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ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
奴隷救出作戦編
38/465

第36話 ボーナス屋、お願いされる

――港町ヴァール 海岸通り――


 道具屋を出た俺達は背後から気のせいではない視線から逃げるようにして走っていった。


 露出の多いお姉さんだと思ったら、まさかオカマだったとは・・・。


 今後は美人に会っても油断しないようにしないと。


 なんか俺の後ろでは「嘘だ・・・。」「あの胸が・・・。」といった声が聞こえるが気にしない。



「気を取り直して買い物を続けるか!」


「そうですね。今度は家具屋に行って、その後は服屋にも行きましょう。」



 ショックを受けている少年達数名を引っ張りながら俺達は買い物を続けた。


 家具屋では布団などを買い、他にもイスやテーブルもいくつか買った。


 村には村長一家以外にも大工仕事の得意な村人はいたが、それでも人数が少ない上に既に先約がいたらしいので今回は店で買うことにしたのだ。


 まあ、最近は冒険者稼業で財布にも余裕があるから問題ないけどな。


 その後は『山のハッスル』で下着も含めた衣類を買いに行った。


 筋肉店長が前みたいに「ハッスルしよう!」と言ったので思わずツッコんだらまた落ち込んだ。


 服屋の後は雑貨屋や露店などを巡り、気が付けば俺の腕時計は午後4時近くを表示していた。



「あ!そろそろ騎士団の所に行った方がいいんじゃね?」


「もうそんな時間ですか?」


「じゃあ、早く行こうぜ!」


「お母さん達に会えるね!」



 期待に胸を膨らませながら俺達は騎士団の詰所へと向かった。




--------------------


――港町ヴァール 騎士団詰所――


 詰所に到着して待っていたのは、家族の感動の再会だった。



「お母さん!!」


「母さん!!」


「ヒューゴ!ケビン!無事だったのね!!」



 ヒューゴとケビンは金髪巨乳の女性の元に走っていった。


 おい!何だよあの美女!?あの人が母親かよ!?


 見た目も三十路にも至ってない位若く見える。


 何歳なんだ?


 というか胸デカ!!


 あれは皇帝じゃなくても飛び付くな!



「母さん!ビアンカ!」


「無事だったか、ビアンカ!!」


「ジャン!!」


「お兄ちゃんとロルフも生きてたのね!!」



 あっちも再会を果たしたようだ。


 ジャンの双子の妹は、ジャンと同じ茶髪にジャンに似た顔立ちの子だ。


 気のせいか、何だかロルフとお似合いに見えるな?


 母親の方は少し薄い茶髪に碧色の瞳をした、やはり胸が大きい女性だ。



「どうやら無事に解放されるみたいですね。」


「だな!」



 周りを見れば他にも何組かの母娘の姿があった。


 その辺にいたダニーくんを捉まえて聞いてみると、どうやらヴァールや他の村や町から攫われた母娘も何組か混ざっているらしい。


 まあ、大半はロビンくんやヒューゴ達の異母妹(いもうと)とその母親なんだけどな!



「あ!ヒューゴお兄ちゃん達だ!」


「ホントだ!お兄さん達がいる!」


「お前らも無事だったか!」


「良かった!本当に良かった・・・!!」



 何だか俺も涙が零れてきそうだ。


 腹違いでも本当に仲のいい兄妹みたいだ。


 ロルフも打ち解けあってるし、見ていて微笑ましくなる。



「―――――――でね、あそこにいるのが新しいお兄ちゃんなんだよ!」


「「「――――――――――――――!」」」



 しばらく待っていると、ケビンがロビンくんを指差しながら何かを話し始めた。


 すると母親組はほぼ同時に目を見開いてロビンくんの方を一斉に見た。


 どうやらロビンくんも家族である事を話しているみたいだ。


 妹組はしばらく理解できなかったようだが、母親組の方は何だか呆然としたような顔のまま固まってしまった。



「・・・まだ(・・)、いたの!?」


「この子達だけじゃなかったの?」


「まさか、他にも・・・・・・!?」



 ああ、これは説明が必要だな。


 多分、母親組は皇帝と陰でやっちゃったのが自分達だけだと思っているんだろう。


 そこに現れた新たな隠し子、女としても女性としても複雑な思いになっているんだろう。



「え、ええ・・・初めまして、僕はロビンといいます。お気づきの通り、僕もあの方(・・・)の隠し子です。」


「「は、初めまして・・・・。」」



 俺は邪魔だろうから抜けるとするか。


 俺はコッソリとその場から去り、騎士団長のいる部屋へと向かった。


 ノックをしてから中に入ると、そこには両手で頭を抱えている団長がいた。


 どうしたんだ?



