第361話 勇者達のその後②
――ラピス公国――
「――――陛下、『ヘスティア大迷宮』に向かわせた者達が帰還なされました。殿下達も御無事のようです」
「うむ。報告御苦労、下がってよい」
「ハ!」
息子とその部下達が無事に帰還した報せを聞き、大公夫妻は安堵の息を漏らしていた。
「ハア、魔王が出現した時はヒヤヒヤしたが、無事に討伐されて良かった。しかし、まさか魔王を倒してくるとはな」
「フフフ、父親として鼻が高いですか?」
「そうだな。今日は盛大に祝い、労ってやるか」
『オリンポス大迷宮』ではパッとした活躍は無かった『ヘスティア大迷宮』組だったが、女神ヘスティアにより攻略者として認められ、公国内の全ての神殿にその旨を神託で伝えられていた。
その中には大公夫妻の息子もおり、彼らはヘスティアのサービスにより公都近郊に転移され、そのまま真っ直ぐ公都へと帰還したのだった。
既に公都中はお祭りムードになっており、大人も子供も身分に関係なく彼らの帰還を祝福していた。
「さて、後は魔王を倒した英雄達に与える褒美を決めないとな。何が良いと思う?」
「そうですね。お金や武器道具類は攻略者の彼らの所持品の方が高価且つ稀少でしょうし、彼らの中には貴族以外の方々も大勢ますので、単純に爵位と領地にすると爵位は別として領地は足りなくなるかもしれません。ここは相手の希望を聞きつつ決めた方がいいのではないでしょうか?」
「そうだな。取り敢えず今日は酒と料理で祝うとするか」
そして帰還した『ヘスティア大迷宮』組の面々は大公を始め、多くの人々に祝福されながら夜が更け日付が変わるまでの間、豪華な料理や美味しい酒を振舞われながら祝福されていったのだった。
その後彼らは今回の経験を生かし、身分や組織の柵を越えて協力し合う新組織を設立し貴族社会であったラピス公国に大きな変化をもたらす事になる。
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――ネムス王国――
ネムス王国は大混乱に陥っていた。
しかし、それは魔王軍の侵攻によるものではなく、魔王を討ち滅ぼし『大迷宮』から帰還と、女神デメテルの失踪(?)によるものだった。
『大迷宮』から帰還した彼らを見た心境がどれ程のものだったか、それは言葉で表現しきれるものではないだろう。
特に王都では、国王の変貌ぶりに王族から平民までもが言葉を失った。
「全ての生命はオッパイにより生かされ、オッパイを崇める事で究極の幸福を得る事ができるのだ!私達が生きているのもまた偉大なる豊饒神の加護によるものである!ネムスの地に生きる者達よ、我等は皆、神聖爆乳デメテル様を崇めながら生きてきた!大いなるオッパイ!至高のオッパイ!美神にも優るオッパイ!奇跡のオッパイを!さあ、今生きていることに感謝し、天にお帰りになられた我らの豊饒神に感謝の言葉を贈るのだ!」
「「「うおおおおおおおおおおおお!!」」」
「「「おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!おっぱい!」」」
数万人の王都民の前で熱く演説する国王に、常識ある民衆は大きなショックを受けていた。
だが、一部の巨乳愛好者達はあっという間に国王に毒され仲間入りしていった。
こうしてネムス王国は、この世のどんな病原菌や猛毒よりも厄介なものにジワリジワリと地味に汚染されていくのだった。
「「「HYAHHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」」」
『バリバリ走るZEEEEEE!!』
同時刻、王都にある騎士団の敷地内では王国の精鋭騎士団の1つ『金鷲騎士団』改め『出芽照螺罵亞頭』が生きた魔導バイクで爆走をしていた。
騎士とは別次元の服装の騎士に、彼らが乗る馬とは似ても似つかないバイクは土煙を上げながら爆走する光景を前に、他の騎士団の騎士達は呆然と立ち尽くす。
だが次の瞬間、一部の騎士達の目は夜空に輝く星々の如き輝きを放ち始めた。
「うおおおおおおおおお!!リクルグス団長、その素晴らしい乗り物は何ですか!?」
「HAHAHAHAHA!このバイクの素晴らしさが分かるかガキ共!」
「ハイ!凄くカッコいいです!!」
「魂が痺れました!!」
「我々にも乗れますか!?」
どの世界でも、バイクは一部の人々の魂に火を着けるのだろうか?
