表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボーナス屋、勇者になる  作者: 爪牙
異界の七大魔王編Ⅳ―オリンポス大陸の章―
355/465

第343話 ボーナス屋、映画鑑賞する9

――(過去)『ポセイドン大迷宮』 第1階層――


 時は大分遡り、『海神』ポセイドンが脱・開店休業の為にうっかり入口を大量に創ってしまった日の翌日にまで戻る。


 24時間開きっ放しの『大迷宮』の入口は、この日も無差別に挑戦者を集めていた。



「何じゃ此処は~!?」


「船長~!出口がありやせん!」


「船長!魔獣が出やした!」


「武器を出せ!テメエら、死にたくなかったら戦え!」



 マーレ王国から大陸本土へと向かう途中だった商船。


 雲一つない快晴で波も穏やかな中での出航だった筈が、気付けば海図には無い渦潮に船ごと飲まれて海底洞窟のような場所へと流されていたのだった。



『ピィ!』


「ハ!スライムじゃねえか?おい、新入り、あれはお前が片付けろ!他のもんは船の点検だ!」


「「「ウッス!」」」


「ハ、ハイッす!」



 海賊と間違われそうな口調の船長に命令され、見習い船員ミルトスは倉庫にあった若干錆びているショートソードを持ってきて半分座礁している船に接近するスライムの群の前に出る。


 集まってきたのは「マリンスライム」と呼ばれる海に適応したGランクの魔獣だった。



『ピィ!』


『ピィ!』


「オリャッす!」


『『ピィ~!?』』



 同ランクのノーマルスライムと同じく木の棒でも倒せるマリンスライムはあっさりと倒されていった。



〈マリンスライム×8を倒した!〉


〈ミルトスのレベルが上がった!〉



「何っすか!?」



 マリンスライム達を全滅させた直後、ミルトスの頭にファンファーレと共に不思議な声が届く。


 同時にミルトスの体が淡く光だし、彼の肉体に僅かな変化が生じるがこの時の変化は僅かだった為に彼が自覚する事は無かった。



「新入り!終わったならさっさと戻ってこい!」


「ハイっす!……何っすか、コレ?」



 船長に怒鳴られたミルトスは急いで船に戻ろうとするが、足元に8個の飴玉(・・・・・)が落ちているのを見つける。


 それは先程倒したマリンスライムと同じ色の飴玉で、一見すれば美味しそうにも見えた。



「……誰も見てないっすよね?」



 実は甘党なミルトスは誰も見ていないのを確認すると、こっそりと飴玉を自分のポケットに隠し、何も無かったような顔で船へと戻っていった。


 この時の彼は気付かなかった。


 彼が拾った飴玉、それはこの『大迷宮』で稀にドロップするレアアイテム『人外飴(モンスターキャンディ)』、『進化飴(エボリューションキャンディ)』、『成長飴(グロウスキャンディ)』、『変異飴(ミュータントキャンディ)』、『翻訳飴(ランゲージキャンディ)』、『幸運飴(ラッキーキャンディ)』、『繁殖飴(ブリーディングキャンディ)』、『早熟飴(プレコシティキャンディ)』だった。


 この『大迷宮』を創った神の大雑把な仕事のせいで色々なバランスがおかしくなったせいで一度に――しかも第1階層の最弱魔獣を倒しただけで――8種類も同時にドロップしたこれらの飴。


 1種類食べただけでも人並み外れた力が手に入る飴を、そうとは知らずに拾ったミルトスはこの後24時間の内に全部口にしてしまう事になる。


 結果、彼は翌日から自覚の無いまま人間を卒業することになるのだった。


 これが後に『トンデモ人外勇者』と呼ばれることになる少年の回避不可能な冒険の始まりだった。



「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」


「あ!人が沢山降ってきたっす!」


『ギャオ~~~!!』


「魔獣も降ってきたっす!」



 初日は出会いとパニックのお祭りだった。







--------------------------


――(過去)『ポセイドン大迷宮』 第48階層――


 ミルトスは海の中を泳いでいた。


 その隣には、碧色の髪を揺らしながら泳ぐ人魚の少女がいる。



「うわ~!気持ち良いっす!」


「ほらほら、こっちに来てよ!」



 楽しそうに並んで泳ぐ2人だが、ミルトスの体の表面の一部には魚類や爬虫類のような鱗があり、上半身こそ人間と殆ど変らないが、下半身は半漁人のようにも見える。


 ミルトスが『大迷宮』に来てから約10日、人間を卒業した彼の体があらゆる種族に細胞レベルで変身できるようになっていた。


 それだけではなく、何らかの方法で体の一部を取り込んだことのある生物の特性や能力を獲得も出来るようになり、それらは彼の体内で最適化されてゆき、彼の体は常時進化を繰り返して種族も『人間』から『変人』になっていた。