「やっほ~♪何かあったのか、団長?」


「・・・シロウ殿か。実は午前中に調べてもらった身元不明者達なんだが、大方身元が判明した。」


「――――――お!良かったじゃん!」



 そうか、結構曖昧な情報ばかりだったけど役に立ったようだな。


 まあ、何人かは一発で身元が判明したけど。



「まずはトーイ=レッドストーンだが、どうやらフィンジアス王国の出身とみて間違いないようだ。」


「へえ、そうなんだ。」



 ステラちゃんの国の出身だったのか。


 だとすれば、戦争中の今は無事に帰るのは難しそうだな。



「スタート村という名前自体は知る者はいなかったが、あの少年が鳳凰族とのハーフなら王国の出身である可能性は極めて高い。」


「訊くけど、鳳凰族ってどんな種族なんだ?」


「・・・人間族以外の異種族は少ないから知らないのも無理はないが、鳳凰族と言うのはフィンジアス王国の山奥に住んでるとされている“火の鳥”とも呼ばれている異種族だ。普段は人間と変わらない姿をしているが、その本性は炎の翼をもつ火の鳥と言われている。」



 おお!マジでフェニックスだな!


 それにしても、日本語のような感じに聞こえるのは翻訳のせいなのか?



「―――――いろいろ噂が尽きない種族でな、その生き血を飲めばどんな病も治るとか、不老不死になるとか荒唐無稽な話まで流れているんだが、まさかハーフとは言えお目にかかる機会があるとはな。」


「異種族ってそんなに珍しいんだな?」


「ああ、元は海の向こう側から来たとかいろんな説はあるが、この大陸ではかなり珍しいな。帝国の鉱山地帯の奥地にも鍛冶と酒造を得意とする異種族がいるという話もあるが、あくまで噂の範囲だがな。」



 鍛冶と酒造が得意か・・・。


 それって、ドワーフのことか?


 てことは、エルフやホビットとかもいるのかもしれないな?



「次にノエルと言う少女だが、やはり聖国の指導者でもあるジーア教の現教皇の身内である可能性が高い。」


「やっぱ、訳ありなのか?」


「まだ詳しくは分かっていないのだが、この町にある教会に尋ねてみたら、どうやら現教皇には行方知れずになっている一人娘がいるらしい。今から9年前にいなくなったらしく、聖国でももう死んでいるのではと噂されているそうだ。」


「駆け落ちか。」


「だろうな。聖職者は婚姻なども厳しく制限されているらしいから、親に反発して駆け落ちしたと考えるべきだろう。」



 なんか色々想像できるな。


 巨大な宗教ほど内部じゃ泥沼の権力争いとかありそうだし、結婚相手も「神のお告げ」とか「神聖なる血筋」なんて理由で本人の意思に関係なく決めたりしてそうだ。


 詳細を知る術は今はないが、おそらく俺の予想は当たらずも遠からずだろう。


 なお、聖国と言うのはこの大陸の中央よりやや上、ムリアス公国の北部にある小国だ。


 国土自体は大陸の中では一番小さいが、この大陸の多数派宗教であるジーア教の中枢として4大国にも多大な影響力を持っているらしい。



「・・・何だか、教皇に「孫を保護しました。」って教えたら厄介な事になりそうだな。」


「そこなんだ。知らせたところで証拠がなければ相手にされないだろうし、仮に信じてもらったところで両親の元に帰せる保証はないし、どうして孫だと分かったかと訊かれる可能性がある。」


