第357話 ボーナス屋、見届ける
雷が次々と逃走する敵に直撃していく。
100体、200体と、あっと言う間に雑魚テュポーンの数は減っていく。
不老不死じゃなくなった上に雑魚になったテュポーンはケラウノスの一撃に耐えられないほど脆かった。
『ここまで脆いと哀れに思えてくるが、悪く思うな!《邪を祓う神龍の息吹》!!』
『『『グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――ッッ!!』』』
クロウもブレスで雑魚テュポーンを抹殺していった。
「極光よ、悪しき獣を滅せよ!《極光千刃斬雨》!!」
『『『グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――――――ッッ!!』』』
ステラちゃんの斬撃の嵐が敵を切刻んでいく。
「私は旦那様方のように殲滅は苦手ですが、漏れた虫を叩くことは出来ます。《無音終焉暗殺刃》!」
『グァ――――――ッッ!?』
ユニスは俺達の攻撃を避けた雑魚テュポーンをさり気無く倒していった。
『ハハハハハハハハ!!ガイアの子らよ、俺の炎から逃れられると思うな!!』
『『『グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――――――ッッ!!』』』
やっぱり酔っているのか、ヴリトラは微妙に変なテンションで雑魚テュポーンを倒していく。
戦いが終わったら海に投げ込もう。
「いくわよ、アンナ?」
「はい、ユイカさん!」
「「《星空の神聖二重奏》!!」」
『『『―――――――――――――――ッッ!?』』』
唯花とアンナちゃんのコンビ魔法が雑魚テュポーン達を苦しめることなく消滅させていった。
「大分減ったな。残ったのも一気に片付けるか。コッコくん、合体いけるか?」
『ゴケ!』
「待ってください!」
「え?」
残り十数体にまで減り、俺とコッコくんで終わらせようとすると、ソフィアちゃんが待ったをかけた。
何、また何かトラブル発生か?
「……」
「ソフィアちゃん?」
「……残りは私達が倒す必要が無さそうです」
「え?」
『ゴケ?』
「たった今、残るテュポーンは魔王タルタロスⅡ世に全て吸収され、最終形態となった魔王とオリンポス大陸の勇者達と戦闘に入りました。私の計算では勇者側の勝率は91.24%ですので放置しても大丈夫です。それ以前に、バカトリオが『大迷宮』に主が入ると自爆する仕掛けを施しているので危険です」
「なんて仕掛けをつけてんだ!!’
「そのバカですが、先程1柱がブレイくんに食べられました」
「ブレイくん、ナイスファインプレー!」
「ロキは冥府に居る娘に助けを求めましたが、白い目で拒絶されました」
「ヘルさん、ナイス!」
「ヘルメスも旧友のアテナ様に助けを求めましたがスルーされました」
「流石アテナ様!」
あのバカトリオは完全に逃げ場を失ったようだ。
というか、最初に食われたのはアナンシか。
『士郎、こっちは全て片付いた。残りはどうする?』
『ハハハハハハハハハハ俺の――――』
「よし!あとは後輩勇者達に任せるか!」
『俺―――――』
「主、ブレイくんに進化の兆しが現れました」
「え!マジ!?」
『お―――――』
「特等席で観賞しましょう」
「サンセ~♪」
『ん?アレスの姿が見えないが何処に行った?』
『……(グス)』
何故かヴリトラが泣き顔になっているけど泣き上戸か?
さてと、『大迷宮』編のラストバトルを見届けようか!
