第363話 巫女姫、語る
新章開始です!
――ガンドウ大陸 巫女の国『大和』――
皆さん初めまして。
私はガンドウ大陸にある『大和』と呼ばれる国の最高指導者の職を務めさせて頂いている巫女姫という者であります。
勿論、巫女姫は本名ではなく、私には皇光葉というお母様から頂いた大事な名前があるのですが、周りの者は揃って「巫女姫様」と呼ぶので、名前で呼ばれたことは殆どありません。
正直悲しいです。
他の者達は親から頂いた名前で呼ばれているのに、自分だけは此の国における最高指導者の代名詞で呼ばれ続けるのは、年頃の乙女としましては精神的に辛いのです。
私だって町の同年代の女の子達のように「光葉ちゃん」とか、「みっちん」と呼ばれてみたいです。
一度世話係の方に相談してみたら窘められてしまいました。
私には「巫女姫様」以外の名で呼ぶのは神をも畏れぬ愚行だそうです。
法でこそ禁じていないようですが、私を「ちゃん」付けで呼ぶと高天原におられる神々の怒りが国中に降り掛かるそうです。
……そうでしょうか?
私、偶にですが“夢”を通して神様に会ったことがあるのですが、その際、神様はこんな事を仰られておりました。
『―――――コンコンコン♪世間じゃ狐の神様と思われているけど狐じゃない!だけど稲荷寿司は大好きな宇迦之御魂神ことウカちゃん参上☆……ヒック!』
『ウカ様~!勝手に出歩かれては困ります~~~!』
『食べ物とお供え物を粗末にしちゃダメだからって、ウォッカを一気飲みしちゃダメです~!御父上の真似しちゃダメです~!』
『ヒック!ウカちゃん、一曲歌いま~す!!』
『『ウカ様~~~!!』』
何やら悪酔い為された神様が“じぇいぽっぷ”という歌を歌い始め、神使の白狐さん達が必死に止めておりました。
白狐さん達は神様の名誉を守ろうと私に必死に「違うんです!これは違うんです!」と、泣きながら弁解しておられました。
可愛いなと思ったのは秘密です。
話しは戻りますが、あのような大らかな神様もおられるのなら、私を「ちゃん」付けで呼んでもお怒りになられる事は無いのではないでしょうか?
いっその事、神様に直接訪ねてみるのもいいのかもしれませんが、それは職権濫用に触れるかもしれないので未だ実行はしていません。
自分の名前のことで此処まで悩む私って変でしょうか?
変なお話になってしまいましたので、此処からは私の故郷である『大和』についてお話しさせていただきます。
『大和』はガンドウ大陸の内陸部にある国の1つで、北には大陸三大国家の1つ『月読国』、東には同じく三大国家の1つ『常盤ノ国』、西と南には中小の国家に囲まれており、昔は戦の脅威に曝されていたそうですが、現在は『常盤ノ国』以外の国々とは友好的な関係を築いておりますが、『常盤ノ国』は何かと高圧的に接して来るだけでなくあからさまに私達を見下した目で見るのであまり好きではありません。
あの国は人種差別が盛んな国なので他の国も良い感情を抱いていないのですけど……。
また話が逸れてしまいましたね。
この『大和』は大国の様な大きな繁栄こそしておりませんが、国中が緑豊かな土地柄のお蔭で美味しい米や麦、野菜などが採れる農業の盛んな場所です。
近年では急激に発展してきている『与羽根国』や『大日本共和国』からの技術提供のお蔭で畜産も急成長し、私も毎日のように美味しい鶏卵や牛乳を頂けるようになりました。
これは秘密ですが、私の世話係の皆さんは異国の新しい甘菓子に夢中になっているようで、私に隠れて町に甘菓子を買いに行っているようです。
私の分も買ってきてほしいのですが、きっと「巫女姫様が太られたら困ります!」と言われそうなので黙っています。
異国と言えば、最近は新しい物が次々と『大和』にも入って来ているようです。
私が生まれるよりも前になりますが、主に『大日本共和国』が中心となって大陸中に鉄道網を敷いてゆき、同時期に電話網も大陸の端から端にまで広められ、今では遠く離れた国との連絡も随分と楽になったそうで、交通の便も格段と向上したそうです。
特に海に面した国からは海の幸が多く届くようになり、お刺身が好きなお母様は毎日の夕飯に心をときめかせています。
昨日もお父様と晩酌を楽しんでおり、周りからは何故か呪詛を込めた様な視線を向けられています。
仲の良いお父様とお母様が何かしたのでしょうか?