 そして現在、上層で溺れていた処を助けてくれた人魚の少女リリルに――彼女も渦潮に飲み込ま柄れて『大迷宮』に流れ着いた――助けられ、その時に人工呼吸されたことで人魚の能力を獲得し、水中でも呼吸をしながら活動できるようになった。



「あ!魔獣っす!」


「あれはキングクラーケンよ!それも亜種!」



 全体が海になっているこの階層の探索を続けていると、通常よりも二回り近く大きいなキングクラーケンと遭遇する。



「俺がやるっす!変・身!」



 ミルトスはリリルを下がらせると、容姿を海蛇竜(サーペント・ドラゴン)へと変え、単身でキングクラーケン(亜種)へと挑む。



『《アクア・ボルト》っす!!』



 口から雷のブレスのような攻撃を吐き、その一撃でキングクラーケンを麻痺させる。


 そして麻痺している間にキングクラーケンに噛み付き、体内にある魔石を抜き取って絶命させた。



『倒したっす!』


「ミルトス強~い♪」



 周囲がキングクラーケンの血で染まる中、リリルは恋人(・・)の勝利に歓声を上げる。


 程なくしてミルトスは元の人型に戻り、抱き付いてきたリリルと喜びあうと次の階層への道を探るべく探索を再開するのだった。


 尚、彼は2人だけでここまで来たわけではなく、他にも冒険の同行者が大勢いた。



「クッソ~!ミルトスの奴、今ごろはリリルちゃんと海のデートしてんだよな~。うらやましいぜ!」


「仕方ねえだろ?俺らは彼奴と違って海のなかじゃ息が続かないんだからよ」


「けどよ~」



 同じ階層の海上ではミルトスの先輩船乗り達が大型帆船の上で後輩(ミルトス)の帰りを待っていた。


 彼とは違い、彼らはまだ(・・)人間なので水中での長時間活動は出来ないのでこの階層ではずっと船の上で待機しているのだ。


 ちなみに、彼らの乗っている帆船は彼らが乗っていた商船が『大迷宮』の力で進化した、上陸時は手乗りサイズに縮小も可能なチート帆船である。



「船長~!俺らも女にモテたい~!」


「五月蠅えぞ!!くだらねえこと言っている暇があったら見張りをしてろ!この辺にはAランク以上の魔獣も潜んでるんだぞ!」


「けど船長~、ミルトスばっかりモテるんだぜ~?人魚のリリルちゃんだけじゃなく、リザードマンやセ

イレーン、半魚人とかからも「子種が欲しい!」って迫られてるんだぜ?最近はドラゴンからも!」


「……」


「あいつ、押しに弱いのか大物なのか、力押しできたドラゴン達に押し倒されて食われてれちゃってるんだぜ~?しかもヤッちゃった相手は何でか人間に――しかも全員巨乳だった――変身しちゃって……今じゃ毎晩キャンキャン運動していてうらやま……五月蝿いんだよ!今も下の船室じゃドラゴン娘達が愛の結晶を


「ウフフ」と言いながら温めてて……チクショウ!!」


「くそ!新入りめ!」


「うらやまし~~~!!俺も人魚とハーレムつくりてえ!!」


「俺はケモノッ娘と!」


「この際、種族は問わないからオッパイのでかい女が欲しい!」


「そういや、船長は離婚して今は独り身だよな?」


「手前ら、五月蝿えぞ!!黙って見張りをしてろ!!」



 船の上では男達の嫉妬が渦巻いていた。


 ミルトス自身は自覚していないが、彼は1階層で拾った飴を食べて以降、全身から異性を惹き付けるフェロモンを発していてあっという間に多種族ハーレムを作っていた。


 特に上層に居た頃はまだ彼も弱かった為に力ずくで“種”を搾り取られていたが、色々あった末に今では互いに親密になってほぼ毎晩イチャついており、先輩達から嫉妬を買っている。


 そして現在、チート帆船の船室の一角にはミルトスが撒いた種の結果がすくすくと育っていた。



「神よ!俺達に女を!」


「オッパイをくれ!」


「せめて異性との出会いが欲しい!ここには海の男しか居ねえ!!」


「船長にも出会いを!」


「おい!馬鹿なこと言ってんじゃねえ!!」



 海の男(独身)達の悲哀に満ちた声が『大迷宮』に響く。


 そしてその声は神に届いた。



――――うむ!女か!