大興奮する騎士達を前に、騎士団長改め『大地無双総長』リクルグスは男の浪漫を熱く語り始め、新しい舎弟達を凄まじい勢いで増やしていくのだった。
だが、それが一部の騎士達からの反感を買ってしまい、後に「バイクVS馬」という、騎士に相応しい乗り物はどれかという大きな争いが勃発することになるのだが、それはまた別の話である。
「聖女様!そんなはしたない格好をお止め下さい!!」
「フフフフ、何を言ってるのかしら?この深き地の底を思わせる黒き衣装こそが私の聖☆服なのよ♡」
デメテルの神託が来なくなり混乱していた神殿でもまた、ゴスロリ服を着た聖女が聖職者達に更なる混乱を齎していた。
だが、聖女の変貌にショックを受けているのは主に“外の世界”を知る神官達であり、人生の大半を大神殿で過ごしてきた箱入りの女性神官達の間では意外と大好評で、1カ月も経たない内に『デメテル大神殿』の女性服はゴスロリで統一されていく事になるのだった。
これ以外にも、王国各地では様々な混が起き、同時に噂の粋を越えた都市伝説が幾つも誕生していった。
――――曰く、山で魔獣に襲われると深緑の戦士が助けてくれると。
――――曰く、ネムス王国の農業ギルドには無敵の八百屋が所属していると。
――――曰く、巨大魔獣に襲われた町や村には謎の巨大ゴーレムが現れると。
――――曰く、某貴族の屋敷には暗黒パワーを持つ使用人がいると。
――――曰く、悪人は悪夢の病院に攫われると。
このような噂はあっという間にオリンポス大陸中に広がり、更には海を越えて他大陸にまで届く事になり、ネムス王国は各国から『オリンポスの魔窟』と呼ばれる事になるのだった。
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――ルートス王国――
『大迷宮』から帰還したレヴァン達は、彼らを待っていた国王の遣いに王城に来るように言われ、危険なにおいもしなかったことから全員で王城へと向かった。
レヴァン兄弟とメロディは勿論、その他の元・違法奴隷の子供達も一緒に。
「要点から言えば、メルクーリ家は取り潰しになった」
国王ドロンの言葉に、レヴァン達は特に動揺する事は無かった。
特にメルクーリ家の息女であるメロディは、実家の悪事をこれでもかと知っていたので、やっとバレたのかとしか思っていなかった。
実家に関してはすっかり見切りをつけていたのである。
「何というか、メルクーリ家は貴族犯罪の博覧会を開けるほどの犯罪の山だったな。使用人の中には高額賞金首の者も多数おり、旧アウルム王国の密偵も数名見つかった。主犯格である当主夫妻は断固として罪を否認していたが、先に黒幕である先代当主を吐かせたらあっさりと認めた。今は余罪の調査をしているがこれだけの犯罪の山だ。先代当主と現当主夫妻は死刑か終身刑なのは確定だろう」
「……そうですか」
「まだ『大迷宮』に残っている長男も見つけ次第拘束し裁きにかける予定だ。こっちも強姦などの重犯罪が発覚している以上、重い刑は避けられないだろうな。問題は貴殿だ。元メルクーリ家長女メロディ、お主も一族の犯罪に大なり小なり関わっていたのは、間違いないな?」
「はい。間違いありません」
国王の問いにメロディは正直に返答した。
その横ではレヴァンが不安そうに彼女を見つめている。
彼女がメルクーリ家としてしてきた事は決して許される事ではない事をレヴァン自身も知っているが、それでも彼女が重い刑に課せられるかもしれないと思うと胸が痛かった。
だが、その不安はすぐに杞憂であると知ることになる。
「こっちも要点だけ先に言うが、メロディ=Z=C=メルクーリは『大迷宮』攻略と魔王討伐の功績により減刑とし、貴族位を永久剥奪、違法奴隷被害者及び遺族への補償を行う事を命ずる。以降は平民として暮らすがよい」
「……え?」
犯罪奴隷も覚悟していたメロディは、予想外の判決に目を丸くする。
特に「違法奴隷被害者及び遺族への補償」はつまるところ、レヴァン達に幸せな生活を過ごせるようにしろという事である。
隣で同じように驚愕しているレヴァンと一緒に国王の顔を見ると、国王は不敵な笑みを浮かべながら小さく親指を立てていた。
「貴殿ら、魔王と邪神の討伐、大儀であった♪」
気付けばその場に居た大臣や騎士達が満面の笑みを浮かべながら拍手を彼らに送っていた。