「私だって!私だって……!!」
「仕事に生きるって決めたけど!だけど……!」
時折泣いている方もいましたが、何か悲しい事があったのでしょうか?
悩みがあるなら相談しにきてほしいです。
ああ、また話が逸れてしまいました。
この『大和』を含め、最近の各国の急成長ですが、どうやら“異世界人”が関係しているようです。
“異世界人”というのはその名の通り私達が今居る世界とは異なる世界からこの世界に来られた方々で、その方々が暮らす世界には私達の世界よりも進んだ文明があるそうです。
歴代の巫女姫が記した書物によれば私達の祖先も異世界からこの世界に来たそうです。
その証拠に、異世界人の方々の大半は私と同じ黒髪に黒目の人間です。
彼らは自分達を日本人と呼び、お母様によれば私達の祖先と同郷で間違いないそうです。
私は未だ一度も会った事がありませんが、機会があれば異世界人の方に会ってみたいです。
そして可能であれば、私の友達になってほしいです。
話は戻りますが、近年発見される異世界人の方々の多くは、異世界では職人や技術者をしていた方が多いらしく、過去にはお勤め先の工場と一緒にこの世界にやってきた方々もおられるそうです。
そのせいもあり、このガンドウ大陸には異世界の最新技術が常に流れており、それらはこの世界の技術と融合させ、この世界に適した技術に昇華させているそうです。
それを積極的に行っているのが、『与羽根国』や『大日本共和国』、最近では『異邦国エスパニア』といった異世界人が多く暮らす国々なのです。
『大和』でも数年に1人は異世界人が発見されるのですが、その方々は故郷に似ており、同郷の方々が多く暮らす場所の方が安心するらしく、殆どが他国へと去って行きました。
その気持ちは分かる気がします。
もし、私が何も知らずに異世界に飛ばされたとしたら、きっと同郷の方の居る所へと行くでしょう。
1人は寂しいですから。
私の職業についてもお話ししましょう。
先にも述べましたように、私は『大和』の最高指導者「巫女姫」です。
巫女姫は巫女の一族である皇家の女性が務め、高天原におられる神々に祈祷し、そのお言葉を賜る特別な存在です。
歴代の巫女姫は神々の強い加護を持っており、それもあって民達は神の御使いとして私やお母様を慕ってくれています。
私の普段の仕事は毎日の祈祷以外に政の場で官職の方々と国政の重要な会議、各国の大使との面会などをしております。
正直、権謀術数が渦巻く政の場は苦手で、時々人間不信になりそうになります。
こんな時、心を許せる友達が居ればと思います。
その事をこの前、お父様とのドライブ――お父様は輸入車でお母様とデートによく行きます――から戻ってきたお母様に相談したら、お母様も若い頃は同じ悩みを抱いていたと言っていました。
「――――どうすれば克服できるか、ですか。あえて言うなら、運命の殿方との出会い♡ですね。光葉も良い方と出会えば悩みなど吹き飛びますよ」
聞けば若い頃のお母様は、巫女姫の重責に耐えられずに家出をした事があったそうです。
ですが箱入り娘だったお母様が住まいである「天つ宮殿」の外で生きる事など出来る訳も無く、街を彷徨った末に空腹で倒れた処を大衆食堂の跡取りだったお父様に助けられそのまま恋に落ちたそうです。
周囲から当然の如く猛反発を受け、お母様もお祖父様の逆鱗に触れ軟禁状態になったそうですが、そこは愛の力で乗り越え、当時開通したばかりの鉄道に乗って逃避行に走ったそうです。
箱入り娘の想定外の暴走に唖然としたお祖父様は隣国『甲賀』の忍者を大勢雇って連れ戻そうとしたのですが、何者かによって忍者達は返り討ちに遭い、最終的には噂を嗅ぎ付けた民達もお母様達の味方に付き、マスコミを通して国外にも報道された辺りでお祖父様が折れてしまい、2人の結婚は認められたそうです。
尚、この一件でお祖父様はお祖母様に「婿殿の爪垢を煎じて飲ませたい」としつこく言われ続けたらしく、私が生まれた時には嘗ての面影が見えないほどにまで変わり果てたそうです。
お祖母様はお祖父様から愛が欲しかったんですね。
私もお母様のような運命の出会いがしたいです。
お母様の真似をして、私も家出をすればできるでしょうか?
