第350話 ボーナス屋、映画鑑賞する16
――『オリンポス大迷宮』 カオスステージ(笑)――
美の女神の虜になっていないのはニケ達だけではない。
悪く言えばその他大勢な『ヘスティア大迷宮』組にも気合で耐え抜いた者もおり、『ヘファイストス大迷宮』組も最初の10秒間は危なかったがコミュ障王子が純情パワーで“魅了”を克服したお蔭で全員が復活することができていた。
「余、余だって……男、だ!!」
「ガッハッハ!!頼もしい王子様じゃ!!」
「お蔭で女房に呪い殺されずに済んだのじゃ!」
「……クッ!あのナヨナヨしかった殿下も男を見せたんだ!俺らも行くぞ、ジェン!」
「ハイ、アキスさん!」
「私としたことが危うく我を忘れる処で――――来ます!」
「殿下、私の横に!」
「う、うん!」
彼らは陣形を組み直し、迫りくる眷属達を迎え撃つ。
咆哮を上げながら接近するヘファイストスの眷属(火竜)とゼウスの眷属(鷲)の初撃を前衛の老け顔騎士と青年騎士が凌ぎ、その時にできた1秒にも満たない敵の隙をエルフの賢人は見逃さずに魔法を撃ちこんで動きを鈍らせる。
次に王子と女騎士が魔導銃から氷属性の魔弾を眷属(火竜)の足と眷属(鷲)の翼に向け連射し、動きが大きく鈍らせたところで残った2人の老人も加わって一斉攻撃を開始する。
『GOOO――――ッ!!』
『ウォオオッッ!?』
「チッ!浅いか!?」
「仮にも神の眷属ですからね!しかも片方は大神のみたいですしっ……!」
流石に属性も特徴も大きく異なる眷属2体を同時に相手するのは難しいのか、アキスは眷属(鷲)に中々ダメージを与えられずにいた。
それは他の前衛組も同じらしく、眷属(火竜)とはほんの10分前まで戦っていた事もありそれほど苦戦
はしていなかったが、眷属(鷲)には慣れないタイプの敵に苦戦を強いられていた。
だが、それは無理もない事である。
彼らの装備は『ヘファイストス大迷宮』用のもので占められており、それまで戦ってきた洞窟や火山地帯に生息するタイプとは大きく異なる、空中戦に特化したタイプの敵との戦闘には相性が悪かった。
翼を凍らせて動きを鈍らせたことで一方的に不利になることは無くなったが、それでも眷属(鷲)は完全に飛べなくなった訳ではなく今も低空飛行を続けており、しかも凍結箇所も徐々に回復しているのでこのままいけば状況は一方的に不利にになる恐れがあった。
「くそ!空飛ぶ奴に重装備はキツイか?」
アキス達に焦りが生まれる。
今は2体が相手だが、此処には他にも敵が――――神々がいる。
状況の変化次第では他の敵とも同時に戦わないといけないことも十分に有り得る為、今戦っている相手だけでも早く片付けたいと考えていたアキスだが、現状を考えるとそれは難しかった。
『ウォオオオオオオオオオオオ!!』
「チィィィィ!!」
『妖精スーパーダイナミックスクリューキ~ック!!』
『ウオ――――ッッ!?』
しかしそこに、流星の如く1人の妖精が降ってきた。
アキス達に気配を察知される事無く現れた妖精は眷属(鷲)の胴体を貫通、そのまま地上へと落ちていった。
『止めて~~~!!』
「………何だ、アレは?」
呆然とするアキス。
その間に眷属(鷲)は地表に激突した。
『GOOOOOOOOOOッ!!』
「ム!これはマズイのう!」
同じ頃、眷属(火竜)が地表に向かってブレスを吐こうとした。
煮え滾るマグマのブレスが地表に放たれれば耐熱装備のアキス達は無事でも、未だ女神に魅了され正気を失っている人達は間違いなく死ぬか、死ななくても重傷を受けてしまう。
『オオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
『GOGA――――ッ!?』
そこへ、今度は眷属(火竜)よりも一回り大きい水色のドラゴンが現れ、横から眷属(火竜)に体当たりをしてその首元に噛み付いた。
『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!??』
『アアアアアアアアアアアアアアアッッ!!』
悲鳴を上げながらもブレスを吐こうとする眷属(火竜)の口から溜め込まれたマグマの一部が漏れ出すが、大半のマグマは首を強く噛み締められているせいで行き場を失い体内で暴れ出している。
水色のドラゴンは両腕を使って相手の重心を崩し、力一杯に首を回して燃え上がる眷属(火竜)の巨体をここからすぐ近くにある海のフィールドへと投げ飛ばした。