 女好きの脳筋神(ポセイドン)は海の男達の願いを聞き入れた。


 そしてこの1時間後、『ポセイドン大迷宮』に大勢の女が大量投入され、『大迷宮』の中は良くも悪くも賑やかになるのだった。







--------------------------


――『ポセイドン大迷宮』 第99階層――


 あれから(内部時間で)3か月以上の月日が経った。


 脳筋神が創った大迷宮なだけもあり、どの階層にも複雑なトラップなどは無く、その代り常人ではまず討伐が不可能な魔獣が跋扈しており、多くの挑戦者は戦闘になる度に長い足止めを受けて中々先に進めず、中には先に進むことを断念して中層に留まる者もいた。


 そんな中、チート化が更に進んで魚雷やビーム砲が装備された商船は最下層の手前の階層の海を航行していた。



「ああああああああああああああ!!揺れるっす!!上下が分からないくらい揺れるっす!!」



 ミルトスは激しく揺れを繰り返す船の中で転がっていた。


 第99階層は世界の終焉を思わせる嵐の海だった。


 100mを超える大波、弾丸のような大粒の豪雨、休む間もなく落ちてくる轟雷、他に竜巻や大渦潮など、とても船で移動できるとは到底思えないほど荒れ狂った海が彼らを最下層へ行かせまいと立ちはだかっていた。



『フハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』


『ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』


『ウホホホホホホホホホホホホホホホホホ!!』



 そして荒れ狂う海には3体の青い巨人が仁王立ちしている。


 鍛え抜かれた腹筋が嵐の中でもハッキリと見えるそれはこの第99階層を守護する最強の番人『大海の武王』『嵐海の豪王』『神海の戦王』である。



「ギャアアアアアアアアアアア!!筋肉がこっちに来る~~~!!」


「おい!明らかに1体は変な顔で迫ってくるぞ!!ヤバい!!あれは絶対にヤバい!!」



 嵐の中迫ってくる巨人達に身の危険を感じた船乗り達は嘗てないほど必死に船を操作して逃げようとする。


 だが、嵐と海を操る巨人からは逃げられない。



「ミルトス!巨人になって戦え!」


「嫌っす!先輩も巨大化できるんだから先輩が戦うっす!」


「バカ野郎!俺には身重の女が居るんだぞ!」


「俺もっす!今日、リリルがお目出度だと分かったばかりっす!」


「新入りのくせにどんだけ盛ってるんだお前は!!あ、俺は(勝ち組だから)羨ましくねえから♪」


「「「チックショウ!!」」」


「手前ら、いいから戦え!!」



 一部の船員達が嫉妬の声が船内に響く。


 船の中は相手ができたグループと、まだできていないグループに分かれていた。


 ミルトスに嫉妬した男達の声が神に届いて以降、大迷宮内には女戦士(アマゾネス)や人魚といった多くの種族の女性が急増し、それに伴ってカップルになる者も急増している。


 この船でも漂流していた令嬢やら、溺れていたエルフやら、ウェイトレスやらと、多くの女性と出会いの末にゴールした船乗りが全体の半数近くいた。


 しかし、中には相手に恵まれない男もおり、こうしてミルトス達に対する嫉妬を燃やしているのだ。



『ウホホホホホホホホホホホホ!』


「うわ~!!一番嫌なのが来たっす!!」


「行け!ハーレム野郎!!」


「骨は拾ってやるぜ!」


「掘られても誰にも言い触らさないから行って来い!」


「嫌っす!先輩も行くっす!!」


「全員行け!!」


「「「うわ~~~!!」」」



 船長に蹴り飛ばされ、海の男達は嵐の海へと放り出される。


 それから約半刻、海の男達は死に物狂いで戦い続け、幾度か(精神的に)死にかける事もあったがなんとか3体の巨人を倒すことに成功した。



「し、死ぬがど思った~」


「ハァハァ……!あ、晴れたっす!」



 巨人が全滅すると同時に嵐が止み、海も荒れていたのが嘘のように凪いでいく。


 そして海の底から島が浮上、入り江の中に最下層へと続く道が出現し、ミルトス達を乗せた船は一路最下層へ向け出港したのだった。





 しかしこの1時間後、最下層の最奥に辿り着いた彼らはそこでスタンバイしていた全身筋肉満載の海神(ポセイドン)を見て悲鳴を上げることになる。


 更にそこへ追い討ちをかけるようにヘルメスの悪戯が作動、彼らを更なる不幸へと突き落とす事になるのだった。




〈海の男達は《漢♡難》を獲得した!〉






*ポセイドン大迷宮内の男性の現状

 独身:38%、一夫一妻:25%、ハーレム:13%、逆ハーレム:9%、ゲイCP:7%、その他:8%



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