最近、国内外から奇妙な話をよく聞きます。
都から離れた町や村で妖怪が頻繁に目撃され、中には年端もいかない少女を攫っているという話です。
特に中立国である『天津国』と、三大国家の最後の1つ『神国 天照』での目撃情報が圧倒的に多いようで、『大和』でも日に日に目撃情報が出ているそうで、各地の社では神職の方々が御祓い等で大忙しだそうです。
私も巫女姫として動くべきでしょうと皆に告げましたが、全員から反対されました。
「巫女姫様は宮殿から動いてはいけませぬ!」
「巫女姫様にもしもの事があれば、この大和は終わりです!」
「どうか、事態が収束するまでの間は宮殿から一歩も動かぬようお願いいたします」
巫女姫は国の要なので動いてはいけないそうです。
ですが、この様な時こそ私の力を役立てるべきなのではないでしょうか?
外の空気がすっかり冷たくなり、もうすぐ他国では「くりすます」という、近年はこの国でも広まりつつある行事が近付いてきました。
私は参加した事は無いですが、『大日本共和国』では恋人たちの為に行事だそうで、毎年沢山の新しい夫婦が誕生しているそうです。
私も今年はコッソリ参加したいところですが、最近の妖怪騒動のせいで無理そうです。
「――――巫女姫様、常盤ノ国の筆頭巫女が妖怪に攫われたとのことです。その際、妖怪は「うら若き巫女はおるか?」と話したそうです。巫女姫様、巫女姫様の身も危険です」
世話係の方にそう言われたのは数日前の事です。
妖怪の出没は大陸中にまで広がり、各国の社では私と年の近い巫女の方が次々と攫われる事件が発生していました。
そして、妖怪達の頭目は『魔王』と呼ばれているそうで、魔王が大勢の巫女を集めているようなのです。
今ではどの国の社でも巫女を護るべく厳重な警備を敷き、この宮殿でも私を魔王から守ろうと国中から名のある兵を集めています。
ですが、そのせいで辺境の防衛に隙ができ、妖怪による被害が広がるようになりました。
「全ては巫女姫様をお守りする為です。犠牲になった民も解ってくれることでしょう」
「巫女姫様は御自分の身だけを案じてください」
「何があろうとも、私達がお守りします」
皆、私を護ろうとしているのに、私の心は痛くて苦しいのです。
私1人を護る為、戦えない多くの民が危険に曝され犠牲になっていく。
その犠牲の数は日増しに増えていく。
けれど、私にはどうする事もできません。
国の最高指導者であるにも関わらず、私は私を護っている兵達を動かすことができませんでした。
この『大和』において、“巫女姫”の存在は私自身が思っている以上に重かったのです。
彼らにとって、“巫女姫”は自分達の命よりも価値ある存在であり、“巫女姫”を危険に晒してまで民を護ろうとする兵は1人も居ませんでした。
私には彼らの心を動かす事ができず、何もできないまま時間だけが過ぎていきました。
そして、3日前から降り続いた雪が吹雪に変わった日の正午―――――
その者達は何の前触れも無く宮殿に現れたのです。
次回からは主人公視点に戻ります。