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――『オリンポス大迷宮』 カオスステージ(笑)――
魔王を最初に発見したのは『出芽照螺罵亞頭』だった。
暴走した神アナンシに破れ魔導バイクごと渓谷フィールドに墜落した彼らだったが、スラ太郎達の能力で復活、更に《不思議現象》でバイクが進化して自我に目覚めた。
『バリバリ行くZEEEEEEEE――――ッ!!』
「HYAHHAAAAA!!俺らの相棒最強ォォォォォォォ!!」
『HYAAAAAAAAA!!標的発見だっZEEEEEEEEEEEEE!!』
「―――――何奴っ!?」
こんな感じ魔王達はテュポーンの下へ行くのを阻まれ、急遽、『大迷宮』のラスボスになったのだった。
この時、スライムに襲われていたヘルメスは「あ、いい感じの展開♪」と呟いていたりする。
全然懲りてなかった。
「「あ!魔王発見!」」
そして次々と人が集まり、更に舌打ちした魔王が魔獣の軍勢を大量召喚した事によって盛大な大規模集団戦が開始したのだった。
『ピィ~♪』
尚、ヘラクレスを倒して『女帝のスライム』から『女神のスライム』に超進化したエルちゃんが常時回復魔法を使っているので、魔王軍以外は疲れ知らずで戦う事が出来た。
『妖精ジャイアントオッパイボンバ~~~!!』
「お父さんスパイラル!!」
「マッスルジハード!!」
偶に変な攻撃が戦場を飛び交ったが、魔王を含め多くの人々はスルーした。
そして宇宙でコッコくんがテュポーンを切刻んでできた肉塊が沢山のテュポーンになった頃、魔王軍との戦いは魔王vs勇者ズの展開になっていた。
「《虚空八閃陣》!!」
「――――ッ!散れ!《混沌怒涛嵐舞》!!」
勇者タイガの剣技と魔王の大魔法が真っ向から衝突し、その余波がステージ全域を飲み込んでいく。
「この技……!その若さで達人の剣技を使うか!!」
魔王はタイガの剣技に戦慄していた。
2人が接触したのは数分前、各大迷宮の攻略者達が集まり魔王軍との激戦を繰り広げ、魔王自身も神器を振り回す双子やもう人間辞めてしまっている少年達を相手にし、達人級の剣技と体術、そして神にも引けを取らない大魔法で多勢を相手に決して退かない戦いを繰り広げていた。
単純な戦闘力で言えば、魔王タルタロスⅡ世は天空大陸やニブルヘイム大陸の魔王達など歯牙にもかけないほど強く、常時回復されゾンビアタックみたいに攻めてくる相手にも愛剣である『奈落熾剣タルタロス』で迎え撃ち、回復をしているエルちゃんを発見すると懐から出した『ヒュドラの毒矢』を投擲しエルちゃんに直撃、殺すことは出来なかったが一時的に回復を止めその隙を突いて敵を一気に追い詰めようとした。
そこに颯爽と現れたのが死の淵から復活したタイガだった。
仮死状態だった彼は、魂だけこの世の何処でもない場所へ行き、そこに居た日本神話最古の神の指導の下で――根源神の職権で召集された日本中の軍神や人神らにも――鍛えに鍛えられ、本人は未だ正確には自覚していないが魂が桁違いに強靭になった影響で身体能力も向上、アレスに敗れた時とは桁違いの変貌を遂げ、単身で魔王に挑み追い詰めていった。
「か、カッコいい……♡」
「タイガ様、素敵です♡」
精神が成長した影響か、魅力も細やかながら増していた。
「そうか、お前があの神が言っていた勇者か。いや、勇者の1人だな?」
「そっちこそ、『冥王』の使徒だろ!?元は僕と同じ日本人だったんだろ!」
「ああ、前の世界で死に、魔王としてこの世界に転生した。もっとも、もう随分と昔の話のようにしか感じないがな」
「・・・」
「言っておくが、同郷だからと情を誘うのなら無駄だ!《バニシング・ブリッツ》!!」
「《青藍》!!」
魔王とタイガの互角の攻防が続く。
一方で、すぐ近くでは魔王と魔王の配下が激戦を繰り広げていた。
「魔王が一杯……!」
「マスター、あれは《多重存在》です!分身とは異なり、あの7人全てが魔王の本体です!解析によれば、10分ごとに増えていきます!」