空気を読める国王はレヴァンとメロディ達を見てその関係を瞬時に見抜き、メロディ自身に罪を受け入れる覚悟があると確信していた。
それ以前に、国王は今は亡き(笑)神ヘルメス制作の“あの映画”を一部始終を臣下達と一緒に見せられていた為、彼らがヘルメスを盛大に制裁してくれたので好印象を抱いていた。
このまま一緒に飲みに行きたいとさえ思っているほどだ。
「おっと!他の者達への褒美を忘れるところだった。レヴァンよ、先ずは貴殿からだ」
「は、はい!」
うっかり本気で忘れるところだった国王は少し慌てながらレヴァン達への褒美の授与を始め、勲章と家名、領地を与えていき、他の元奴隷の少年少女達にも勲章を始めとした多くの褒美が与えられていった。
「本当なら爵位も与えたい処だが、今は国内がゴタゴタしているせいですぐには無理だ。済まないが、今は(変な形だが)領地だけで納得してくれ」
「い、いいえ!十分勿体無いくらいです!」
「ハッハッハ!欲のない男だな!」
「陛下も見習って下さい。臣下の為にも」
「お前も大概正直だな大臣?」
大笑いする国王に溜め息を吐く某大臣。
実に平和な主従関係である。
「さて、堅苦しいのは此処までにして、我が国の英雄の誕生を祝って宴といこうじゃないか♪」
どの辺りが堅苦しかったのかは微妙なだが、国王は大臣達の視線などスルーして国家の英雄を称えるという名目の盛大なパーティーを開始したのだった。
その夜、レヴァン達は(メロディは除いて)一生縁の無いと思っていた豪華な衣装を身に纏い、王族や貴族と一緒に豪華な食事を食べたり、踊ったりしながら過ごしていった。
ちなみに、料理の食材にはレヴァン達が『大迷宮』から持ち帰った超稀少食材もふんだんに使われており、その味と効果を前に平民出身のレヴァン達よりも貴族達の方が醜態を晒すというハプニングもあった。
「ところで、俺の息子も『大迷宮』に潜っていたんだが、お前達は見なかったか?」
「「さあ?」」
余談ではあるが、この時国王の長男は『大迷宮』で行方不明という扱いになっていたのだが、貴族達の多くは「この王の息子だから大丈夫だろ」と思っていたようで、パーティーでも誰も話題に上げる事は無く、数日後に五体満足で帰還した際も誰もが普通に「お帰り」と言ってこの件は片付く事になる。
さてその後のレヴァン達のことだが、パーティーの翌日からすぐに王都を発ち、バラバラになっていた家族とも無事に再会、既に亡くなっていた違法奴隷を故郷で供養しながら国王から貰った領地へと向かい、そこに家族も呼んで新しい生活を始めていく事になる。
人間を辞めた末に“黄”の龍族――大地を司り、大地に恵みを与える力を持つ龍族――となったレヴァンの力により領地は国内有数の農業地帯へと成長していく事となる。
また、領主一家が人間じゃないこともあってか、国内外から多くの亜人種族が移住し、あらゆる種族が暮らす共存地帯としても広く知られる事になる。
領内には神殿の代わりに龍神を祀る社が建てられ、領民達の侵攻する神も伝令神から龍神へと変わっていき、それもあってか、以後数百年、その土地で「神の悪戯」と呼ばれるルートス王国特有の怪現象が起きることは一切無くなったのだった。
余談だが、腐敗した『ヘルメス大神殿』はその力を急速に失ってゆき、所属していた(自称)聖職者達は不正がばれて捕まるか、職を失って大陸を彷徨う事になったという。
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――ノックス国――
首都ミネルヴァにある大統領府。
ノックス国の政治の中枢である場所であり、同時に大統領とその家族が暮らす邸宅でもある。
毎年国民を招待するイベントや多大な功績を上げた者達を表彰する場としても知られ、国内有数の有名観光スポットの1つでもある。
その敷地内にある大広場に今日、大統領は勿論のこと、ノックス国を支える各機関の代表や軍の上層部、経済界の重鎮達が集まり、更には大勢の国民達が集まる大イベントが行われていた。
「――――今回、オリンポス大陸は『魔王』という未知の脅威にさらされ、私達の国も大きな被害を受けました。ですが、その魔王は既にこの世にはいません。未曾有の脅威に対し、勇敢な若者達が命を懸けて戦い魔王を討ったのです。その者達は未熟でありながらも神々が創造した『大迷宮』へと挑み、神々との最後の試練も乗り越えました。紹介しましょう。オリンポス大陸を救った私達の救世主――――勇者の方々を!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」