「それはマズイよな。」



 ノエルが『教皇の孫』と判明したのは《ステータス》のお蔭だ。


 別に親の形見とか持っていたからじゃないし、どうして気付いたのかと訊かれたら答えられないな。


 下手したらノエルの両親を匿っているとか疑われてしまう可能性もある。


 巨大宗教の教皇(トップ)の身内の問題だし、聖国そのものを敵に回す可能性だって考えられる。



「彼女については領主様も対応を考えている最中だ。次にレミと言う少女だが、確証はまだないが、新大陸(・・・)の出身ではないかと考えている。」


「新大陸?」



 まあ、この世界がダーナ大陸だけとは思ってなかったら他にも大陸があったとしても驚きはしない。



「5年ほど前に発見された、ダーナ大陸の東の海の向こう側に発見された大陸だ。独自の文化で発展していて、まだほとんど交流はないが、帝国も近い内に新大陸へ進出すると貴族の間では噂されているようだ。」


「じゃあ、レミはその新大陸から密航してきたのか。」


「俺も直接話を聴きにいったんだが、その内容をまとめると、どうやら連れ去られた両親を追ってこっちに来たらしい。」



 確か、「怖い人に連れて行かれた」とか言ってたな。


 その後を追ったってことは、レミの両親はダーナ大陸のどこかにいるってことになる。



「おそらくは新大陸の人間を珍しがった奴隷商か裏の連中(・・・・)が攫ったってところだろう。この町でも、例のドゥンケル商会の連中が新大陸の品を密輸していたそうだから、何か関係がないか調査しているところだ。」


「またドゥンケルか。」



 密輸までしていたのか。


 本当に碌な事をしていない連中だな。



「この件も最終的には領主様の判断を待つしかないから今は保留扱いだ。一歩間違えれば、新大陸の国家との関係が悪化して戦争になり兼ねないからな。王国と戦争中の今はそれだけは避けたい。」


「下手したら挟み撃ちで帝国終わりだな。」


「そう言うことだ。」



 仮に犯人が悪徳商人一味だったとしても、新大陸側からしたら「別の大陸の人間が自分達の同胞を攫っていった!」としか見えないだろうからな。


 ほとんど交流の無い状態でこのスキャンダルは帝国側からしたらかなり痛いな。



「次にアール=スミスだが、これは町の武器屋や鍛冶師を訪ねてみたら簡単に情報が集まった。事前に“火の民”であることが分かっていた事が幸いしたようだ。」



 団長の話をまとめるとこうだ。


 “火の民”というのは、帝国の中央部の火山地帯に住む少数民族で、噂では異民族の技術も扱う優秀な職人の一族らしい。


 主に鍛冶技術に秀でているが、他にも金属や宝石細工の技術も優れていて帝都でも“火の民”の作品は高級品として貴族達に重宝されているそうだ。


 そしてアールの家だが、数代前の先祖が当時の皇帝に『鍛冶王』の称号を与えられた伝説の鍛冶師の子孫らしく、帝国の鍛冶師の間ではかなり有名な一家だったらしい。


 ただ、その技術を欲したり作品を独占しようとする輩が今でも後を絶たないらしく、一家はとある山の奥地に隠れ住んでいるらしく、正確な場所の情報までは集まらなかったらしい。


 アールが奴隷になったのも不幸が連続した結果らしく、奴隷商もアールが“火の民”であることすら知らなかったらしい。



「幸い、武器屋の主人が“火の民”と交流があるらしく、少し時間はかかるだろうが家族を見つけるのも不可能ではないだろう。」


「そうか、なら安心だな。」


最後に(・・・)リーナ=レーベンだが、こちらは家名判明した時点で身元は割れているので調べるのは楽だった。ここから東北東に行った所にある地域を管轄しているレーベン男爵の姪で、先月から行方不明だと捜索願が出ている。表向きには人攫いにあったらしいということになってはいるが・・・・・・」


「実際は家出だけどな。」


 だが、結果的には人攫いに遭って奴隷にされていたのだから嘘にはならない。


 ん?


 今、“最後に”とか言わなかったか?


 まだルチオと銀耀がいただろ?



「団長、ルチオと銀耀は?」


「ああ、あの2人ならさっき帰った。」


「帰った!?」


「正直、何が起きたのかうまく言えないが、2人が「お世話になりました!」と言った直後に目の前から姿が消えたんだ。」



 消えたって、それって地球に帰ったってことか!


 しまった、ついでに日本にいるみんなへの伝言を頼んでおけばよかった!


 というか、俺も一旦向こうに帰る絶好の機会だったじゃないか!


