『みこふくのしゅうしゅうもしています!まおうじょうでふぁっしょんしょーをするそうです!』
「誰が見るんだよ」
『まおうです!』
今回の魔王の思考は理解できそうにない。
今までの魔王の思考も理解してないけど。
「……魔王の事は置いといて、薺さんは狙われている巫女姫って巫女さんを知ってるの?」
「はい。巫女姫は常盤ノ国の隣国の1つ『大和』の君主です。私も直接お会いしたのは1度きりですが、当代の巫女姫であらせられる光葉様は、御年16歳で大和の国を治めている御立派な方です」
「俺と同い年か。国家君主なら、きっと厳重に警護されてるんだろうけど、流石に魔王が直接殴りこんで来たらヤバいよな?」
『みやこごと、しゅん☆さつ、です!あとかたものこりません!ますたーのてきではないですけど!』
つまり、俺が行かないと大和は滅びるということか。
これはもう、行くしかないじゃん!
『のこり20ぷんです!』
「よっし!魔王の先回りをして迎え撃つか!」
『ちょくせつまおうのところにいったほうがいいとおもいます!さぷらいずでめっさつです!そらのうえでしっきんさせちゃいましょう!』
「……」
笑顔でちょっと過激なことを言うミニ・ソフィアちゃん。
本体のソフィアちゃんも、実はSだったりするんだろうか?
「まあ、取り敢えず出発だな!薺さんは此処に残って養生していてくれ!」
「え!何処へ行かれるのですか?」
「ちょっと諸悪の根元を潰しに♪ガル助達も噛んでないで行くぞ!」
『ガウ!』
と言うわけで、俺達は大和の巫女姫を助けるのも兼ねて、ガンドウ大陸の魔王の討伐に出発することとなった。
行くのは当然、俺とアニマル達だったんだけど……
「お待ちください!光葉様をお助けに行かれるのでしたら、私も同行させてください!」
「え!いや、薺さんは無理しなくても……休んでた方が良いんじゃないか?」
「お蔭様で傷も疲れも癒えています。私は戦巫女、民に害成す邪なる存在と戦い祓うのが役目です。例え国や立場は違えど、同じ志を持ち、共に神に仕える巫女として、私は大和の国と光葉様の危機を見過ごす事はできません!それに、私には士郎様に命を救って頂いたご恩があります。どうか、ご恩を返す機会をお与えください!」
『あなたはふようです!』
「ちょ!」
指差してなんてことを言っているんだよミニ・ソフィアちゃん!?
って、なんか逆にヤル気になっちゃってるし!
「いいえ、不要と言われても私は行きます!これは義務でも命令されたわけでもなく、私自身の意志です!」
真面目だ!
真面目な巫女さんだ!
マジで魔王に堕ちた巫女さん達とは大違いな巫女さんだ!
『みいらとりがみいらになります!』
…………。
ミニ・ソフィアちゃんはどうしてプンプンしているんだ?
いや、まあ、なんとなくは想像できるけど。
「時間も無いから皆で行こう!ただし、薺さんは危なくなったら迷わず下がっておくこと!」
「分かりました!」
『ガ~ン!』
ショックのミニ・ソフィアちゃんは石になって床に墜落した。
もしかしなくても、ミニ・ソフィアちゃんはソフィアちゃん本体の本心とか深層意識とかでできてるんじゃないのか?
「ん~!ん~!」
「あ、俺達でかけるんで、“それ”の事はお願いします!」
「任せるべ!」
「曲がった根性は叩き直しておくさ!」
「ほんれ!人の話はちゃんと聞きんさい!」
その他大勢をお爺さんお婆さん達に押し付け、俺達は天草から大和へと転移した。
--------------------------
――ガンドウ大陸 大和北部上空――
魔王は幽霊船に乗って雲の上を高速で移動していた。
幽霊船の周りには鬼火や亡霊が並んで飛んでおり、真昼間だというのに幽霊船の周りだけは深夜の様に暗い闇に覆われていた。
「待っていてくれよ~プリンセス☆巫女ちゃ~ん♡」
黒い狩衣姿の少年は、地上を見下ろしながら鼻歌を口遊んでいた。
小柄で10代前半の少年にしか見えない彼こそがガンドウ大陸の魔王であり、己の私欲を満たす為だけに大陸中から巫女を攫っている張本人である。
「ダーク系やロリ系も揃ったし、あとはメインディッシュのプリンセス☆巫女ちゃんをゲットすれば、今夜は豪華絢爛の女体盛りならぬ、巫女盛りでハッスルだぜ!」
少年は生粋のエロガキだった。
魔王に転生して最初に彼が考えたことは、前世では叶わなかった巫女ハーレムを築き上げる事だった。
自身の能力である《妖魔創造》で生み出した妖怪を操り各地から巫女を集め、始めは着せ替えをしたり膝枕をしてもらったりと、年相応に甘えたりして楽しんでいった。
魔王の見た目が小さく、声変わりもしていなかったせいもあり、攫われた巫女達も最初は警戒していたものの、子供な魔王に次第に心を許してゆき、特に年下好きだった一部の巫女達は積極的に魔王を可愛がっていた。
魔王もテンションが上がり、固有能力《等価交換》――対価を用意すれば異世界のものも含め、何でも手に入れることができる能力――で地球世界から仕入れた品々を与えるようになった。
そして数日が経ち、巫女達の一部は“魅了”もされることなく魔王にメロメロになり、中にはHENTAIに目覚めた。
魔王が現代日本から仕入れた年齢指定ありの物品が箱入りな巫女達に多大な影響を与えたのである。
結果、魔王と巫女達(*注:一部)は毎晩お楽しみなのである。
「待っていろよ、俺のプリンセス☆巫女!禁欲生活から俺が解放してやるぜ!」
1時間前にヤッたばかりだというのに、魔王の欲望は尽きる事は無かった。
というか、欲望を解放した巫女は巫女と呼べるのだろうか?
ただのコスプレガールになるのではないか?
その事に魔王は微塵も気付かないまま、幽霊船は大和の都近郊上空に差し掛かろうとした。
「俺の愛はR指定だ――――――」
そして、魔王が変なポーズで独り言を呟こうとした時だった。
「―――――天誅!!」
寒空の中、幽霊船は真上から降ってきた一筋の光によって吹っ飛んだ。