国民達の盛大な歓声を浴びながら、ニケ達は大統領が立っているステージへと上った。
『大迷宮』から帰還して数日、ニケ達は大統領に呼び出され、そこで今回の一件の顛末について訊かされた末に、国家の英雄として表彰される事になった。
既に国民達も神殿を通してニケ達が『大迷宮』を攻略し魔王も倒した事が伝えられており、首都ミネルヴァには今日の表彰式を見る為に地方からも大勢の人々が集まっていた。
そしてニケは大統領と向き合う。
「ニケさん、この国を―――いえ、この世界を救ってくださってありがとうございます。国を代表して感謝します」
「い、いえ!私達は成り行きで戦っただけで……」
「(マスター、ここは毅然とした態度を!)」
「(う、うん!分かったわ!)」
勇者になっても根は変わらないニケは緊張して震えるが、すぐ後ろに控えているウィズにサポートされながら大統領から勲章やら名誉国民の証やらを受け取り、国民への挨拶も心臓が止まりそうになりながらも熟していき、その姿勢に国民達の中には胸が温まる気持ちになっていった。
「可憐だ……!」
「可愛い勇者様ね!」
「後ろにいる子供達が仲間か?みんな子供じゃないか」
「世界一可愛い勇者パーティね!お持ち帰りしたいわ♡」
「ハァハァ……!」
国民達は一見すると勇者には見えないニケ達に驚きつつも、その素直な人柄や可愛らしい容姿に次第に魅かれていく。
この数時間後、ノックス国に「ニケちゃん達を温かく見守る会」や「可憐勇者親衛隊」など、ニケ達のファンクラブが幾つも誕生するのだが、それはまた別の話である。
そして表彰式は何のトラブルもなく終了し、そのまま祝賀パーティが開催され、ニケは多くの著名人やその子息達に囲まれていき、やっぱり緊張しながらウィズに《念話》でサポートを受けつつ雑談をかわしたりしていった。
「いやはや、カメリア財閥の御息女が勇者とは、御両親も実に鼻が高いでしょうな?」
「は、はい……」
「ニケ嬢、宜しければこの後、私とお茶でもどうでしょうか?」
「い、いえ。この後は実家の用事があるので……」
ニケに群がる者達は、彼女が国内トップクラスの財閥の令嬢であるという事もありどうにか良縁を結ぼうとしていたが、彼女自身はその全てを断っていく。
彼らの下心に気付いたからという訳ではなく、早くこの緊張から解放されたいという理由で。
だが、幾ら断っても後から続々と著名人達が彼女の下へとやってきて、「是非お見合いを!」、「我が社と契約を!」と、時の人となったニケを利用する気満々の言葉を言って来るので、次第に彼女も怖くなり、この場から強引に逃げ出そうと思い始めた。
「「ニケ姉!」」」
そこへ、肉を頬張っている双子がやってきた。
「ヴィルガルくん、ヴィルハルトくん!」
「ニケ姉、そんな連中の相手をしてたら料理を食べそこなうぜ?」
「主にチビ達が原因でな!あいつ等、食欲旺盛過ぎ♪」
双子が指差した先では、人型をとっているバーンやフェン達が物凄い勢いで料理を食べている光景があった。
それに煽られたのか、一部の大食漢達が負けじと一緒になってフードファイトを始めていた。
お蔭で料理人やウェイターは大忙しである。
「もう!みんな仕方ないんだから!」
「マスター、あれは流石に止めないと、64%の確率で料理人達が過労で倒れてしまう恐れがあります。同時に、地味にこの国の財政を圧迫させてしまいます」
「と、止めなきゃ!」
「あ!ニケ嬢、お待ちください!あれは此方でどうにかしますので、それよりも我々と―――」
「邪魔だぜ、おっさん?」
チビッ子達の下へと向かおうとするニケの腕を掴む男の腕をヴィルガルが掴んで止める。
止められた男は、あからさまに不機嫌な表情を浮かべながらその手を振り払おうとする。
だが、どんなに振り払おうとしても彼の手は男から離れなかった。
「な、何だ君は!?私達はニケ嬢と話している!」
「全く、ニケ嬢の仲間らしいが、礼儀がなっていないな?これだから庶み……い、いえ、君達、私達は大事な話をしているんだ。子供はあっちでジュースを飲んでいなさい」
「そうそう、此処からは大人の世界だからね?」
双子を見下す著名人達だったが、彼らはこの時知らなかった。