「ええ!?」
「うわ!ジジイ共と同じ事ができるのかよ!何、このチート魔王♪」
「しかも武術も魔法も達人級とか!」
魔王は1人だけではなく7人もいた。
本体以外は偽者である分身とは違う、全てが本体に等しい《多重存在》という《分身》や《影分身》の上位能力を使う事で――本当は数人をテュポーンの下へと向かわせるつもりだったが出来なかった――魔王は神すら倒した攻略者の集団と互角の戦いを繰り広げていた。
魔王の3人の配下も主から新たな力を与えられ、苦戦はしているが瞬殺されない程度には戦えていた。
そして沢山の雑魚テュポーンが散り散りになり、そこを士郎達が総攻撃し始めた頃になると魔王軍の数は魔王×2と配下のみとなった。
「――――クッ!これ程とは……!!」
「魔王、お前にはもう勝ち目は無い。降伏するなら魔力を封じて――――」
「やはり甘いな。魔獣は殺せても、人を殺す覚悟は未だ出来ていないなど致命的だ。その甘さは遅かれ早かれお前達を破滅させるだろう。それを―――――」
「(不意打ちグングニル!)」
タイガを冷めた目で見つめながら話す魔王を、ヴィルガルが背後から槍の神器で突き刺す。
「――――そんなベタなやり方が通じるとでも?」
「チッ!」
だが、魔王は紙一重に避けた。
あの暴君双子の不意打ちを紙一重に避けると――しかもグングニルは百発百中の槍なのに避けた――は恐ろしい魔王である。
一部から拍手喝采が出たが、気のせいだろう。多分。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
「「「!!」」」
雑魚テュポーンが空から降ってきたのはその時だった。
半身を失ったテュポーンは飛ぶこともできずに魔王と勇者達がいるフィールドに向かって落ちてきたのだ。
それにいち早く気付いた魔王は、勇者達が対空砲火をするよりも早く左手にはめていた指輪の力をかいほうした。
「喰い尽くせ!《奈落の暴食王》!!」
それは一瞬の事だった。
魔王の1体の指輪が妖しく光った瞬間、雑魚テュポーンは原型を失いながら誰の邪魔を受けることなく魔王×2の体内に吸収されていった。
そして吸収された雑魚テュポーンは1体だけではなく、『大迷宮』付近に居た10数体の雑魚テュポーンが瞬く間もなく魔王×2に吸収された。
直後、魔王×2の力は跳ね上がり、姿形も黒髪黒目の美青年から黒き獣へと変貌させていく。
その姿は足の生えたテュポーン、だがテュポーンのように本能のままに破壊を繰り返す凶暴性は無く、あるのは闇のように黒く、大地を押し潰すかの如く重く静かな魔力と闘気を纏ったドラゴン×2だった。
「「第二形態キター☆」」
双子はハイテンションだった。
一方で、魔王は何処か落胆とした表情をしていた。
『……予想以上にテュポーンの力が弱い。これでは―――』
『ピィ~!!』
そこに怒ったエルちゃんがヒュドラの毒のお返しだと言わんばかりに特大ビームをぶっ放した。
そしてそれに続くように一部の攻略者達が集中攻撃を開始する。
勿論、手加減は無し。
『『『陛下!!』』』
魔王の配下3人が慌てて主君のもとへと駆け付けようとするが、バイクの轢き逃げに遭って戦闘不能になった。
その間も容赦ない攻撃は続いたが、魔王×2の気配は弱まるどころか強くなっていった。
『『《カタストロフィ・バースト》』』
カオスステージ(笑)全体を破壊の爆炎が飲み込み、勇者達は1人残らず消し飛んだかのように思われた。
だが、実際には全員無傷だった。
「――――スラオ、遅れて悪かったな」
『ピィ!』
颯爽と現れた『蒼剣の勇者』テリーとその仲間達が皆を爆炎から守ってくれたのだ。
こうして、『ヘラ大迷宮』組を除く12の『大迷宮』の攻略者、及び最前線メンバーが全員集結したのだった。
『ピィ~~~~~~~~!!』
直後、ジャイアントスラ太郎が魔王×2を真上からプレスした。
「「「……………」」」
『ピィ!』
スラ太郎くん、少しは空気を読んで……。
次回は土曜日更新予定