そして海に落ちると同時に発生する高熱と白い蒸気による大爆発が周囲を襲う。
『《オメガ・ライトシールド》!』
だが、大量の蒸気が来るより早く光の壁が現れた水蒸気爆発からアキス達を守った。
アキスが空を見上げると、そこには3対の光の羽を生やした1人の美少女(巨乳)が浮かんでおり、彼女が光の壁を張り続けたままアキス達の下へと下りてきた。
『御無事ですか?』
「……あれは、お前が張ったのか?」
『はい。苦戦しているように見えたので、勝手ながら助太刀に参りました』
「いや、お蔭で助かった。しかし初めて見る顔だが、お前らも『大迷宮』の探索者か?」
『はい。私達は『アフロディーテ大迷宮』を攻略していたのですが、第100階層に到着したと同時にこの場所へと強制転移されて……』
「そうか……」
美少女の話から、アキスは此処に居るのはオリンポス大陸各所にある『大迷宮』の中にいた探索者達なのだとようやく確信する。
『ウォォォォォォォォォォォォォ!!』
『GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』
眷属達が咆哮を上げる。
海に落ちた眷属(火竜)は全身を覆っていた炎が弱まり、マグマの竜から熔岩の竜へと変わり果てていたが、代わりに炎のように紅い闘気を全身に纏っておりその表情は怒りを露にしていた。
一方、眷属(鷲)の方も胸に開いた孔から大量の血を流しながらも立ち上がり、血走った目でアキス達を睨んでいた。
「お!」
『積もる話は後です!先に神の眷属達を倒しましょう!』
「そうだな!あの鍛冶神の眷属は俺達が倒す!」
『分かりました。なら、あの鳥型の方は私達が倒します。レノス、行きましょう』
『うん!』
「な、喋っただと!?」
『そういえばまだ名乗ってはいませんでしたね。私は光の精霊ルミナ、あちらのドラゴンは私の契約者のレノス、人間です』
自分達の名を告げ終えると、美少女ことルミナはドラゴンの姿をした契約者と共に眷属(鷲)の方へと飛んでいった。
思わず呆然と立ち尽くすアキスだったが、すぐに意識を切り替えて今やるべき事に集中し直す。
海の方を向くと眷属(火竜)が沸騰している海から陸上に上がろうとしていた。
だが、その動きは海に投げ落とされる前と比べると数段遅くなっていた。
「お前ら!奴の動きが鈍くなっている内に倒すぞ!」
「何じゃアキス、さっきの別嬪さんは?」
「話は後だ!行くぞ!」
アキスを先頭に彼らは眷属(火竜)の下へと走り出す。
彼らが走った先と逆の方角では眷属(鷲)とレノス達との戦闘が開始され、空から雷や大量のスライムが降ってくるなどの激しい攻防が繰り広げられていった。
2体の神の眷属が倒されたのはそれから約10分後のことだった。
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一方、アキス達がいるフィールドから3つのフィールドを跨いだ砂漠のフィールドでは3柱の脳筋が大暴れをしていた。
『ハハハハハハ!楽しい、実に楽しいぞ!!』
「無理っす!あんな無茶苦茶な筋肉の相手なんて無理っす!」
「や~!砂漠の上の人魚なんてや~!」
『うわっはっはっは!人の子よ、我を倒してみよ!!』
「デカすぎるワン!暑苦しいワン!汗臭すぎるワン!」
「さ、砂漠だからね!」
『お前達の力はその程度かっ!もっと俺を楽しませろ!』
「わ~!!僕達の相手はアポロンじゃないの!?アポロンは何処!?」
「あっちでアルテミス様に拷問されてますわ!!現状の主犯の1人のようなのでイイ気味ですわ!!」
『ポセイドン大迷宮』組、『アルテミス大迷宮』組、『アポロン大迷宮』組の3組は海神、英雄神、軍神の脳筋3柱に襲われていた。
ポセイドンはトライデント(予備)を振るい、ヘラクレスは獅子の毛皮を被って棍棒を振り回し、アレスは槍で突いてくる。
脳筋が攻撃する度に砂漠は滝になったり噴火したりと、超異常な姿を見せて神と強制的に戦わされている者達を追い詰めていった。
「天変地異っす!あれは足の生えた天変地異っす!」
『ハハハハハ!これも防ぐか!』
悲鳴を上げるミルトスだが、その割にはポセイドンを相手に善戦している。
それどころか、戦いが続くにつれミルトスの動きはポセイドンに追い付いてゆき、余波も半端ないトライデントの攻撃も上手に受け流せるようになっていた。