自分達が今見下し、暴言を吐きそうになった相手が魔王よりも恐ろしい怪物であるという事を。
彼らが掴んでいるのは腕ではなく、自分達の心臓であるという事を。
そして、双子による「俺達のニケ姉に手を出した罪の制裁☆」が開始された。
―――――ボキ♪
「~~~~~ッッ!?」
ヴィルガルは男の腕を思いっきり握り、骨を粉砕した。
そして即座に回復、これをニケに気付かれないように5セットほど繰り返して男の精神を砕いていく。
「このオッサン、ニケ姉を襲ったボンボン盗賊の親だぜ?ほら、大迷宮のアイテムとニケ姉の貞操を狙ったゲス野郎の!」
「ああ!俺達でタマを潰してやったボンボンか!確か、圧力が掛かって事件は隠蔽されたんだよな?」
精神を砕いた後はスキャンダルとカミングアウトをし、双子はニケに手を出そうとした男達全員を容赦なく制裁していくのだった。
その後、ニケに手を出そうとした男達は過去の罪を暴露された末に警察に連行され、数ヶ月後に裁判で実刑判決をくだされるのだった。
「ニケ姉、綺麗になったし、一緒に御馳走食いに行こうぜ♪」
「お菓子も食べようぜ♪」
「う、うん。(2人とも、私を悪い人から守ってくれたのかな?でも、あのやり方は少し過激すぎるよ。後でお説教したいと!私、皆のお姉ちゃんだもん!あ、その前にプルくん達を止めないと!)」
ニケは双子に感謝しつつも、過激な双子がまたやり過ぎないように説教しようと思うのだった。
もっとも、双子の性格はそう簡単に矯正できるほど単純ではないのだが。
一方その頃、同じ会場の片隅では、ニケと一緒に『大迷宮』から帰還しながらも、勇者はおろか攻略者にも認められなかった者達が暗い空気を纏いながらポツポツと料理を食べていた。
その中には何故かニケの両親も混ざっていた。
「………残念優等生……タダの人……無能……ボンボン……」
「工場……追徴課税……解任……無職……家……」
「…スキャンダル……無一文……借金……罵声……強盗……」
ニケの家族は不幸のどん底にあった。
兄のイオン=カメリアは『大迷宮』の失態が原因で学院総代としての名声を失い、更には散々見下してきた妹に連れられて帰還した事で周囲から「残念優等生」、「勇者の足手纏い」と嘲笑され、これまで築いてきた信用とコネの全てを失ってしまった。
挙句の果てに、今までの功績が偽物でないかとまで言われていたが、今の彼の姿を見ればそうも思いたくなるのも無理からぬことである。
父親の方は魔王軍の侵攻により財閥が大損害を受けただけでなく、その際に財閥の情報が流出した事により脱税や鉄道事故の隠蔽などいった財閥の罪が明るみなってしまい、その責任を取って会長職を解任され、更には自宅の豪邸も魔王軍に襲撃され全壊してしまった。
母親の方も夫のスキャンダルが原因で周囲から罵声を浴び、更には仕事でも大きなミスをしてしまい多額の借金を背負うことになり、魔王軍襲撃の際も使用人達が火事場泥棒を働いて逃げてしまい殆ど無一文になってしまった。
一家は(ニケを除いて)社会から孤立していた。
「僕達、どうなるんだろう?」
「家も無い…お金も無い……」
弟妹もまた、家庭環境の急変にショックを受けていた。
住み慣れた豪邸を失い、贅沢も出来なくなり、このままでは学院も中退になる恐れがあった。
生まれた時から上流階層であり、面倒な事は全て周囲の人間に任せきりだった彼らにとって、あって当然だった物を全て失ってしまった現状は悪夢でしかなかった。
尚、現在の彼らはニケのポケットマネーにより衣食住を支えられている。
一家揃って寄生中であった。
「全く、兄弟だけでなく親も根性なしか!」
それを見ていた肉を頬張りながら大勢の男に囲まれる女ナナ。
彼女はニケの為、一肌を脱ぐことを決め、翌日から「カメリア家矯正計画」を実行するのだった。
だが、その計画は面白がった双子が乱入することで過激になるのだが、それはまた別の話である。
「ニケ姉!俺、ニケ姉と同じ学校に編入するから!」
「俺も!」
「え!」
「「Let's学園ラブコメ☆」」
その後、ニケは周囲から称賛を浴びながら在籍していた学院へと戻るのだが、そこへ双子が付いてきて強引に編入、学院全体を巻き込んだ学園ラブコメ(?)を繰り広げることになるのだが、そこへ更に、中々帰ってこない双子を連れ戻しに来た双子の家族が現れ、ニケの新たな冒険が始まるのだが、それはまた別の話である。