 まあ、別に今すぐ帰りたいわけじゃないけど、いろいろ頼めたはずなのに~~~俺の馬鹿!!



「・・・何だか元気がなさそうだが大丈夫か?」


「へ、平気だぜ!」



 とにかく済んだことは後悔しても仕方がない!


 今は前向きに考えるとするか!


 あ!そう言えばリーナって、確か呪いがかかっていたんだった!


 風邪気味だったから、今はノエルやレミと一緒にベッドで休ませているはずだけど・・・。



「団長、医務室の方にリーナ達の様子を見に行きたいんだけど、行っても大丈夫か?」


「それなら問題ない。解放された奴隷達の治療もひと段落し、応援に来た町医者達も帰ったところだ。」


「そっか!じゃあ、さっそく行ってくるぜ!」


「まあな、あまり詮索しないでくれると嬉しいんだけど。」



 というか、俺も村人全員の事情を知らないんだよな。


 ただ、村長やアンナちゃん一家以外にも複雑な事情を抱えている人がいるのは事実だ。


 例えば初めてこの町に来た時に馬車に乗せてくれた爺さんAも謎が多い。


 普段は農民なのに、何だか妙に博識だし、暗算も得意だった。


 他にも店を出せるくらい美味しいパンを焼く婆さんや、業物と言いたくなるような包丁や農具を作る、片足を失った鍛冶師の爺さんなんかもいる。


 それぞれ事情があるだろうし、俺は自分から聞こうとはしていない。



「わかっている。これは後で領主様からも頼まれることだが、今回解放される元奴隷達の一部をファル村で受け入れてもらいたいと村長に伝えてほしい。」


「それって、帰る場所がない人もいるってことか?」


「それもある。元奴隷の中には身内に売られた者や、戦争や災害などで故郷そのものを失った者も少なくない。永住するかは別にして、しばらく落ち着いて暮らせる場所があると彼らも今後のことを考えていけると思うのだが、頼まれてくれるか?」



 確かにこのまま解放されても行き場がないと路頭に迷って・・・なんて事も考えられる。


 少なくとも一人立ちできるまで落ち着ける場所が欲しいと言うことだな。


 よく考えてみれば元奴隷達は百人に満たなくてもかなりの人数がいる。


 領主のオッサンや騎士団も、立場上は貴族やチビ皇子、とにかく富裕層出身の元奴隷への対応を優先しなければならないんだろうな。


 かといって、他の元奴隷達を無視する訳にもいかないから、一時的にもファル村で受け入れて欲しいというわけだな。



「それと、先に話した5人のうち何人かも一緒に受け入れてもらえると助かる。」



 団長は汗を拭きながら話を続けた。


 帝国の貴族令嬢のリーナはすぐに家族が迎えに来るだろうけど他の4人はそうはいかないということだ。


 トーイは帝国と戦争をしている王国の出身で帰国はかなり困難だ。


 ノエルも巨大宗教のトップの孫娘、しかもそのトップはおそらくノエルの存在を知らない。


 レミはダーナ大陸の東にある新大陸の出身、今後のことを考えると無闇に騒がせられないし、そもそも彼女の両親は連れ去られてこの大陸のどこかにいる可能性が高いのだ。


 アールも家族のいる場所が分かるまでは何日かかるかわからない。


 つまり身を隠すにしても、吉報を待つにしてもファル村は丁度良いということだ。



「それって、今日中に?」


「いや、病人もいるから明日か明後日以降の予定だ。1日や2日なら詰所の空いている部屋で寝泊まりさせればいいし、当人達にもその方が気持ちを落ち着かせられるから良いだろう。」


「分かった!帰ったら村長に伝えておくぜ!」


「よろしく頼む。」



 そして俺は団長の部屋を出た。


 なんか、ファル村の人口がどんどん増えていく気がするな?


 まあ、食糧とかは十分余裕があるから大丈夫だろう。


 さて、医務室は確かあっち・・・



「お兄ちゃん、おんぶ~♪」


「ダメ!私が先なの!」


「コラ、喧嘩しない!」



 うん、あっちはうまく打ち解けあえてるみたいだな!


 ロビンくんは弟妹に好かれやすいんだな。


 さて、俺は医務室に向かうか!







 ヒューゴとケビンのお母さんは若く見えますが三十路を超えています。


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