これは彼が第1階層で拾った”飴”が切っ掛けで人間を辞めた事や成長速度が急上昇した事も原因にあるが、何よりも彼自身の根幹にある、とある強い意思が彼の成長を更に加速させ新たな固有能力《半人前英雄道》――敵が圧倒的強者の時のみ全能力を力量差及び意思の強さに応じて上昇させる能力――を発動させたのが大きかったのである。
『はっはっは!蚊ほども痛くないわ!』
「コイツ、どんだけ皮が厚いんだ!?」
「ま、魔法も矢も弾いたわよ!!」
「無茶苦茶だワン!」
ギリシャ最強の英雄が豪快に棍棒を振るい、対するワッコ達はなんとか直撃は避けるが余波で何度も吹っ飛び、反撃しても全くと言っていいほどダメージを与えることが出来ずにいた。
ダリアが矢を撃っても頑丈な皮膚に弾かれ、ニロスが合成魔法を撃っても水と油のように弾かれてしまう。
逆にヘラクレスの攻撃は魔力が込められてなくても一振りで砂の海を真っ二つに割ったり、砂を押し潰して岩にしたり、竜巻を発生させたりと非常識な光景を作り上げていた。
「あんなのどうやって倒すワン!?」
ワッコは悲鳴にも似た声を上げるが誰も文句は言わないだろう。
何せ相手は神話の中で数々の伝説を残した神代最強の英雄ヘラクレス、ゼウスと英雄ペルセウスの孫娘の間に生まれたペルセウスにとっては曾孫であり同時に弟でもある、生まれた時からドチートな脳筋さんなのだ。
ゼウスが彼を不死身にしようと今は亡き正妻の母乳を飲ませようとした時はダイ○ンもビックリな吸引力で乳を吸い上げ母乳の大洪水を発生させ、それに怒ったヘラが放った刺客の蛇を素手で絞め殺した赤ん坊の頃から俺TUEEEだったのだ。
有名な「12の功業(試練)」でもザックザックと敵を殺して夜空の星座にしちゃったりしているが、実はこの有名イベントの数は本当は「10の功業」だったのが、ヒュドラ退治では甥っ子の知恵に助けられたり、牛小屋掃除では2本の川の流れを「うおりゃ!」と力技で捻じ曲げて強引に掃除した挙句大洪水を起こしたので2回分がノーカウントとなり更に2つの試練が追加されたという脳筋伝説なのだ。
そんなヘラクレスが現世の者達と戦えばどうなるか、当然一方的な蹂躙になるに決まっているのである。
恨むのならこの脳筋を呼んだどこぞのバカ神を恨むべきだろう。
それこそ末代まで。
『どうしたどうした!その程度の攻撃じゃ腹の足しにもならないぞ!』
アレスはハイテンションになっていた。
自分の『大迷宮』で大暴れした熱がまだ収まってないらしく、バトルジャンキーな顔で『アポロン大迷宮』組を蹂躙していた。
クール0%、完全脳筋モードである。
「うあああああああああ!!」
「タイガ様!!」
「ん!?」
「おい!落ち着け!闇雲に攻めるな!」
アレスの気に当てられたせいか、タイガは半狂乱になっていた。
それを仲間達が止めようとするが、タイガの固有能力《黄昏之狂戦士》――理性の一部と殺戮に対する忌避感を失い深層意識にある闘争本能と凶暴性が表面化する代わり、全能力が限界
異常まで引き上げる能力――が中途半端に暴走しているせいで彼の耳には届いていなかった。
「がああああああああ――――――っっ!!」
『ほお?段々良い具合になってきたな。なら、こっちも出力を上げるか!』
「うわあ~~~!どっちも止められない~~~!!」
「おい!女全員で愛の祈祷でもしてアレを止めろ!!」
「ネストルも落ち着いて!!」
アレスとタイガの戦いは時間と共に熾烈さを増していく。
タイガの固有能力は彼の戦闘能力をアレスと対等にまで引き延ばしているが同時に命や精神も削っており、このまま戦いが長引けばどちらが勝ったとしても彼の命が失われる可能性は高く、しかも近くで暴れているポセイドンとヘラクレスの攻撃の余波も彼の体を切刻んでいるせいで決着がつくより前に彼の命が消える可能性は更に高い。
幾らチートでも、あくまで人間――そして特別な血筋でもない一般人――である彼らには、戦いを司る神との戦いでは負担が大き過ぎたのだ。
『ハハハハハハハハハ!血が沸き上がってきたぞ――――ッ!!』
「ぐあああああああああああああああああ――――――ッッ!?」
『神の槍の至高の一閃、受けてみろ―――――ッッ!!』
テンションが絶頂に達したアレスは全力の一撃を放つ。
余裕で惑星を破壊できる一閃が、光速を超えてタイガの胸の中心に目掛けて放たれ、その光景を目にした刹那、誰もが絶望の未来を予感した。




